商標法違反 全国初の適用 改造カード販売(朝日新聞)
「テレビの有料放送を無料で見られるよう、「B―CAS(ビーキャス)カード」を不正に改造し、販売したとして、県警など9道県警の合同捜査本部は21日、さいたま市の電気設備修理業○○(50)、東京都葛飾区の会社員○○(40)の両容疑者を、商標法と犯罪収益移転防止法違反などの疑いでそれぞれ逮捕したと発表した。逮捕は20日付。ともに容疑を認めているという。合同捜査本部によると、○○容疑者は、同カードのIC部分をパソコンソフトなどを利用して改ざん。昨年9月から今年3月までの間、山口、栃木両県の60代と30代の男性に対し、計3枚を7万9千円で販売し、商標権を侵害するなどした疑いがある。(中略)不正カードの販売を巡っては、これまでに兵庫、群馬、宮城でも摘発されている。商標法違反の適用は全国初という。」
カードのICチップを書き換えることは「単なる修理」ではなく「新たな生産」に該当し、元のカードとは別個の製品となる(※よってその製品に関して商標権は消尽しない)ので、そのような別個の製品に元の「B−CASカード」の商標を表示したまま販売することは商標権侵害だというロジックですね。
商標権侵害罪は10年以下の懲役と重たいので、これを併合する大きなメリットが、摘発する側にはあると思います。
ただ、顧客は、その製品が元の「B−CASカード」とは似て非なる改ざんされた製品だと知っていたのでしょうから、商標権の本来的な機能(出所表示、品質保証)が侵害されたとまでいえるか問題です。
また、顧客は、「テレビの有料放送を無料で見られる」という改ざんにより得られた新たな機能に主として着目して購入したと思いますが、「B−CAS」という商標にどれだけ大きく着目して購入したのか疑問です。
この点で、シャネルなどの有名ブランドのロゴやディズニーなどのキャラクタの絵(著作物)が表示された模倣品の場合(※顧客が安物の模倣品だと分かっていてもなおロゴやキャラクタの絵に着目して購入したという場合)とは少し違っています。
つまり、本件で、もし、犯人が、販売前に、改ざんしたカードの表面から「B−CAS」の商標を消していれば商標権侵害罪としての摘発はなかったはずなのですが、本件のような改ざんカードに元の「B−CAS」の商標が表示されているか否かで、改ざんカードの販売額にどれだけの違いが出ただろうか、ということです。
もし、ほとんど違いが出なかったなら、本件のような場合、商標権侵害罪だといっても、商標保護という面からは実質的違法性は小さい形式犯に近いものと言えます。
他方、やはり元の「B−CAS」の商標が表示されているからこそ、その改ざんカードなのだという安心感(?)があったり、B−CASカードの元々の機能がある点にも着目されて、大きな販売額が得られたのだろうということなら、実質的違法性も大きいといえるんでしょうね。
2013年06月22日
改ざんしたB−CASカードの販売と商標権侵害罪
2013年05月07日
一部請求と残部の消滅時効 平成24年(ネ)10028号等知財高裁判決
知財高裁平成25年4月18日判決・平成24年(ネ)10028号等は,職務発明の対価請求控訴同附帯控訴事件に関して,原告が訴状で残部について権利行使の意思を明示(継続的に表示)していたときは残部についても消滅時効が中断する,としました。
従来より,一部請求の訴提起による時効中断の範囲については,
(i)一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起した場合は,訴え提起による消滅時効中断の効力はその一部についてのみ生じ残部には及ばない(最高裁昭和34年2月20日判決)。
(ii) 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示しないで訴えを提起した場合は,訴え提起による時効中断の効力はその全部について生じる。
とされていました。
これに対して,本件判決は,上記(i)と(ii)との中間的な類型として,
(iii) 一個の債権の数量的な一部のみを訴額とする場合でも原告が訴状において残部についても権利を行使する意思を明示(継続的に表示)していたときは,(「明示的な一部請求」の場合には当たらないから)残部の訴訟物が分断されるものではなく,また残部についても催告が継続的にされていると認めることができるから,当該残部の債権についても消滅時効の進行が中断し,当該訴訟係属中に訴えの変更により残部について請求が拡張された場合には,消滅時効が確定的に中断する。
という新しい類型を創出しました(もし上告されれば最高裁でどのような判断がされるかは分かりませんが)。
以下,本件の知財高裁判決からの引用です。
「2 消滅時効の成否について
(1)第1次控訴審判決判示のとおり,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は遅くとも平成10年10月7日に請求可能な状態に至ったものであり,この日が消滅時効の起算点となる。
原告は,平成19年5月18日,本件各発明に係る相当対価の一部として150万円の支払を請求する本件訴えを提起したが,平成21年8月17日付け訴え変更申立書により請求を追加的に変更し,請求金額を2億0535万9500円に拡張した(その後,原告は,平成22年2月10日付け訴え変更の申立書(2)により請求金額を2億4281万1241円に拡張し,平成23年9月27日付け訴えの変更申立書(3)により2億4281万1239円に減縮した。)。
(2)被告は,原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断せずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅したと主張する。
しかし,数量的に可分な債権の一部につき訴えを提起したとしても,当該訴訟においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,請求されている金額についてその残部の訴訟物が分断されるものではなく,また,残部について催告が継続的にされていると認めることができるから,当該残部の債権についても消滅時効の進行が中断するものと解すべきである。そして,当該訴訟係属中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効が確定的に中断する。
本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を『150万円』として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」と記載していたのであるから,本件訴訟で時機をみて残部についても権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に催告によって中断し,この催告は原告の特段の主張がない限り本件訴訟の係属中継続していたと認めるべきところ,その後,平成21年8月17日に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきである。
被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えの提起があった場合に,訴えの提起による消滅時効中断の効力は,その一部の範囲についてのみ生じ残部に及ばない旨を判示したものであって,原告が訴状において残部について権利を行使する意思を明示していた本件とは事案を異にする。被告が指摘する他の最高裁判所判決も,上記判断と抵触するものとはいえない。
被告は,「仮に催告があったとしても,テスト訴訟において自己に有利に展開することとなったときにという停止条件付き催告であり,当該条件は時効期間満了日である平成20年10月6日までに成就しなかったから,催告としての効力は発生していない。」と主張するが,上記認定の本件訴訟における催告に停止条件が付されていたとは認められない。
(3)以上のとおりであって,被告の消滅時効の主張は,採用することができない。」
2013年04月01日
実施可能要件は理論上のものでよい 平成24年(行ケ)10020号「発光装置」
記事とは関係ありませんが、うちのすぐ近くの桜のトンネル、今年もできました。
平成25年1月31日知財高裁平成24年(行ケ)10020号判決「発光装置」
少し前の知財高裁判決ですが、実施可能要件に該当する具体的事実は理論上(但し出願当時)のものでよいとした判決で、私としては大変参考になりましたので、記事にしておきます。
1 実施可能要件(特許法36条4項1号)は昔からなかなか分かり難い要件です。
標記の平成24年(行ケ)10020号「発光装置」の請求項1の発明に関して問題になった「内部量子効率80%以上の赤色発光体」の事例を使うと、その実施可能要件の有無について、段階的に、次のような複数の場合が考えられます。
(ii) 出願当時において、実際には「内部量子効率70%前後の赤色発光体」しか試作品としては実現されていなかったが、理論上は、当業者が技術常識の範囲内の最適化作業を行えば「内部量子効率80%以上の赤色発光体」を出願当時において実現できた可能性がある(当業者が実際に製造しようと思えば製造できた可能性が理論上はある)と言える場合 → 実施可能要件あり?(平成24年(行ケ)10020号の事例)
(iii) 出願当時において、実際には「内部量子効率70%前後の赤色発光体」しか試作品としては実現されていなかったが、出願当時において、理論上は、少なくとも出願当時から数ヶ月後に99.9%、確実に「内部量子効率80%以上の赤色発光体」が実現できることが周知の事実となっていた場合 → 実施可能要件なし?
(iv) 出願当時において、実際には「内部量子効率70%前後の赤色発光体」しか試作品としては実現されていなかったが、出願当時において、理論上は、出願当時から数年後には「内部量子効率80%以上の赤色発光体」が実現される可能性があることが周知の事実であった場合 → 実施可能要件なし又は「発明未完成」
標記の平成24年(行ケ)10020号判決は、上記(ii)の場合について「実施可能要件あり」としました。
では、上記(iii)の場合はどうでしょうか。
特許庁の審査基準によれば実施可能要件の「判断基準時は出願時」だとされていますので、上記(iii)の場合(出願から数ヵ月後なら実現できたとしても出願当時は理論的にも実現できなかった場合。まぁ数ヵ月後に実現できるなら出願当時においても実現できたと理論上は言えるという場合が多いかもしれませんが。)は、特許庁の審査では実施可能要件なしとされる可能性が高いと思います(知財高裁の判断がどうなるかは分かりません)。
追記: なお、標記の平成24年(行ケ)10020号判決の読み方ですが、「・・・以上,当業者は,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。」と記載されていることから、上記(iii)の場合について実施可能要件を認めた判決だと解釈する人の方がむしろ多いかもしれません。私はそのようには読み取らなかったのですが。
2 以下に平成24年(行ケ)10020号判決中の上記(ii)の場合について「実施可能要件あり」とした部分を引用しておきます。
「3 内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を実施不能とした判断の誤りについて
(1) 実施可能要件について
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容について一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条4項1号が実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。
(2) 本件明細書の開示内容について
ア 本件審決は,本件構成3について,個々の蛍光体の内部量子効率がそれぞれ80%以上であることを要するとした上で,本件明細書の発明の詳細な説明には,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体が開示されていないとする。
確かに,前記2(2)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体として使用できる具体的な物質が,内部量子効率を含む各特性を含めて記載されているところ,本件明細書に開示されている緑色蛍光体の内部量子効率は80%以上であるが,赤色蛍光体の内部量子効率は80%未満であり,したがって,本件明細書には,内部量子効率が80%以上の緑色蛍光体については記載されているが,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていないというほかない。
しかしながら,前記1(8)のとおり,本件明細書には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体の製造方法について,その原料,反応促進剤の有無,焼成条件(温度,時間)なども含めて具体的に記載されているのみならず,赤色蛍光体の製造方法については,本件出願時には製造条件が未だ最適化されていないため,内部量子効率が低いものしか得られていないが,製造条件の最適化により改善されることまで記載されているものである。そうすると,研究段階においても,赤色蛍光体について60ないし70%の内部量子効率が実現されているのであるから,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が高いものを得ることができることが記載されている以上,当業者は,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。
イ 証拠(甲5,12〜17)によれば,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化として,結晶中の不純物を除去すること,結晶格子の欠陥を減らすこと,結晶粒径を制御すること,発光中心となる付活剤の濃度を最適化すること等により,蛍光体の効率を低下させる要因を除去することは,本件出願時において当業者に周知の事項であったと認められる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に内部量子効率が80%未満の赤色蛍光体が記載されているにすぎなかったとしても,当業者は,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化を行うことにより,赤色蛍光体についても,その内部量子効率が80%以上のものを容易に製造することができるものと解される。実際,証拠(甲18)によれば,本件出願後ではあるが,平成18年3月22日,内部量子効率が86ないし87%のCaAlSiN3:Euの赤色蛍光体が製造された旨が発表されたことが認められる。
ウ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するものというべきである。
(3) 被告の主張について
(中略)
エ 以上のとおり,被告の上記主張はいずれも採用できない。
(4) 小括
よって,仮に,本件構成3について,個々の蛍光体の内部量子効率がそれぞれ80%以上であることが必要であると解するとしても,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の記載がされているものということができるから,本件発明1について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足しないとした本件審決の判断は誤りである。
本件発明2,4,6ないし13についても同様である。」
2013年02月19日
ファームウエアの改変と商標権侵害罪
名古屋高裁平成25年1月29日刑事第2部判決・平成24年(う)第125号は、任天堂のゲーム機「Wii」のファームウェア(ROM等に半固定的に書き込まれた状態で機器に組み込まれているソフトウェア)を改変した後のゲーム機を、「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付したまま販売した被告人の行為について、商標権侵害罪の成立を認めました。
以下は判旨の一部です。
「(3)以上の事実関係によれば,本件Wiiは,ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが,被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため,真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。
ところで,ファームウエアは,あくまでソフトウエアであり,ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし,ファームウエアは,前記(2)ア(a)及び(b)のとおり,ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので,かつ,Wiiにおいて,ファームウエアが担う機能について,性質上,メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は,多くの電子機器商品において公知に属する。)から,ファームウエアは,ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると,その改変は,それ自体において,商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。
そして,このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は,もはやいかなる意味においても,付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また,商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては,ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから,需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。
したがって,いずれの意味においても,前記(1)の法理における実質的違法性が阻却される根拠はないといわざるを得ず,被告人の原判示第1及び第2の各行為が任天堂の商標権を侵害するものであることは明らかである。」
「ファームウェアが改変された後のゲーム機」はもはや「任天堂Wiiの本質的部分が改変され同一性が失われた、Wiiとは別個の製品」であるから、そのような「任天堂の製品ではない製品」に「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付して販売することは任天堂の商標権を侵害する、且つ、そのような行為は任天堂の商標権の出所表示機能と品質保証機能を損なうものであるから実質的違法性が阻却されることもない、というロジックです(東京地裁平成4年5月27日判決・昭和63年(ワ)第1607号(Nintendo事件)とほぼ同じです)。
詳しい解説はこちらにあるので、以下はこの判決についての私の感想です。
1 ファームウエアの改変は単なる修理改造ではなく「新たな製造」であるから、そのような「新たに製造した製品」に他社の商標(この場合は任天堂の商標)を付して販売することは商標権侵害となるのですが、それと同時に、そのような「新たに製造した製品」を特許権者の許諾なく販売することはその製品をカバーする多数の特許権の侵害にもなりますね(参考:最高裁平成19年11月8日第一小法廷判決・平成18年(受)第826号(インクタンク事件))。この場合の多数の特許権は、任天堂のものもあるでしょうし、任天堂がライセンスを受けていた他社のものもあるでしょう。
検察官としては、商標権侵害罪(及び著作権侵害罪)として立件するだけでなく特許侵害罪なども含めて立件できたと思いますが、おそらく特許侵害罪については数も多いし主張立証が大変だということでスルーしたのでしょうね。
2 民事事件では、商標権侵害訴訟の控訴審は知財高裁ではなく各地の高裁が管轄を有しており、特許侵害訴訟の控訴審は知財高裁の専属管轄です。
これに対して、刑事事件では、おそらく(刑事訴訟法はほとんど知りません)商標侵害罪だけでなく特許侵害罪についても各地の高裁が管轄を持つのでしょう。
しかし、刑事事件のような重大な事件では、商標権侵害についても知財高裁の専属管轄とすることも考えてよいのではと感じました。他方、刑事事件だからこそ被告人の移送などが大変なので知財高裁を専属管轄にするなどとんでもないということなのかもしれませんが。
2013年01月19日
国内優先権についてのまとめ
1.第1の事例
先の出願は「出願人は甲のみ、発明はaのみ、発明者はAのみ、」、
後の出願は「出願人は甲のみ、発明はa+b(部分優先)、発明者はAとB(例えばA,Bとも甲の従業員で、Bは「+b」の発明者)」という場合、
国内優先権の主張は可能か?
(答え)
可能。国内優先権主張の要件として「発明者の同一」は条文上要求されていないため。
2.第2の事例
先の出願は「出願人は甲のみ、発明はaのみ、発明者はAのみ」、
後の出願は「出願人は甲と乙、発明はa+b(部分優先)、発明者はAとB(例えばAは甲の従業員、Bは乙の従業員で「+b」の発明者)」という場合、
国内優先権の主張は可能か?
(答え)
(1)できない。国内優先権主張の要件として「後の出願時における出願人の完全一致」が要求されているため。
すなわち、特許法41条1項本文は「特許を受けようとする者は、・・・その者が特許・・・を受ける権利を有する・・・先の出願・・・に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。」と規定しているところ、「優先権を主張することができる『特許を受けようとする者』」(=後の出願の出願人)と、「『優先権の基礎となる、先の出願に記載された発明』について特許を受ける権利を有する者」(=先の出願の出願人)とは、条文上『その者』が『特許を受けようとする者』を意味することから、完全に一致する必要がある。
(2)但し、後の出願の前に、先の出願の出願人を「甲のみ」から「甲と乙」に変更(出願人名義変更)しておけば、「『後の出願時』における出願人の完全一致」の要件は満たされることになる。
(追記: 後の出願の出願時の出願人は先の出願の出願人と同じ「甲のみ」としておいて、後の出願の後に、後の出願の出願人を「甲のみ」から「甲と乙」へ名義変更しても同じことになる。)