2013年12月06日

「じぇじぇじぇ」の商標出願の行方(予測)

今年の流行語を使った商標出願が相次いでいると話題だが、大賞のひとつでNHKの朝ドラ「あまちゃん」で使われた「じぇじぇじぇ」をめぐり、まさかの展開になっている。
 今年5月10日、岩手県久慈市の菓子店が商標登録を出願。その後、NHKエンタープライズが6月18日に約1カ月近く遅れて出願し“一騎打ち”が注目されたが、現在は宙ぶらりん状態なのだ。
 その理由は、特許庁が双方に、出願を認めない旨の「拒絶理由通知書」を送ったこと。商標登録は、先に出願した方が認められるのが原則。特許庁のデータによれば、NHKエンタープライズは、同一か類似する商標の出願が先にあることを理由に出願を拒絶された。それは原則どおりとしても、先に出願した菓子店までNGとは理解不能だ。どういうことなのか。
「先願の菓子店に拒絶理由通知書を送ったのは、<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したからです」(特許庁担当者)(後略)

上の記事について少し調べ、また考えてみました。
IPDL(特許電子図書館)で「ジェジェジェ」のキーワードで「菓子」関係(第30類)を検索してみると、まず岩手県久慈市の菓子店の商標出願(商願2013-39171)が、またこれに約1か月遅れた出願としてNHKエンタープライズの商標出願(商願2013-46638)が出てきます。他方同じ「菓子」関係(第30類)では「ジェジェ/JEJE」という登録商標(登録第3153151号。武田薬品による1996年の登録です)も出てきました。
下図は、NHKエンタープライズが出願した商標です。
ジェジェジェ-商標.jpg
次に、IPDLで、上記の2つの出願の最近までの経過を見ると、岩手県久慈市の菓子店の出願の方はまだIPDLには(おそらくデータベース収録のタイムラグから)拒絶理由通知の記録は出ていないのですが、NHKエンタープライズの出願の方は今年11月5日付けで拒絶理由通知が発送された記録が出ています。拒絶理由通知の理由の条文は商標法8条1項と同法4条1項11号となっています。

8条1項は、出願中の同一・類似内容の先願がある場合は登録できないという規定ですので、おそらく「岩手県久慈市の菓子店の出願と同一・類似である」という拒絶理由でしょう。4条1項11号は、既に類似する登録商標があるので登録できないという規定ですので、おそらく「上記の「ジェジェ/JEJE」という登録商標と類似している」という拒絶理由でしょう。

日刊ゲンダイの記事が正しければ、岩手県久慈市の菓子店の出願はおそらく拒絶になるでしょう(詳しくは後述)。よって、NHKエンタープライズの出願にとっては、8条1項の拒絶理由は自動的にクリアされますので、上記の登録商標「ジェジェ/JEJE」と類似しているという4条1項11号の拒絶理由に対して意見書で有効な反論ができれば(おそらくできると思います)菓子関係(第30類)についても登録が認められるでしょう。なお、NHKエンタープライズの出願の関係では、菓子関係(第30類)以外の区分(ビールなどの第32類とか酒類の第33類など)については、類似する登録商標はないようですので、問題なく登録が認められるだろうと思います。

次に、岩手県久慈市の菓子店の出願の拒絶理由について考えてみます。まだIPDLからは分かりませんが、上の日刊ゲンダイの記事からは、「<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したから」となっています。

これは、私の推測ですが、商標法4条1項7号と同法4条1項15号との一方または双方が拒絶理由として通知されたのかなと思います。
4条1項7号は、公序良俗に反する商標は登録できないとするものです。「他社(NHK)のドラマの人気にあやかって商標登録を利用して利益を独占しようとするのは公序良俗に反する」という理由は、強引な印象はありますが、今の時代、十分に成り立つと思います。特許庁も世論を無視できませんので、世論から批判されるような商標登録は避けたいというある種政治的な考慮は当然に働くと思いますが、その際に持ってきやすいのが、この公序良俗です。

他方、4条1項15号は、「他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標」は登録できないとする規定です。NHKエンタープライズ自身は菓子の製造・販売をしていないとしても、そのライセンシーが製造・販売している場合は、そのライセンシーの業務と混同が生じるおそれがあるから登録できないという拒絶理由も十分に成り立ち得るでしょう。

以上からは、他社(NHKなど)のテレビ番組の人気にあやかって(タダ乗りして)利益を独占しようとする商標出願は、今後は、登録が認められない可能性が高いということが言えるんだろうと思います。
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2013年11月22日

ソニーの「スマートヅラ」の特許出願

ソニーが「スマートヅラ」を特許出願。隠しカメラやバイブ、ズレセンサをカツラに内蔵 engadget日本版 2013年11月22日
「メガネ型の Google Glass や 腕時計型のスマートウォッチなどウェアラブルデバイスへの流れが加速するなか、ソニーがカツラのなかにセンサーや無線機能を仕込んだ「スマートウィッグ」の特許を出願していたことが分かりました。 (中略)
「ヅラ」に内蔵するデバイスの例として挙げられるのは、携帯への着信などを知らせるバイブレータ、GPS、頭の前後左右に設置して進む方向を示すナビゲーション用バイブレータ、カメラ、超音波センサ、物理的なスイッチを含むさまざまな方式のリモコン、モーションセンサ、圧力センサ、さらにレーザーポインタ、そして「装着した頭部とカツラの相対位置を検知するセンサ」つまりズレセンサなど。」

2013.11.22 ソニーの「センサ内蔵のカツラ」の特許出願.gif
上図は上記事より引用

ソニーが、様々なデバイスを内蔵した「かつら」の発明を、米国特許商標庁に出願していたようです。
例えば、「かつら+センサ(カツラのズレを測定するセンサなど)」、「かつら+バイブレータ(振動で携帯電話の着信を知らせたり、前後左右の進行方向を知らせたりするもの)」、「かつら+リモコン」、「かつら+GPS受信機」、「かつら+通信機器」などのように、周知の「かつら」と周知の「センサ・バイブレータ・GPS受信機・通信機器など」とを組合せたことによるコンビネーション(組合せ)発明です。

このように、既に周知なモノ同士を組合せた場合でも、進歩性・非自明性が認められるでしょうか?
これについては、2つに場合分けして考えるべきと思います。

第1は、その「組合せの妙」が存在している場合、つまり、ただの組合せではなく「+アルファ」が入っている場合です。
以前に
「腕時計と体温計の組合せ発明」(実公昭43-29993号)でも書きましたが、カツラと電子機器との単なる組合せではなく、カツラの中に体温センサや湿度センサや圧力センサなどを仕込んでおき、「それらのセンサを頭皮と接触・近接するように配置した」という構成を付加したら、その「+アルファ」により、常時、体温、汗のかき具合、ストレス、脈波、脳波などの生体情報を測定できるという作用効果が得られるようになりますので、進歩性が認められると思います。
今回の出願中の「かつら+センサ(カツラのズレを測定するセンサなど)」、「かつら+バイブレータ(振動で前後左右の進行方向を知らせるもの)」、「かつら+リモコン(例えば脳波を測定して遠隔操作するもの)」などは、この範疇に入りますので、特許が認められる可能性が高いと思います。

第2は、このような「+アルファ」がなくて、周知のモノ同士を単純に組み合わせただけ、という場合です。
この場合は、原則的に「単なる寄せ集め」と見られてしまい、進歩性が認められることは困難でしょう。
しかし、「周知のモノ同士の単なる組み合わせ」でも、その組合せが全く予想できないような意外性・斬新さを有している場合は、進歩性が認められる可能性もあると思います。
今回の出願中の「かつら+バイブレータ(振動で携帯電話の着信を知らせるもの)」、「かつら+GPS受信機」、「かつら+通信機器」などは、この範疇に入りそうですが、カツラとの組合せは全く予想できなかったと判断されれば、特許が認められるでしょうし、その可能性もかなりあると思います。

posted by mkuji at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 基本発明の手法

2013年10月21日

赤ちゃん設計情報提供の遺伝子解析サービスが米で特許

朝日新聞 遺伝子解析で赤ちゃん設計? 外見や能力予測、米で特許

「青い目で足が速く、乳がんになるリスクが低い子どもが欲しい――。親が望む特徴をもつ赤ちゃんを作る「デザイナーベビー」につながる遺伝子解析技術が考案され、米国で特許が認められた。自分と、精子や卵子の提供候補者ごとに遺伝情報を解析して、望み通りの子どもが生まれる確度を予測するシステムだ。科学者からも「倫理的に大きな問題」と批判が出ている。
特許化されたのは、米国の個人向け遺伝子解析会社の大手「23アンドミー」(本社・米国カリフォルニア)の手法で、米特許商標庁が9月24日付で認めた。」


上記記事によると、複数の精子等提供候補者と自分の遺伝子情報から、仮に結婚したら生まれてくるであろう子供についてその癌リスク、寿命、目の色などの各項目ごとに予測値を提示して結婚相手選びを支援するサービスに関する特許のようです。

追記:上記は上の朝日新聞だけを見て推測したのですが、その後の複数の記事を見ると、「複数の結婚相手候補の中から1人の相手を選ぶ」のではなく、「不妊治療で精子や卵子の提供を受ける際に親の希望する特徴を備えた子供が生まれるよう、不妊治療中の親が複数のドナー候補の中から1人のドナーを選ぶ」ときの選択を支援するシステムを主として想定しているようです。ただ、まぁ、複数の結婚相手候補の中から誰を選ぶかと、不妊治療において複数の精子又は卵子のドナー候補の中から誰を選ぶかとで本質的な違いはなく、「そのような選択を支援するために遺伝子解析情報からどのような子供が生まれるかを複数項目について推測して提示する」というのが発明の本質的部分でしょう。

従来からある複数の結婚相手候補(追記:又は精子や卵子のドナー候補)の年収、身長などの各項目を点数化し総合得点から推奨相手を提示するというようなサービスと似た発想で、違うのは従来の年収や身長などの項目に代えて又は付加して、自分と相手候補の遺伝子解析情報からもし結婚したら(追記:又はもしそのドナーから精子若しくは卵子の提供を受けたら)生まれてくるであろう子供の特性を予測するというもので、この点に特許性が認められたのでしょう。
確かに、このようなサービスは、使い方によっては深刻な差別などを引き起こす可能性はあります。
しかし「特許された」ということは、単に、そのようなアイデア(技術的思想)が特許庁の公報などで公表されそのアイデアに最先性(特許性)が認められ独占権が発生したというだけのことで、実際に商品化されて現実の世界で差別が生じるか否かは別の問題です。
もともと特許というのはそのようなものに過ぎないので、特許審査では予想される倫理的問題などは容易にスルーされてしまうのが実際ですし、それで問題ないと思います。

posted by mkuji at 01:08| Comment(1) | TrackBack(0) | 特許審査

2013年08月12日

違法ハウス(脱法ハウス)を目的とする実用新案登録

脱法ハウス:実用新案登録では「居住空間」 矛盾する業者 毎日jp 2013年08月06日

「◇自治体には「居室ではなくベッド」と主張
東京都文京区音羽の分譲マンションの一室が管理組合に無断で「脱法ハウス」に改築された問題で、主導した港区赤坂のシェアハウス運営業者の社長が、寝台を上下に並べ床面積を節約する技術を実用新案登録していたことが分かった。業者は自治体などに「居室ではなくベッドの一種」と主張しているが、実用新案の書面では「基本は就寝空間として利用されるが、小規模ながら居住空間としても機能する」と記し、事実上の居室利用をほのめかす内容となっていた。(中略)
これらの構造が、社長の名前で今年2月13日に実用新案登録された。特許庁に提出した説明文は、「複数人分(の個室)を少ない面積で構成できるため、共有空間を狭めない」とメリットを強調。各個室に関し「リビング(機能)の一部を含む」と明記。「ローボード(低い棚)やテレビも装備される」と説明している。
建築基準法施行令は居室の天井高を最低2.1メートルと規定。都建築安全条例は共同住宅の居室の最低面積を7平方メートル(約4.3畳)とし、火災時に窓から避難できるよう窓下の敷地に空きスペースを設けるよう義務付ける。こうした規定は寄宿舎の寝室にも適用されるが、業者は、一つの住居内に複数設置されたベッドなどと主張することで区の指導などをかわしてきた。(中略)
実用新案は、特許と違って登録前に内容の審査がなく、権利行使に必要な「技術評価書」の発行時に特許庁が審査する。同庁は、個々の評価内容は公表しておらず、広報室は「登録は書式が整っていれば認めるが、適法との『お墨付き』ではない。技術を行使した結果(の違法性)は原則審査対象ではない」と説明する。」

数日前の記事ですが、いくつかの問題について書いてみたいと思います。

1.公序良俗違反
違法ハウスについては少し前に
クローズアップ現代でもやっていて、興味深く見ました。
上の記事からは、違法ハウス(脱法ハウス)を目的とする考案だったのに、実用新案出願は無審査だから登録になったのではないかというニュアンスも窺えますが、仮に無審査ではない特許出願で行った場合でも登録になったと思います。
つまり、特許法32条と実用新案法4条は、共に公序良俗違反の発明・考案は登録できないと定めており、特許法の教科書では例えば偽札を製造するための発明などは登録できないと書いています。
しかし、本件のように、単に建築基準法やその施行令に違反するという程度で登録が拒絶されることはまずないというのが実務の感覚です。
なぜなら、建築基準法やその施行令はその時代に合わせて逐次改正されるものですし、地域別の特例などもあります。
また特許は最長20年の保護期間が認められるので、現状では形式的に違法でも20年後の将来は適法とされて実用化できる可能性もあるからです。
そして、もともと特許庁の審査というのは、机上での定型的な判断を行なう場であり、出願人が実際に発明をどのような事業に利用しようとしているのか、その事業は適法なものかなどの背景事情は関知しません。
だから、本件が仮に特許として出願されても、他の進歩性などの要件がOKなら、おそらく特許されたと思います。

2.クリーンハンズの原則
では、特許・登録された後に、特許権者や実用新案権者が、その特許や実用新案権を使って、実際に特許侵害に基づく差止め請求や損害賠償請求をしたらどうなるでしょうか?
その特許権者が違法ハウス(脱法ハウス)の事業者で、その事業者が競合する他の違法ハウスの事業者を訴えた場合ならば、裁判所としては、クリーンハンズの原則(自ら不法に関与した者には裁判所の救済を与えないという原則)からも、請求を棄却するのが妥当ということになると思います。理論的には、例えば、この段階で、本件特許発明は違法ハウス事業を行なうために取得されたものだと事実認定して(裁判では特許庁での審査と異なって背景事情も考慮されます)、本件特許は違法な事業を目的とするもので公序良俗に反しているから無効(特許法104条の3)として請求棄却判決を出す可能性はあると思います。
他方、その特許権者が違法ハウス事業を行なっていない(行なう予定もない)個人や企業である場合は、その違法ハウスに関する特許に基づいて、実際に違法ハウスをやっている業者に対して差止め請求や損害賠償請求をしたら、ほぼ問題なく請求認容判決が出るだろうと思います。

posted by mkuji at 01:58| Comment(1) | TrackBack(0) | 特許制度

2013年08月04日

グローバル特許戦争

日経エレクトロニクス2013/8/5号に「標準必須特許がカギを握るグローバル特許戦争」という記事(ニ又俊文・東京大学政策ビジョン研究ンター客員研究員)が載っており、各国の特許侵害訴訟の状況などいろいろ興味深かったので、自分の感想も入れながらですが以下にメモしておきたいと思います。

1.現在(2011年)の年間の特許侵害訴訟の件数は、米国で4000件超、中国で8000件超、ドイツでも1000件超ですが、日本ではここ数年、毎年100数十件で米国の30分の1以下。
このような日本での「ぬるま湯」に浸かっている状況では、とても世界の激しい特許紛争が実感できず、紛争に対処できる人材も育たないという問題が指摘されています。なお韓国でも日本と同様に特許侵害訴訟は極めて少ないようです。

※追記:上記の記事には「日本における特許訴訟は年間わずか100数十件」という記載があるのですが、これは、おそらく「特許侵害訴訟の提訴件数か判決数かのどちらか」でしょう。つまり、当然に、商標権侵害、意匠権侵害、著作権侵害、不正競争防止法違反の事件は含んでいないし、「特許訴訟」の中でも侵害訴訟(民事訴訟)だけで審決(拒絶査定不服審判・無効審判・訂正審判の審決)取消訴訟(行政訴訟)は含んでいません。さらに、上記の「年間わずか100数十件」が、特許侵害訴訟の「提訴件数」か「判決数」(和解などで訴訟が終了したものはカウントしない)かは、はっきりしません(上記の米国の4000件は「提訴件数」の可能性が高いと思います)。

2.現在の特許侵害訴訟は、事業会社同士の紛争と、NPE(non practicing entity 特許不実施主体)が事業会社を訴える紛争との2つのタイプがあり、米国では後者が62%。
ただ、最近は、後者の紛争の中に、その実体が事業会社同士の争いであるもの、すなわち事業会社がNPEに権利活用を委託するケースが増えているということです。
なお、NPEという表現では大学や国の研究機関などが含まれるため、最近はこれらを除いたPAE(patent asserting entity)という表現(パテントトロールを指す表現)の使用が増えているようです。

3.標準必須特許(standard essential patents SEP)は、特許の請求範囲の請求項文言が標準規格の記載と合致すれば直ちに侵害性が立証できること、標準規格は10年単位の長期で動くことから、いったん標準規格に採用されれば企業にとって長期的な収益と優位性を確保できるというメリットがあり、中国や韓国なども2005年頃からSEP取得を国策として動いているということです。

posted by mkuji at 16:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 知財戦略