2012年07月09日

昔の特許付与後異議申立制度が復活?

特許庁ホームページに産業構造審議会 第18回知的財産政策部会 議事次第・配布資料一覧が掲載されています。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/tizai_bukai_18_paper.htm

これを見ると、特許庁が目標としている今後の法改正の検討項目中に「特許付与後の権利の見直し制度の導入」というページがあります(まぁ特許法では去年大改正があったので、やるとしてもかなり先になるでしょうが)。

何故、昔の特許付与後異議申立制度を復活させようとしているのか?
対する特許庁側の理由は、近年のFA11(一次審査順番待ち期間(FA期間)を11か月まで短縮する)の推進や早期審査の増加により出願公開前に特許査定される出願件数が増大した → 「特許査定前の情報提供」の機会が減少した → 特許権の品質・安定性が低下した(審査過誤=無効理由のない特許権の割合が減少した) → 特許付与後に特許権の内容を見直す制度が必要、ということです。

ユーザーニーズが果たしてどれだけあるかでしょうが、個人的にというか穿った見方としては、これから特許無効審判の利用が減るであろう分(仕事量)を特許付与後異議申立という新たな仕事を作ってカバーしようとしているのかなという気がします。

「これから無効審判の利用が減る」とは、平成23年の特許法改正で特許侵害訴訟の確定判決後の無効審決確定が再審事由から外されたことから、今後は、従来のダブルトラックによる無効審判の意味が薄れ、無効審判の利用が減少すると言われているからです。
他の法改正の検討項目では、商標法の保護対象の拡大が大切です。

「動き、音、匂い、輪郭の無い色彩、ホログラム、味、触感、位置」などについては、米国と豪州ではほぼ全て、英、仏、独、韓などでも相当部分が保護対象になっていることから、日本でも近い将来、これらのかなりの部分を保護対象に含めることは既定路線となっています。

意匠法についても、Webページ・ゲームソフト・アプリ・OSなどの画面における画像デザイン、アイコンそのものなどを保護対象とすることを検討しているようです。

posted by mkuji at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正

2012年01月20日

平成23年改正法による通常実施権の当然対抗制度について

平成23年改正法による通常実施権の当然対抗制度についてのメモです(参考)。

1.新法施行日(2012/4/1)以後に発生した通常実施権だけでなく、新法施行日(2012/4/1)より前に発生している通常実施権も、新法施行日(2012/4/1)以後に特許権を取得した新特許権者に対して、新法99条により当然に第三者対抗力を有する。
これは、平成23年法律第63号附則2条11号が、「新特許法・・・第99条の規定は、この法律の施行の際現に存する通常実施権にも適用する。」と定めているためです。

2.しかし、他方、新法施行日(2012/4/1)より前に発生している通常実施権は、その通常実施権の発生後で新法施行日(2012/4/1)より前に特許権を取得した新特許権者に対しては、新法施行日(2012/4/1)以後も、新法99条による当然の第三者対抗力は有しない。
この場合は新法99条は適用されないということです。新法99条の文言だけからは反対の解釈もできそうなんですが、そもそも新法99条は「新法施行以後において発生した通常実施権とその発生後(つまり新法施行以後)に特許権を取得した者との関係」を定めている(上記1の平成23年法律第63号附則2条11号はその例外として「新法施行より前に発生した通常実施権」にも新法99条の適用を認めただけ)から、本来的に「新法施行より前に特許権を取得した者との関係」は新法99条の範囲外という考え方によるようです。

3.新法施行日(2012/4/1)より前に発生している通常実施権は、その通常実施権の発生後で新法施行日(2012/4/1)より前に特許権を取得した特許権者からその特許権を新法施行日(2012/4/1)以後に譲り受けた新特許権者に対しても、新法99条による当然の第三者対抗力を有しない。
これは、上記2から、当たり前のことですね。

にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^

posted by mkuji at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正

2011年12月09日

新特許法第104条の4第3号において政令へ委任された再審の訴え等において主張制限の対象となる訂正認容審決について

特許庁ホームページに、2011/12/2付けで公布された「特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成23年12月2日政令第370号)」についてのお知らせが、公開されています。

http://www.meti.go.jp/press/2011/11/20111129001/20111129001.pdf

http://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/tokkyo_kaisei_seibi.htm

この中では、新特許法104条の4第3号が定める「再審の訴において主張制限の対象となる訂正認容審決」について、次のように記しています。

(3)侵害訴訟等の判決確定後の訂正認容審決の確定による再審等における主張制限の対象について(特許法施行令、実用新案法施行令及び平成5年旧実用新案法施行令)
改正後の特許法第104条の4第3号において政令へ委任された再審の訴え等において主張制限の対象となる訂正認容審決について、

1)侵害訴訟等の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金支払請求者(以下「特許権者等」)の勝訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実以外の事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われる審決、

2)侵害訴訟等の確定した終局判決が特許権者等の敗訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟等において立証された事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われる審決をそれぞれ規定します。

(私のコメント)

訂正認容審決は出願時への遡及効を持つことから、本来、その全てが再審事由となり得ます。だから、全ての訂正認容審決を再審における主張制限の対象にしても良かったはずなのですが、本政令では、一部を除外しています。

上記1)は、侵害訴訟の原告(特許権者)が勝訴(確定)した場合において、敗訴被告(侵害者)が再審を提起したとき、

(a)「『当該訴訟において立証された事実』(=当該訴訟の中で既に提出され立証された無効抗弁・無効理由)を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われた訂正認容審決」は、特許法104条の4による主張制限の対象としない、

(b)「『当該訴訟において立証された事実以外の事実』(=当該訴訟の中では提出又は立証されなかった新たな無効理由)を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われた訂正認容審決」は、特許法104条の4による主張制限の対象とする、

ということです。

上記(a)の場合、つまり、当該侵害訴訟において無効の抗弁とそれに対する訂正の再抗弁が提出されて訂正の再抗弁が成立して原告勝訴の判決が確定した後に、その訂正の再抗弁と同じ内容の訂正認容審決が確定した場合は、その訂正認容審決の確定(これによる遡及効)を、敗訴被告が提起した再審の訴の中で、敗訴被告が主張してもよい、ということです。なぜ、敗訴被告が主張してもよいのか?それは、再審の訴の中で被告がそのような訂正認容審決の確定の事実を主張しても、当該終局判決はその訂正認容審決と同じ内容である訂正の再抗弁を認めた上での判決なので、被告がそのような訂正認容審決を主張しても当該終局判決の不当性には繋がらない、よって、そのような被告の主張は意味がないから敢えて主張制限するまでの必要はない、ということなのでしょう(追記:敗訴被告は当該訴訟の中で訂正の再抗弁について十分に争ったのだから再審の訴の中では主張を制限しても酷ではないと言えるので、主張制限の対象にしても良かったはずですが、原告敗訴の場合の2)とのバランスをとったのでしょう)。

他方、上記(b)の場合、つまり、当該侵害訴訟において無効の抗弁とそれに対する訂正の再抗弁が提出されて訂正の再抗弁が成立して原告勝訴の判決が確定した後に、その訂正の再抗弁とは異なる内容の訂正認容審決(「当該訴訟の中で被告が提出した無効抗弁の中には含まれていなかった新たな無効理由」を回避するための訂正認容審決)が確定した場合は、その訂正認容審決の確定(これによる遡及効)を、敗訴被告が提起した再審の訴の中で、敗訴被告が主張することはできない、ということです。その趣旨は、敗訴被告は当該訴訟の中でその無効理由を提出する機会があったのにそれをしなかったのだから、判決確定後の再審の訴の中で、(その無効理由を回避するための)訂正認容審決の確定の主張を制限しても敗訴被告に酷だとは言えないから、この場合は紛争の蒸し返し防止を優先させるべき、ということです。

上記2)は、侵害訴訟の原告(特許権者)が敗訴(確定)した場合において、敗訴原告(特許権者)が再審を提起したとき、

(a)「『当該訴訟等において立証された事実』(=当該訴訟の中で既に提出され立証された無効抗弁・無効理由)を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われた訂正認容審決」は、特許法104条の4による主張制限の対象とする、

(b)「『当該訴訟等において立証された事実以外の事実』(=当該訴訟の中で提出又は立証されなかった新たな無効理由)を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われた訂正認容審決」は、特許法104条の4による主張制限の対象としない、

ということです。

上記(a)の場合、つまり、当該侵害訴訟において無効抗弁とそれに対する訂正の再抗弁が提出されて訂正の再抗弁が認められずに原告敗訴の判決が確定した後に、その訂正の再抗弁と同じ内容の訂正認容審決が確定した場合は、その訂正認容審決の確定(これによる遡及効)を、敗訴原告が提起した再審の訴の中で、敗訴原告が主張することはできない、ということです。その趣旨は、敗訴原告は当該訴訟の中でその訂正の再抗弁を提出して十分に争った上で敗訴したのだから、判決確定後の再審の訴の中で、その訂正の再抗弁と同じ内容の訂正認容審決の確定の主張を制限しても敗訴原告に酷だとは言えないから、この場合は紛争の蒸し返し防止を優先させるべき、ということです。

他方、上記(b)の場合、つまり、当該侵害訴訟において無効抗弁とそれに対する訂正の再抗弁が提出されて訂正の再抗弁が認められず原告敗訴の判決が確定した後に、その訂正の再抗弁とは異なる内容の訂正認容審決(「当該訴訟の中で被告が提出した無効抗弁の中には含まれていなかった新たな無効理由」を回避するための訂正認容審決)が確定した場合は、その訂正認容審決の確定(これによる遡及効)を、敗訴原告が提起した再審の訴の中で、敗訴原告が主張することはできる、ということです。その趣旨は、そもそも当該訴訟の中ではその無効理由が提出されていなかったため、敗訴原告は当該訴訟の中でその無効理由に対する訂正の再抗弁を提出する機会がなかったのだから、判決確定後にその無効理由を回避するための訂正認容審決の確定を再審の訴の中で主張することまでも制限することは敗訴原告に酷だから、ということです。この(b)の主張制限の対象の除外を考えると、被告としては、当該訴訟の中では、思い付く限りの多くの無効理由を抗弁で提出しておく方がよいということは言えそうですね。

なお、上記(b)の主張制限の対象の考え方からは、当該訴訟において無効抗弁が全く提出されないまま技術的範囲に属さないとして原告敗訴(確定)となったとき、敗訴原告はその後に訂正認容審決を得れば、再審の訴の中でそれを主張すること自体は可能ということになりますが、もともと当該訴訟で技術的範囲外だとされているので、訂正認容審決を主張しても再審が認められることはないので特に不都合はないということでしょう。

最後に、特許庁ホームページで公開されている2011/12/2公布の「特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成23年12月2日政令第370号)」についてのお知らせの全文を、次にコピーしておきます。

−−−−−−−−−−−−−−−

特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成23年12月2日政令第370号)について
平成23年12月2日 特許庁

「特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」が本日公布されました。本政令は、特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号。以下「改正法」という。)の施行に伴い、特許法施行令等関係政令について所要の改正を行い、また、改正法附則第11条の規定に基づき、改正法の施行に関して必要な経過措置を定めるものです。

1.政令の概要

(1)通常実施権の登録制度の見直しに係る整備について(特許登録令、実用新案登録令、意匠登録令、特定通常実施権登録令及び産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法関係手数料令)

改正法により通常実施権及び仮通常実施権の登録制度が廃止されたことに伴い、当該権利の登録に係る手続を定めている規定の削除等所要の改正を行います。

また、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に規定されている特定通常実施権登録制度が廃止されたことに伴い、特定通常実施権登録令及び産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法関係手数料令を廃止します。

(2)冒認出願・共同出願違反に関する救済措置に係る整備について(特許登録令、実用新案登録令及び意匠登録令)

特許法第74条の改正により、冒認出願等に係る特許権について真の権利者による移転請求が認められたことに伴い、特許登録令等において、第三者に警告を与えるための登録である予告登録の対象として、「当該移転請求訴訟が提起されたとき」を加えます。

(3)侵害訴訟等の判決確定後の訂正認容審決の確定による再審等における主張制限の対象について(特許法施行令、実用新案法施行令及び平成5年旧実用新案法施行令)

改正後の特許法第104条の4第3号において政令へ委任された再審の訴え等において主張制限の対象となる訂正認容審決について、

1)侵害訴訟等の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金支払請求者(以下「特許権者等」)の勝訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実以外の事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われる審決、

2)侵害訴訟等の確定した終局判決が特許権者等の敗訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟等において立証された事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするために行われる審決をそれぞれ規定します。

(4)特許等料金の見直しについて

1)特許料等の減免制度の拡充について

@)特許料及び審査請求料の減免制度の拡充について(特許法施行令、特許法等関係手数料令等)

特許法第109条及び第195条の2の改正により、特許料の減免を受けることができる者の資力要件が緩和されたことに伴い、特許料及び審査請求料の減免の対象となる者として、「設立後10年を経過していない中小企業」を新たに追加します。

また、同法第109条の改正により、特許料の減免効果の拡充のため減免期間が3年から10年へ延長されたことに伴い、現行の1年から3年分に対する猶予の措置を半額軽減に改めるとともに、新たに対象となる4年から10年分の特許料についても半額軽減する旨規定します。

A)産業技術力強化法に基づく特許料等の減免制度の拡充について(産業技術力強化法施行令)

産業技術力強化法第17条の改正により、特許料及び審査請求料の軽減の対象となる者として産業技術力の強化を図るため特に必要な者を政令で定めることとされたことに伴い、大学等の研究機関が、研究者の職務発明について当該研究者以外から譲り受けた場合や研究者の移籍に伴って移籍元の職務発明を譲り受けた場合も減免対象とするなど、従来よりも減免対象となるケースを拡大します。

また、産業技術力強化法第18条の改正により、特許料及び審査請求料の軽減の対象となる者の要件として、職務発明要件及び予約承継要件を廃止したことに伴う所要の改正を行うとともに、承認経営革新計画や認定異分野連携新事業分野開拓計画に従って承継した特許発明等についても減免対象として新たに追加します。

B)中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律に基づく特許料等の減免制度の拡充について(中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律施行令)

中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律第9条の改正により、特許料及び審査請求料の軽減の対象となる者の要件として、職務発明要件及び予約承継要件を廃止したことに伴う所要の改正を行うとともに、特許料及び審査請求料の減免対象として、認定計画に従って承継した特許権又は特許を受ける権利に係る特許発明等が追加されたことに伴い、特許料及び審査請求料の軽減を受けようとする場合に、追加された特許発明等と特定研究開発等との関連性を証する書面を提出させるように規定します。

2)国際出願関係手数料の引下げについて(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行令)

改正後の特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律第18条第2項において、政令で定めることとされている国際調査手数料等の金額について規定します。具体的には、特許庁が国際調査を実施する場合の国際調査手数料及び送付手数料の総額を現行の11万円から8万円へ、特許庁以外の国際調査機関が国際調査を実施する場合に納付する送付手数料を現行の1万3千円から1万円へ、国際予備審査手数料を現行の3万6千円から2万6千円へ、国際調査追加手数料を7万8千円から6万円へ、国際予備審査追加手数料を2万1千円から1万5千円へ引下げを行います。

(5)その他

特許法における発明の新規性喪失の例外規定の見直し及び商標法における博覧会の指定の廃止に伴い、弁理士又は特許業務法人でない者の業務の制限の解除を定めた弁理士法施行令第7条の規定から当該関連手続の規定を削除する等、関係政令について必要な技術的改正を行います。

(6)改正法施行に伴う経過措置について

改正法附則第11条の規定に基づき、通常実施権、仮通常実施権及び特定通常実施権に関する登録制度廃止に伴う必要な経過措置を規定します。

2.閣議決定日、公布日及び施行期日

閣議決定 平成23年11月29日(火)

公布    平成23年12月 2日(金)

施行期日 平成24年 4月 1日(日)

にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^

posted by mkuji at 17:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正

2011年11月10日

訂正についての法改正

今回の改正法(平成23年法律第63号)では、特許の訂正についてもかなり大きく改正されています。

気になった点を以下に記しておきます。

1.新法において訂正審判の請求単位・確定単位(134条の2、155条、167条の2など)に関して導入された「一群の請求項」とは、「1つの独立項とそれを引用する従属項とから成るグループ」のことで、政令でもそのように定められるようです(パブコメ中)。

新法の126条1項4号で、「従属項を独立形式に訂正すること」が訂正目的として追加されましたが、これは、特許権者が所望の従属項を「一群の請求項」から外すための手段を特許権者に与えるために定められたものなのですね。

2.今回の改正法(平成23年法律第63号)の附則について、重要かなと思う部分は次のとおりです。

(1)同附則2条18号 この法律(平成23年法律第63号)の施行日(平成24年4月1日)の前に請求された審判については、その審判が確定するまでは、なお従前の例による。

(2)同附則2条21号 この法律(平成23年法律第63号)の施行日(平成24年4月1日)の前にした訂正審判又は訂正請求による訂正に係る特許の無効(旧特許法第123条1項8号(訂正要件違反)に係る無効に限る)については、なお従前の例による。

(3)上記(1)のように、同附則2条18号は、改正法の施行日(平成24年4月1日)以後に請求される審判(訂正審判や無効審判)については改正法が適用される、と定めています(反対解釈)。

しかし、ここでの「改正法」とは従前の条文が「改正で書き換えられた部分」だけなので、それ以外の部分、例えば特許法126条の3項(新規事項追加禁止)、4項(実質上の拡張・変更)、及び5項(独立特許要件)などは「改正で書き換えられた部分」ではないため、依然として改正前の条文が適用されるようです。

3.上記2との関連ですが、特許法のようにしばしば改正される各改正法の附則の経過措置の相互関係は複雑でなかなか理解しがたいところがあります。

例えば、平成10年(行ケ)第407号審決取消請求事件判決は、「平成5年改正法(平成5年法律第26号)の施行日(平成6年1月1日)より前に特許出願がされたものの、平成5年改正法の施行日(平成6年1月1日)以降に特許査定が確定して設定登録がなされ、その特許に対して、その後になされた無効審判及びその中における訂正請求(訂正審判でも同じ)」についての、例えば新規事項追加禁止(訂正要件の1つ)の判断に関しては、平成5年法律第26号(平成5年改正法)附則2条1項および平成6年法律第116号(平成6年改正法)附則第6条1項により、平成5年法律第26号の126条3項(新規事項追加禁止)が依然として適用される、と述べています。

それは、(1)平成5年法律第26号附則2条1項が「この法律の施行の際(平成6年1月1日)現に特許庁に係属している審判・・・については、・・・その・・・審判・・・について・・・審決が確定するまでは、なお従前の例による。」と規定しているところ、本件の無効審判(及び訂正請求)は、この「なお従前の例による。」場合には該当せず、且つ、

(2)平成6年法律第116号附則6条1項が「・・・この法律の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正及び訂正に係る特許の無効については、なお従前の例による。」と規定しているところ、本件の無効審判(及び訂正請求)は、この「なお従前の例による。」場合に該当するから、ということです(ややこしいですね)。

4.(追記)審決予告

改正法164条の2で、無効審判請求における「審決予告」が創設されました。この審決予告は、従来は(改正後も同じですが)無効審判の審決(第一次審決)が審決取消訴訟で取り消された後は改めて審決(第二次審決)が出されることになりますが、その第一次審決に相当する位置づけです。

この審決予告が出たときは、被請求人は指定期間内に訂正請求ができます(新法の164条の2第2項、第134条の2第1項)。

この訂正請求が出たときは、請求人は、審判長の許可に基づいて、無効審判請求書の請求理由を(要旨変更にならない範囲内で)補正できます。この無効審判請求書の請求理由の補正ができる期間は、審理終結通知が出るまでは特に制限はないのですが、実際には、審判長からの、訂正請求が出たことによる弁駁書提出の指定期間(30日。施行規則による)内に、請求人から請求理由の補正書が出されることが多いようです。

なお、訂正請求を出せる場合・期間は特許法134条の2第1項にまとめられています。

特許法134条の2第1項によると、訂正請求ができるのは、次の4つの場合です。

(1)134条1項又は2項の答弁書提出期間内

(2)134条の3第1項の無効審判の請求不成立審決に対して審決取消訴訟が提起されその取消判決が確定して(つまり請求不成立審決が取り消されて)無効審判の審理が再開される場合において、「取消判決の確定から1週間以内」に被請求人から申立があった場合に限り行われる、審判長による指定期間内

(3)153条2項の場合(職権審理による無効理由通知の意見書提出期間内)

(4)164条の2第2項(審決予告の後の指定期間内)の場合

5.訂正審判/訂正請求による訂正の確定

法改正とは関係ありませんが、次のようになっているようです(私見が入っています)。

・訂正を認める審決は、訂正審判の相手方は特許庁なので、「送達」されたとき、誰も争えない状態になり「確定」する。

・無効審判の対象となっている請求項についての訂正請求による訂正を認める審決の部分は、審決が確定したとき、「確定」する。

・無効審判の対象となっていない請求項についての訂正請求による訂正を認める審決の部分は、審決(無効審判の請求そのものが成立か不成立かに拘わらず)が「送達」されたとき、誰も争えない状態になり「確定」する。

 もともと「いつ、どのような場合に、審決や判決が確定するか」についての明文規定はないようです。というか「再審などの特別な手段を除き誰も争えない状態になったとき」が「確定したとき」なのですね。

にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^

posted by mkuji at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正

2011年10月30日

新規性喪失例外の適用を受けるために来年4月まで出願を遅らせるという選択について

改正特許法30条は、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した発明でも、その新規性喪失の日から6月内に出願すれば、新規性及び進歩性の判断において新規性を喪失しないものとみなす、としています。

改正特許法30条の施行日はまだ確定ではないものの来年(2012年)4月1日となるようであり、そうだとすると、この改正法30条は来年4月以降の出願に適用されます。

その結果、もし今、企業が自ら発明品を発表・展示・販売した場合、来年4月1日は今から6月以内なので、来年4月1日に出願すれば、新規性喪失の例外を受けられます。

これに対して、焦って来年3月以前に出願してしまうと、新規性喪失の例外を受けられず、特許取得は理論上、不可能になります。

まぁ確かに結論はこうなるのですが、新規性喪失の例外の適用を受けるために、わざと来年4月まで数ヶ月も出願を遅らせるというのはおかしな感じもします。

その数ヶ月の間には、第三者からもいろんな動きがあるはずです。

新規性喪失の例外が適用されるのは、当該行為に起因して新規性喪失となった場合(自社の公表をマスコミが報道したり、その報道を見た個人がブログに掲載するなどの「二次的な公開」を含む)だけで、出願日が遡及する訳ではない、とされています。

したがって、自社の公表から出願までの間に、例えば第三者が独自の同一発明や改良発明を公表するか又は出願すれば、別の新規性喪失理由により又は29条の2(拡大先願)の適用により、権利取得は不可能になります。

この場合、仮に、その第三者が、本当は、自社の発表や展示などを見てそれを公表したか又は出願したのだとしても(このような場合は、同一発明の公表は二次的な公開なので新規性喪失の例外の適用を受けられるし、出願は冒認出願なので29条の2の適用はない)、第三者が「いや自分で独自に発明したんだ」と主張したら、それに対する反証は極めて難しいと思います(その第三者の出願も同一発明については新規性がないとして特許取得できませんが、それは別の話です)。

結局、新規性喪失の例外の規定には余り期待しないで、公表する前に無理をしてでも出願するというのがベストと思います。

にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^

posted by mkuji at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正

2011年06月01日

特許法改正案が今国会で可決、成立

日経新聞にも出ていますが、昨日(2011/5/31)、特許法改正案が今国会で可決、成立しました。

http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819481E1E3E2E1938DE1E3E2E7E0E2E3E39797E0E2E2E2;at=DGXZZO0195164008122009000000

これについての特許庁の解説、特許法等の一部を改正する法律案についてもあります。

今回の特許法改正の主なポイントは次のとおりです。

1.発明を横取りされて出願(冒認出願)され特許された場合は、真の発明者(又はそれから特許を受ける権利を譲り受けた者)は特許を自己に移転することを訴訟で請求できる(74条1項。追記:例えば3人が発明者なのに2人だけが出願して特許された場合、残りの1人の発明者又はそれから特許を受ける権利を譲り受けた者は他の2人に対して共有持分の移転を請求できる)。

2.特許ライセンスを受けたライセンシーは、ライセンサーが特許を譲渡した場合でも、特許の譲受人に対して(特許庁への登録がなくても)自己の通常実施権を主張できる(当然対抗制度。99条1項)。

3.発明者の行為(公表)に起因して公知になった発明(公表の態様は問わない。但し内外国の特許庁の公報に掲載されたことにより公知になった発明は除く)については、その公知になった日から6ヶ月内に出願すれば新規性・進歩性を失わない(30条2項)。

4.赤字の中小企業等に対して減免する特許料を、第1〜3年分の特許料から第1〜10年分の特許料へ拡大する(109条1項)。

5.訂正審判請求または訂正請求の目的要件として、改正前の特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明の3つに加えて、「請求項の記載を従属形式から独立形式に変更すること」を追加した(126条1項4号、134条の2第1項4号)。

6.訂正審判請求または訂正請求を、請求項ごとに又は「一群の請求項」(引用関係など政令で定める関係を有する一群の請求項)ごとに行うこととした(126条3項、134条の2第2項及び3項。訂正請求については改正前から認められていた。訂正審判請求については、改正前は「全ての請求項」を一体として請求しなければならなかった)。これとの関係もあって無効審判や訂正審判の審決の確定範囲も請求項ごと又は一群の請求項ごととした(167条の2)。

7.無効審判において「請求に理由がある」(つまり無効)とする審決を出すときは、その前に「審決の予告」をして特許権者に訂正請求の機会を与えることとし(164条の2)、その代わりに、無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は、訂正審判の請求を禁止した(126条2項。改正前は、改正前の126条2項により無効審判の審決に対する取消訴訟の提起から90日内は訂正審判の請求ができたが、そのために、出訴後に特許権が訂正されると事件が無駄に裁判から審判に差し戻されてしまうという弊害があったので、無効審判の段階で訂正請求の機会を確保する代わりに、無効審判の特許庁への係属後は、それが確定するまでの間、訂正審判請求を一律に禁止した)。また、この関係で、改正前の181条2項(無効審判の審決の取消訴訟が提起された後の90日内に訂正審判請求が行われたとき裁判所が決定により審決を取消すことができるとの規定)を削除した。

8.侵害訴訟の原告勝訴判決が確定した後に特許無効の審決が確定した場合でも、又は原告敗訴判決が確定した後に特許訂正審決が確定した場合でも、その審決の確定を再審事由として主張できないとした(104条の4)。

9.無効審判の確定審決について、同一の事実及び証拠に基づいて争えない者の範囲を、改正前の「何人も」から「当事者及び参加人」に狭めた(167条)。つまり、無効審判の確定審決の第三者効を廃止し、無効審判の審決が確定しても当事者等以外の第三者は同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求することができるとした。

10.料金関係では、意匠法の改正により、意匠登録の第11〜20年分の維持年金が第4〜10年分の年金と同額の年16,900円に減額されました(意匠法42条)。また特許出願の審査請求料については、法改正とは別ですが、本年中の減額が特許庁内で検討されているようです。

11.商標法の改正では、商標権が消滅した日から一年を経過していない他人の商標又はこれに類似する商標の登録を認めないとする規定(改正前の4条1項13号)が削除されました。(10,11は追記しました。)

にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^

posted by mkuji at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正