2011年12月08日

特許が消滅しているのに特許使用権500万円を支払ったとして背任容疑で告発(茨城みずほ農協組合)

茨城みずほ農協組合長らを背任容疑で告発へ

 茨城みずほ農業協同組合の新商品開発を巡り、1000万円の損害を与えたとして非常勤理事5人が、同農協の代表理事組合長と代表理事専務、東京都港区でバイオ企業を経営する社長の3人を背任などの疑いで告発することがわかった。6日、県警に告発状を提出する。

 関係者によると、組合長らは今年2月28日の理事会で、原料の一部にコメを使った「米醗酵(はっこう)(燃焼系)アイス」を開発、製造するため、同社に特許使用権や製造指導料などとして1000万円を支出する議案を提出。3月3日の臨時理事会で可決された。その際、社長が出席し、アイスの製造に必要な米発酵液の製法特許権について「所有している」と説明したという。

 同農協は翌4日、同社に特許使用権500万円、指導料500万円を支払ったが、同社が2002年に取得した特許は09年に消滅していたことが発覚。組合長らは、特許使用権の500万円を「使用・製造・販売権」に変更し、同社と契約した。5人は「組合長と専務は特許権の存否確認を怠ったまま同社に1000万円を支払い、農協に損害を与えた」と主張している。

 これに対し、社長は「特許は経理が特許料を支払うのを忘れて消滅したが、アイスの製法は公証役場へ届け出ており、問題ない。改めて別の形で特許を取得する準備をしている」、専務は「アイスの発酵技術は公証役場に届けられており、知的財産権に問題はない」と反論している。(2011年12月6日 読売新聞)

この記事を読んだだけでは事実関係がはっきり分からないので、以下は私の推測です。

この記事は正確ではないような気がします。

この記事では、非常勤理事5人が「特許権の存否確認を怠ったまま同社に1000万円を支払った」ことを理由に組合長らを背任罪として告発したという書き方をしていますが、「怠った」という過失だけでは背任罪は成立しないはずですから、それは告発理由ではないのではないでしょうか。

そうではなく、当初は特許権が存続していることを前提に理事会の承認を得て契約し「特許使用権500万円」を支払ったが、その後に特許が既に消滅していたことが判明したという事実があって、本来ならその「特許の消滅・不存在」が判明した時点で組合長らは500万円の返還を求めるべきだったのに、それをしないで、契約中の「特許使用権500万円」を「使用・製造・販売権500万円」に替えて500万円を返還しなくてよいように契約を変更した、そのような故意の行為を背任罪だと主張しているのではないでしょうか(追記を参照)。

なお、特許のライセンス契約では、「いったん支払ったライセンス料(一時金を含む)はいかなる理由によっても返還しない」という条項を付けることが一般的であり、本件でも付けられていると思います。しかし、本件のような場合は、そもそもライセンス料発生の前提となる特許権が既に消滅し存在していなかったので、そのような条項は要素の錯誤により無効であり、不当利得として返還請求できるということになると思います(組合側は特許消滅の調査を怠ったので重過失があるという主張も在り得るでしょうが、権利者側の重過失又は悪意の方が大きいのでこの点は問題にならないのではないでしょうか。なお参考裁判例として、平成20年(ネ)10070号「石風呂装置」事件判決)。

また、組合長らの「アイスの発酵技術は公証役場に届けられており、知的財産権に問題はない」という主張は意味不明で、特許権が既に消滅していたのなら、「特許使用権500万円」の支払いの根拠は無かったことに変わりはないと思います。特許でカバーしていなかった製造ノウハウ等が「公証役場に届けられ」ているとしても、製造ノウハウ等については「製造指導料500万円」でカバーするとするのが本件の契約の趣旨と思います。

追記: 後で知った記事ですが、2011//12/7付け茨城新聞の記事によると、大体、上記の推測で間違いないようです。以下に引用しておきます。

会見した告発人の理事らによると、コメを発酵させて作る「米醗酵燃焼系アイス」の開発にあたり、組合長らは、今年2月28日など数回の理事会で、同社に特許使用権500万円と、製造の指導料500万円の計1千万円を支払う契約について審議。その際に同社社長が出席し「製造に必要な米発酵液の製法特許権を所有している」と説明した。同JAは理事会での決議を経て、3月4日に同社に1千万円を支払った。

しかし、同社が2002年に取得した特許は、09年に抹消されていることが判明。組合長らは特許使用権を「使用、製造、販売権」という項目に変更し、契約を締結した。

理事らは「組合長、専務としての善管注意義務に反し、特許権の存否確認を怠ったまま同社に1千万円を支払い、JAに損害を与えた」などと主張している。

一方、組合長側も同日会見し「アイスの発酵技術は公証役場に届けられており、知的所有権に問題はない」と反論。同社への1千万円の返還は求めていないとした。

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2011年02月19日

「Googleが仕掛ける特許破壊」とは?

日経エレクトロニクス(2011/2/21号)の「Googleが仕掛ける特許破壊」というタイトルの記事を見ました。

記事を私なりに理解したところでは次のとおりです。

現在のネット上の代表的な動画フォーマットである「H.264」を利用する事業者は、アップルやパナソニックなどの日韓米の電機メーカーが中心として参加している特許プールの管理会社(米MPEG LA, LLC)にロイヤルティを支払う必要があります。

これに対して、Googleが、今年1月、WebブラウザーのChromeでのH.264のサポートを2ヵ月後に打ち切り、Googleが中心になって開発・普及活動をしているロイヤルティ・フリーのWebMだけに注力すると宣言したそうです。その理由はもちろん、ロイヤルティ・フリーのWebMが普及した方が、インターネットのトラフィックが増えてGoogleの広告表示も増えて利益が増大するからです。

そして、このGoogleの動きに対して、Googleが公開したWebMを構成するソフトウェアのソースコードを分析するとH.264の特許を侵害している可能性が高いと指摘する専門家がかなりいるそうです。

そこで、このようなWebMがH.264の特許を侵害する可能性に対して、Googleが仕掛けた「奇策」が、WebMのライセンス条件としてつけた「ライセンスを受ける者(又はその代理人、排他的ライセンス機関)がVP8(WebMの一部を構成するソフトウェア)に対して特許侵害の訴訟を提起したりそれを依頼または同意した場合はVP8に関する特許権のライセンスを停止する」という特許付帯条項だということです。

つまり、動画配信サービスで圧倒的存在感を持つYouTube(現在はH.264とWebMとの両方ともに対応)をGoogleが将来的にWebMだけに対応させるようになると、電機メーカーはYouTubeに対応する機器を出し続けるためにはWebMのライセンスが必要になるが、そうなると、この特許付帯条項により、電機メーカーはWebMに対して特許侵害訴訟を提起できなくなる、これは電機メーカーに「強制的なクロスライセンス」をさせるもので、電機メーカーの特許に対する「特許破壊」だ、と日経エレクトロニクスの記事は主張しています。

「奇策」と言ったり「特許破壊」と言ったり、かなり激しい言葉を使っているので、日経エレクトロニクスはどうしたのかという感じがしました。
一般に、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことをライセンス契約の解約理由とする条項は広く認められていると思います。他方、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことそれ自体を禁止する条項は独禁法違反の疑いがあるとされています。

そのような「ライセンス対象の特許が無効だ」と主張して争ったらライセンスを解約・停止するというのと異なって、「ライセンス対象のVP8またはWebMというソフトウェア製品またはこれを組み込んだ機器が自社の特許を侵害する」と主張して訴訟を提起したらライセンスを停止するという条項を入れたから、「奇策」で「強制的なクロスライセンス」で「特許破壊」だという主張なのでしょうね。確かに、独禁法の禁止する抱合せ販売に近い感じはします。

なお、日経エレクトロニクスの記事によると、上記のGoogleがWebMのライセンスに採用した特許付帯条項は、最近のオープンソース・ライセンスのコントリビューター(コードを寄稿する開発者)に対して「貢献したコードに対して後から特許権侵害を申し立てない」と約束させる手法(特許を持っていることを隠して特許侵害のコードを意図的に埋め込んで後から特許侵害だと主張するケースが在り得るため)をWebMの利用者に拡大したものだろうということです。

ただ、何か、今回の日経エレクトロニクスの記事には違和感を持ちました。従来より日経エレクトロニクスの基本スタンスは国内電機メーカーのサポーター的立場でありそれは良いことだと思います。しかし、今までの日経エレクトロニクスの記事は、そのスタンスに立ちながらもユーザーの視点や将来的な技術の流れなどにも目を配った客観的な記事が多かったと思います。その点から見て、今回の記事は、ユーザーの視点や将来的な技術の流れの視点がない、Google敵視だけという偏った感じがして、違和感が残りました。

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posted by mkuji at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ライセンス契約