2010年10月12日

誰でも気軽にメーカーになれる時代

昨日付けの日経産業新聞に載っていた記事「アマの知恵、侮れず」は興味深い内容でした。

iPhoneやiPadのアプリ開発などソフト分野では個人や小規模事業者の存在感が増していますが、最近は、ハード分野でもそういう傾向があるそうです。

この記事によると、秋葉原の近くで今年5月に「はんだづけカフェ」が登場(スイッチサイエンス(社長・金本茂さん)が経営)。社会人や学生など幅広い年齢層が来店して電子機器を自作しながら互いに披露するコミュニティが形成されているそうです。この背景には、電子部品のモジュール(複合部品)化が進み、これらをつなぐだけで高度な電子機器を作成できるようになったことがあるようです。

また、この記事によると、丸紅情報システムズが販売している3D(3次元)プリンター(樹脂を何層にも重ねて立体模型などを作る装置)が、家電メーカーの試作部門などの従来の顧客だけでなく、趣味の工作やイベントでの販売用に使いたいなどの個人や小規模事業者からの発注が目立っているようです。

また、この記事によると、今年9月25〜26日、電子工作展示会「メーク・オオガキ・ミーティング」(IT専門の米系出版社オライリー・ジャパン主催)が岐阜県大垣市で開かれて(東京でも2008年から年2回開催されている)、全国から114組の参加者が集まって、「歯ぎしりを検知するマウスピース型センサー(歯ぎしりを検知するとアロマ発生装置が作動する)」など自作の電子機器を披露し合ったそうです。

今回、この展示会が岐阜県大垣市で開かれたのは、おそらく、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)の准教授・小林茂さんが、専門知識がなくても様々な部品を接続できる電子基板「ゲイナー」を開発したことと関連があるのでしょう。

この「ゲイナー」も、半導体や電子部品を事前に載せた「オープンソースハードウェア」の一つですが、これ以外にもオープンソースのマイコンボードなどは幾つか市販されているようです。
消費者が欲しい家電など新商品のアイデアを募り、賛同者が一定以上集まれば企業に開発を提案するという「消費者主導型の商品開発サイト」を運営するエレファントデザイン(社長・西山浩平さん)も紹介されていました。

とにかく、ソフトウェアのオープン化だけでなく、ハードウェアのオープン化も進み、個人や小規模事業者が気軽に電子機器を作れる時代になったということです。

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2010年07月20日

発明市場と製品市場の分離? 米インテレクチュアルベンチャーズ(IV)

日経ビジネス 2010年7月19日号より http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100715/215429/?P=2

製造と発明の分離は歴史的必然?

かつてコンピューター業界ではハードウエアとソフトウエアは一体不可分なものだと考えられていたが、結局はソフトがハードから解放され、さらなる発展を遂げた。同じことが製造業と発明・特許の関係でも起こる──。ミアボルド氏はそう予言する。発明資本市場が健全に発展すれば、民間投資が発明市場に流れ込み、研究者や発明家の意欲を高め、技術革新のスピードが異次元の領域に高まるというのだ。(中略)
・・・確かなのは、発明資本市場が立ち上がりつつあることと、新しい競争ルールを“発明”する知恵と資力を備えたベンチャーが米国に健在だということだ。


米マイクロソフト社の元幹部が創業した発明ファンド、インテレクチュアルベンチャーズ(IV)のビジネスモデルは、一般の投資家から巨額資金をかき集め(既に約55億ドル(約5000億円)を獲得)、この資金を使って、(1)自社内での発明製造ブレーンストーミングなどによる発明開発、(2)外部の企業や個人からの特許権の買取り(今までの買取りに8億ドルを使用し、その中の3億ドル超が個人発明家への支払いだそうです)、(3)外部の大学や科学者などへの発明委託、という3つのルートで発明や特許を獲得し、それらを元手に売却益やライセンス料収入を獲得して出資者に還元する、というものです。

・・・その仕組みが発明資本市場なのである。ファンドを組成して資金を集め、特許を買い集めたり、新たな発明を生み出したりするために投じる。ライセンス収入や新事業の立ち上げで利益が出れば投資家に還元する。数十億ドル規模の資金で何千〜何万の発明や特許を扱うことで投資リスクを回避。VCやPEと同じ考え方に基づいている。(中略)
申請中及び登録済みを合わせるとIVの特許ポートフォリオは3万件にも達する。それらの売却益やライセンス料がIVの最大の収益源で、過去2年間だけで 10億ドル(約900億円)以上を稼ぎ出したという。米国のほか日本、韓国、中国、インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど9カ国に拠点を開設済みで、社員数は約650人。台湾と欧州にも進出予定だ。


下図はこの日経ビジネスより引用。

f:id:mkuji:20100720183837j:image
また、この記事によると、IVは、金儲けに精を出すだけでなく、マラリア撲滅のための装置(マラリアの感染を仲介する蚊をレーザー光線で焼き落とす装置)の開発、地球の温暖化対策としての地球を冷やす技術の開発などの「全地球的な規模の問題を発明で解決しよう」という高邁な(?)プロジェクトも進めているようです。
そういうことをつらつら書いた上で、この日経ビジネスの記事は、冒頭に引用した「製造と発明の分離は歴史的必然?」という見方を示して終わっています。
確かに、コンピュータの世界では、ソフトメーカーとハードメーカー、ソフト市場とハード市場が分離しています。近年は、OEMやプライベートブランドなどによる製造と販売の分離、ファブレスやODM、EMSなどによる企画と設計、製造の分離も進んでいます。
発明と設計・製造の分離、発明メーカーと製品メーカーの分離、発明市場と製品市場の分離が進んでも不思議はないと思います。
もしそうなると、今後、特許制度は、「企業(メーカー)に独占権を与えることにより新製品開発の投下資本を回収させる」という伝統目的から離れて、「発明市場のために、公的機関(国家又は国際機関)が設営する、アイデアの公募・審査・登録制度」とでも言うべきものに、その性格を変質させて行くのかも知れませんね。
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posted by mkuji at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 発明市場