2010年09月05日

間接侵害の代表的な裁判例(6個)の判旨のまとめ

間接侵害の代表的な裁判例(6個)の判旨をまとめてみました(いずれも、そのまま引用したものではなく、私が一部要約したり変形しています)。
1 平成17年(ネ)第10040号 一太郎事件 知財高裁平成17年9月30日判決

・特許法101条2号の「その物の生産に用いるもの」の該当性について
 前述のように「被告製品をインストールしたパソコン」は本件発明の構成要件を充足するものであるところ、被告製品のインストールにより、ヘルプ機能を含むプログラム全体がパソコンにインストールされて本件発明の構成要件を充足する「被告製品をインストールしたパソコン」が初めて完成することになるので、「ユーザーが被告製品(一太郎)をパソコンにインストールする行為」は、特許法101条2号の「その物の生産」に該当する。よって、被告製品は、前記「被告製品をインストールしたパソコン」の生産に用いるものと言える。

・特許法101条2号の「本件発明による課題の解決に不可欠なもの」の該当性について
 前記イ号物件目録及びロ号物件目録記載の機能は、被告製品をインストールしたパソコンにおいて初めて実現される(すなわち、被告製品のプログラムとマイクロソフト社のOS中の「Winhlp32.exe」等の実行ファイルが一体となって(協働して)初めて実現される)というべきであるから、被告製品は「本件発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)というべきである。
・特許法101条4号の「その方法の使用に用いる物」の該当性について
 「被告製品をインストールしたパソコン」は、特許法101条4号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するから、「被告製品をインストールしたパソコン」の生産、譲渡等又は譲渡等の申出は特許法101条4号の間接侵害に該当する。しかしながら、被告製品(CD−ROM)は、「『被告製品をインストールしたパソコン』の『生産』に用いる物」ではあるが、「その方法の『使用』に用いる物」(特許法101条4号)ではないから、被告製品の生産、譲渡等又は譲渡等の申出は特許法101条4号の間接侵害には該当しない。
2 平成8年(ワ)第12109号 製パン器事件 大阪地裁平成12年10月24日判決
・特許法101条4号(改正前は2号)の「その方法の使用にのみ用いる物」の「のみ」について
 ある物が、(多機能品の場合であり)、当該特許発明を実施する機能と実施しない機能の複数の機能を切り替えて使用することが可能な構造になっており、当該発明を実施しない使用方法自体が存在する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら当該特許発明は全く使用しないという使用形態が当該物件の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、当該物件を製造、販売することによって侵害行為(実施行為)が誘発される蓋然性が極めて高い(間接侵害を定めた趣旨)ことに変わりは無いというべきであるから、その物は、なお「その発明の使用にのみ用いる物」に当たる、と解すべきである。
3 平成14年(ワ)第6035号 クリップ事件 東京地裁平成16年4月23日判決
・特許法101条2号及び5号の「発明の課題の解決に不可欠のもの」とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり、当該発明の構成要素以外の物であっても、物の生産や方法の使用に用いられる道具、原料なども含まれ得る。
・特許法101条2号及び5号の「発明の課題の解決に不可欠のもの」とは、それを用いることによって初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品、道具、原料等、すなわち、当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすような特徴的な部材、原料、道具等(課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接に形成するもの)をいうものと解すべきである。
4 平成16年(ワ)第9208号 切削オーバーレイ工法事件 東京地裁平成16年8月17日判決
 (※この事件の控訴審である、平成16年(ネ)第4518号 知財高裁平成17年2月24日判決は、実施行為の教唆・幇助に関する判断は原判決と同様としています。)
・特許法100条により差止められる行為者は、自ら特許発明の実施を行うかそのおそれがある者を言い、それを教唆又は幇助する者は含まないと解すべきである。
・教唆又は幇助による不法行為責任は、自ら権利侵害をするものではないにも拘わらず被害者保護の観点から特にこれを共同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることにしたものであり、特許権の排他的効力から発生する差止め請求権とは、その制度の趣旨・目的を異にするものである。
・特許法101条所定の間接侵害の規定は、特許権侵害の幇助行為の一部の類型について侵害行為とみなして差止めを認めたものである。よって、幇助行為一般について特許法100条により差止めが認められると解するときは、このような特許法101条を創設した趣旨を没却するものとなってしまう。
5 平成13年(ワ)第1650号 ドクターブレード事件 東京地裁平成14年5月15日判決
・特許法101条1号は、将来における特許権侵害に対する救済の実効性を高めるために、一定の要件の下で、その準備段階の行為について特許権を侵害するものと見做したものである。そうすると、同号にいう「その物の生産」とは、供給を受けた「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件の全てを充足する物」を『新たに作り出す行為』を指すものと解すべきであり、加工、修理、組立て等の行為態様に限定はないものの、「供給を受けた物を素材としてこれに何らかの手を加えること」が必要であり、「素材の本来の用途に従って使用するに過ぎない行為」は含まれないと解すべきである。
・すなわち、本件において、原告は、被告が製造・販売するドクターブレードは、原告の特許発明の構成要件C「セラミック材料の表面被覆が最高0.25mmの全厚さを有する層で構成され」を充足しないが、購入者が被告製品の使用を継続することにより、ブレードの刃先のセラミックの被覆厚みが減少して被告製品は本件発明の構成要件Cを充足するようになるため、被告製品を製造・販売する被告の行為は、原告の特許権の間接侵害行為を構成すると主張したのに対して、裁判所は、購入者が、被告製品を購入した後、使用を継続した結果、セラミックの表面被覆は、摩耗して薄くなることもあり得ようが、これは通常の用途に従った利用行為の結果であるから、このような購入者の行為を、社会通念上、物を生産している行為ということはできないとしました。以下は判旨。
「法101条1号は、特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ使用する物を生産、譲渡するなどの行為を特許権を侵害(いわゆる間接侵害)するものとみなしている。同号の趣旨は、次のとおりである。すなわち、甲が発明の構成要件を充足しない物を製造、販売するなどの行為をすることは特許権侵害を構成しないが、その物の譲渡を受けた乙において、その物を使用して、発明の構成要件を充足する物を生産するなどの行為に及ぶことが特許権侵害を構成するようなときには、将来における特許権侵害に対する救済の実効性を高めるために、一定の要件の下で、その準備段階である甲の行為について、特許権を侵害するものとみなした。そうすると、同号にいう、乙が行う「その物の生産」とは、「その物の生産又は使用」などと規定されていないことに照らすならば、供給を受けた「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為を指すと解すべきであり、加工、修理、組立て等の行為態様に限定はないものの、供給を受けた物を素材として、これに何らかの手を加えることが必要であり、素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないと解するのが相当である。」
6 平成12年(ワ)第20503号 電着画像事件 東京地裁平成13年9月20日判決
・本件発明の構成要件(6)に該当する工程(前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けること(要するに、時計文字盤へ電着画像を剥離しつつ貼付け))については、被告自らは実施せず、被告製品の購入者が実施している。しかしながら、被告製品の商品の性質及び構造に照らすと、被告製品の用途は構成要件(6)の「時計文字盤へ電着画像を剥離しつつ貼付け」の工程への使用以外の他の用途は考えられず、これを購入した文字盤製造業者において上記工程が行われることが被告製品の製造時点から当然のこととして予定されていると言える。したがって、被告製品の製造過程においては、構成要件(6)に該当する工程が存在せず、被告自らがこれを実施してはいないが、被告は、この工程を、被告製品の購入者である文字盤製造業者を『道具』として実施しているものということができるので、本件特許発明の全ての構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と『同視』して、本件特許権の侵害と評価すべきものである。
・本件が物の発明ならば間接侵害になる。しかし、本件は方法の発明であり、方法の発明の間接侵害は「方法の使用に用いる物」でなくてはならないところ、本件では「方法の使用」がないので間接侵害成立の前提を欠くと説明されるが、よく分からないところ。本件でも「方法の使用の一部」は被告が行っている。方法の発明の間接侵害の成立のためには「方法の発明の全部」を被告が行うことが必要ということなのだろうか。
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2010年05月10日

間接侵害の限界(電着画像事件とHOYA事件)

一つの特許侵害に複数主体が関与した場合において適切な主体への権利行使を可能にするために特許侵害が成立する範囲を拡大しようとする考え方として、次のようなものがあるとされています(参考:パテント2009/8 62頁)。
(1)間接侵害(特許法101条)
(2)共同直接侵害(民法719条の共同不法行為ではなく、差止め請求を認めるための理論のようです)
(3)道具理論(間接正犯理論。電着画像事件。平成12年(ワ)20503号)
(4)構成要件の充足の問題と実施(侵害)したのは誰かの問題とを峻別する理論(HOYA事件。平成16年(ワ)25576号)
これらのうち、上記(3)の道具理論を採用したという電着画像事件の判決については、個人的に、間接侵害でも行けたのでは、という疑問をもっています。
この事件は、特許発明が「工程(1)ないし(6)から成る方法」であるところ、被告が「工程(1)ないし(5)によって得られる半製品」を第三者(時計の文字盤製造業者)に販売し、第三者がこの半製品を使用して最後の工程(6)を行っていた、という事例です(参考:木村耕太郎弁護士著「特許訴訟に勝つ方法」115頁)。
一般の解説では、この事件では間接侵害が成立し得ないので、被告を特許侵害とするためには道具理論を持ち出すしかなかった、という見解が多いようです。その理由は、この事件において、「その方法の使用に用いる物」とは「工程(1)〜(6)から成る方法の使用に用いる物」であるところ、上記「半製品」は、「工程(6)の使用」だけにしか用いていないから、「その方法の使用に用いる物」とは言えない(つまり、「工程(6)だけの実施」では「その方法の使用」とは言えない)、というものです。
しかし、「その方法の使用に用いる物」は、「その方法の全部(工程(1)〜(6))の使用に用いる物」だけでなく、「その方法の一部(工程(6)のみ)の使用に用いる物」も含み得るという解釈も可能なのではないでしょうか。(※このあたり、一部修正しました)
例えば、吉藤の特許法概説(第12版)471頁は、上記のような「半製品」も「方法(の一部)の使用に用いる物(で課題解決に不可欠なもの)」に該当し得るとしているようです。つまり、ここには、次のように書かれています。
「・・・ただし、中間工程により中間生産物が生産される場合においては、間接的ではあるが、要素保護があるといえよう。たとえば、第1工程によって中間生産物が生産され、第2工程により目的生産物が生産される場合に、中間生産物が販売可能である限り、方法の実施にのみ使用する物に該当する。ただし、その中間生産物が第1工程と異なる方法によって生産される場合は、この限りではない。」
ただ、この吉藤の説も、末尾に「ただし、その中間生産物が第1工程と異なる方法によって生産される場合は、この限りではない。」という文章を持ってきてる点で少し破綻しているというか論理的でない面はあります。
上記の「半製品」が「方法(の一部)の使用に用いる物(で課題解決に不可欠なもの)」に該当して間接侵害が成立する場合があり得るとしても、それは、上記の「半製品」が用いられる工程(方法の一部)が特許発明の本質的部分であるような場合に限られるべきだとは思います。とすると、結局、上記の電着画像事件では(上記の第三者が行った最後の工程(6)は特許発明の本質的部分ではないから)間接侵害で行くのは無理だったとなるかもしれません。。(※一部加筆修正しました)
まぁ結局、今の間接侵害の規定が、物の発明については「その『物=完成品』を構成する各部品(その物の生産に用いる物)」の生産等について間接侵害を認めているのに対して、方法の発明については「その方法を構成する各工程」の使用について間接侵害を認めていない(「その方法の使用に用いる物」の生産等について間接侵害を認めているだけ)、というように物と方法とで規定の仕方が基本的に異なっている、というのが分かり難くなっている原因なのでしょう。
上記(4)の構成要件の充足の問題と実施(侵害)したのは誰かの問題とを峻別する理論については、これを適用したHOYA事件の事例では、間接侵害は無理なので、この理論によるしかなかったと思います。
少し判決文を見ただけですが、この事件で侵害が認められた特許発明(請求項3)は、被告側(製造者側)コンピュータと発注者側コンピュータとをネットワークで接続したシステムでした。そして、そのクレームは、被告側(製造者側)コンピュータの構成には特徴的な記載がなく、発注者側コンピュータの構成に特徴的な記載があったというものです。よって、この場合、発注者側(個々のメガネ店側)を被告とするときは間接侵害で行ける(発注者側コンピュータが「その物の生産に用いる物で、課題解決に不可欠なもの」となり得る)が、製造者側を被告とするときは被告に間接侵害が成立しない(製造者側コンピュータが「その物の生産に用いる物で、課題解決に不可欠なもの」となり得ない)という事例だったように私には見えました。
おそらく、原告としては、個々の発注者(メガネ店)を被告にはしたくない(製造者を被告にしたい)という場合だったのでしょう。
そして、裁判所は、実施(侵害)したのは誰かの問題について、特許発明の構成要件を充足するシステムは被告(製造者)が「支配管理」していたとして、被告が実施(侵害)したと認定しました(上記のパテントの論文では、カラオケ法理と類似の理論ではと分析しています)。
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posted by mkuji at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 間接侵害