2016年01月03日

トータルバランス

「やっぱり最後はトータルバランスだと思うんだよね。」(孫正義。日経ビジネス2015/8/13号)
ソフトバンクグループの孫正義氏は、経営を将棋に見立て、飛車や角は勇まくて格好良い、それに比べて王将は一つしか動けなくてしょぼいなと若い頃は思うけど、やっぱり勝ち続けて行くには王将のようなトータルバランス・深みが必要なんだよね、と言っています。
私はこの記事をネットで読んだとき、ちょうどその頃、話題沸騰していた東京五輪エンブレムの盗用問題を思いました。この問題では、当初、五輪組織委は、また何人かの弁理士らも、テレビなどで「商標として類似していない、著作権侵害とはいえない」(だから問題ない)という方向の発言をしていましたが、結局、組織委がエンブレムの使用を取り下げたのは周知のとおりです。
これなども、商標や著作権だけの問題とするならば勇ましい発言も可能なのですが、トータルバランスの上で考えたなら、当初から少し違った方向性もあり得たのでは、と思います。世の中の仕組みや流れの全体を見据えたトータルバランスが必要だと感じました。

2011年02月03日

韓国のデザイン保護法(意匠法)の改正

旧正月で日本に遊びに来ていた韓国弁理士と会ってたのですが、韓国では、EU各国が中心に加盟している分類に関するロカルノ協定に加入した関係で、デザイン保護法が大幅に改正され来年1月から施行されるそうです。

その改正内容が今の日本の意匠法から見るとぶっ飛んだ内容で驚いたのですが、ロカルノ協定の分類(第32類)の中には、物品と離れたロゴ、グラフィックシンボル、キャラクター、アイコンなどの形状・物品性のないものも含まれているため、結局、これらの物品から離れたデザインも意匠登録できるようになるそうです。意匠法を専門にやっている人には既知のことかもしれませんが、私は初耳でびっくりしました(物品を離れて登録できるということは意匠法の根本が変わるということなので)。

また、韓国では、意匠権の権利範囲についても、今までは日本と同じく「物品(物品の部分を含む)と一体化したデザイン」が登録の対象であることから意匠権の権利範囲もその物品だけに限られていたのが、今回の改正により登録した物品以外の物品にも権利が及ぶ(例えば、食器のコップのデザインについて登録した意匠権の効力が家電製品のデザインにも及ぶ)ようになるそうです。ホントかなという感じです。

今の日本の意匠法でも、商標権や著作権との保護対象の切り分けがしばしば議論されています。無理に切り分けなくても重畳的に保護できるところはしてよい訳ですが、一応の区別があります。例えば、実用品や量産品については、美術工芸品など純粋美術と同視し得るものだけを著作権の保護対象とし、それ以外は意匠権の対象とするとか。逆に、これは意匠の定義規定があるからなのですが、意匠権の保護対象は必ず特定の物品と一体化したデザインに限られ、物品を離れたデザインは意匠権の保護対象にならないので著作権や商標権による保護を検討するしかないなど。

それが、韓国の改正法のように、意匠の登録対象や権利範囲について「物品」の制約を取っ払って広げていくと、商標権および著作権との重畳的保護・重複適用がすごく拡大することになります。そうなると、今までの切り分けについての学説の議論の相当部分が無意味化するでしょうね。まぁだから法改正するなということではないですが。

ところで、会った弁理士は金という人なのですが、ちょっと聞いてみたら、韓国では金という姓の人が40%以上、金、李、朴の3つの姓だけで75%以上だそうです。そして、同じ金という姓の中にもルーツにより多数の「派」があって、それは各人の戸籍に記載されているそうです。そして、数年前に民法が改正されるまでは、同じ「派」の人間同士は結婚できないとされていたそうです。遺伝が理由なのでしょうが少しやりすぎというか封建的な感じですが、聞いてみないとなかなか内情は分からないなと感じました。

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2010年12月07日

香りの模倣品対策は?

台頭する「コピー香水」と闘う香水・香料業界 2010/11/29

高級ブランド香水とそっくりの香りを売り物に、安価な「コピー香水」を販売するウェブサイトが増えている。

これらのサイトは、人気香水のコピー製品であることを公言し、売り上げを伸ばしている。(中略) その1つ、英国の香水販売サイト、パフューム・パーラー(Perfume Parlour)では、「トップノートからミドルノート、ベースノートまで高級ブランド香水とまったく同じ」香油を、わずか10分の1程度の価格で販売する。ガス液体クロマトグラフィー(GLC)によって高級ブランド香水の化学組成を分析し、独自製品を製造しているのだという。高級バッグなどの偽造品と異なり、香水のコピー製品を「かぎ分ける」のは簡単ではない。香水をつけた人が街中でそのボトルを見せびらかすことはないからだ。さらに、コピー製品がボトルの形状やロゴといった商標を侵害していない限り、香りが似ているというだけでは、差し止め訴訟を起こすことも難しい。(後略)

最近は香水の材料が天然香料ではなく合成香料主体になっているために、組成分析・コピーが容易になったことが背景事情としてあるようです。

香水を保護するためには、現行法下では、ノウハウとして秘密保持することと、その逆に、組成や製造方法を特許で取得することしかないと思います。ただ、もし特許にすると、組成データなども公開されるのでコピー品がますます出回る可能性があります。

それで、上の記事にあるように、著作権法を改正して、著作権法の保護対象を「文芸、学術、美術又は音楽の著作物」から「香りの著作物」にまで拡大しようという動きもあるようです。いずれにせよ香水の香りについては現行法下では決定的な模倣品対策はないというのが結論でしょう。

上記は「香りを」保護するという話ですが、「香りで」保護するというのはこれと違う話です。

自社の商品やサービスを「香りで」保護したい(「香りで」競争優位に立ちたい)というときは、現行法下では、例えば、「特定の香りを有する(発生する)携帯電話」という特許を取って、特定の香りを訴求ポイントにして消費者に自社の携帯電話を選んでもらおうとするのは良いアイデアだと思いますが、「香り徐放シートや香り発生装置を備えた携帯電話」のアイデアは、かなり昔から既に多数出願されています。

また、商標法を改正して、「匂いの商標登録」を認めれば、自社の商品やサービスを「香りで」保護すること、つまり「特定の香り」を自社の商品やサービスの識別標識として独占することが可能になります。匂いの商標登録は米国など複数の国で既に認められており、日本特許庁でも法改正を検討したこともあるようです。

それから、同様に、不正競争防止法を改正して、自社の商品やサービスについての周知・著名な香りを他社が同じ商品・サービスについて使用することを禁止できるという規定を創設すれば、商標登録などがなくても自社の商品・サービスを「香りで」保護することが可能になります(現行の不正競争防止法2条1項1,2号は、あくまで自社の商品・サービスについての「周知・著名な表示」を保護するものなので、「周知・著名な香り」は保護されません)。

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2010年03月27日

「知財コンサル」について



相互リンクしてるThe・知財部員が往く!さんのブログからの引用です。



先週末は、知財コンサルシンポジウム2010に参加するべく、六本木まで行ってきました。(中略)


全体的な印象として、去年以上に事業支援色が強いように感じました。(中略)


つまり、知的財産というよりは、より広義な知的資産(企業文化、人材なども含む概念)に対するコンサルティングであると。(中略)


そして、個人的にも、この方向性(知財っぽくない方へという意味)が、知財コンサルの正しい在り方であるという気がします。(中略)


そうすると、経営戦略という、知財よりはもっと広い視点でコンサルティングにあたることが求められるわけです。


その観点からすれば、真に必要なのは、知財が必要なのか、知財をどう使うのか、ということを経営的視点からアドバイスできる人ということになりますね。


逆に言えば、弁理士等の知財の専門家は必ずしも知財コンサル向きでは無いということです。(中略)


なんだか、「知財コンサル」という言葉自体がナンセンスだという気がしてきますね・・・。


既存のコンサルティングと、あえて分けて考える必要がどこにあるのか?



私は知財コンサルについては知らない方なのですが、このブログを見て少し考えました。


知財コンサルは、弁理士はもう少し経営のことも考えて仕事しなくちゃ、というスローガンとしては大きな意味があると思います(ただ、この場合は「知財コンサル」よりも「コンサル知財」と呼んだ方がいいでしょうね^^;)。


だけど、それ以上に、本当にコンサルタントになると、現実にはもう弁理士でなくなってしまうと思います(「弁理士」の定義にもよりますが、ここでは、弁理士とは明細書作成などの権利化業務を行う者とします。また、弁理士でなくなってしまっても別に全く問題ないと思います)。


コンサルと弁理士は求められる役割や場面(経営のレベル)が明確に違うと思います。なぜなら、特許庁に出す明細書や意見書をしこしこ書いてる人たちをコンサルとは呼べないと思うし、逆に、コンサルが明細書や意見書を書いて特許庁に提出することを顧客が望んでいるとは思えないからです。


そもそも、コンサルと弁理士は相反する性格を持っているのではないでしょうか。


同じ人間が同じ顧客に対してコンサルと権利化業務(弁理士)を同時に行うことは利益相反の問題を生じさせると思います(システム会社がコンサルを行う場合と同じですね)。一般に、利益相反の問題は、一つの事務所の中でコンサル部門と権利化部門を別にするとかコンサル部門を別会社にすれば形式的にクリアされるんでしょうが、少なくとも同じ顧客に関して同じ人間が2つの部門に同時に関与するのはよくないし、コンサルの過程で得た秘密情報と権利化業務で得た秘密情報とを2つの部門の間で互いにやり取りできない体制にする必要があると思います(追記:なお、利益相反は顧客保護のためですので、顧客がコンサル部門と権利化部門とで秘密情報をやり取りしてもいいと了解すれば問題はなくなります。また一方の業務を終了した後に他方の業務というように、同時並行で行わない場合は、問題ないと思います)。


他方、同じ人間が、或る顧客Aに対してはコンサルを行いながら他の顧客B(顧客Aと競合しない場合。競合する場合は一般的な利益相反の問題が生じます)に対して権利化業務(弁理士)を行う場合は、少なくともそれだけでは利益相反の問題はないと思います。


ただ、このように同じ人間が或る顧客Aに対してコンサルを行いながら他の顧客B(顧客Aと競合しない顧客)に対して権利化業務(弁理士)を行うというスタイルを実現するために、1人の人間がコンサルと権利化業務という2つの全く性格の違う仕事の能力を同時に高めていくことはすごく難しいと思います。


「コンサルと弁理士との両方」やるというのも不可能ではないでしょうが、現実的には、一部を除く多くの人にとっては、「コンサルじゃないけど発明・特許相談+αくらいならできる弁理士」(権利化業務で手数料を稼ぐ者)か、「(別に要らないんだけど箔付けで)弁理士の資格も持ってるコンサル」(権利化業務ではなくコンサルで手数料を稼ぐ者)かの、どっちかしかないんじゃないでしょうか。





追記: 上の何箇所か加筆訂正してます。上で書いた「利益相反」の問題が生じる事例を以下に幾つか記しておきます。(2010/3/28)


事例1: 顧客B社を上得意先とし、その顧客B社からの特定の技術分野Cの発明の特許出願の仕事でその売上の8割を上げている弁理士Aが、顧客B社から、顧客B社が事業を行っている全ての技術分野(弁理士Aが受任している特定の技術分野Cを一部に含む)に関して、これからどの技術分野の特許出願をどのくらい増やし又は減らしていくべきかを、世の中の技術動向や出願動向を踏まえながら助言して欲しいというコンサルを依頼されたとき、弁理士Aは適正なコンサルができるでしょうか。


事例2: コンサルを受任している弁理士Aが、顧客B社の経営陣から「まだ経営陣だけの守秘事項だが、1ヶ月後に、技術分野Cの事業から全て撤退することを、社内外に公表する」という情報を示されていた場合において、顧客B社の知財部の担当者から技術分野C(1ヶ月後に撤退を公表する技術分野)に属する発明について「緊急なので3週間以内に特許出願して欲しい」と依頼されたとき(しかも、その発明は、顧客B社の事業の中でのみ利用できるもので、他社への譲渡やライセンスは考えられないものであったとき)、その依頼を受けるべきか。仮に依頼を断るとした場合、どのような理由で断るのか。


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2010年03月17日

文化庁と特許庁の統合を検討(枝野行政刷新相)



2010/3/14読売新聞 文化庁と特許庁の統合必要…枝野行政刷新相



 枝野行政刷新相は14日、さいたま市内で講演し、著作権や特許などの管理に関し、文化庁と特許庁の統合も含めた省庁再編が必要だとの考えを示した。


 刷新相は「著作権は文化庁、特許は特許庁で担当している。同じ視点で同じように保護しなければならないが、役所がバラバラになっていていいのか」と述べた。そのうえで、高度な技術力が必要な電子機器や、アニメなどの文化芸術を主要な輸出産業として育成するためにも、国内での著作権管理などの一元化が必要だと強調した。



文化庁と特許庁の統合、専門家にとってはそんなに便利になるとは思えないでしょうが、一般ユーザーには相当便利になるのではと思います。


コンピュータプログラムでは特許と著作権が絡みますし、博多人形などの伝統工芸品では意匠権と著作権が絡みます。キャラクタの保護は著作権ですがこれを商標出願することは多いですし、小説やアニメのタイトルやキャラクタ名称を保護するのは現状では商標登録や不正競争防止法でしょうが著作権で保護できないかという議論も昔は一部であったように思います。


一般ユーザー、特に中小企業や個人には、消費者庁のようにワンストップサービスで問合せなどができるようになれば便利でしょう。


文化庁と特許庁だけでなく、不正競争防止法の担当部署(経産省の中)も統合することを考えるべきと思います。有名な商標などのフリーライド(ただ乗り)の事件(ディズニーなどの名称を勝手に店舗の看板に使用する場合など)は不正競争防止法と商標権が、新規な商品デザインの模倣の事件は不正競争防止法と意匠権が、営業秘密(製造ノウハウ、設計図、顧客リストなど)の漏洩事件は不正競争防止法と特許、著作権などが一緒に絡んできますので。


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2010年02月04日

特許出願件数での日本凋落(世界全体の特許出願件数の40%から15%へ、世界2位から3位へ)



日本弁理士会から毎月送られてくる資料の中に「弁政連フォーラム」という冊子がありまして、いつもはスルーしてるんですが^^;、今回パラパラめくってたら、日本弁理士政治連盟の副会長杉本勝徳という方が、独自の面白い分析(事実と予想)を載せておられましたので、一部をご紹介というか、メモ的に記しておきます(以下は一部に私の予想も入れてます)。


◆特許出願件数


特許出願件数では、10数年前は、全世界の出願件数の中で日本の特許出願件数は40%以上だった。


それが今は、日本の特許出願件数は30万件(2009件)で、全世界の出願件数200万件の中では15%となった(10年前から現在まで、日本の出願件数もある程度は伸びたが、米国や中国の伸びがそれを大きく上回った)。


日本の特許出願件数は、全世界の出願件数の40%から15%に凋落した。


中国の特許出願件数は、2009年は31.5万件に上昇した。


その結果、世界の特許出願件数のランキングで、日本(2009年は30万件プラスαで未定)はおそらく米国(2009年予想50万件くらい)と中国(同31.5万件)に次ぐ3位?に転落した(それまでは2位だった)。ちなみに、4位は韓国(同22万件くらい)、5位は欧州(同20万件くらい)、6位はドイツ(同6.5万件くらい)(数値は大雑把な予想が混入してるので注意)。


ただ、日本企業は、近年、国内よりも外国出願にシフトしているので、日本企業そのものの海外出願をも含めた知財力の低下ということではないようです(無駄な出願の絞込みの結果という面もある)。


◆弁護士数


米国(人口:3.1億人)の弁護士数は100万人くらい(米国弁護士は、CPA(公認会計士)の業務を除くあらゆる法律事務(日本の司法書士、行政書士などの業務)を行う)。


日本(人口:1.2億人)の弁護士数は2.6万人。ただ、日本の司法書士、行政書士、弁理士などの隣接法律職(公認会計士は除く)の人数を入れると20数万人になる。


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