2013年12月06日

「じぇじぇじぇ」の商標出願の行方(予測)

今年の流行語を使った商標出願が相次いでいると話題だが、大賞のひとつでNHKの朝ドラ「あまちゃん」で使われた「じぇじぇじぇ」をめぐり、まさかの展開になっている。
 今年5月10日、岩手県久慈市の菓子店が商標登録を出願。その後、NHKエンタープライズが6月18日に約1カ月近く遅れて出願し“一騎打ち”が注目されたが、現在は宙ぶらりん状態なのだ。
 その理由は、特許庁が双方に、出願を認めない旨の「拒絶理由通知書」を送ったこと。商標登録は、先に出願した方が認められるのが原則。特許庁のデータによれば、NHKエンタープライズは、同一か類似する商標の出願が先にあることを理由に出願を拒絶された。それは原則どおりとしても、先に出願した菓子店までNGとは理解不能だ。どういうことなのか。
「先願の菓子店に拒絶理由通知書を送ったのは、<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したからです」(特許庁担当者)(後略)

上の記事について少し調べ、また考えてみました。
IPDL(特許電子図書館)で「ジェジェジェ」のキーワードで「菓子」関係(第30類)を検索してみると、まず岩手県久慈市の菓子店の商標出願(商願2013-39171)が、またこれに約1か月遅れた出願としてNHKエンタープライズの商標出願(商願2013-46638)が出てきます。他方同じ「菓子」関係(第30類)では「ジェジェ/JEJE」という登録商標(登録第3153151号。武田薬品による1996年の登録です)も出てきました。
下図は、NHKエンタープライズが出願した商標です。
ジェジェジェ-商標.jpg
次に、IPDLで、上記の2つの出願の最近までの経過を見ると、岩手県久慈市の菓子店の出願の方はまだIPDLには(おそらくデータベース収録のタイムラグから)拒絶理由通知の記録は出ていないのですが、NHKエンタープライズの出願の方は今年11月5日付けで拒絶理由通知が発送された記録が出ています。拒絶理由通知の理由の条文は商標法8条1項と同法4条1項11号となっています。

8条1項は、出願中の同一・類似内容の先願がある場合は登録できないという規定ですので、おそらく「岩手県久慈市の菓子店の出願と同一・類似である」という拒絶理由でしょう。4条1項11号は、既に類似する登録商標があるので登録できないという規定ですので、おそらく「上記の「ジェジェ/JEJE」という登録商標と類似している」という拒絶理由でしょう。

日刊ゲンダイの記事が正しければ、岩手県久慈市の菓子店の出願はおそらく拒絶になるでしょう(詳しくは後述)。よって、NHKエンタープライズの出願にとっては、8条1項の拒絶理由は自動的にクリアされますので、上記の登録商標「ジェジェ/JEJE」と類似しているという4条1項11号の拒絶理由に対して意見書で有効な反論ができれば(おそらくできると思います)菓子関係(第30類)についても登録が認められるでしょう。なお、NHKエンタープライズの出願の関係では、菓子関係(第30類)以外の区分(ビールなどの第32類とか酒類の第33類など)については、類似する登録商標はないようですので、問題なく登録が認められるだろうと思います。

次に、岩手県久慈市の菓子店の出願の拒絶理由について考えてみます。まだIPDLからは分かりませんが、上の日刊ゲンダイの記事からは、「<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したから」となっています。

これは、私の推測ですが、商標法4条1項7号と同法4条1項15号との一方または双方が拒絶理由として通知されたのかなと思います。
4条1項7号は、公序良俗に反する商標は登録できないとするものです。「他社(NHK)のドラマの人気にあやかって商標登録を利用して利益を独占しようとするのは公序良俗に反する」という理由は、強引な印象はありますが、今の時代、十分に成り立つと思います。特許庁も世論を無視できませんので、世論から批判されるような商標登録は避けたいというある種政治的な考慮は当然に働くと思いますが、その際に持ってきやすいのが、この公序良俗です。

他方、4条1項15号は、「他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標」は登録できないとする規定です。NHKエンタープライズ自身は菓子の製造・販売をしていないとしても、そのライセンシーが製造・販売している場合は、そのライセンシーの業務と混同が生じるおそれがあるから登録できないという拒絶理由も十分に成り立ち得るでしょう。

以上からは、他社(NHKなど)のテレビ番組の人気にあやかって(タダ乗りして)利益を独占しようとする商標出願は、今後は、登録が認められない可能性が高いということが言えるんだろうと思います。
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2013年06月22日

改ざんしたB−CASカードの販売と商標権侵害罪

商標法違反 全国初の適用 改造カード販売(朝日新聞)
「テレビの有料放送を無料で見られるよう、「B―CAS(ビーキャス)カード」を不正に改造し、販売したとして、県警など9道県警の合同捜査本部は21日、さいたま市の電気設備修理業○○(50)、東京都葛飾区の会社員○○(40)の両容疑者を、商標法と犯罪収益移転防止法違反などの疑いでそれぞれ逮捕したと発表した。逮捕は20日付。ともに容疑を認めているという。
合同捜査本部によると、○○容疑者は、同カードのIC部分をパソコンソフトなどを利用して改ざん。昨年9月から今年3月までの間、山口、栃木両県の60代と30代の男性に対し、計3枚を7万9千円で販売し、商標権を侵害するなどした疑いがある。(中略)不正カードの販売を巡っては、これまでに兵庫、群馬、宮城でも摘発されている。商標法違反の適用は全国初という。」

カードのICチップを書き換えることは「単なる修理」ではなく「新たな生産」に該当し、元のカードとは別個の製品となる(※よってその製品に関して商標権は消尽しない)ので、そのような別個の製品に元の「B−CASカード」の商標を表示したまま販売することは商標権侵害だというロジックですね。
商標権侵害罪は10年以下の懲役と重たいので、これを併合する大きなメリットが、摘発する側にはあると思います。
ただ、顧客は、その製品が元の「B−CASカード」とは似て非なる改ざんされた製品だと知っていたのでしょうから、商標権の本来的な機能(出所表示、品質保証)が侵害されたとまでいえるか問題です。
また、顧客は、「テレビの有料放送を無料で見られる」という改ざんにより得られた新たな機能に主として着目して購入したと思いますが、「B−CAS」という商標にどれだけ大きく着目して購入したのか疑問です。
この点で、シャネルなどの有名ブランドのロゴやディズニーなどのキャラクタの絵(著作物)が表示された模倣品の場合(※顧客が安物の模倣品だと分かっていてもなおロゴやキャラクタの絵に着目して購入したという場合)とは少し違っています。
つまり、本件で、もし、犯人が、販売前に、改ざんしたカードの表面から「B−CAS」の商標を消していれば商標権侵害罪としての摘発はなかったはずなのですが、本件のような改ざんカードに元の「B−CAS」の商標が表示されているか否かで、改ざんカードの販売額にどれだけの違いが出ただろうか、ということです。
もし、ほとんど違いが出なかったなら、本件のような場合、商標権侵害罪だといっても、商標保護という面からは実質的違法性は小さい形式犯に近いものと言えます。
他方、やはり元の「B−CAS」の商標が表示されているからこそ、その改ざんカードなのだという安心感(?)があったり、B−CASカードの元々の機能がある点にも着目されて、大きな販売額が得られたのだろうということなら、実質的違法性も大きいといえるんでしょうね。

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2013年02月19日

ファームウエアの改変と商標権侵害罪

名古屋高裁平成25年1月29日刑事第2部判決・平成24年(う)第125号は、任天堂のゲーム機「Wii」のファームウェア(ROM等に半固定的に書き込まれた状態で機器に組み込まれているソフトウェア)を改変した後のゲーム機を、「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付したまま販売した被告人の行為について、商標権侵害罪の成立を認めました。
以下は判旨の一部です。


「(3)以上の事実関係によれば,本件Wiiは,ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが,被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため,真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。
 ところで,ファームウエアは,あくまでソフトウエアであり,ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし,ファームウエアは,前記(2)ア(a)及び(b)のとおり,ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので,かつ,Wiiにおいて,ファームウエアが担う機能について,性質上,メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は,多くの電子機器商品において公知に属する。)から,ファームウエアは,ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると,その改変は,それ自体において,商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。
 そして,このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は,もはやいかなる意味においても,付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また,商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては,ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから,需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。
 したがって,いずれの意味においても,前記(1)の法理における実質的違法性が阻却される根拠はないといわざるを得ず,被告人の原判示第1及び第2の各行為が任天堂の商標権を侵害するものであることは明らかである。」


「ファームウェアが改変された後のゲーム機」はもはや「任天堂Wiiの本質的部分が改変され同一性が失われた、Wiiとは別個の製品」であるから、そのような「任天堂の製品ではない製品」に「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付して販売することは任天堂の商標権を侵害する、且つ、そのような行為は任天堂の商標権の出所表示機能と品質保証機能を損なうものであるから実質的違法性が阻却されることもない、というロジックです(東京地裁平成4年5月27日判決・昭和63年(ワ)第1607号(Nintendo事件)とほぼ同じです)。
詳しい解説は
こちらにあるので、以下はこの判決についての私の感想です。


1 ファームウエアの改変は単なる修理改造ではなく「新たな製造」であるから、そのような「新たに製造した製品」に他社の商標(この場合は任天堂の商標)を付して販売することは商標権侵害となるのですが、それと同時に、そのような「新たに製造した製品」を特許権者の許諾なく販売することはその製品をカバーする多数の特許権の侵害にもなりますね(参考:最高裁平成19年11月8日第一小法廷判決・平成18年(受)第826号(インクタンク事件))。この場合の多数の特許権は、任天堂のものもあるでしょうし、任天堂がライセンスを受けていた他社のものもあるでしょう。
検察官としては、商標権侵害罪(及び著作権侵害罪)として立件するだけでなく特許侵害罪なども含めて立件できたと思いますが、おそらく特許侵害罪については数も多いし主張立証が大変だということでスルーしたのでしょうね。

2 民事事件では、商標権侵害訴訟の控訴審は知財高裁ではなく各地の高裁が管轄を有しており、特許侵害訴訟の控訴審は知財高裁の専属管轄です。
これに対して、刑事事件では、おそらく(刑事訴訟法はほとんど知りません)商標侵害罪だけでなく特許侵害罪についても各地の高裁が管轄を持つのでしょう。
しかし、刑事事件のような重大な事件では、商標権侵害についても知財高裁の専属管轄とすることも考えてよいのではと感じました。他方、刑事事件だからこそ被告人の移送などが大変なので知財高裁を専属管轄にするなどとんでもないということなのかもしれませんが。

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2012年11月17日

Chikirinさんに学ぶ?商標出願の活用法

Chikirinの日記で有名なChikirinさん(今まで顔も本名も経歴も秘密にしていた)が、第41類の役務「知識の教授,セミナーの企画・・・」について「Chikirin」という商標を本名で(まぁ当たり前ですが)出願して登録させていたらしい(商標登録第5521211号)というのが話題になっていますね(例えばこちら)。
最近、伊賀泰代(元マッキンゼーの採用マネジャー)という本名で「採用基準」という本を出版されていて、ちょうど商標出願が登録される時期(通常は出願から約半年で登録されます)がこの本が出版される少し前のタイミングだったので、当初から商標登録をステマに使おうと仕組んだのではないかという見方が有力のようです(ステマというのは正確ではないですが、自分の本名を、自分ではばらさないで特許庁により公開される商標登録を通して世間で自然にバレるように仕向けて話題作りを狙ったという点でステマ的と言えます)。
私は、商標出願をこのようにステマ目的を含めて行うことは特に問題ないと思います。ステマだけが100%の目的(商標を使用する予定が全くない)なら商標法の建前に反していると一応は言えますが、「将来的に使用する可能性もある」のなら問題はないといえます。
むしろ、さすがChikirinさんとも思いますが、ステマではないかと疑われてしまった点からは戦略的にどうだったか微妙ともいえるでしょうね。
とにかく商標出願は、所詮、ビジネスのツールですので、ステマだろうが何だろうがうまく使っていくという発想は大切ではないでしょうか。
私の経験でも、新しいキャラクタの絵(著作物)を制作したけども自分が最初に創作したと証明する手段が欲しいと相談されたとき、(将来的に使用する可能性もあるということで)商標出願を勧めたことがあります。商標登録になれば、キャラクタも自分の氏名も出願日も特許庁が商標公報に掲載しネットでも公開しますので、自分がそのキャラクタを最初に創作したことを簡単に証明できます。他に、文化庁への著作権登録とか公証人役場などの方法もありますが、商標出願は手続的にも証明の方法としても一番お手軽と思います。
ビジネスモデル特許出願にしても、他の分野と異なって特許率は10%以下と低いですが、仮に特許になる可能性が低くても、特にIT分野はスピード勝負なので話題作りを先行させるなどの狙いから調査が粗い段階でも急いで出願することは少なくないと思います。

posted by mkuji at 23:58| Comment(2) | TrackBack(0) | 商標

2012年01月15日

日本郵便の「ゆうメール」が商標権侵害で使用差止、日本郵便の方策は

ゆうメール:日本郵便、商標権訴訟で敗訴 東京地裁 2012年1月12日 毎日jp

 郵便事業会社(日本郵便)の「ゆうメール」と同じ名称でダイレクトメール(DM)サービスを展開する札幌市のDM企画・発送代行会社「札幌メールサービス」が商標権を侵害されたとして、日本郵便に広告物配布での名称の使用差し止めなどを求めた訴訟で、東京地裁(阿部正幸裁判長)は12日、請求を認める判決を言い渡した。日本郵便は即日控訴した。
 
 日本郵便の「ゆうメール」の10年度の引受数は約26億2158万通に上る。メール社は日本郵便がサービスを始める前の04年6月、「広告物の各戸配布」などのサービスに「ゆうメール」という名称を商標登録していた。
 
 日本郵便は「広告物に限らず、荷物も配達している」として、メール社が商標権を持つサービスとは内容が異なるので侵害に当たらないと主張。だが判決は、日本郵便が商品カタログやDMなどの広告物配送にゆうメールを利用できると宣伝しているなどとして、「サービスは類似している」と退けた。
 
 そのうえで判決は、旧郵政公社が05年1月、メール社の登録が既にあることを理由に商標登録出願を拒絶され、サービス分野を「鉄道や車両による輸送」などに変えて登録を受けた経緯を検討。「郵政公社から業務を引き継いだ日本郵便があえて『ゆうメール』の商標を使用している」と批判した。

本件についてはまだ判決書を見ていない(よって事実関係については私なりの「予想」がかなり入っています)のですが、現時点での感想・コメントを書いておきたいと思います。

札幌メールサービスは第35類の「各戸に対する広告物の配布」などについて「ゆうメール」の商標登録(第4781631号)を取得していた。これに対して、日本郵便側(郵便事業株式会社)は第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」などについて商標登録(第4820232号)を取得していた。このような状況の下で、「日本郵便が『ゆうメール』の商標を使用して広告物の配達サービスを行うこと」が札幌メールサービスの商標権を侵害するかどうかが問題になったものです。

これは、根本的には、「広告印刷物を各戸へ配布・配達する」という現実の1つのサービスが、商標法上は、第35類の「各戸に対する広告物の配布」と第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」との2つの役務に関連・該当してしまう(追記:第35類の「パンの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にも該当します)ということから、問題が生じたものです。しかし、このようなことは、商標実務上では珍しいことではないのですね。例えば、自家製の焼き立てパンをその場で販売・飲食させる場合は、第30類の「パン(の製造販売)」と第43類の「パンなどの飲食物の提供」の2つに該当することになるので、この2つの商品・役務について商標登録しておかないと、十分な権利保護ができません。

以上を前提に、考えたことを書いておきます。

1.まず、札幌メールサービスが商標登録した第35類の「各戸に対する広告物の配布」には、「広告物の発送」と「広告物の配達」が含まれると思います。そして、後者の「広告物の配達(外注を含む)」は、日本郵便側が商標権を取得している第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」にも該当する行為となりますので、札幌メールサービスが顧客との契約の中で「広告物の配達(外注を含む)」をも請け負ってそれを履行していたとすれば、日本郵便側の商標権を侵害しているのではないかという問題も生じると思います(もしそうなら、日本郵便側は商標権侵害を理由とする反訴を提起してクロスライセンスなどに持ち込むことができます)。
しかし、札幌メールサービスは、第35類の「各戸に対する広告物の配布」についての商標権を既に取得しており、この第35類の「各戸に対する広告物の配布」には「広告物の配達」も含まれるとすれば、札幌メールサービスの行為は自らの商標権により適法性が確保されているということになるのでしょう(商標権は、特許権のような単なる禁止権ではなく、専用権なので)。

2.次に、本件差止め判決を受けた日本郵便側の採り得る方策ですが、日本郵便は、少なくとも第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」について「ゆうメール」の商標登録を取得しているのだから、「ゆうメール」の紹介パンフレット中から「広告物の配布もできます」という表示を全て外すようにすれば、商標権侵害はなくなり、「ゆうメール」の使用が可能となるのではないでしょうか。
つまり、日本郵便は、「印刷物の配達を依頼されるときその印刷物の中身が広告かどうかは一切関知しない、印刷物その他の物品の配達を行うだけだ」という立場を表明しておけば、その行為は第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」についての商標権の範囲内である(第35類の「各戸に対する広告物の配布」とは関係ない)として適法性を獲得できるのではないでしょうか。
これは日本郵便側が直ぐにでも取り得る対策です(ただ、そうすると営業上のデメリットが大きいのでなかなか踏み切れないでしょうね)。

3.また日本郵便側の方策としては、札幌メールサービスの第35類の「各戸に対する広告物の配布」についての「ゆうメール」の商標登録を取消又は無効にすることも考えられます。
調べたところ、日本郵便は、第35類の「各戸に対する広告物の配布」などについて「ゆうメール」を商標出願中です(商願2010−046830 現在、拒絶理由通知に対して補正書・意見書などを提出している段階)ので、その気でいると思います(追記:実際に既に無効審判請求をしているようですね)。
まず、もし札幌メールサービスが「各戸に対する広告物の発送」を(直近3年以上)行っていないのなら、不使用取消審判請求(商標法50条)で商標登録の取消が可能です(実際上、この可能性はないでしょうが)。

また、商標登録の無効審判請求(商標法46条)も考えられます。無効理由としては、例えば商標法4条1項7号の公序良俗違反(日本郵便の「ゆうメール」は公益的な事業なのでそれと混同する名称の使用は公序良俗に反する)が考えられますが、日本郵便は国が株を持っているとしても民間企業なので、この理由は少し苦しいかなと思います。

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2010年04月01日

「地名」の商標登録(「シダモ」はコーヒーの銘柄であり商標)



毎日jp 2010/3/29 知財高裁:「コーヒー豆名は商標」エチオピア政府が勝訴



 エチオピア産のコーヒー豆「シダモ」「イルガッチェフェ」は商標か、単なる産地名かが争われた訴訟の判決で、1審の知財高裁は29日、エチオピア政府の商標登録を無効とした特許庁の審決を取り消した。中野哲弘裁判長は「我が国では地名ではなく、銘柄として認識されている」として商標と認めた。(中略)


 判決は「取引業者や消費者は二つの名称が高品質のコーヒー豆やコーヒーを指すと認識しており、商標として認められる」と判断。一方で、協会が「エチオピア政府は、シダモ地方やイルガッチェフェ地域以外のエチオピア産コーヒー豆にも名称を使用する可能性がある」と主張した点については「誤認を生じさせる恐れがある」として、その場合は商標は認められないと指摘した。



日本の地名か外国の地名かを問わず「日本国内の需要者(消費者と取引業者)により地名と認識されている文字」(ある程度有名な地名)は地名として識別力が認められないので登録が拒絶されます。例えば、ワインについて「ブルゴーニュ」は商標登録できません。


このような「日本国内の需要者により地名と認識されている文字」を登録しようとすれば、(1)他の識別力のある文字や図形と合体させて出願する、(2)「地名+普通名称」などの形で有名ならば地域団体商標として組合名義で出願する、などの方法が考えられます。


逆に、「日本国内の需要者が地名と認識していない文字」(有名でない地名)は、商標登録される可能性はあります。今回の「シダモ」はこの例でしょう。


中国でも「青森」が中国企業により商標登録されたことが話題になったことがありましたが、これは「青森は、中国国内の公衆(需要者)によく知られた外国地名ではない」と認定(誤解?)されて登録が認められたものでしょう(この点、日本もそれほど事情は違いません。なお、中国での「青森」の商標登録は、その後の青森県などの異議により、「青森は、公衆によく知られた日本の地名である」として登録が無効とされました)。


今回の「シダモ」にしても、もし、日本の民間企業がエチオピア政府に無断で「シダモ」を「コーヒー,コーヒー豆」について商標登録したら、どうなっていたでしょうか? おそらく、エチオピア政府は「シダモはエチオピアの地名なのに勝手に商標登録するのはおかしい」と主張して無効審判請求をしたのではないでしょうか。


このように、地名についての商標の判断は、坂本龍馬などの「歴史上の人物」の場合と同様に、「誰が」出願しているのかが問題になることが少なくないと思います(「歴史上の人物」を商標出願する場合は、その出願人が町おこしの事業主体などの公益団体(自治体や商工会など)であれば登録が認められ易い方向に、そうでなければ町おこしを阻害する恐れがあるから公序良俗に反するとして拒絶され易い方向に行くと思います)。


なお、仮に「有名でない地名を示す文字」に商標登録が認められたとしても、その文字を通常の地名として使用することは誰にとっても自由であり、商標権の効力は及びません(商標法26条。中国にも同様の規定があります)。


また、有名な産地名を偽装した商品を出荷した場合、有名な産地名は商標登録できないので商標権侵害はないですが、不正競争行為として民事責任・刑事責任を追及されます(不正競争防止法2条1項13号。中国にも同様の法律があります)。


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2010年01月26日

歴史上の人物「中原中也」の商標出願、山口市にも拒絶理由通知



読売オンライン 2010/1/26 吉田松陰、高杉晋作 歴史上人物の商標「ダメ」



 特許庁は、山口市が出願した同市出身の詩人、中原中也の名前の商標登録を認めない一方、東京都内の会社による幕末の志士、吉田松陰や高杉晋作、桂小五郎の名の商標登録を取り消すことを決定した。


 歴史上の人物の名前に関して、ゆかりのない企業から商標登録の出願が相次ぎ、出身地などとトラブルが生じたことから、特許庁は昨年10月、審査基準を策定。人物の著名性や名前の利用状況、出願目的などを考慮したうえで、公共の利益を損なうおそれがある場合や利益を独占する意図に基づく場合には登録を認めないことにした。



この記事によると、山口市は昨年2月、「中也の名を文化的資源として保護する」という名目で商標出願しましたが、特許庁は「山口市の独占的な使用が、全国の観光振興策などの妨げになる」という理由で認めないことにした、ということのようです。


山口市は単なる私企業ではなく自治体・公益団体なので認めて良いのではという気もしますが、特許庁の考えは、中原中也を文化観光資源として活用している自治体は山口市だけでなく全国に散在しているので、山口市に独占権を認めると他の自治体の観光開発などに悪影響がある(よって公序良俗に反する恐れがある。商標法4条1項7号)ということでしょうか。


IPDLで調べてみると、「中原中也」「中也」についてそれぞれ文房具、ビール、酒類、美術品展示会などの複数の商品・役務について山口市が商標出願しています(商願2009-12852と商願2009-12853)。今は拒絶理由通知が出たという段階であり、拒絶が確定した訳ではないです(最終的に登録される可能性もある)。


追記: 後で他の記事(SANSPO.COM「中原中也」商標登録ダメ!山口市は歓迎)を見ますと、「・・・特許庁は、不適切な独占使用を防ぐ目的で昨年10月に改訂した歴史上の人物名に関する基準を適用。今月8日、「山口市の独占使用は、全国各地の観光振興などの公益的な施策を阻害する恐れがある」などとする出願拒絶理由通知書を送付した。 これに対し、市は「中也が『登録の認められない歴史上の人物』というお墨付きを得た。悪質な業者や個人の独占使用も防ぐことにつながる判断」と“歓迎”。通知に対する反対意見を提出せず、このまま確定を待つことにした。」とあります。


まぁ、それで良いのかも知れませんが、自治体などの公益団体の場合は、他の自治体が使用しているとしても、例えば他の自治体などの公益団体には無償でライセンスする(民間企業には有償でライセンスする)という上申書や意見書を提出することなどにより、商標登録が認められる可能性はあるのでは、と思います。「通知に対する反対意見を提出せず、このまま確定を待つことにした」というのは、さすがお役所、対応が上品だなという気もします^^; 


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posted by mkuji at 10:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 商標