日経エレクトロニクス2010/1/11号に、パイオニアによるナビタイム提訴に関する記事「スマートフォン・ナビ死角 パイオニア特許訴訟の余波」が出ていました。
参考:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091112/177552/
この記事によると、2009年11〜12月に、パイオニアが自社のカーナビ特許を侵害しているとして、自動車での利用に向けたケータイナビ・アプリケーション「EZ助手席ナビ」を提供しているナビタイムを日本の東京地裁に提訴、PND(簡易型カーナビ)メーカーのGarmin社を米国際貿易委員会(ITC)及びドイツの地方裁判所に提訴した、ということです。
そして、この記事によると、国内の電機メーカーは、特にナビタイムへの訴訟に注目しているそうです。それは、もしナビタイムの特許侵害が認められたら、日本の電機メーカーが1990年代から出願して大量に保有しているカーナビ特許が、これから市場が立ち上がるiPhoneなどのスマートフォン向けナビ・サービスに適用できることになるから、ということです。
ナビタイムへの訴訟では、パイオニアは、特許第2891794号と特許第2891795号の2つの特許の侵害を主張しているようです。末尾に、これらの請求項1を引用しておきます。
いずれも、1991年4月の出願で、カーナビの基本特許の一つとされているようです。
特許第2891794号は、過去に入力した複数の目的地の座標データを記録しておいて、ユーザーが目的地を設定するとき、過去に設定した複数の目的地の座標データを利用することにより、目的地の設定を容易化する、というものです。
特許第2891795号は、ユーザー地点登録を簡単な操作でできるようにする?というもののようです。
日経ELの記事によると、この2つの特許の侵害の成否に関しては、2つの特許の各クレーム(特許請求の範囲)の末尾の「車載ナビゲーション装置」の「車載」の解釈が最大の争点になっているようです(両社の交渉の中で論争があったのかもしれませんね)。
つまり、「車載」というためには、「自動車に組み込まれていること」が必要なのか、「自動車で利用すること」だけでよいのか、ということだそうです(前者の解釈ならケータイやスマートフォンは含まれない、後者の解釈ならケータイやスマートフォンも含まれる、ことになります)。
この記事では、ある弁理士さんの見解として、広辞苑では「車載」とは「車に積みのせること」とあること及び特許明細書では「車に取り付けられていなくてはならない」という趣旨の記載はないことなどを理由に、携帯電話やPNDも権利範囲に含まれる(つまり「車載」に該当する)という主張が紹介されていました。
この「車載」の解釈などについて、私の意見を少し書いておきます。
解釈の可能性としては、「車載」と言えるためには、
(a)自動車に組み込まれていること(外付け固定や取り外し可能に外付けされている場合も含む)が必要(携帯端末はダメ)、
(b)自動車に組み込まれていることまでは必要ない(携帯端末でもよい)が、少なくとも自動車の運行支援のためにも利用することが予定されていること(歩行者ナビ用に適しているだけでなくカーナビ用にも適した仕様に設計されていること)が必要、
(c)自動車で利用できるものであれば足りる(歩行者ナビ用に設計されたものでもカーナビにも事実上利用できるものであればよい)、
の3つが有り得ると思います。
ナビタイムの「EZ助手席ナビ」は少なくとも「自動車の助手席で利用するのに適した仕様」で設計されているのでしょう。
したがって、パイオニアとしては、
「車載」は上記(b)の意味だとする文言解釈を主張する、
「車載」の文言解釈としては上記(a)だとしても、「自動車(の助手席)用に設計されている製品」は上記(a)の「車載型(=自動車組み込み型)の装置」と均等だという均等論を主張する、
どちらも可能性はあると思います。
それでは、上記(c)は文言解釈として妥当でしょうか。
一般にメーカーや小売店は自社の製品が販売後にユーザーにどのようなシーンでどのように利用されるかを完全に予想したりコントロールしたりすることはできないので、もし「車載」に関して上記(c)の解釈をとると、メーカーや小売店は、「歩行者ナビ用」として設計・製造・販売した製品(「自動車用」とは想定していなかった製品)について、ユーザーが購入後にたまたま「カーナビ用」に利用したというだけで(追記:そのようなユーザーの使い方を予想しないまま製造販売したメーカーの行為が販売後のユーザー側の事情により)侵害とされてしまうことになり(追記:メーカーに)酷だと思われます。したがって、「車載」の文言に関して上記(c)と解することは妥当でないのではと思います。
同様に、文言解釈として上記(a)又は(b)を採用したとしても「歩行者用の製品」は「車載型の装置」と均等だという主張も妥当でないように思います(理由付けとしては、均等の5要件の一つである意識的除外などでしょうか)。
以下、2つの特許の各請求項1の引用です。
特許第2891794号
【請求項1】 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって、目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出す読出し手段と、読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。
特許第2891795号
【請求項1】 地図を表示器に表示する車載ナビゲ―ション装置であって、複数のサ―ビス施設を示す表示デ―タ及び各サ―ビス施設の存在地点を示す地点座標デ―タを予め記憶した第1記憶手段と、前記第1記憶手段から前記表示デ―タを読み出してその前記表示デ―タに応じて前記複数のサ―ビス施設を前記表示器に表示させる手段と、前記表示器に表示された複数のサ―ビス施設のうちの1のサ―ビス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサ―ビス施設に対応する地点座標デ―タを前記第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標デ―タを記憶する第2記憶手段と、前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標デ―タを読み出してその地点座標デ―タが示す地図上の地点を所定のパタ―ンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。
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