2010年05月16日

産業構造審議会の資料から 「差止請求権の行使制限」の問題

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料(33頁以下)では、「差止請求権の行使制限」の問題にも触れています。
すなわち、パテントトロールや大学などの非実施の企業体(NPE(non-practicing entities))からの差止めを認める必要はあるのかとか、製品全体への寄与度が小さい特許で製品全体が差止められるのは妥当なのかなどの問題意識から、差止請求権の行使制限が必要であり、その根拠として、現在の民法1条3項に基づく権利濫用の抗弁を認めるだけでよいか、特許法に特別の規定を設けるべきか、が議論されています。
また、この資料(37頁)では、もしこの差止め請求権の行使制限を認めた場合の問題として、差止請求権の行使制限をすると侵害者側がライセンス契約を締結するインセンティブが低くなってライセンス交渉が成立し難くなる(いわゆる「侵害のし得」が増える)などの点が指摘されています。
私の意見ですが、ごく一部に著作権侵害の写真が含まれている写真集については差止め請求は権利濫用として認められないとし損害賠償のみを認めた著作権の裁判例があります(この資料にも載っている那覇地判平成20年9月24日判時2042・95)し、原告が実施していない場合は差止めを認めないと回復不可能な損害が発生することは通常はないと思われるので、一定の条件で特許権に基づく差止請求権の行使を制限し損害賠償のみを認めるということはあってよいと思います。
ただ、差止請求権の行使を制限する場合の弊害として、上記のように「侵害者側がライセンス契約を締結するインセンティブが低くなってライセンス交渉が成立し難くなる」などの問題点も指摘されていますので、差止請求権の行使制限をすることとセットでの対策が必要と思います。
この対策として、この資料(37頁)では、「差止制限の結果として侵害行為が継続することにより生じる損害について、侵害者から特許権者への金銭的補填措置の必要」があるのではないかという議論がされています。
この資料(37頁)の言う「金銭的補填措置」の内容ははっきりしませんが、この資料の同じ頁で米国の懲罰的賠償(3倍賠償)制度による制裁的機能が触れられていることからみて、この懲罰的損害賠償制度に類似する制度を導入することを考えているのではと思います。
つまり、例えば、権利者から警告がありライセンス契約交渉を求められたにも拘わらず侵害者側がライセンス契約交渉に入らなかったか誠実に対応しなかったなどの事情を、裁判官が損害賠償額を算定するときに参酌できるという規定を新設することなどが考えられます。そうすれば、侵害者側は、損害賠償額が跳ね上がるのを防ぐため、権利者からの求めに応じて誠実にラインス交渉に対応するインセンティブが働くようになると考えられます(これは、非実施企業だけでなく一般の中小企業にとっても助かることではないかと思います)。
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2010年05月14日

産業構造審議会の資料から 「ダブルトラック」の解決の方向性

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料(21頁以下)は、ダブルトラックの問題解決の方向性として、次の3つの案を提示しています。
A案:侵害訴訟ルートと無効審判ルートの2つのルートの並存、つまり現状を容認する案
B案:侵害訴訟における無効の抗弁(特許法第104条の3)の在り方を見直して、特許庁の無効審判ルートをメインとし、裁判所の有効性判断を冒認出願などに制限しようとする案
C案:特許庁の無効審判ルートを制限し、特許の有効性判断を裁判所の侵害訴訟ルートに集約しようとする案
この資料には上記3つの案の理由や内容についていろいろ書かれてましたが、以下に私の意見を書いておきます。
まず、特許の有効性判断についてのダブルトラック(裁判所での侵害訴訟ルートと特許庁での無効審判ルートの並存)を認めるかどうかですが、これは、両当事者の公平性を第1に考えるべきだと思います。
ダブルトラックがあると、原告から見ると2つのルートの中の一方で勝っても他方で負ければ最終的に負けてしまう、被告から見ると2つのルートの中の一方で負けても他方で勝てば最終的に勝てるということで、とても両当事者に公平な制度とは思えません(甲と乙がジャンケンして、甲は2回とも勝たなければ負け、乙は2回の中の1回だけ勝てば勝ち、というのでは、到底、公平とは言えないですが、それと同じと思います)。
よって、上記のA案は妥当でない(B案かC案が妥当)と思います。
次に、ダブルトラックを解消させるべきとして、特許庁ルートと裁判所ルートのどちらをメインにすべきか(B案かC案か)ですが、2000年4月のキルビー最高裁判決から既に10年以上も裁判所で有効性判断に関する実務が積み重ねられていることを考えると、それを無にするのはもったいないと思います。
また、特許庁関係者や弁理士にはB案の支持が多いのかなと思いますが、B案によるときは、特許庁の審決が出ても審決取消訴訟になれば結局、裁判所(知財高裁)の有効性判断が必要になります(さらに、審決が取り消されたらまた特許庁で審判が再開されます)ので、一つの侵害訴訟に関して特許庁と裁判所を何度も行き来しなければならず、当事者(ユーザー)の立場からはすごく効率が悪いと思います。結局、このB案では、キルビー判決前の状態に戻るだけです。(※一部加筆修正しました)
よって、B案でなく、裁判所ルートをメインとするC案が妥当というのが私の意見です。
この資料では、C案の内容は、次のようになっています。

侵害訴訟ルートに紛争処理を集約させ、侵害訴訟の係属後は、被告による無効審判請求、特許権者による訂正審判請求を制限することにより、当該紛争処理のための有効性判断を侵害訴訟のみで行う


このC案は、侵害訴訟が係属している間は当事者による特許庁への無効審判請求および訂正審判請求を認めない、というものです。
よって、このC案で行くと、当事者は、侵害訴訟の中で、仮想的に無効審判請求や訂正請求・訂正審判請求を行っているようなつもりになって、無効の抗弁や訂正の再抗弁を出していく、ということになるのでしょう。私はそれで特に問題ないと思います。
なお、このC案によるときは、当事者だけに制限を課しても、当事者のダミーが第三者として特許庁に無効審判請求をする可能性があるので、それへの対策が必要と思います。
つまり、例えば、侵害訴訟が係属中に、第三者から特許庁に無効審判請求が出された場合は、その訴訟の判決が確定するまで手続を中止することなどが必要ではないかと思います。
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2010年05月12日

産業構造審議会の資料から見た最近の特許侵害訴訟の傾向

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料の中にあった、最近の特許侵害訴訟などの傾向についてメモしておきます。
1. 特許侵害訴訟の地裁判決数は、2001年の102件をピークに減少しており、2008年は37件。
2. この2008年の地裁判決数の37件の中、原告(特許権者)敗訴の判決は78%、ここ数年の原告敗訴判決の平均は約80%とほぼ一定。
3. 2000年〜2008年の原告敗訴(一部勝訴を含む)の地裁判決の中では、特許無効を理由として含むものは約40%、非侵害のみを理由とするものは約60%。
 より正確には、原告敗訴(一部勝訴を含む)の地裁判決の中、特許無効のみを理由とするものは25%、特許無効と非侵害の両方を理由とするものは13%、非侵害のみを理由とするものは62%。
 ※キルビー最高裁判決が出されたのは2000年4月、無効の抗弁に関する特許法104条の3が施行されたのは2005年。
4. 全特許出願件数における中小企業による出願件数の割合は、2004年は12.2%、2006年は11.2%、2008年は10.0%、と減少傾向。
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2010年04月14日

ライセンシーにより販売された部品の特許の「消尽」と完成品特許(又は方法特許)の侵害の成否

米Quanta事件最高裁判決などの関係で、ある部品(部材)がその部品特許(部材特許)のみのライセンシーにより販売されたとき、その部品(部材)についての特許が「消尽」するのは当然とした上で、その部品(部材)を購入した第三者が、その部品を必須とする完成品の販売(又はその部材を必須の素材や道具とする方法の実施)を行った場合に、ライセンサーの完成品特許(又は方法特許)の侵害となるかどうか(その完成品特許又は方法特許も消尽するのか否か)、がいろいろ議論されています。

すなわち、「完成品特許や方法特許の間接侵害になるような、その完成品や方法に用いられる物(間接侵害品)」が許諾を得て販売された場合に、つまり、「もし他人が無許諾でそれを売ったら間接侵害となるような部品や方法に用いる部材」を、特許権者や許諾を受けた者が販売した場合に、完成品特許や方法特許までもが消尽するのか? が問題にされています。以下は日本法の下での議論です(米国でもほぼ同じ結論ですが)。

次の事例で考えて見ます。
特許クレームが次の3つとします。
請求項1 ○○から成る部品a(又は部材b)
請求項2 部品aを必須とする(部品aのみが特徴となっている)完成品A
請求項3 方法の実施のために部材bを必須の道具とする(部材bのみが特徴となっている)方法B

そして、特許権者(ライセンサー)が、請求項1の部品a(又は部材b)の特許のみを、他人にライセンスしていた場合において、その他人(ライセンシー)から部品a(又は部材b)を譲り受けた第三者が、その部品a(又は部材b)を使用して完成品Aを製造したり方法Bを使用したとき、特許権者は、その第三者に対して「完成品特許又は方法特許の侵害」として差止め等の請求ができるか?

つまり、第三者が、請求項1の部品a(又は部材b)の特許のみの許諾を受けたライセンシーから、部品a(又は部材b)を譲り受けたとき、その段階で、請求項1の部品a(又は部材b)の特許が「国内消尽」するだけでなく、請求項2の完成品の特許や請求項3の方法発明の特許も「国内消尽」するのかどうか? という問題です。
これについては、間接侵害品(完成品特許における部品a、又は、方法特許における方法に使用する道具である部材b)が実質的に完成品特許や方法特許の本体部分となっているのなら、特許権者又はライセンシーによる間接侵害品(部品a又は部材b)の販売により完成品特許や方法特許も消尽する、とする立場が日本でも有力です(部品(部材)と完成品(方法)とは本体部分が同一なのだから、それぞれについてライセンス料をとることは二重取りになる等の理由。「パテント」2009年11号第112頁等参照)。
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2010年01月12日

パイオニアがナビタイムをカーナビ特許侵害で提訴



日経エレクトロニクス2010/1/11号に、パイオニアによるナビタイム提訴に関する記事「スマートフォン・ナビ死角 パイオニア特許訴訟の余波」が出ていました。


参考:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091112/177552/


この記事によると、2009年11〜12月に、パイオニアが自社のカーナビ特許を侵害しているとして、自動車での利用に向けたケータイナビ・アプリケーション「EZ助手席ナビ」を提供しているナビタイムを日本の東京地裁に提訴、PND(簡易型カーナビ)メーカーのGarmin社を米国際貿易委員会(ITC)及びドイツの地方裁判所に提訴した、ということです。


そして、この記事によると、国内の電機メーカーは、特にナビタイムへの訴訟に注目しているそうです。それは、もしナビタイムの特許侵害が認められたら、日本の電機メーカーが1990年代から出願して大量に保有しているカーナビ特許が、これから市場が立ち上がるiPhoneなどのスマートフォン向けナビ・サービスに適用できることになるから、ということです。


ナビタイムへの訴訟では、パイオニアは、特許第2891794号と特許第2891795号の2つの特許の侵害を主張しているようです。末尾に、これらの請求項1を引用しておきます。


いずれも、1991年4月の出願で、カーナビの基本特許の一つとされているようです。


特許第2891794号は、過去に入力した複数の目的地の座標データを記録しておいて、ユーザーが目的地を設定するとき、過去に設定した複数の目的地の座標データを利用することにより、目的地の設定を容易化する、というものです。


特許第2891795号は、ユーザー地点登録を簡単な操作でできるようにする?というもののようです。


日経ELの記事によると、この2つの特許の侵害の成否に関しては、2つの特許の各クレーム(特許請求の範囲)の末尾の「車載ナビゲーション装置」の「車載」の解釈が最大の争点になっているようです(両社の交渉の中で論争があったのかもしれませんね)。


つまり、「車載」というためには、「自動車に組み込まれていること」が必要なのか、「自動車で利用すること」だけでよいのか、ということだそうです(前者の解釈ならケータイやスマートフォンは含まれない、後者の解釈ならケータイやスマートフォンも含まれる、ことになります)。


この記事では、ある弁理士さんの見解として、広辞苑では「車載」とは「車に積みのせること」とあること及び特許明細書では「車に取り付けられていなくてはならない」という趣旨の記載はないことなどを理由に、携帯電話やPNDも権利範囲に含まれる(つまり「車載」に該当する)という主張が紹介されていました。


この「車載」の解釈などについて、私の意見を少し書いておきます。


解釈の可能性としては、「車載」と言えるためには、


(a)自動車に組み込まれていること(外付け固定や取り外し可能に外付けされている場合も含む)が必要(携帯端末はダメ)、


(b)自動車に組み込まれていることまでは必要ない(携帯端末でもよい)が、少なくとも自動車の運行支援のためにも利用することが予定されていること(歩行者ナビ用に適しているだけでなくカーナビ用にも適した仕様に設計されていること)が必要、


(c)自動車で利用できるものであれば足りる(歩行者ナビ用に設計されたものでもカーナビにも事実上利用できるものであればよい)、


の3つが有り得ると思います。


ナビタイムの「EZ助手席ナビ」は少なくとも「自動車の助手席で利用するのに適した仕様」で設計されているのでしょう。


したがって、パイオニアとしては、


「車載」は上記(b)の意味だとする文言解釈を主張する、


「車載」の文言解釈としては上記(a)だとしても、「自動車(の助手席)用に設計されている製品」は上記(a)の「車載型(=自動車組み込み型)の装置」と均等だという均等論を主張する、


どちらも可能性はあると思います。


それでは、上記(c)は文言解釈として妥当でしょうか。


一般にメーカーや小売店は自社の製品が販売後にユーザーにどのようなシーンでどのように利用されるかを完全に予想したりコントロールしたりすることはできないので、もし「車載」に関して上記(c)の解釈をとると、メーカーや小売店は、「歩行者ナビ用」として設計・製造・販売した製品(「自動車用」とは想定していなかった製品)について、ユーザーが購入後にたまたま「カーナビ用」に利用したというだけで(追記:そのようなユーザーの使い方を予想しないまま製造販売したメーカーの行為が販売後のユーザー側の事情により)侵害とされてしまうことになり(追記:メーカーに)酷だと思われます。したがって、「車載」の文言に関して上記(c)と解することは妥当でないのではと思います。


同様に、文言解釈として上記(a)又は(b)を採用したとしても「歩行者用の製品」は「車載型の装置」と均等だという主張も妥当でないように思います(理由付けとしては、均等の5要件の一つである意識的除外などでしょうか)。


以下、2つの特許の各請求項1の引用です。


特許第2891794号


【請求項1】 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって、目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出す読出し手段と、読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。


特許第2891795号


【請求項1】 地図を表示器に表示する車載ナビゲ―ション装置であって、複数のサ―ビス施設を示す表示デ―タ及び各サ―ビス施設の存在地点を示す地点座標デ―タを予め記憶した第1記憶手段と、前記第1記憶手段から前記表示デ―タを読み出してその前記表示デ―タに応じて前記複数のサ―ビス施設を前記表示器に表示させる手段と、前記表示器に表示された複数のサ―ビス施設のうちの1のサ―ビス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサ―ビス施設に対応する地点座標デ―タを前記第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標デ―タを記憶する第2記憶手段と、前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標デ―タを読み出してその地点座標デ―タが示す地図上の地点を所定のパタ―ンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。


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2009年12月28日

「下請けが発注者の手足・一機関として製造する場合は発注者自身の実施だと評価すべき」という論理



ライセンス契約の実施権者(第三者への再実施許諾権は与えられていない実施権者)または先使用権者が、許諾対象製品を下請けに製造させた場合、その下請けによる製造が「下請け自身の実施」だとすればその下請けの行為は特許侵害になるが、下請け業者は発注者の手足に過ぎず発注者の一機関としての行為だとすると「実施」しているのは発注者(=実施権者または先使用権者)なので下請けの行為は特許侵害とはならないとされている(昭和44年10月17日最高裁判決。間接正犯と似た論理だろう)。


そして、「下請け」には、下請け業者が独自に実施していると評価すべき場合と、下請け業者は発注者の手足で一機関として行っていると評価すべき場合との2つがあるとされている。


下請けの製造が発注者の手足すなわち一機関としての行為かどうかは、原料の購入、製品の販売、品質などについての発注者の指揮監督の強さ、全製品が発注者に引取られるか、などが基準となるとされている。


ところで、上記の「下請けが発注者の手足・一機関として製造する場合は発注者自身の実施だと評価すべき」という論理は、実際の製造を行っている者が実施権者や先使用権者ではない場合にその行為者の特許侵害を否定する方向に働くものだが、この論理は両刃の剣で、特許侵害を肯定する方向に働く場合もあると思う。


それは、上記の事例と逆に、実際に製造を行っている下請けが実施権者(再実施許諾権なしの実施権者)または先使用権者だが、発注者は何らの権利をも持っていない、という場合だ。


この場合も、もし下請けが発注者の単なる手足で一機関として行っているだけならば、上記の論理を貫徹すれば、製造=実施しているのは下請けではなく発注者だと評価すべきとなり、発注者は特許侵害となる、というのが論理的帰結だろう。


ただ、実際には、下請けが実施権者(再実施許諾権なしの実施権者)または先使用権者である場合、その下請けの業者はそれなりの実績や製造ノウハウを蓄積しているはずなので、発注者が強い指揮監督を及ぼすことはなく、したがって下請けが発注者の手足で一機関だという場合には当たらない、という場合がほとんどだろう。


よって、上記の実際に製造を行っている下請けが実施権者(再実施許諾権なしの実施権者)または先使用権者だが、発注者は何らの権利をも持っていないという場合に、上記の論理が適用されて、発注者が特許侵害になってしまうということはほとんどないだろう(つまり、事実認定の問題で妥当な結論に導ける)、と思う。





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2009年12月18日

ライセンス契約と特許権侵害・商標権侵害



三村量一・元知財高裁判事の講演記録が「パテント」2009−11号(日本弁理士会発行)に載っていて(112頁)、その中に、ライセンス契約と侵害の話が少しだけ出ていたのを読んで、それを元に考えたことです。


一般の契約、例えば家電製品などの卸売又は販売契約に基づいて購入した商品が不良品だったので損害が生じたという場合は、契約当事者の一方が他方に対して損害賠償を求めて提訴することがある。


この場合は、原告は、契約の債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求とのどちらで行っても良いとされている(請求権競合説=判例通説)。そして、このような場合、実際には債務不履行で行くことが多いが、それは債務不履行の方が帰責事由(≒過失)の証明責任が信義則上転換されている(判例)などの点で原告有利だからだ。


これに対して、特許や商標権のライセンス契約がなされている場合において、もしその契約不履行に基づく損害賠償請求と特許侵害又は商標権侵害(不法行為の一形態)に基づく損害賠償請求との請求権競合が認められるなら、一般の契約の場合とは逆に、契約不履行責任を追及するよりも、特許侵害又は商標権侵害責任を追及する方が圧倒的に有利だろう。なぜなら、特許侵害又は商標権侵害を追及する場合は、特許法などの規定により、過失が推定されるし、損害額の算定規定などがすごく充実しているから。


しかし、特許や商標権のライセンス契約がある場合、契約違反があったとしても、特許や商標権の侵害が成立する場合はほとんどないのではないだろうか。


なぜなら、特許や商標権の侵害は「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」なので、ライセンス契約の違反(例えばライセンス料の不払いや商標の使用条件となる商品の品質を満たしていないなど)があっても、ライセンス契約が存在する限りは、そして、ライセンシーの行為がライセンス契約が一応はカバーしているものである限りは、「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」にはならないと思われるからだ。


例えば、商標権のライセンス契約の中で、商標を使用する商品を「菓子」とし、その菓子は○○という原料を含むものとするという使用条件が規定されていたが、ライセンシーがこの使用条件に反して「○○という原料を含まない菓子」に商標を使用したという場合、ケースによるとしても、多くは、一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」だとして商標権侵害にはならない(契約違反になるだけ)と思う(なお、「菓子」以外の「野菜」などに使用したら、契約がカバーしてる範囲ではないので、商標権侵害になるだろう)。


それは、ライセンシーが前述のような使用条件に反して「○○という原料を含まない菓子」に商標を使用した場合でも、一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」としてライセンス料は発生すると思われることからも、言えるだろう。


この場合は、その使用条件(契約条項)に違反した使用に対してライセンス料を請求すると共に、使用条件に違反した点については契約責任に基づいて+αの損害賠償を請求するしかないのでは、と思う。


まぁ、これは、知財だけに特殊なことではなく、一般のアパートなどの賃貸借契約などでも同じだろう。例えばアパートに勝手に同居人を入れたなどの使用条件に違反した場合に、その違反した期間は「契約に基づく使用」ではないから契約上の賃料は発生しない、ということにはならないだろう。この場合は、賃料は発生し、使用条件違反の点は別途損害賠償をプラスする、というだけだろう。


ライセンシーが使用条件に違反している場合に、権利者(ライセンサー)が侵害を主張したいなら、さっさと催告して契約を解約するべきで、解約した後なら「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」に該当するので侵害に基づく損害賠償や差止めを請求することができる。


以上は当事者間の話だが、第三者に対する関係も同様だろう。


第三者に対する関係では、商標権が「消尽」しているかどうかという問題の立て方になるだろう。


つまり、前述のような「ライセンスの使用条件となっている○○という原料を含む菓子」ではない菓子に商標を付した商品(商標の契約上の使用条件に違反した商品)を、ライセンシーから卸売してもらって販売している小売業者=第三者に対しては、契約当事者ではない(契約に基づく主張はできない)ので、権利者としては商標権侵害を主張するしかないが、ライセンシーの行為が一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」であり商標権侵害ではないならば、そのラインシーから譲り受けた時点で商標権が消尽しているので、権利者がその小売業者に対して商標権侵害を主張することはできない、と思う。


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