2014年01月04日

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」のビジネスモデル

最近いろいろ話題になっている「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」(私は行ったことはありません)について、少し特許的な観点からコメントしてみたいと思います。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の割烹」・・・は、既に多くのマスコミで報じられていますが、ブックオフコーポレーションの創業者・坂本孝氏の「俺の株式会社」が2011年9月に東京新橋に1号店を出してから展開しているチェーン店で、立ち食い形式としつつ、ミシュランの星付きクラスの一流シェフが高級食材で作った高級料理を高級店の半分から3分の1の価格で、つまり原価率60%以上(通常の飲食店の原価率は30%以下)で提供するという全く新しい業態による店舗です。
原価率60%以上としながら立ち食い形式にして客の回転率を上げて薄利多売で利益を出す、そのためには常に行列が絶えない店舗にしないと経営が成り立たないという厳しいビジネスモデルです。

俺のイタリアン-3.jpg

このような新しい業態・ビジネスモデルのアイデアは、坂本氏の著書「俺のイタリアン 俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方」にも一部触れられていますが、「星付きレストランと立ち飲み居酒屋との組み合わせ発明」(ここでの「発明」はアイデアという広い意味)だと言えると思います。

星付きレストランでの一流の料理の提供サービスと、立ち飲み形式で客の回転率を上げる方法とを組み合わせて全く新しい業態のアイデアを創作した訳ですが、星付きレストランと立ち飲み居酒屋とは客層や店の雰囲気などは真逆で、それらを組み合わせようなんて通常人はまず思い付きませんから、組み合わせの意外性、アイデアの進歩性(特許要件の中の最も重要なもの)は十分にあります。

しかし、「自然法則を利用した技術的思想」(特許法2条1項)という発明性(特許要件の一つ)がないことから、特許を取得することは難しいと言えます(調べてませんが、おそらく坂本氏は特許出願などはしていないでしょう)。
ビジネスモデルもIT技術でカバーされているなどの要件を備えるものであれば発明性が認められますが、この「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」のビジネスモデルは、IT技術でカバーされているとは言えないので、発明性が認められません。

しかし、自然法則を利用した分野かどうかに拘わらず、斬新なアイデアを生み出せるかどうかは、その人の生まれ持った感性や生き方に大きく依存しています。だから、もし坂本氏が経営の分野ではなく研究開発やモノづくりの分野に進んでいたならば、世界的な大発明を幾つも生み出していただろうと思います。

posted by mkuji at 17:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2012年09月25日

「赤い靴底」のトレードドレスと特許出願

赤い靴96dpi .jpg「赤い靴底」は商標 仏ブランドの主張認める 2012/9/6付けSankeiBiz
あでやかな赤い靴底で有名なフランスの靴ブランド「クリスチャン・ルブタン」が、靴底に赤い色を用いるデザインを同社独自の商標と認めるよう主張していた裁判で、ニューヨークの連邦高裁は5日、商標と認める判断を示した。(中略)ただし商標と認められるのは靴底だけが赤く、他の部分が別の色でコントラストがある場合に限るとした。靴底と他の部分の色の対比が制作者の独自性と判断した。(中略)訴訟ではフランスの高級ブランド大手イブ・サンローランの全体が赤いハイヒールが、ルブタンの権利を侵害しているかどうかが争われた。判決は、赤い色が靴底のみでない場合ルブタンに認めた権利の対象にならないとし、サンローランの靴の販売継続は認めた。
※上の写真(クリスチャン・ルブタンの靴=AFP時事)は朝日新聞からの引用です。http://www.asahi.com/international/update/0906/TKY201209060240.html

2週間余り前の記事ですが、気になったことを記しておきます。
日本でも、「靴底に赤色を用いるデザイン」(商品等表示)を長年使用して周知性を獲得した場合、不正競争防止法上の保護が認められる可能性はあります(不正競争防止法2条1項1号)。

しかし、確かに米国のトレードドレス(直訳すると「商品の衣服」ですが、上記の記事中の米国の「商標」とはトレードドレスのことだろうと思います。追記:米国では商品の色彩も商標登録されますのでこの靴底の赤色も商標登録されているのかもしれません。)や日本の不正競争防止法による保護は可能だとしても、それだけでなく、さらにより強い保護の可能性を探求するなら、米国でも日本でも、斬新なアイデアだとして特許出願することも可能だったのではないでしょうか。

靴底だけを他の部分とコントラストのある赤色などの鮮やかな色とすることにより、靴底なので通常は見えないがたまたま見えたとき人の目を強く惹き付けるという視覚的ないし物理的効果(広い意味での)があると言えますので、「発明性」は認められるだろうと思います。
そして、この「赤い靴底」が開発された当時(ルブタンは1992年から赤い靴底の靴を販売開始)、まだ世の中にそのような実例も発想も無かったとしたら、「進歩性」についても認められる可能性はあるでしょう。

特に、靴底が磨り減っても「赤色」が消えないようにする工夫などを付加すれば可能性はより高くなると思いますが、そこまで限定しなくても、「靴底の材料からは通常在り得ないような赤色などの目立つ色であって靴の他の部分とは異なる色を、靴底の色としたことを特徴とする靴」というようなクレームで特許出願すれば特許が認められる可能性は相当程度あったのではと思います。

まぁあり得ないことですけど、もし当時この「赤い靴底」の話が持ち込まれたとしたら、私だったら、特許出願を勧めたでしょうね。

posted by mkuji at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2011年02月14日

「キャラクターや文字の一部を逆さまにプリントしたインナー」の発明

バンダイがキャラクターの絵や文字の一部を逆さまにプリントした「さかさまさかあったかキルトインナー」を販売しています。

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インナーのデザイン内の一部に逆さまの絵や文字がプリントされていて、子供が着用した状態で上から見下ろすと何が描かれているか分かる(隠し絵のようになっているようです)ので、

子供が面白がって着替えを嫌がらなくなるそうです。

技術的には「インナーの布に絵や文字の一部を逆さまに印刷する」というすごく簡単なアイデアですが、「逆さまに印刷して、それを着用して上から見下ろしたら、何が描かれているか、着用した人に分かりやすい」というのは広い意味での自然法則に該当します。そして、この自然法則を利用することにより「子供が面白がって着替えを嫌がらなくなる」という効果が得られている訳です。

よって、このアイデアは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当し、発明性が認められます。そして、特許出願前に類似のアイデアが公知になっていなかったら、進歩性が認められて特許が成立する可能性はあると思います(バンダイが特許出願などしてるかどうは全く調べてないし知りませんが)。

こういう「技術的レベルは決して高くないが発想力で勝負」というような発明、個人的に、私は好きなのですね。

こういう発想力が決め手の発明は、なかなか進歩性が認められないのですが、もし進歩性が認められて特許になったら強力な武器になることが多いと思います。

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posted by mkuji at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2010年07月09日

単眼のデジカメを横に動かすだけで3Dの静止画を撮影

単眼タイプ3Dデジカメ 世界初、ソニーが来月発売 2010年7月9日 東京新聞

 ソニーは八日、三次元立体(3D)の静止画が撮影できるコンパクトデジタルカメラ「サイバーショット」の新シリーズ「DSC−WX5」と「DSC−TX9」を八月七日に発売すると発表した。

 3D画像が撮影できるデジカメは、富士フイルムから二つのレンズが搭載されたモデルが発売されているが、単眼のレンズ一体型デジカメとしては世界初。

 今回発売されるデジカメは、シャッターボタンを押しながらカメラを縦や横に一振りすると、高速連写した最大百枚の画像から3D用を抽出。3D対応テレビに接続し、専用メガネで楽しむ。


高速連写で取得した多数の静止画から3Dに適した視差(レンズ間距離)と輻輳角(光軸)を有する2つの画像を抽出するのでしょう。
左右2つのレンズを使って3D用の画像を撮像するのは当たり前ですが、そうではなく、1つのレンズでユーザーが横方向に動かすだけで高速連写して視差のある3D用の静止画を撮像できる(動画は難しいんでしょうね)というのは、すごく簡単な発想なのになかなか思い付かないコロンブスの卵のようなアイデアだなと、この記事を見て感心しました。
まぁこういう「発想力が決め手になる発明」は、別にソニーのような大企業でなくても、中小企業でも素人でも誰でも思い付くことはできるはずと思います。
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posted by mkuji at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2010年03月05日

コロンブスの卵のような発明(無給水加湿機能付きエアコンと蒸気レス炊飯器)



大手メーカーによる発明や商品には、優秀な研究者による先端的な専門知識から生まれたものというイメージがありそうですが、実際には、主婦でも思い付くことができそうな、コロンブスの卵のような発明(発想力が決め手になった発明)や商品も、結構あります。


例えば、かなり前から商品化されている「無給水加湿機能付きエアコン」(ダイキンのエアコンうるるとさらら)。


エアコンをかけるとどうしても室内が乾燥するため、肌など健康に悪い、ウイルスの活動を活発化させるなどの問題がありました。


それで、戸外の室外機に除湿機を搭載して除湿運転をして外気の水分を集め、それをホースで室内側に送り込んで室内に加湿空気を供給するという無給水加湿機能付きエアコンのアイデアが生まれたそうです。


こういうアイデアは、後から聞いてみれば簡単にできそうに思えるけど、実際には思い付くのはなかなか難しいと思います。


これと同じように発想力が決め手になった発明に「蒸気レス炊飯器」があります。


三菱電機の蒸気レスIHですが、かなり前(2009年2月)から商品化され、今もあちこちで話題にされてますね。


炊飯中に出る蒸気を冷却して水に戻して専用の水タンク内に収容することにより、蒸気を出さないようにするというアイデアです。下図はこの製品のパンフレットから。


f:id:mkuji:20100208143841j:image


蒸気が出ないので置き場所の自由度がぐっと広がる、蒸気口がないので保温効率が向上する、蒸気と一緒に出ていたご飯の旨み成分を逃がさなくできる、などのメリットがあるようです。


聞いてみれば当たり前のようですが、昔から「炊飯器は蒸気を出すものだ」という固定観念があるので、「蒸気を出さないようにしよう」という発想はまず出てこないと思います。


「根本を疑う」「基本的な概念を問題にする」姿勢が大切だと感じますね。


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posted by mkuji at 23:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2009年12月17日

東芝の録画機能付き液晶テレビ「CELL REGZA」のCM判定技術



前回のエントリで述べた、日経エレクトロニクス(2009/12/14)の、東芝が2009/12に発売する録画機能付き液晶テレビ「CELL REGZA」の記事を読んでの感想ですが、前回の「超解像」以外に、録画したテレビ番組中の「CMの部分」を判定・抽出する技術が印象に残りました。


この「CM判定」技術は、録画した番組を再生するときに、番組の本編とCMとの音量差を自動調整する(おそらく、CMの音量がもともと大きいので小さくするんでしょう)ために、録画した番組の中からCM部分だけを区別して抽出する、というものです。


この技術では、録画した番組の中からCMだけを区別して抽出するために、番組本編とCMとの境界(又は、CMとCMとの境界)にある無音部分(つまり、一つのCMの最初と最後にある無音部分)を検出し、その2つの無音部分の間の時間が15秒かどうかを判定し、15秒である場合は、その部分はCMだと判定する、という手法を採用していました。


このようなCM判定技術は、CMスキップ機能(再生時にCMを早送りしたり再生させない機能)などでも使われ得るでしょうし、かなり昔から在るのかも知れません(CMスキップ機能そのものは10年以上前からあり、その方式も複数あるようで、当初はモノラル番組の中からステレオ音声の部分だけをCMだと判定・抽出してスキップするという方式などが採用されていたようです)。


この記事で紹介されていた「初めの無音部分と後の無音部分との間隔が15秒かどうかでCM部分かどうかを判定する」という手法は、技術的には極めて簡単なものですが発想法が斬新で面白いという意味で「発想力の発明」(発想力が決め手になる発明)と言えるでしょう。


少なくともこのCM判定の発明は、発想が面白いので進歩性はあったのではと思います(どこかの会社が特許を取っているのか、取っていても消滅しているのかなどは調べてません)。


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posted by mkuji at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明