2009年12月24日

特許法2条3項の実施(「若しくは」と「又は」)



「実施」の定義を定めた特許法2条3項1号の文言については、ずっと疑問に思っていたことがありました。


特許法2条3項1号の条文では、物の発明の実施とは、


「生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出」だとしています。


ここの「輸出」と「輸入」の間の「若しくは」が入っている理由は何か、「若しくは」が入ったために何がどう違ってくるのか、が昔からよく分かりませんでした。


「若しくは」は「又は」より低いレベルで使うということは知っていましたが、それでも、この条文のように、


「生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出」とするのと、この中の「若しくは」を除いて、


「生産、使用、譲渡等、輸出、輸入、又は、譲渡等の申出」とするのとで、何か違ってくるのか、よく分かりませんでした。


それで、あるとき、弁理士向けの電子掲示板で、このことを質問してみました。


すると、詳しい人から、次のような答えが帰ってきました。


それによると、


「若しくは」を除いて、


「生産、使用、譲渡等、輸出、輸入、又は、譲渡等の申出」とすると、


「生産、使用、譲渡等、輸出、輸入、又は、譲渡等」が「の申出」に係ると解釈されてしまう余地がある。


これに対して、


「若しくは」を入れて、


「生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出」とすると、


「生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入」と「譲渡等の申出」とが並列になるため、


「生産、使用、譲渡等、輸出、輸入、又は、譲渡等」が「の申出」に係ると解釈されてしまう余地が無くなる。


だから、「生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出」とすることが必要なんだ、という答えでした。


聞いてみるともっともなんですが、これで、私も、やっと、納得できました。


親切な人が多いですね^^


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2009年12月10日

特許法2条3項の「譲渡等の申出」と契約成立要件としての「譲渡等の申込み」



特許法2条3項は「実施」の一形態として「譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)」を定めている。


この「譲渡等の申出」について、例えば「注解特許法(上巻)」は、譲渡又は貸渡しのための展示などは含むが、観客に見せるだけの単なる博覧会(商談会等を兼ねるものを除く)や客寄せのための展示は、これに含まれない、としている。


つまり、譲渡等(販売やレンタル)に繋がるような展示その他の申出ということになる。


とすると、小売店における商品の陳列や商談会における商品の展示はこれに該当する。


それ以外に、小売商品の広告チラシの配布、DMの郵送、ネット上での広告(特にショップのサイトにリンクしている広告)なども、本には書かれていないが、おそらく含まれるだろう。


条文では「譲渡等の申出」となっているので、「譲渡等の申込み」(譲渡等の契約の成立のために必要な一方当事者の意思表示)とは違うのだろう。


「申込み」とは、承諾があれば契約を成立させるという意思表示で、「申込みの誘引」(「従業員募集」の広告などの、他人の申込みを誘うもの)とは異なる。


一般に、実店舗で値札を付けて商品を陳列することは「売買契約の申込み」に当たるが、通販でカタログを配布すること(又はネット上でカタログを掲載すること)は「申込みの誘引」だとされている(通販の場合はユーザーが注文しただけで契約成立とすると在庫が足りなくなるなどの不都合があるから)。


特許法2条3項の「譲渡等の申出」は、「申込み」と「申込みの誘引」との両方を含む概念だろう。


こういう「販売の申出」(「譲渡等の申出」は分かり難いのでこう言います)に対しては、差止め請求ができる。


損害賠償請求もできるが、それを実際にやる場面は限られるだろう。なぜなら、「販売の申出」だけでは特許権者の売上の減少(逸失利益)があったと証明することが難しい、「販売の申出」の後には「販売」があるからその「販売」をつかまえて損害賠償請求すればよい、と思うので。


だが、「販売の申出」に基づいて損害賠償請求をしなくてはならない場合もあると思う。


私見だが、例えば、特許が切れる前の数ヶ月間だけ、ネット上で販売の申出(「販売の申込み」ではなく「申込みの誘引」)をしておき、販売契約の成立は特許期間満了後にもって行く、という場合だ。


つまり、ネット上で、特許期間が満了する数ヶ月前から特許権利者の商品と同じ商品を安値で販売しますと告知(申込みの誘引)して、多数のユーザーから、その「購入の申込み」をネット上で募集しておく。この段階では、ネット業者は「申込みの誘引」をしているだけなので、ユーザーからの応募(購入の申込み)があっても売買契約はまだ成立していない。そして、特許期間が経過してから、販売する側が「販売の承諾」をして売買契約を成立させる。この間(特許が切れる前の数ヶ月間)、特許権者の商品が買い控えに陥って、その売上の減少(逸失利益)が生じた、とする。こういう場合は、「販売の申出」(申込みの誘引)を侵害行為として、これに基づく損害賠償請求ができるのではないだろうか。


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