2015年10月29日

東大教授の編集著作権を侵害したとの理由による「著作権判例百選」の出版差止めの仮処分決定

「著作権判例百選」で著作権侵害、出版差し止め 2015年10月29日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/20151029-OYT1T50033.html
[引用開始] 法律専門誌「著作権判例百選」の編者の一人が、自分を編者から無断で外して改訂版を出版するのは著作権の侵害だとして、出版元の有斐閣に差し止めを求めた仮処分申請について、東京地裁(嶋末和秀裁判長)が著作権侵害を認め、出版差し止めを命じる決定を出したことがわかった。
 決定は26日付。
 これを受け、同社は11月上旬に予定していた改訂版の出版を当面見送ることを決めた。著作権に関する重要判例を紹介する専門誌が、著作権侵害を理由に出版できなくなる異例の事態となった。
 差し止めを求めたのは、大渕哲也・東大教授。同誌の第4版では編者の一人になっていたが、第5版では無断で外された。決定は、第5版に収録予定の判例や執筆者の約8割が第4版と同じであることなどを踏まえ、大渕教授の合意なく出版することは「著作権を侵害する行為」と判断した。[引用終わり]

 大渕教授は、「著作権判例百選」の第4版の編者を務めていたことから、本年9月に出版が予定されていた第5版と第4版とは判例や執筆者が9割近く一致しており、第5版は(独立した著作物ではなく)「第4版を原著作物とする二次的著作物」であるから、合意なく自分を編者から外して第5版を出版すること(自分の氏名を編者として表示しないで出版すること)は編集著作権(及び著作者人格権)の侵害となると主張しており、それが、今回、東京地裁により、仮処分の段階ではありますが、認められました。

 「著作権判例百選」といえば知財を扱う実務家(弁護士、弁理士、企業法務部)や学生なら誰でも知っている雑誌ですし、有斐閣といえば法律関係で最も代表的な出版社の一つで、大学教授の立場から見れば言わば「お客筋」(座談会の出席依頼とか原稿依頼などの商売の話をもって来てくれる会社)です。そして、有斐閣の雑誌編集部は、大渕教授が勤める東大の正門の目の前にあります。

 また、大学教授としては、大組織には刃向かわない温厚な人柄を演じておいた方が、政府の審議会委員に選ばれやすいなど、何かとメリットが大きいのは明らかです。

 そのような様々なマイナス面があるにも拘わらず、しかも「著作権判例百選」の第5版の出版を待ち望んでいた人も多いでしょうから、そのような人たちにいわば迷惑(?)をかけてまで、日本の知財を代表する学者が「お客筋」の出版社を相手に仮処分申請をしたというのは、勝てると思ったからでもあるでしょうが、私は、「肚の座った人だな」と感心しました。

 ある弁護士さんが、本件は背景に(編者から外されたことで)感情的な行き違いがあったのではないか・・・話し合いで円満に解決してほしいという趣旨のことを述べられておられましたが、私は、本件をそのようなゴシップ的な観点で矮小化してほしくないと思いました。
 本件が、「たとえ客筋であろうと理不尽なことがあれば原理原則を主張しそれを認めてもらうことが当たり前になる社会」に到達するための、道筋を付けてくれるような裁判になってほしいと思います。
posted by mkuji at 15:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2012年12月12日

上杉隆氏による名誉毀損裁判で池田信夫氏はかなり苦しい展開か?

上杉隆氏の記事が読売新聞の記事の盗用だとブログなどで記載したことが名誉毀損に当たるとして、上杉隆氏が池田信夫氏などを相手に慰謝料や謝罪広告などを求めた訴訟が話題になっているようです。
私は、この件は池田信夫氏のブログくらいしか見ていないのですが、私には、このブログを見ているだけで池田氏の苦しい立場が伝わってきます(そのように読まない人の方がむしろ多いとは思いますが)。

本日のブログでも、池田氏は次のように主張していますが、かなり苦しい言い訳に聞こえます。
したがって原告は「出口が無断複製したことを上杉は知らなかった」と主張するしかないが、これが事実なら上杉の記事は明白な著作権侵害である。きのうの記事でも説明したように、たとえ彼が善意の第三者であっても著作権侵害=盗用になるのだ。
しかし、「著作権侵害=盗用」ではないでしょう。
「上杉氏が(故意または過失で)著作権侵害をした」と書いただけなら、虚偽の事実の摘示ではないということで逃げ切れたのではと思います(上杉氏は公人なので真実なら事実を摘示しても適法)。
しかし、「上杉氏が盗用した」と書いている場合、虚偽の事実の摘示により上杉氏の名誉を侵害したと判断される可能性も出てくるのではないでしょうか(もちろん盗用が虚偽だとしても盗用が真実だと誤信した理由があったなら適法です)。
一般人は、「盗用」という言葉からは、故意による著作権侵害の場合だと理解するだろうと思うので。
posted by mkuji at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2012年04月22日

著作権と商標権はどちらが強いのか(中国企業の「クレヨンしんちゃん」商標権に日本企業が著作権で勝訴)

 “しんちゃん”著作権 中国で勝訴 4月17日 NHK NEWSweb

   漫画やアニメで人気の「クレヨンしんちゃん」の主人公のイラストなどが、中国で勝手に商標登録され商品が販売されていたことについて、中国の裁判所は、日本の出版社に対する著作権侵害だと認定し、企業にイラストなどの使用をやめるよう命じる判決を言い渡しました。(中略)

   漫画を発行している出版社の双葉社によりますと、主人公の「野原しんのすけ」のイラストやタイトルの文字が中国国内で勝手に商標登録されて商品に使われていたことが分かり、双葉社はイラストを印刷した靴などを販売していた中国の企業に対し、2004年に著作権侵害の訴えを起こしていました。(中略)

   1審の上海市第一中級人民法院は、先月下旬、中国企業による著作権の侵害だと認定し、イラストなどの使用停止と日本円でおよそ300万円の損害賠償を双葉社に支払うよう命じました。
   裁判所は、イラストなどの商標登録も無効と判断していて、双葉社は「主張が認められるまで8年かかったが、『クレヨンしんちゃん』の独創的なイラストが、現地の法律でも保護されるべきだと判断されたことは大変有意義だ」とコメントしています。 
 
(追記: 上の記事は、中国企業が「クレヨンしんちゃん」のイラストの商標権を勝手に取得し且つ使用していたところ、それを日本の双葉社が著作権の侵害だとして訴えた事案で、中国の裁判所は、たとえ商標権を保有していても著作権の侵害でありその商標登録も無効だと判断したというものです。つまり、同じイラストについて中国国内で商標権と著作権が別々の会社に帰属し、それぞれが商標権と著作権を武器に争ったという事件で、中国の裁判所は著作権が優先するとしました。)

   たまに顧客から「著作権と商標権はどちらが強いの?」と聞かれることがあります。これは異種格闘技のようなもので、常にどうとは言えないのですが、少なくとも同じ対象について著作権と商標権との間で争いになった場合は概ね著作権の方が強い(優先する)と言ってよいと思います。
  
  そもそも権利の発生を時系列で見ても、キャラクタのイラストを創作した時点でその著作権はベルヌ条約の下で世界各国で発生するのであり、その著作権が発生した後に、そのイラストについてさらに商標権も取得したいという場合だけ各国の特許庁に出願するという順序ですから、商標権よりもずっと前に著作権が発生しているのです。
  
 日本の商標法でも、29条が、商標権で保護されている商標であっても、商標出願前に発生していた他人の著作権と抵触するときは、その商標を使用できないとしているのはこの趣旨です。
  
 では商標権なんて無意味なのかというと、そんなことはありません。なぜなら、例えば、会社名・商品名・サービス名などを示す言葉、単純な図形やその組合せなどは、芸術性・著作物性がないため著作権の対象になりませんが、商標権なら保護対象にできます。逆に、楽曲や文章などは著作権の対象になりますが商標権の対象にはなりません(今のところ音の商標権は日本では規定されていません。また、ある程度長い文章は、全体を図形として見られる場合は別として、自他商品識別力が認められないと思います)。
 
 このように著作権と商標権は、保護対象が一部は重複していますが、かなりずれていますので、それぞれに独自の存在意義があります。

   しかし、保護対象が重複している部分、例えばキャラクタのイラストについては、上記のとおり著作権が商標権に優先します。さらに、著作権の方が、権利発生の費用も掛からないし、存続期間も著作者の死後50年と長いというメリットがあります。キャラクタのイラストについて商標権を取得するメリットは、著作権はその保有を立証することが難しい場合があるが商標権なら常に立証が容易、10年毎の権利更新を繰り返すことで100年以上の権利存続も可能などの点でしょうか。

   ちなみに、たまに顧客から「著作権と特許権はどちらが強いのか」と聞かれることもあります。著作権と特許権も、その保護対象が大きくずれているので、それぞれに独自の存在意義があります。

  しかし、保護対象が事実上重複する部分、例えばコンピュータ・プログラムについては、特許権の方が権利範囲が広いといえます。なぜなら、プログラムの著作権は、1つのアイデア毎にではなくそれを実現するための様々な個別のプログラム=表現毎にそれぞれ個別に発生しますが、特許権ならその1つのアイデア毎に権利を取得できる(つまり、その1つのアイデアを実現するための様々な個別のプログラム=表現の全てをカバーする権利として、1つの特許権を取得できる)からです。
 
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2010年09月08日

建築の著作権とパブリシティ権・敷地の所有権

撮影禁止の建物を合法的にブログ掲載するには プレジデント 9月5日
 神社やお寺、教会は、不動の人気観光スポット。神社仏閣めぐりを趣味とする人も増えている。その一方で、「写真の無断撮影はご遠慮ください」と呼びかける宗教施設も少なくない。(中略)
 さらに、外観をも無断撮影禁止とする宗教建造物が一部にある。営利目的で撮影するカメラマンに対し、シャッター回数や出版物の刷り部数ごとに料金を請求する場合もある。
 では、注意書きを無視し、あるいはうっかり気づかず、建造物を撮影し、それをブログに掲載したり出版したりした場合、どのような法律的な問題が生じるのだろうか。
 まず著作権についてだが、実は、建造物に著作権が認められるのは例外的といっていい。また、仮に著作権が認められても、著作権法四六条の規定により、写真撮影して出版物などに掲載しても著作権侵害とはならない。
 次に、いわゆる「パブリシティ権」の問題はどうだろうか。(中略)現時点での最高裁判所の判断は、芸能人やスポーツ選手など、人間のみに認めるというもの。神社仏閣のパブリシティ権は法律上保護されない。
 知的財産権に精通する、竹田綜合法律事務所の木村耕太郎弁護士は「撮影禁止ルールを破って写真を撮る行為は、神社仏閣の『敷地』管理権の侵害として、問題が処理されうる」と話す。写真撮影を制限する対応は、その神社や寺院などが持つ敷地の管理権(「所有物の使用、収益」)を根拠に許されるわけだ。(中略) 敷地を所有していれば、その所有権は絶対であり、敷地内でルールに反して撮影すれば、不法行為として、損害賠償を求められる可能性がある。
「ただ、撮影禁止の施設であっても、公道からの撮影であれば、プライバシー侵害など別の問題が生じない限り、法律上許される。撮影料を請求されても支払うかどうかは自由」(木村弁護士)
 なお、敷地内から撮影する場合、「不法行為の成否は、敷地管理者が看板などを立てて、撮影禁止のルールを明示しているかどうかが分かれ目になる」(同)。
 撮影禁止の看板が設置されていなかったため、敷地内での撮影が不法行為にならないとされた判例がある。(後略)
撮影禁止の看板があれば、敷地内で無断で撮影した行為について過失が認定されやすいということでしょうね。
建築の著作物については、裁判例とか少ない思いますが、これからいろいろ増えていくのではないかと思います。
神社仏閣は芸術性(創作性)はあるとしても著作者の死後(又は著作物の公表後)50年経過で著作権が消滅していることも多いでしょう。
東京スカイツリーなどの建築の著作物は、著作権法46条により複製などの自由利用が原則として認められているのですが、これを模倣した建物を建築する場合とこれの模型や写真の銅板を公衆が利用する屋外の場所に恒常的に設置する場合などは例外として複製権侵害となります(同法46条2号・3号)。
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2010年07月28日

著作権と著作者人格権と原作品の所有権

2010/7/21 京都新聞 龍馬切手、販売中止に「無許可使用」?で郵便局会社

郵便局会社近畿支社(大阪市)は21日、京都市内の109郵便局でオリジナルフレーム切手「龍馬が駆け抜けた町 京都・伏見」の販売を中止した。坂本龍馬の妻おりょうとみられる写真をあしらった切手について「写真所有者の許可を得ていないのでは」との指摘があったためだ。郵便局会社側は「印刷会社が問題がないと報告しているので、切手発行は問題ない」としながらも、対応を検討するため販売を中止したという。


下は「おりょうの写真を印刷した切手」の写真(上の京都新聞の記事より引用)。

f:id:mkuji:20100728003616j:image
絵画などでも同じですが、著作物性のある写真を撮影した著作者は、次の3つの権利を原始取得します。
(1)無体物(著作物)としての写真についての著作権
(2)無体物(著作物)としての写真についての著作者人格権
(3)有体物(紙)としての写真(作品)の所有権
上記(3)の所有権は、その写真を紙に印刷したとき、つまり有体物としての写真(紙)が生成されたときに発生します。今のデジカメで、画像のデジタルデータを記録媒体に保存するだけの場合は、保存したときに、その2進法による記号を示すデータの電子的物理的記録状態についての所有権もしくは管理権というようなものを原始取得するのだろう思います。
上記の(1)無体物(著作物)としての写真の著作権と、(2)無体物(著作物)としての写真の著作者人格権と、(3)有体物(紙)としての写真(作品)の所有権とは、互いに別物で、互いに無関係に、別々に譲渡されたり((3)の著作者人格権は譲渡不可)、消滅したりしますので、それぞれを別々に見る必要があります。
例えば、写真の著作者が(1)の写真(無体物)の著作権を自己に留保しながら(3)の写真(有体物の作品)の所有権だけを他人に売却したら、以後は、(1)の写真(無体物)の著作権と(3)の写真(有体物の作品)の所有権とはそれぞれバラバラに別々の人が保有・管理することになります。また、写真(無体物)の著作者または第三者が写真(有体物の作品)を焼失してしまったら、(3)の写真(有体物の作品)の所有権は対象(権利客体)が無くなるので消滅しますが、そのこととは無関係に(1)の写真(無体物)の著作権は著作者の死後50年間存続します。また、写真(無体物)の著作者が死亡すると(2)の著作者人格権は消滅します(但し、著作者の死後の人格的利益の保護を定めた著作権法60条はあります)が、(1)の著作権は著作者の死後50年間存続します。
上の「坂本龍馬の妻おりょうとみられる写真をあしらった切手」について「写真所有者の許可を得ていないのでは」との指摘があったので、郵便局会社が販売を一時中止したという記事について考えてみます。
(1)の「無体物(著作物)としての写真の著作権」については、「おりょう」の写真を撮った幕末の時代からは既に150年くらい経過しており、著作権は既に消滅していることは明らかなので、少なくとも著作権侵害が生じる可能性はないと思います。
(2)の「無体物(著作物)としての写真の著作者人格権」については、著作者人格権は著作者の死亡により消滅しますが、著作権法60条が、著作者が亡くなった後でももし生存していればその著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないと規定していることから、問題が生じる可能性はあります。しかし、著作権法60条で問題になるのは主に、著作者がもし生きていたらその意に反するような改変(同一性保持権の侵害)や公表の場合であり、本件では、撮影された写真の「改変」はないので(「公表」が意に反するかは分かりませんが)、著作権法60条違反の問題が生じる可能性は極めて低いと思います。
(3)の「有体物(紙)としての写真(作品)の所有権」については、そもそも作品の所有者というだけでは(著作権はないため)コピーをコントロールする権利(複製権)は持っていないので、切手への写真の印刷について文句を言うことはできないはずです。ただ、郵便局会社側が本件の写真のデータをどのようにして取得したのか、所有者の写真(紙)を無断で一時的に占有侵害して撮影した(この場合は広い意味での窃盗に該当する可能性もある)とか所有者との契約に違反して写真データを消去せずに保管していたなど、そのデータ取得過程で違法行為が介在したのではないかという疑念も、ほとんどないでしょうが全く無いとも言い切れない訳で、とすれば、とりあえず販売中止にして写真(作品)の所有者と話し合ってみよう、という今回の郵便局会社の方針は、妥当なものではないか、と思います。
追記: 原作品の所有者が有する、原作品に表現されている著作物の複製に関する権利を「物のパブリシティ権」として議論する人もいるようで、その方が分かりやすいでしょう(物のパブリシティ権は認めないのが判例ですが)。
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2010年06月24日

日経の「仮想空間 新ルール模索」の記事を読んで

企業法務戦士の雑感さんの2010/6/21付けエントリに同日付け日本経済新聞・法務面の「仮想空間 新ルール模索」の記事に対する感想が載ってました。
私も日経新聞を取ってるので読んでみましたが、確かに、かなり混乱した内容だと感じました。
疑問な点をいくつか書いておきます。
まず第1に、この記事の中の「(アメーバピグでは)他の利用者との取引や仮想商品の創作はできないうえ、行動は同社の規約に縛られる。」という部分。
実際の規約を確認してませんが、「仮想商品の創作はできない」という表現が気になります。もし「仮想商品の創作はできない」というのが「仮想空間では発明やデザイン(意匠)や著作物の創作をしてはならない、しても権利は発生しない」という意味なら、そのような規約の規定はその限りで無効(強行法規違反)となると思います。まぁ、ここでの「仮想商品の創作はできない」というのは「商売をしてはいけない」という意味なんでしょうが、少し誤解されやすい表現かなと思います。
第2に、この記事の中の「オリジナル商品の創造と商品コピーがともに仮想空間で起きていれば、基本的にその紛争は仮想空間を運営する会社の規約に従うことになる。」という部分。
これは、その仮想空間に参加(メンバー登録)するときに規約を承認しているのだからその規約に従うのが原則という意味ならば当然のこと(任意規定に関する限り法律より契約が優先する)と思いますが、それは仮想空間だろうと現実空間だろうと同じなので、あえて言うほどのことではないと思います。その規約が公序良俗や強行法規に反する場合はその規約の規定がその限りで無効とされて著作権法などの法律が適用されますが、まぁ当たり前のことです。
第3に、上記第2の部分に続く「だが、現実世界で創作されたオリジナル商品に基づいて、仮想空間でコピー商法が行われた場合、あるいはその逆の場合について、現在の法律やルールは想定していない。」という部分。
しかし、「現実世界で創作されたオリジナル商品に基づいて、仮想空間でコピー商法が行われた場合」、及び、その逆の「仮想世界で創作されたオリジナル商品に基づいて、現実空間でコピー商法が行われた場合」は、そのコピーが無断で行われたのなら、現在の法律が適用されて、特許侵害や著作権侵害などとして民事・刑事責任が追及されること(つまり、現在の法律の想定内であること)は当たり前でしょう。
なお、上記第1、第2の場合も含めて仮想空間の場合、何処の国の法律が適用されるのかという準拠法の問題、何処の国の裁判所に訴えればよいのかという裁判管轄の問題はあると思います(ユーザーの居住地の法律・裁判所によるのかサーバーの所在地の法律・裁判所によるのかなど)。
アメーバピグや初音ミクなどのいろいろな事例を網羅しようとした反面で法律の基本が抜け落ちてるような感じというのがこの記事を読んだ印象です。
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2010年05月18日

「仮面ライダーキバ」マスクの無断ネット販売は著作権法違反(侵害とみなす行為)

産経ニュース 2010/5/13 「仮面ライダーキバ」マスクをネットで無断販売、1千万円稼ぐ 容疑の男逮捕

仮面ライダーのマスクの複製品を無断で販売したとして、千葉県警生活経済課などは13日、著作権法違反(侵害とみなす行為)で、千葉県銚子市、会社員(33)を逮捕した。(中略)

 容疑者は、タイの工場からマスクを輸入して、平成20年1月ごろから、オークションへの出展を開始。「キバ」以外にも歴代の仮面ライダーのマスクも手がけ、昨年1年間だけでも約400個を販売し、約1000万円の売り上げを得ていたという。


千葉県警が押収した仮面ライダーのマスクの複製品の画像(上の記事より引用):
f:id:mkuji:20100517140633j:image
マスクを自分で複製したのなら著作権の「直接侵害」ですが、この容疑者は他人が外国で複製した物を輸入して頒布(販売・譲渡等。著作権法2条1項19号)しただけなので、「間接侵害」の一類型である著作権法113条1項1号の「頒布する目的をもって輸入」、同2号の「情を知って頒布」という「侵害とみなす行為」に該当するとされたのでしょう。
一般に、「マスク」には、「実用品のマスク」(風邪を引いたときなどに使うもの)や「顔」などの意味があります。
もし、TVドラマの主人公が愛用している実用品の「マスク」や「ヘルメット」の模造品を輸入・頒布したという事例だったなら、そのような「マスク」や「ヘルメット」は実用品(玩具を含む)に過ぎない(そして、そのような「マスク」や「ヘルメット」などの実用品のデザインには純粋美術と同じような著作物性はない)ので、そのような「マスク」や「ヘルメット」という実用品(玩具を含む)を製造することは、たとえそのデザインが模倣によるものだとしても著作権侵害に該当しない(そのマスクやヘルメットが既に正規に販売されていれば不正競争防止法違反に該当したり、意匠登録がなされていれば意匠権侵害に該当する可能性はあるとしても)という議論はあり得たと思います。
しかし、上の画像を見れば分かるように、今回の「仮面ライダー・キバのマスク」は「仮面ライダー・キバというキャラクターの顔」そのものと言えるので、その絵には著作物性が肯定され、そのようなマスクの絵を立体物へ加工すること(翻案)は著作権の直接侵害行為となるので、そのような行為により作成された物を輸入・頒布する行為は法113条の「侵害とみなす行為」(間接侵害の一つ)に該当するという論理は、妥当なものだろうと思います。
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2010年05月06日

違法画像を掲載しているサイトへの「リンク」だけで「幇助犯」成立という解釈

時事ドットコム2010/4/30 ランキングサイトを削除要請=児童ポルノ紹介、運営4社に−警視庁

 インターネットのサイトへのリンクを自由に張ることができ、アクセス数に応じて順位が付く「ランキングサイト」が、児童ポルノ画像へのアクセスを容易にしているとして、警視庁少年育成課は30日、運営する4社に対し、計14サイトの削除を要請した。

 同課によると、ランキングサイトについての削除要請は初めて。同サイト自体に児童ポルノ画像は掲載されていないが、リンク先のサイトに掲載されており、有害と判断したという。


警視庁は、児童ポルノ画像を掲載していなくても、掲載しているサイトにリンクしたら、児童ポルノ禁止法の幇助犯が成立し得るという解釈を固めているように感じます。今までリンクだけで犯罪成立とした例はおそらくないので、いきなり逮捕ではなく、まずは削除要請をと考えたのでしょう。
リンクする前に行われた「児童ポルノ画像のサイトへの掲載」との関係では「リンクによる幇助」は時期的に不可能(サイトへの掲載とリンクとの間に事実上の因果関係がない)としても、児童ポルノ禁止法違反の罪を、最初のサイトへの掲載で犯罪が成立するだけでなくその後もサイトへの掲載(法益侵害の状態)が続いている間は犯罪が継続しているとみられる(その間はいつの時点でも既遂となる)「継続犯」だと捉えれば、リンクした後の掲載について幇助犯とすることは可能(リンクが犯罪の継続を助長したと評価できる場合がある)という解釈です。
上記の例は児童ポルノ画像を掲載しているサイトへのリンクですが、著作権侵害の画像を掲載しているサイトへのリンクについても、著作権侵害罪を継続犯と捉えて、そのサイトにリンクを張る行為はその幇助犯となり得る(ただし、違法画像の提供の継続を助長するようなリンクに限られ、報道目的のリンクなどは除く)という解釈が、これから徐々に確立していくのではないかと予想されます。
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2010年04月25日

「BOOKSCAN(ブックスキャン)」サービスと著作権法30条(私的使用目的)

1冊100円で書籍を PDF 化する、低価格スキャンサービス「BOOKSCAN」がサービス開始

2010年4月19日、1冊100円で書籍を PDF 化するサービス「BOOKSCAN(ブックスキャン)」の提供を開始した。
BOOKSCAN は、書籍を一冊100円で裁断し、スキャナーで読み取った後、PDF 化するサービス。「本が好きだけど、本棚はいっぱいだし、本をたくさん買いたいのに 場所的に置く場所がなくて困ってる」というユーザーをターゲットとしている。
利用者は会員登録後、書籍を送付し、1ページづつスキャン、全ページ PDF 化したデータをメールもしくは CD-R/DVD-R 形式で納品する。裁断後に読み取り完了した書籍は、廃棄処分される。


少し前の記事ですが、この「BOOKSCAN」について、小飼弾さんのように合法だという意見もありますが、著作権法的にクロだという意見がネットでは多いので、自分なりに少し検討してみます。
まず、著作権法30条1項は、著作物の私的使用(個人的家庭的使用)を目的とする複製は適法としていますが、ただし「自動複製機器」(同30条1項1号)を用いて複製する場合はその例外として違法だとしており、「業者のスキャナ」はこの「自動複製機器」に該当するので違法だとする意見があります。

しかし、この業者のスキャナが「自動複製機器」であるから違法だとすると、コンビニに設置してあるコピー機も同じく違法(私的使用目的でコピー機を用いて複製した者は同119条1号括弧書きで不可罰だが違法であり、コピー機の設置者は同119条2号で可罰的違法)ということになってしまいそうです。ただ、中山信弘「著作権法」をみると、これにはまたまた例外があって、著作権法の附則5条の2で「当分の間、30条1項1号の『自動複製機器』には、『文書又は図画の複製に供するもの』は含まないものとする」と規定されていますので(こう何回も例外があるとおちょくられてる感じになりますが^^;)、結局、使用者も設置者も、民事・刑事とも責任なし、となるようです。

ではこういうサービスは適法かとなると、そうではありません。栗原潔さんが当初から指摘されてますが、同30条1項は(私的使用目的の場合は)「その使用する者が(=著作物を使用する者が)複製することができる。」としているだけなので、「使用する者」ではなく「代行業者」が複製した場合は複製権侵害になる、ということです。つまり、この「使用する者」には、本人以外の本人と同一視できる補助者(子どもの家族とか身体障害者の補助者など)は含まれるが代行業者は含まれないというのが通説的見解のようです。よって、(書籍を裁断したものを)「業者がスキャナーで読み取る」ことは、同30条1項に該当しないので、複製権の侵害になる、ということです。

なお、以上は一般論ですが、この「BOOKSCAN」そのものは完全に合法と思います(きちんと運用すれば)。
というのは、この「BOOKSCAN」のプレスリリースを見ると、次のように書かれており、事前に弁護士と綿密に打ち合わせてるのではないかと予想されます。

1.スキャン可能な書籍かどうかご確認後、お申し込み頂きます。
2.冊数・オプションに応じた金額を、クレジットカード決済にてご入金頂きます。
3.書籍をダンボールにつめ、ブックスキャン宛に発送して頂きます。
4.ブックスキャンに到着後、スキャン完了日時をご連絡致します。その後書籍を裁断しスキャンした後PDF化致します。
5.PDF化されたデータは、メールにダウンロード頂けるURLを記載するか、CD-R(オプション)で納品致します。
6.お客様へPDFデータが到着後、さまざまなPDFリーダー等で閲覧頂けます。

このように、このサービスでは、「スキャン可能な書籍」であること、つまり「著作権がクリアされている書籍」(例えば著作権切れ、著作権フリー、著作権者の許諾済みなど)であることがサービス申し込みの条件となっています(「スキャン可能な書籍」とは、スキャンが物理的に可能なだけでなく法的にも可能であるような書籍、と解釈すべきでしょう)。その確認ができない場合は申し込みを受けないというつもりなのだと思います。また、その確認を厳密にした上で受けた場合は、後で実は違法だった(例えば顧客が著作権者の許諾文書を偽造してウソをついていたなど)となっても、故意はもちろん過失による賠償責任も免れる可能性は十分あります。
なお、このような面倒くさいサービスが100円というのは経営的に割に合うのかなとも思いましたが、会社の話題作りとか他のメリットも考えてるんでしょうね。
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2010年04月04日

猫縫いぐるみ翻案事件(「複製」と「翻案」の定義など)



猫縫いぐるみ翻案事件判決(平成21年(ワ)6411号 著作権侵害差止等請求事件 同22年2月25日大阪地判)を斜め読みしました。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100301160735.pdf


他人の「猫の縫いぐるみ(手作り)」と似た製品を勝手に販売したことが著作権侵害(複製権・翻案権の侵害)になるかどうかが争われたもので、よくありそうな事案ですね。


複製権及び翻案権の侵害と言えるためには、(1)依拠性と(2)類似性とが必要とされているのですが、この判決では、まず類似性を判断し、類似性はない、よって依拠性について判断するまでもなく著作権(複製権及び翻案権)の侵害はない、と結論付けています。


すなわち、この判決は、まず初めに、「複製」の定義を、過去の最高裁判例から次のように述べています(判決の17頁)。



著作物の複製(著作権法21条)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),



また、この判決は、「翻案」の定義を、過去の最高裁判例から次のように述べてます(判決の17頁)。



著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作することをいう(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。



その上で、判決は、次のように問題を設定しています。



本件において,原告は,被告各製品が原告各作品を複製又は翻案したものであるとして著作権侵害を主張しているところ,少なくとも被告各製品が原告各作品を翻案したと認められる程度に類似したものでなければ,複製権侵害が生じる余地もないのであるから,以下では,まず翻案権侵害の成否について検討することとする。



そして、判決は、この「翻案権侵害」の要件となる「原告作品と被告製品の類似性」の有無について、原告作品と被告製品を比較した上で、次のように、両者は類似していないから翻案権侵害も複製権侵害も成立しないとして、原告の請求を棄却しました。



そうすると,被告各製品からは,原告作品1群及び2群の本質的特徴を直接感得することはできないというべきであり,被告各製品は,原告各作品を翻案したと認められるほどに類似しているとは認められない。また,上記したところによれば,被告各製品が原告各作品を複製したものに当たらないことも明らかである。 5 よって,争点2(依拠性)について判断するまでもなく,被告各製品の製造販売は,原告の著作権(複製権及び翻案権)を侵害する行為とは認められない。



不正競争防止法違反(同法2条1項3号の「形態模倣」など)も争点になり得たのではとも考えられますが、判決が原告の縫いぐるみを「作品」と述べていることからみて、原告の縫いぐるみが「作品」であり「商品」でなかったのなら不正競争防止法は使えなかったと思います。


それと、原告作品(縫いぐるみ)が「量産可能性のある実用品」であることからすると原告作品の著作物性が争点になってもよさそうに思います(博多人形事件では「美術工芸的価値としての美術性」があるとして著作物性が認められましたが、ファービー人形事件では「純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象となるだけの審美性」が備わっていないとして著作物性が否定されました)。


しかし、この著作物性は争点にならなかったようです。その理由としては、(1)原告作品(手作りの縫いぐるみ)は「一品制作品」だった(量産品ではなかった)ので「美術工芸品」として美術の著作物に含まれる(著作権法2条2号)ことが明らかだったから、(2)縫いぐるみの制作過程で作られた「デザイン画」が美術の著作物であることが明らかだったから、争点にするまでもなかったなどの可能性が予想されます。


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2010年03月20日

音楽ファイルの海外ストレージサイトへのアップロードで逮捕



CNET Japan (吉澤亨史) 2010/03/02 海外ストレージサイトで違法音楽配信、初の逮捕者



 北海道警察本部生活安全部生活経済課および北海道札幌方面中央警察署は3月1日、社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)が管理する楽曲の音楽ファイルを海外のストレージサイトにアップロードし、そのリンクを公開していた男性(46歳)を著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑いで逮捕した。(中略) JASRACでは、海外のストレージサイトに音楽ファイルをアップロードすることで、違法行為を免れようとする確信犯であると判断。極めて悪質な行為であると訴えている。なお、JASRACによると、海外ストレージサイトにアップロードされたファイルへリンクした音楽配信が著作権法違反の疑いであるとして、逮捕者が出たのは今回が初とのことだ。



少し前の記事ですが、これを読むと、


(1)楽曲の音楽ファイルを海外のストレージサイトにアップロードした


(2)そのリンクを公開していた


という2つの行為で逮捕したのかなと読めます。


上記(1)の行為は、著作権法の条文そのまんま、「送信可能化権」(同法23条1項括弧書)の侵害ということでしょうね。


つまり、上記の海外ストレージサイトのサーバーは、「自動公衆送信装置」(公衆からの求めに応じて自動的に『公衆送信』(公衆によって直接受信されることを目的として行う送信)する機能を有するサーバーなどの装置。同法2条1項9号の4、同9号の5イ)に該当する。


そして、そのような海外ストレージサイトのサーバーに音楽ファイルをアップロードする行為は、「送信可能化」(自動公衆送信装置に情報を記録又は入力等すること。同法2条1項9号の5イ)に該当する、ということです。


また、このストレージサイトのサーバーが海外にあるか国内にあるかは、日本国内の不特定ユーザーにダウンロードさせている(サーバーから日本国内のユーザーに送信している)以上、重要ではないというのが一般の理解だろうと思います(海外ストレージサイトの管理者の行為も「自動公衆送信権」の侵害になると思います。有名なファイルローグ事件は2P2のファイル交換サービスでしたがインデックスリストを公開するセンターサーバーを海外に置いた例だったと思います)。


なお、この海外ストレージサイトのサーバーの管理者が自動公衆送信の行為主体(正犯)だとする見解(ファイルローグ事件やMYUTA事件の判決の理論)をとる場合は、このサーバーに音楽ファイルをアップロードしたユーザーは独立の行為主体ではなく無罪もしくは幇助犯にすぎないという議論もあり得ると思います。


また、もしこの海外ストレージサイトのサーバーが日本国内のユーザーによるダウンロードを許可しないようにしていれば、この海外ストレージサイトのサーバーは「自動公衆送信装置」(同法2条1項9号の5イ)に該当しなくなると思います。なぜなら、「自動公衆送信装置」と言えるためには、それが送信する相手は「日本の公衆」でなければならないでしょうから。


上記(2)のリンクを貼る行為は、それだけで「公衆送信権」の侵害になることはない(幇助になることはあり得る?・・・公衆送信権侵害罪が「継続犯」だとすれば)というのが一般の理解と思いますが、上記海外ストレージサイトのサーバーが日本の公衆に音楽ファイルを送信する「自動公衆送信装置」に該当することや上記(1)の行為の動機などを推認させる間接事実になるのだろうと思います。


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2010年02月12日

ラピュタのロボット兵の模倣作品が公募展に出品、受賞の後、辞退



スポーツ報知2010年2月10日 ラピュタ模倣で最優秀賞取り消し…大阪府主催の公募展



 障害がある人が創作した現代アートを展示する大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画が、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」のキャラクターの模倣であることが10日、分かった。府は受賞者からの辞退の申し出を受け、同日審査結果を取り消した。(中略)


 連絡を受けた女性は「ジブリが大好きなので、モチーフにした」と模倣を認め、受賞を辞退。悪意はなく「著作権について知ることができた。今後の創作に生かしたい」と話したという。(中略)


 同課は「著作権を侵害する作品は応募できないという注意書きを要項に入れていなかった。再発防止のため対策を考えたい」と話している。



大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画(数ミリ四方に裁断した布をモザイク状に張った作品)が、その受賞後に「天空の城ラピュタ」のロボット兵に酷似していると分かったので、おそらく、大阪市の職員が働きかけて受賞の辞退をしてもらった、ということのようです。


単純な話のようですが、何が問題になっているのかを考えると、次に述べるように、著作権法がいかに条文操作が多いテクニカルで難解な法律なのか、ということがよく分かるような事例ではないかと思います。


以下で、今回の事例について、1.作品を「制作」する行為、2.作品を公募展に「出品」する行為、3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為、の3つの段階に分けて分析してみます。


1.作品を「制作」する行為(=「複製・翻案」する行為)について


この作品を制作する行為(複製・翻案する行為)については、まず、著作権法30条1項(私的使用のための複製)、43条1項(翻案等による利用)が問題になると思います。この2つの規定は、「私的使用目的」(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき)ならば、原則として他人の著作物を適法に複製・翻案できる、と定めています(そもそも、他人の著作物であろうとなかろうと自分の好みの素材を利用して絵画などに表現することは、個人の表現の自由・基本的人権であり、著作権法はその例外的制約を定めるものに過ぎません)。


ただ、当初から「公募展に出品する目的」で複製・翻案することは、「私的使用目的」によるとは言えない(私的使用目的だという見解もあってよいと思いますが)ので、同法30条1項、43条1項には該当せず、複製権・翻案権の侵害になるでしょう。


逆に、当初は「公募展に出品する意図」はなく「私的使用目的」で制作したという場合なら、適法な複製・翻案による合法的な作品といえます。


2.作品を公募展に「出品」する行為について


上記1で述べたように、当初から「公募展へ出品する目的」で制作(複製・翻案)していたら著作権侵害と思いますが、そうではなく、作品を制作した(複製・翻案した)時点では公募展に出品する気は無かった(私的使用目的だったので適法な複製・翻案だった)が、その後に、公募展のパンフレットを見て初めて作品しようと思い立って出品したという場合も沢山あると思いますが、そのような場合の「出品」の行為は違法となるのでしょうか。


この場合、同法49条1項2項(複製物の目的外使用等)をみますと、(a)同法30条1項の定める私的使用目的での適法な複製による複製物、または(b)同法43条の定める私的使用目的での適法な翻案による二次的著作物であっても、つまり適法な複製・翻案により制作された作品であっても、その後に、その作品を「頒布」又は「公衆に提示」することは複製権または翻案権の侵害と見做す、としています。よって、もし、「公募展への出品」という行為が、同法49条1項2項の「頒布」又は「公衆に提示」に該当するとすれば、結局、複製権または翻案権の侵害と見做されることになります。


しかし、私見ですが、「公募展への出品」は、「頒布」(公衆への譲渡・貸与。同法2条1項19号)にも、「公衆に提示」にも該当しないと思います。なぜなら、著作権法でいう「公衆」には「特定かつ少数の者」は含まれません(同法2条5項)が、「公募展への出品」は特定かつ少数の者に貸与・提示するだけ(少数の担当者と審査員が見るだけ)なので、「頒布」(公衆への譲渡・貸与)にも「公衆に提示」にも該当しないのでは、と思います。確かに、受賞すればマスコミ発表されるので「公衆に提示」する目的で「出品」したのだろうという見解も可能かもしれませんが、それ(受賞→マスコミ発表)は「出品」の動機に過ぎません。同法49条1項2項は、「出品」の行為そのものが「頒布」(公衆への譲渡・貸与)又は「公衆への提示」であることを要求していますので、やはり該当しないのでは、と思います。


3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為について


ただ、上記2のように「出品」の行為そのものは適法だしても、出品して受賞したら、自治体がマスコミ発表してしまうので、その「マスコミ発表」の行為が、自治体と出品者の共同行為による「公衆への提示」と評価されて、複製権・翻案権の侵害と見做されてしまう(同法49条1項2項)可能性はあるかなと思います。


よって、結局、大阪府が「『著作権を侵害する作品は応募できない』という注意書きを要項に入れるべきだった」と言っているのは正しいと思いますが、『もし受賞してマスコミ発表されれば(著作権法49条により)著作権侵害となってしまうような作品は応募できない』という方がより正確かなと思います。というのは、細かいことを言うようですが、前述のように、公募展への出品目的ではなく私的使用目的で適法に「複製・翻案」(制作)した作品は、その後にその作品を「出品」しても、(その後に受賞して「マスコミ発表」されない限りは)「著作権を侵害する作品」とは言えないと思われるからです。


以上の議論は、何か、「複雑な条文操作をしている、すごく重箱の隅をつつくような議論」のように見えるかもしれませんが^^;、このようなテクニカルで分かり難い議論をしなくてはならないことこそが、例外に例外を重ねて一般人だけでなく専門家にも容易に理解できなくなってしまった今の著作権法の最大の問題ではないかと思います。


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2010年02月03日

電子書籍時代の著作権侵害



47NEWS 2010/1/29 松沢知事の本、販売禁止命じる 著作権侵害と東京地裁



松沢成文神奈川県知事の著書の一部に自著と類似の表現があり、著作権を侵害されたとして、ノンフィクション作家山口由美さんが知事と出版元の講談社に印刷や販売の禁止などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求の一部を認め、著作権侵害に当たる2行分を削除しない限り、印刷や販売をしてはならないと命じた。 判決は12万円の損害賠償も命じた。 知事と講談社は即日控訴した。



たったの2行分を削除するだけのために、全国の本屋に配布している本を全て回収するというのでは、出版社の出費は膨大なものになりますね(本屋の現場で修正液で2行を消してもらった方が早いかも)。


著作権侵害とされたときのことを考えると、2行分を削除・訂正することが容易な電子書籍の優位性は明らかですね。


電子書籍が主流になると、著作権侵害が一部にあっても、じゃあその部分だけ削除・訂正すればいいんでしょというように軽く考えるようになるかもしれません。もちろん、後から削除・訂正しても、損害賠償責任や刑事責任が無くなる訳ではありませんが、少なくとも本や雑誌の回収などは必要なくなります。


このように電子書籍の時代になると著作権侵害が軽く考えられて多発するようになるかもしれませんが、そうなると逆に、侵害防止の実効性の観点から損害賠償責任や刑事責任が強化されるようになるかもしれません。


もう一つの問題として、この記事によると、「大鷹一郎裁判長は、知事記述の「彼は、富士屋ホテルと結婚したようなものだったのかもしれない」との部分が、山口さん記述の「正造が結婚したのは、最初から孝子というより富士屋ホテルだったのかもしれない」の複製と指摘、著作権侵害に当たると判断した。」とのことです。


これも議論を呼びそうですね。


全部で700頁の本の中で、たった2行が盗用とされたのですから。


盗用、つまり複製権・翻案権の侵害と言えるためには、依拠性と類似性(表現上の本質的な特徴を直接感得できるように利用したこと)が必要とされています(判例)。類似性の有無が争点となり、「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」と判断されたのでしょう。


私見としては、利用したとされる「正造が結婚したのは・・・富士屋ホテルだったのかもしれない」という部分は、表現上の本質的特徴というよりもアイデア(事実関係の独自の分析)といっても良いのではという感じもします(アイデアの盗用なら著作権侵害にならない)。


この記事だけで判決には当たってないので分かりませんが、もしかしたら、他にもグレー部分がいっぱいあって、全部併せて一本という気持ちで、この2行について著作権侵害だとしたのかもしれませんね。


追記:第2審で逆転判決


松沢神奈川県知事が逆転勝訴、箱根富士屋ホテル物語著作権侵害訴訟 2010/07/14(水)


箱根の「富士屋ホテル」創業者の子孫でノンフィクション作家の山口由美さんが、自著の著作権を侵害されたとして、箱根の開発者に関する本を書いた松沢成文神奈川県知事と発行元の講談社に対し、出版差止めと賠償を求めていた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は7月14日、著作権侵害を一部認め2行分を削除しない限り印刷や販売を禁じた一審の東京地裁判決を取り消し、請求を棄却。松沢知事側の逆転勝訴となった。


知財高裁の滝沢孝臣裁判長は、「破天荒力」と「物語」は、表現上の創作性がない部分で共通点があるにすぎないとして著作権侵害に当たらないと判断。一審判決を取り消し、山口さんの請求を棄却した。


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2009年12月06日

著作権に関する日経記事(ウィニー事件とロクラク事件)



2009/11/30付け日経新聞の法務欄の著作権の記事「ウィニーに逆転無罪の高裁判決/著作権強化に冷や水?」を見て、ちょっと気になってたのですが、こちらの企業法務戦士の雑感で既にいろいろ書かれていました。


つまり、このブログに書かれてるのですが、ロクラク事件はカラオケ法理の否定ではなくカラオケ法理を前提としたものではということです。まぁ、僕も、ロクラク事件、詳しく見てませんが、カラオケ法理の否定というよりその限界を画定したというものではと思います。


ところで、この日経記事の中に、次のような文章があります。



カラオケ法理は、サービス提供者の「間接侵害」を強引に「直接侵害」に転換し、その行為を差し止める。なぜこのような考えをとるのか。現行の著作権法では利用者による直接侵害には差止めと損害賠償を求められるが、サービス提供者による間接侵害には賠償請求しかできないからだ。



この部分の「間接侵害」という表現に少し違和感を持ちました(私だけかもしれませんが^^;)。特許法と比較して、「間接侵害」という言葉がかなり広い意味で使われるような気がしたので(特許法では101条で「間接侵害」という言葉は、特定の行為として、かなり狭く定義されています)。


ちょっと調べてみると、著作権法では「間接侵害」という言葉について明確な定義がまだないようです。こちらに出ていました。こちらによると、「間接侵害」とは、明確な定義はないが、直接的侵害行為以外の行為態様による著作権侵害事象(特に直接的な著作権侵害を援助・助長・惹起し又はこれに加担・寄与する行為)というような意味に使用されているようです。また、こちらによると、著作権法には特許法101条のような間接侵害の規定がないので、文部科学省の審議会でそのような規定を創設することに向けての議論がなされていたようです。


著作権法では、現状、「間接侵害」(上記のような広い意味)の一形態である「幇助・教唆」については、損害賠償だけで、差し止めは認められていません(著作権法112条。まぁ、これは特許法でも同じですね)。同法113条の侵害と見做される行為(これも「間接侵害」の一つの形態のような気がしますが)は差止めが認められています。


ウィニー事件では、大阪高裁は、「間接侵害」(上記のような広い意味)の一形態である「幇助」について、「ウィニーが著作権を侵害する手段に使われる可能性をソフト開発者が認識していただけでは、幇助犯にはならない」としました。


他方、ロクラク事件(日本で録画したテレビ番組をネットで海外に転送し、海外で利用者が鑑賞するサービスを提供する運営会社を、NHKと民放9社が著作権侵害で提訴した事件)については、知財高裁は、利用者の行為は個人的にテレビ番組を録画して楽しんでいるのだから私的利用のための複製(著作権法30条1項)として適法だと判断しました。つまり、カラオケ法理が成立しない(サービス提供者は利用者ではない)というだけでなく、直接の利用者の行為が適法なのだから被告(サービス提供者)側の教唆・幇助も成立しない、としたのがロクラク判決なのでしょう。


このロクラク判決(平成20年(ネ)第10055号平成21年1月27日知財高裁判決)の「幇助」を否定した部分(最後の部分)、末尾に引用しておきます。


「小括


以上のとおり,被控訴人らが主張する各事情は,いずれも,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。加えて,上記(1)のとおりの親子ロクラクの機能,その機能を利用するために必要な環境ないし条件,本件サービスの内容等に照らせば,子機ロクラクを操作することにより,親機ロクラクをして,その受信に係るテレビ放送(テレビ番組)を録画させ,当該録画に係るデータの送信を受けてこれを視聴するという利用者の行為(直接利用行為)が,著作権法30条1項(同法102条1項において準用する場合を含む。)に規定する私的使用のための複製として適法なものであることはいうまでもないところである。そして,利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,被控訴人らの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。」


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2009年12月02日

私的録画補償金の支払いを求めてSARVHが東芝を提訴



私的録画補償金の支払いを求めてSARVH(私的録画補償金管理協会)が東芝を提訴したという記事は既に11月11日頃から沢山出てて、デジタル専用DVD録画機(ダビング10で複製が制限されたデジタル放送のみを受信できるDVDレコーダ)が著作権法30条2項及び政令に指定された対象機器に含まれるか、メーカーは「協力義務」として徴収代行までしなくてはならないのかSARVHに支払って下さいという紙を添付しておくだけでもよいのか、などが争点になっていて、小倉秀夫弁護士のブログなどで議論されているようだが、それは今はいい。


それよりも、あくまで個人的になんだけど、最近見た日経エレクトロニクス(2009/11/30)15頁の記事の中に、今回の訴状(代理人は有名な久保利英明弁護士)に記載されている請求金額として、「当該機種の2009年2〜3月分の出荷台数3万1091台に,出荷価格が不明なため補償金の上限金額である1000円を掛け,消費税155万4550円を加えた金額」とあったのに興味を持った。


「補償金」には消費税を付加して請求するんだなというのが。


通常、損害賠償請求のときの「損害」には消費税は付けないと思う。


補償金の場合は「売上げ」に準じるのだろうか。


特許法65条にも、出願中の行為に対して「補償金」を請求する権利が出てくるのだが、これは実質は損害賠償なので(特許権が成立してない期間の行為なので侵害ではないから「補償金」なのだが、特許権が成立した時点からは同じ行為が侵害となって「損害賠償金」となる)消費税は付けていないのではと思うがどうだろうか(裁判例を見ればすぐ分かることなんだけど・・・見てません^^;)。


まぁ、この辺は弁護士なら常識なのだろうが、弁理士にはいまいち分からないところだ。


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