2010年06月16日

最近の特許侵害訴訟の動向とダブルトラックの議論

特許庁ホームページの産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第28回(平成22年 6月 11日) 配布資料「特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方について」に、近年の侵害訴訟の動向がまとめられていましたので、以下に少しコメントを付加しつつ引用しておきます。なお「ダブルトラック」とは、特許の有効性に関する判断が「無効審判ルート(無効審判、審決取消訴訟及び上告審)」と「侵害訴訟ルート(侵害訴訟、控訴審及び上告審)」の二つのルートで行われ得るという状況のことです。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/tokkyo_shiryou028.htm
1.侵害事件の地裁判決動向(特許・実用新案)
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・ 侵害訴訟件数は、近年やや減少傾向にある。

・ 侵害訴訟で和解により終局するものが半数前後を占めている。

・ 侵害訴訟のうち和解等により終了せずに地裁判決に至ったものをみると、地裁判決のうち、特許権者が敗訴した割合は約8割程度である。

2.特許権者敗訴の原因(特許・実用新案)

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・ 特許権者敗訴(一部敗訴を含む)のうち、「権利非侵害」のみを理由とするものは約60%(侵害訴訟事件全体の約24%)、特許無効を理由として含むものは約40%(侵害訴訟事件全体の約16%)である。

 より詳しくは、特許権者敗訴(一部敗訴を含む)のうち、(1)「権利非侵害」のみを理由とするものは約61%(侵害訴訟事件全体の約24%)、(2)特許無効のみを理由とするものは約26%、(3)特許無効と権利非侵害の双方を理由とするものは約13%、ということです。つまり、権利非侵害の理由を含むかどうかは別として、とにかく特許無効を理由として含むもの(上記(2)と(3)を合わせたもの)は、特許権者敗訴(一部敗訴を含む)の中の約40%(侵害訴訟事件全体の約16%)ということです。

3.「無効抗弁」と無効審判の利用状況(特許・実用新案)

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・特許法第104条の3が施行された2005年以降、特許権・実用新案権の侵害訴訟において、地裁で判決が出された事件のうち、約70〜85%の事件で無効抗弁が主張されている。
・地裁で判決が出された事件のうち、「無効抗弁の主張がされ且つ無効審判が同時係属している事件」の割合は、2005年以降地裁で判決があった事件の約40〜60%である。
4.無効審判請求に占める侵害訴訟関連の無効審判請求(特許・実用新案)
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・ 全ての無効審判請求に占める侵害訴訟関連の無効審判請求の割合は、約30%程度である(侵害訴訟を伴っていない無効審判請求が約70%と多いのは少し意外です)。
5.特許侵害訴訟事件(東京地裁)及び侵害訴訟と同時係属する無効審判の平均審理期間(特許・実用新案)
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・ 知的財産権(特許権・実用新案権)関係民事通常訴訟事件(東京地裁)の第一審判決までの平均審理期間7及び侵害訴訟と同時係属する無効審判の一次審決までの平均審理期間はともに概ね短縮傾向にあり、2008年の知的財産権(特許権・実用新案権)関係民事通常訴訟事件の第一審判決までの平均審理期間は12.5月、2009年の侵害訴訟と同時係属する無効審判の一次審決までの平均審理期間は8.8月である。

6.訂正審判の請求件数及び平均審理期間(特許・実用新案)

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・ 訂正審判の一次審決までの平均審理期間は短縮傾向にあり、2009年の平均審理期間は、約2.1月である。
7.侵害訴訟と同時係属する無効審判の審決の時期(特許・実用新案)
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・ 侵害訴訟と同時係属する無効審判の一次審決と侵害訴訟の第一審判決の時期を比較すると、約60%〜90%の割合で審決が先に出されている。
 私見としては、第一審判決と無効審判の審決とがほぼ同時期に出るというのがベストでは。そうすれば、地裁の手続が無効審判の審決に影響されて長引くことがなくなるし、第一審判決の控訴審は知財高裁が多い(一部は大阪高裁)ので、これと審決取消訴訟を知財高裁で同時並行で審理できます(審理の併合はできないでしょうが、知財高裁の同一部に係属するので事実上、同時並行的に手続を進行でき、それぞれの訴訟について同時期に同じ見解に立った統一的な判決を出せる)。ただ、こう考えると、ますますダブルトラックを維持することが如何に時間と費用の無駄か(ダブルトラックでは、最初に特許庁の審決(特許庁の意見表明)が入るとしても、その後は結局、同じことを侵害訴訟と審決取消訴訟との2つの訴訟で並行してやってるだけ)が明白となりますね。 ※一部追加しました(タイトルも)。
(ダブルトラックの議論に関する私のコメント)
この産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会にはいろんな利益団体の代表が参加しているんでしょうね。弁理士の職業団体の主張には、自分たちの仕事である無効審判請求の件数を減らしたくないという商売上の本音が影響している可能性もあり得ると思います。それは弁護士団体も同じでしょう。あくまで弁護士の商売上の観点からだけ考えた場合ですが、特許侵害訴訟に一本化されるよりも、今のダブルトラックのように無効審判もあって、その審決取消訴訟をも含めた多方面に戦線が拡大して行ってくれる方が商売上はうまみがあると思います。特許庁にも自分たちの無効審判の権限を縮小されたくないという本音はあるでしょうね。裁判所としても、無効審判請求を制限して審決取消訴訟の件数が少なくなると人余りになって困るというのはあるかもしれません。
要するに、弁理士も弁護士も特許庁も裁判所も、少なくとも短期的に見れば、今のダブルトラックを少し修正して維持した方が都合がいいんでしょう。しかし、長期的に見ると、ダブルトラックなどの問題を根本的に改革して侵害訴訟を活性化した方が将来的に訴訟が増えて儲かる?ということも考えるべきでしょう。
まぁ最も尊重すべきはユーザー(国民)の利益のはずなので、思い切って民主党政権の事業仕分けに任せた方がいいかもしれませんね(笑)。
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posted by mkuji at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 侵害訴訟
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