猫縫いぐるみ翻案事件判決(平成21年(ワ)6411号 著作権侵害差止等請求事件 同22年2月25日大阪地判)を斜め読みしました。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100301160735.pdf
他人の「猫の縫いぐるみ(手作り)」と似た製品を勝手に販売したことが著作権侵害(複製権・翻案権の侵害)になるかどうかが争われたもので、よくありそうな事案ですね。
複製権及び翻案権の侵害と言えるためには、(1)依拠性と(2)類似性とが必要とされているのですが、この判決では、まず類似性を判断し、類似性はない、よって依拠性について判断するまでもなく著作権(複製権及び翻案権)の侵害はない、と結論付けています。
すなわち、この判決は、まず初めに、「複製」の定義を、過去の最高裁判例から次のように述べています(判決の17頁)。
著作物の複製(著作権法21条)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),
また、この判決は、「翻案」の定義を、過去の最高裁判例から次のように述べてます(判決の17頁)。
著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作することをいう(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
その上で、判決は、次のように問題を設定しています。
本件において,原告は,被告各製品が原告各作品を複製又は翻案したものであるとして著作権侵害を主張しているところ,少なくとも被告各製品が原告各作品を翻案したと認められる程度に類似したものでなければ,複製権侵害が生じる余地もないのであるから,以下では,まず翻案権侵害の成否について検討することとする。
そして、判決は、この「翻案権侵害」の要件となる「原告作品と被告製品の類似性」の有無について、原告作品と被告製品を比較した上で、次のように、両者は類似していないから翻案権侵害も複製権侵害も成立しないとして、原告の請求を棄却しました。
そうすると,被告各製品からは,原告作品1群及び2群の本質的特徴を直接感得することはできないというべきであり,被告各製品は,原告各作品を翻案したと認められるほどに類似しているとは認められない。また,上記したところによれば,被告各製品が原告各作品を複製したものに当たらないことも明らかである。 5 よって,争点2(依拠性)について判断するまでもなく,被告各製品の製造販売は,原告の著作権(複製権及び翻案権)を侵害する行為とは認められない。
不正競争防止法違反(同法2条1項3号の「形態模倣」など)も争点になり得たのではとも考えられますが、判決が原告の縫いぐるみを「作品」と述べていることからみて、原告の縫いぐるみが「作品」であり「商品」でなかったのなら不正競争防止法は使えなかったと思います。
それと、原告作品(縫いぐるみ)が「量産可能性のある実用品」であることからすると原告作品の著作物性が争点になってもよさそうに思います(博多人形事件では「美術工芸的価値としての美術性」があるとして著作物性が認められましたが、ファービー人形事件では「純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象となるだけの審美性」が備わっていないとして著作物性が否定されました)。
しかし、この著作物性は争点にならなかったようです。その理由としては、(1)原告作品(手作りの縫いぐるみ)は「一品制作品」だった(量産品ではなかった)ので「美術工芸品」として美術の著作物に含まれる(著作権法2条2号)ことが明らかだったから、(2)縫いぐるみの制作過程で作られた「デザイン画」が美術の著作物であることが明らかだったから、争点にするまでもなかったなどの可能性が予想されます。
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