特許の数を増やすことがイノベーションだと思い込んでいる人がいるが、両者は無関係である。日本企業の取得した特許は人口比では世界一だが、ほとんどが死蔵されてイノベーションに結びついていない。経済学の実証研究でも、企業が競争優位を守るために使う手段としてもっとも重要なのは、速く開発することによるリードタイムや企業秘密で、特許はほとんど重視されていない。(中略)
特許は薬品のように固定費の大きい分野ではまだ有効だが、半導体ではもはやクロス・ライセンスの交渉材料として使われるだけで、むしろ既存企業のカルテルを促進して参入を阻害している。ビジネスプロセスに至っては、弁護士以外の誰の得にもならない。
池田信夫さんが特許制度はイノベーションを阻害すると主張しています。
確かに、特許法1条が「・・・発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」と定めるように、特許制度の目的は、産業発達、そのためのイノベーション(≒技術革新)振興です。
しかし、「イノベーション振興」には、次の2つのレベルの内容があると思います。
(1)社会における新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)
(2)社会における新しい商品・サービスの豊富化(製造販売の活発化)
そして、特許法1条に「・・・発明を奨励し・・・」とあるように、特許制度は、もともと上記(1)の「新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)」を実現するために設計された制度であり、それは現状でもうまく行っていると思います。
つまり、特許制度とは新しい発明をして出願すればその発明内容を国家が社会に公開しその引き替えにその発明に関して一定期間の独占権を与えるというものですが、もしこれがなかったら、新しい発明をしても保護されないので新しい発明や研究をしようというモチベーションが低下してしまったり、新しい発明や研究をしてもそれを公表しないで隠しておくようになり研究開発が各事業体で重複して行われることになって社会全体で研究開発の大きな無駄が生じてしまいます。
また、特許は、実用化レベルでの製造・販売に対する禁止権に止まり、「試験又は研究のためにする特許発明の実施」には効力が及ばない(特許法69条1項)ので、特許が純粋な研究開発そのものを阻害することは原則としてないと言えます(企業や大学などでの研究に使う道具(リサーチツール)に特許が成立しているためにそれを使って行う研究ができないという問題はあります。また、どうせ実用化できないのなら研究しても仕方ないとヤル気を失う場合もあるでしょうね)。
他方、上記(2)の「新しい商品・サービスの豊富化(製造販売の活発化)」=「新製品の実用化(製造・販売)というレベルでのイノベーション」に関しては、特許が、それを阻害する結果になることはあるんだろうと思います。つまり、特許は、「製造・販売」についての禁止権として、後発者による模倣商品の登場を抑制するために機能しますが、その結果として、後発者の新規参入を妨害する作用を果たしたり、そのような目的で悪用されたりする場合も現実にはあると思います。
しかし、この問題は、上記(1)の「新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)」のために特許制度を運用する過程で生じてしまう「副作用」と捉えるべきで、特許制度そのものを否定するのではなく別の方向から解決すべきではないかと思います。
例えば、ライセンス契約を利用したカルテルなどの独占禁止法に抵触する事例を厳正に摘発する、ライセンス契約交渉を多くの企業が活発に気軽に行えるように制度を整えたりそのような社会文化を醸成する、公益のための強制実施権の設定を容易化することなどで、上記「副作用」の緩和が可能になるではないかと思います。
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