2010年02月03日

電子書籍時代の著作権侵害



47NEWS 2010/1/29 松沢知事の本、販売禁止命じる 著作権侵害と東京地裁



松沢成文神奈川県知事の著書の一部に自著と類似の表現があり、著作権を侵害されたとして、ノンフィクション作家山口由美さんが知事と出版元の講談社に印刷や販売の禁止などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求の一部を認め、著作権侵害に当たる2行分を削除しない限り、印刷や販売をしてはならないと命じた。 判決は12万円の損害賠償も命じた。 知事と講談社は即日控訴した。



たったの2行分を削除するだけのために、全国の本屋に配布している本を全て回収するというのでは、出版社の出費は膨大なものになりますね(本屋の現場で修正液で2行を消してもらった方が早いかも)。


著作権侵害とされたときのことを考えると、2行分を削除・訂正することが容易な電子書籍の優位性は明らかですね。


電子書籍が主流になると、著作権侵害が一部にあっても、じゃあその部分だけ削除・訂正すればいいんでしょというように軽く考えるようになるかもしれません。もちろん、後から削除・訂正しても、損害賠償責任や刑事責任が無くなる訳ではありませんが、少なくとも本や雑誌の回収などは必要なくなります。


このように電子書籍の時代になると著作権侵害が軽く考えられて多発するようになるかもしれませんが、そうなると逆に、侵害防止の実効性の観点から損害賠償責任や刑事責任が強化されるようになるかもしれません。


もう一つの問題として、この記事によると、「大鷹一郎裁判長は、知事記述の「彼は、富士屋ホテルと結婚したようなものだったのかもしれない」との部分が、山口さん記述の「正造が結婚したのは、最初から孝子というより富士屋ホテルだったのかもしれない」の複製と指摘、著作権侵害に当たると判断した。」とのことです。


これも議論を呼びそうですね。


全部で700頁の本の中で、たった2行が盗用とされたのですから。


盗用、つまり複製権・翻案権の侵害と言えるためには、依拠性と類似性(表現上の本質的な特徴を直接感得できるように利用したこと)が必要とされています(判例)。類似性の有無が争点となり、「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」と判断されたのでしょう。


私見としては、利用したとされる「正造が結婚したのは・・・富士屋ホテルだったのかもしれない」という部分は、表現上の本質的特徴というよりもアイデア(事実関係の独自の分析)といっても良いのではという感じもします(アイデアの盗用なら著作権侵害にならない)。


この記事だけで判決には当たってないので分かりませんが、もしかしたら、他にもグレー部分がいっぱいあって、全部併せて一本という気持ちで、この2行について著作権侵害だとしたのかもしれませんね。


追記:第2審で逆転判決


松沢神奈川県知事が逆転勝訴、箱根富士屋ホテル物語著作権侵害訴訟 2010/07/14(水)


箱根の「富士屋ホテル」創業者の子孫でノンフィクション作家の山口由美さんが、自著の著作権を侵害されたとして、箱根の開発者に関する本を書いた松沢成文神奈川県知事と発行元の講談社に対し、出版差止めと賠償を求めていた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は7月14日、著作権侵害を一部認め2行分を削除しない限り印刷や販売を禁じた一審の東京地裁判決を取り消し、請求を棄却。松沢知事側の逆転勝訴となった。


知財高裁の滝沢孝臣裁判長は、「破天荒力」と「物語」は、表現上の創作性がない部分で共通点があるにすぎないとして著作権侵害に当たらないと判断。一審判決を取り消し、山口さんの請求を棄却した。


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posted by mkuji at 01:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 著作権
この記事へのコメント
全体を読んでいないので、判断しかねるんですけど、<br>よく使われる表現のような気もしますよね。
Posted by hikasu at 2010年02月03日 13:06
hikasuさん<br>こんにちは<br>僕もかなり無理があるかなという気がします。<br>「・・・と結婚したようなもの」とか「・・・だったのかもしれない」とかは良く使いますよね(だから創作性が低い?)。<br>まぁ著作権侵害といっても、この判決での損害賠償額は12万円だけですが、これから上昇していくのではと思います。
Posted by mkuji at 2010年02月03日 13:25
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