2013年06月22日

改ざんしたB−CASカードの販売と商標権侵害罪

商標法違反 全国初の適用 改造カード販売(朝日新聞)
「テレビの有料放送を無料で見られるよう、「B―CAS(ビーキャス)カード」を不正に改造し、販売したとして、県警など9道県警の合同捜査本部は21日、さいたま市の電気設備修理業○○(50)、東京都葛飾区の会社員○○(40)の両容疑者を、商標法と犯罪収益移転防止法違反などの疑いでそれぞれ逮捕したと発表した。逮捕は20日付。ともに容疑を認めているという。
合同捜査本部によると、○○容疑者は、同カードのIC部分をパソコンソフトなどを利用して改ざん。昨年9月から今年3月までの間、山口、栃木両県の60代と30代の男性に対し、計3枚を7万9千円で販売し、商標権を侵害するなどした疑いがある。(中略)不正カードの販売を巡っては、これまでに兵庫、群馬、宮城でも摘発されている。商標法違反の適用は全国初という。」

カードのICチップを書き換えることは「単なる修理」ではなく「新たな生産」に該当し、元のカードとは別個の製品となる(※よってその製品に関して商標権は消尽しない)ので、そのような別個の製品に元の「B−CASカード」の商標を表示したまま販売することは商標権侵害だというロジックですね。
商標権侵害罪は10年以下の懲役と重たいので、これを併合する大きなメリットが、摘発する側にはあると思います。
ただ、顧客は、その製品が元の「B−CASカード」とは似て非なる改ざんされた製品だと知っていたのでしょうから、商標権の本来的な機能(出所表示、品質保証)が侵害されたとまでいえるか問題です。
また、顧客は、「テレビの有料放送を無料で見られる」という改ざんにより得られた新たな機能に主として着目して購入したと思いますが、「B−CAS」という商標にどれだけ大きく着目して購入したのか疑問です。
この点で、シャネルなどの有名ブランドのロゴやディズニーなどのキャラクタの絵(著作物)が表示された模倣品の場合(※顧客が安物の模倣品だと分かっていてもなおロゴやキャラクタの絵に着目して購入したという場合)とは少し違っています。
つまり、本件で、もし、犯人が、販売前に、改ざんしたカードの表面から「B−CAS」の商標を消していれば商標権侵害罪としての摘発はなかったはずなのですが、本件のような改ざんカードに元の「B−CAS」の商標が表示されているか否かで、改ざんカードの販売額にどれだけの違いが出ただろうか、ということです。
もし、ほとんど違いが出なかったなら、本件のような場合、商標権侵害罪だといっても、商標保護という面からは実質的違法性は小さい形式犯に近いものと言えます。
他方、やはり元の「B−CAS」の商標が表示されているからこそ、その改ざんカードなのだという安心感(?)があったり、B−CASカードの元々の機能がある点にも着目されて、大きな販売額が得られたのだろうということなら、実質的違法性も大きいといえるんでしょうね。

posted by mkuji at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標