2013年02月19日

ファームウエアの改変と商標権侵害罪

名古屋高裁平成25年1月29日刑事第2部判決・平成24年(う)第125号は、任天堂のゲーム機「Wii」のファームウェア(ROM等に半固定的に書き込まれた状態で機器に組み込まれているソフトウェア)を改変した後のゲーム機を、「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付したまま販売した被告人の行為について、商標権侵害罪の成立を認めました。
以下は判旨の一部です。


「(3)以上の事実関係によれば,本件Wiiは,ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが,被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため,真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。
 ところで,ファームウエアは,あくまでソフトウエアであり,ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし,ファームウエアは,前記(2)ア(a)及び(b)のとおり,ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので,かつ,Wiiにおいて,ファームウエアが担う機能について,性質上,メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は,多くの電子機器商品において公知に属する。)から,ファームウエアは,ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると,その改変は,それ自体において,商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。
 そして,このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は,もはやいかなる意味においても,付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また,商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては,ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから,需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。
 したがって,いずれの意味においても,前記(1)の法理における実質的違法性が阻却される根拠はないといわざるを得ず,被告人の原判示第1及び第2の各行為が任天堂の商標権を侵害するものであることは明らかである。」


「ファームウェアが改変された後のゲーム機」はもはや「任天堂Wiiの本質的部分が改変され同一性が失われた、Wiiとは別個の製品」であるから、そのような「任天堂の製品ではない製品」に「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付して販売することは任天堂の商標権を侵害する、且つ、そのような行為は任天堂の商標権の出所表示機能と品質保証機能を損なうものであるから実質的違法性が阻却されることもない、というロジックです(東京地裁平成4年5月27日判決・昭和63年(ワ)第1607号(Nintendo事件)とほぼ同じです)。
詳しい解説は
こちらにあるので、以下はこの判決についての私の感想です。


1 ファームウエアの改変は単なる修理改造ではなく「新たな製造」であるから、そのような「新たに製造した製品」に他社の商標(この場合は任天堂の商標)を付して販売することは商標権侵害となるのですが、それと同時に、そのような「新たに製造した製品」を特許権者の許諾なく販売することはその製品をカバーする多数の特許権の侵害にもなりますね(参考:最高裁平成19年11月8日第一小法廷判決・平成18年(受)第826号(インクタンク事件))。この場合の多数の特許権は、任天堂のものもあるでしょうし、任天堂がライセンスを受けていた他社のものもあるでしょう。
検察官としては、商標権侵害罪(及び著作権侵害罪)として立件するだけでなく特許侵害罪なども含めて立件できたと思いますが、おそらく特許侵害罪については数も多いし主張立証が大変だということでスルーしたのでしょうね。

2 民事事件では、商標権侵害訴訟の控訴審は知財高裁ではなく各地の高裁が管轄を有しており、特許侵害訴訟の控訴審は知財高裁の専属管轄です。
これに対して、刑事事件では、おそらく(刑事訴訟法はほとんど知りません)商標侵害罪だけでなく特許侵害罪についても各地の高裁が管轄を持つのでしょう。
しかし、刑事事件のような重大な事件では、商標権侵害についても知財高裁の専属管轄とすることも考えてよいのではと感じました。他方、刑事事件だからこそ被告人の移送などが大変なので知財高裁を専属管轄にするなどとんでもないということなのかもしれませんが。

posted by mkuji at 10:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 商標