今日の日経新聞に出てた記事ですが、米メーカーのスリーディー・システムズが今年2月に3次元(3D)プリンター「Cube」を約10万円で発売し、利用者が設計した造形物のデータを有償・無償でダウンロードできる仕組みも整えたとありました。
こうなると、3Dプリンターを購入した一般家庭が3Dデータをネットからダウンロードするだけで、スマホケースなどの小物を自宅で製作(3D印刷)することもできるということです。
3D印刷の材料を樹脂でなく混練した食材などにすれば、蒲鉾などの魚肉練り製品などでも、3Dデータを入力するだけで、ドラエモンの顔など自分の好きな形に、自宅で簡単に作れてしまいます。
そのうち、スマートフォン向けアプリ開発で生計を立てている個人や小企業と同じように、食品や小物の3Dデータを制作・販売して生計を立てようとする人も出てくるかもしれませんね。
2012年09月29日
ネットで「モノ」をダウンロードする時代?
2012年09月25日
「赤い靴底」のトレードドレスと特許出願
「赤い靴底」は商標 仏ブランドの主張認める 2012/9/6付けSankeiBiz
あでやかな赤い靴底で有名なフランスの靴ブランド「クリスチャン・ルブタン」が、靴底に赤い色を用いるデザインを同社独自の商標と認めるよう主張していた裁判で、ニューヨークの連邦高裁は5日、商標と認める判断を示した。(中略)ただし商標と認められるのは靴底だけが赤く、他の部分が別の色でコントラストがある場合に限るとした。靴底と他の部分の色の対比が制作者の独自性と判断した。(中略)訴訟ではフランスの高級ブランド大手イブ・サンローランの全体が赤いハイヒールが、ルブタンの権利を侵害しているかどうかが争われた。判決は、赤い色が靴底のみでない場合ルブタンに認めた権利の対象にならないとし、サンローランの靴の販売継続は認めた。
※上の写真(クリスチャン・ルブタンの靴=AFP時事)は朝日新聞からの引用です。http://www.asahi.com/international/update/0906/TKY201209060240.html
2週間余り前の記事ですが、気になったことを記しておきます。
日本でも、「靴底に赤色を用いるデザイン」(商品等表示)を長年使用して周知性を獲得した場合、不正競争防止法上の保護が認められる可能性はあります(不正競争防止法2条1項1号)。
しかし、確かに米国のトレードドレス(直訳すると「商品の衣服」ですが、上記の記事中の米国の「商標」とはトレードドレスのことだろうと思います。追記:米国では商品の色彩も商標登録されますのでこの靴底の赤色も商標登録されているのかもしれません。)や日本の不正競争防止法による保護は可能だとしても、それだけでなく、さらにより強い保護の可能性を探求するなら、米国でも日本でも、斬新なアイデアだとして特許出願することも可能だったのではないでしょうか。
靴底だけを他の部分とコントラストのある赤色などの鮮やかな色とすることにより、靴底なので通常は見えないがたまたま見えたとき人の目を強く惹き付けるという視覚的ないし物理的効果(広い意味での)があると言えますので、「発明性」は認められるだろうと思います。
そして、この「赤い靴底」が開発された当時(ルブタンは1992年から赤い靴底の靴を販売開始)、まだ世の中にそのような実例も発想も無かったとしたら、「進歩性」についても認められる可能性はあるでしょう。
特に、靴底が磨り減っても「赤色」が消えないようにする工夫などを付加すれば可能性はより高くなると思いますが、そこまで限定しなくても、「靴底の材料からは通常在り得ないような赤色などの目立つ色であって靴の他の部分とは異なる色を、靴底の色としたことを特徴とする靴」というようなクレームで特許出願すれば特許が認められる可能性は相当程度あったのではと思います。
まぁあり得ないことですけど、もし当時この「赤い靴底」の話が持ち込まれたとしたら、私だったら、特許出願を勧めたでしょうね。
2012年09月16日
課題解決アプローチと審決取消訴訟の審理範囲など
1.課題解決アプローチ(進歩性判断手法の一つ)
・塩月秀平判事によると、知財高裁は東京高裁の時代から多くの裁判例で暗黙の中にEPOの課題解決アプローチ(米国のTSMテストにも繋がるもの)を適用してきたとのことです。
この課題解決アプローチとは、第1段階で「一番近い先行技術を決定し」、第2段階で「解決すべき客観的な課題を設定し」、第3段階で「一番近い先行技術と設定された客観的課題とから出発して、熟練者にとってクレーム発明が自明であったか否かを考察する」ものです。
この課題解決アプローチと日本の知財高裁が問題としている動機付け・示唆等はほぼ同じ基準だということです。
・この課題解決アプローチでは、第2段階の「解決すべき客観的な課題を設定し」において、設定する「解決すべき客観的な課題」には、主引例の中に明示されている課題だけでなく、従来より自明の課題も含まれるというのがポイントだろうと思います。
2.審決取消訴訟の審理範囲
・塩月判事によると、審決取消訴訟の審理範囲に関するメリヤス編機最高裁判決(最大判昭和51年3月10日・昭和42年(行ツ)第28号)についての現在の知財高裁の考え方は次のようなものです。
(1)審決取消訴訟の訴訟物は「審決の違法性の有無」。
(2)行政訴訟一般では、行政処分と異なる理由に差し替えて行政処分を維持することはできるというのが一般的な考え方であり、メリヤス編機最高裁判決は、この行政訴訟の一般的な考え方を前提としつつ、審決取消訴訟の特殊性から、新規性・進歩性に関する審理範囲を「(審判の中で出された)特定の公知技術との対比における進歩性・新規性の判断に関する誤り・違法性の有無」に制限した(新たな引用例を加えて判断することはできない、とした)。
(3)したがって、逆に、「特定の公知技術との対比における進歩性・新規性の判断に関する誤り・違法性の有無」という枠内においては、特に審理の制限はない。よって、この枠内にある限りは、例えば、審決において発明の要旨認定が誤っていたために又は複数の相違点の中の一つの判断が誤っていたために進歩性なしと判断されたが、判決において発明の要旨を正しく認定しても又は他の相違点について判断した結果やはり進歩性なしという同じ結論になったときは、審決の誤りは結論に影響しないとして審決を取り消さなくてもよい。
(4)但し、このような場合でも、特許庁による前審判断経由の利益(制度的保障)の趣旨などから、これは重要なことだから特許庁の審判においてもう一度審理すべきだという事情を当事者が主張してそれが説得力がある場合は、審決を取り消すことは在り得る。
・「審判の中で出された特定の公知技術との対比」は審決取消訴訟の審理範囲を画するものとして保障されるが、それ以外(発明の要旨・各引用発明・各相違点に関する認定・判断など)は審決取消訴訟の審理範囲との関係では保障されないということです。
よって、無効審判の被請求人(特許権者)側としては、発明の要旨・各引用発明・各相違点に関する請求人や審判官の認定・判断が稚拙だと思ったら、無効審判の段階で、他の認定・判断(審決取消訴訟で行なわれるかもしれない認定・判断)を想定し、その想定した認定・判断にも耐えられるような訂正請求をしておくことが必要になるでしょう(審決取消訴訟の段階では訂正できないので)。
なお、審決と同じ結論になるためには「審判で出された複数の特定の公知技術の中でどれを主引用発明とするか」について審判と訴訟とで異ならざるを得ない(主引例の差し替え)場合は、審理範囲の問題かどうかはともかく(私は審理範囲の問題だと思いますが)、多くの裁判例で審決が取り消されています。
3.その他
・裁判所から「次回で弁論を終結します」などのアクションが出た段階で何も述べないままその後に無効抗弁を提出したときは、多くの場合、時機に後れたものと判断される。
・第一審で出さなかった無効理由を控訴審で新たな主張として出したときであって、第一審で出せたはずなのに出さなかったのは訴訟的な信義にもとるというときは、多くの場合、時機に後れたものと判断される。
・訂正の再抗弁が認められる3つの要件中の第1の要件は、「特許庁に対して適正な訂正審判請求又は訂正請求をしていること」ではなく、「特許庁において訂正審判請求又は訂正請求が認められる可能性があること」と捉えるべき。よって、平成23年改正により控訴審において(審決取消訴訟の提起後などで)訂正ができない場合は訂正の再抗弁は認められないのが基本だが、侵害訴訟の控訴審と同時期に係属した無効審決取消訴訟において審決が誤りだという見通しがついたときは、「特許庁において訂正が認められる可能性」が出てくるので、控訴審において訂正の再抗弁を認める可能性が出てくる。
・従来より訂正の再抗弁の要件の一つとされる「特許庁に対して適正な訂正審判請求又は訂正請求をしていること」は、要件事実ではない(第一審の手続において裁判所の訴訟指揮としてそれを行わせることは裁量の範囲内)。
・侵害訴訟と無効審判が並存している場合、現状では9割以上において審決が判決よりも先行して出されている。
・平成23年法改正による審決予告の導入により、(1)審決予告、(2)これに対して被請求人(特許権者)が訂正請求(134条の2第1項)を提出、(3)これに対して請求人が新たな公知例により無効審判請求書を補正(審判長の許可による。131条の2第2項)、(4)この請求書の補正に対して被請求人が答弁書(134条2項)及び訂正請求(134条の2第1項)を提出、(5)正式な審決、という流れになる。
2012年09月12日
アップルvsサムスンの特許侵害訴訟 東京地裁平成24年8月31日判決を斜め読みしました
ポイントは特許クレーム(問題になった請求項11を末尾に引用しておきます)の解釈と被告製品への当てはめで、クレーム解釈について原告側がしつこく食い下がるのを裁判所が丁寧にかわしていたという感じでした。議論は多岐に渡っていましたが、以下では、参考になると思われた3点について記しておきます。
2.クレーム中の「メディア情報」の解釈
本件特許の請求項11(以下、本件特許クレーム)は、「メディア情報」という特殊な用語を使用して、スマホ等の「メディア情報」とPCの「メディア情報」とを比較して両者が不一致の場合に両者が一致するようにシンクロ処理を行うと規定しています。
これに対して被告製品は、「ファイル情報」の一つである「ファイル名及びファイルサイズ」がスマホとPCで同一かどうかで音楽ファイルのシンクロを行なうかどうかを決めていました。
そこで、少なくとも被告製品がスマホ等とPC間において比較している「ファイル名及びファイルサイズ」が本件特許クレームの「メディア情報」に含まれるかどうか、が争点になりました。被告製品が使用している「ファイル名及びファイルサイズ」(ファイル情報の一種)が本件特許クレームの「メディア情報」に含まれるなら本件特許(方法発明)の間接侵害に該当、含まれないなら非侵害となります。
そして、この点について、裁判所は、次のように「メディア情報」を限定的に解釈し、被告製品における「ファイル名及びファイルサイズ」は本件特許クレームの「メディア情報」に含まれないから、被告製品は本件特許の間接侵害には該当しないと判断しました。
「ウ 本件発明における「メディア情報」の意義(中略)
これらの特許請求の範囲及び本件明細書等の記載からすると,本件発明における「メディア」ないし「メディアアイテム」とは,音楽,ビデオ,画像などのメディアプレーヤーで再生可能なコンテンツを意味し,「メディア情報」とは,そのようなメディアないしメディアアイテムの属性又は特徴をいい,そこに少なくともタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴を備えるものをいうと解することができる。(中略)
(イ) そうすると,本件発明における「メディア情報」とは,一般的なファイル情報の全てを包含するものではなく,音楽,映像,画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち,メディアアイテムに特有の情報を意味するものと解するのが相当である。」
3.被告製品の機能についての事実認定
原告は、被告製品は「メディア情報」の一種である「総時間」(品質上の特徴の一つ)をスマホとPCとの間において比較してメディアアイテムのシンクロ処理をしているという事実を主張し、だから被告製品は本件特許の間接侵害に該当すると主張しました。
しかし、裁判所は、次のような事実認定を行なって、原告の上記事実主張を否定しました。
「(2) 「総時間」による比較について
原告は,被告各製品及びパーソナルコンピュータが,本件発明の「メディア情報」の一種である「品質上の特徴」に含まれる「総時間」を比較して,メディアアイテムのシンクロ処理をしているとして,被告方法は構成要件G1及びG2を充足すると主張する。
しかし,前記第2,2(5)イ記載のとおり,被告各製品は「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で,保存してある楽曲ファイルのシンクロを行うもの(被告方法)であるところ,証拠(乙1ないし6,8及び9)によれば,被告各製品は,「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で音楽ファイルのシンクロを行うに当たり,ファイル名とファイルサイズを用いて,それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定しているものであって,タイトル名,アーチスト名及び総時間の比較を行っておらず,音楽ファイルのタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても,ファイル名及びファイルサイズが同一である限り,音楽ファイルのシンクロが行われないことが認められる。
この点に関して,甲10,11,19,26,30及び31に示されたテスト結果によれば,一見すると被告各製品が,パーソナルコンピュータとの間でシンクロを行う際,メディアアイテムのタイトル名,アーチスト名及び総時間を比較しているようにみえ,この点で,上記乙1ないし6,8及び9のテスト結果と矛盾する。しかし,上記各甲号証のテストで用いられたタイトル名,アーチスト名又は総時間が異なるメディアファイルについて,それぞれのファイルサイズが同一であることは何ら示されていない。そうである以上,上記各甲号証においては,ファイルサイズを比較することによって一致・不一致を判定している可能性も否定できないから,上記各甲号証を根拠として,被告各製品が,原告が主張するように,総時間を用いてメディアファイルの一致・不一致を判定していると認めることはできないというべきである。
よって,被告方法において,「総時間」の比較によってメディアアイテムのシンクロがされているとの原告の主張は採用することができない。」
4.明細書本文に「および/または」とありクレームに「および」とある場合の解釈
原告が明細書本文には「および/または」とあるからクレーム(「および」だけがある)も同じように解釈すべきだと主張したのを、次のように述べて退けました。まぁ当たり前なのですが。
「(イ) また,原告は,本件明細書等の段落【0020】及び【0021】には,シンクロを行うべきか否かを判断するためにメディアファイルについて記憶された全ての情報が比較される必要がないことが明記され,シンクロを行うべきか否かを判断する際に,メディアファイルに関する属性のいくつかが比較される実施態様について記載されているから,被告が主張するように「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴の全てが比較されることは前提とされていないと主張する。
確かに,本件明細書等の段落【0020】には,「・・・プレーヤーメディア情報は,ホストコンピュータ上のメディアデータベースからの第1メディア情報と比較される。・・・例えばメディアアイテム(例えば曲を表すオーディオファイル)は,曲目,アルバム名,および/またはアーチスト名のような,そのメディアアイテムの特徴または属性に関するメディア情報を用いて比較されえる。」と記載され,「または」との文言が用いられており,また,段落【0021】には,「メディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性(例えばタイトル,アルバム,トラック,アーチストおよび作曲家)が,ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致するなら,異なるデバイス上に記憶された2つのメディアアイテムは,さらなる属性または特徴がこれらのメディアアイテムが互いに完全な複製でないと判定されえるとしても,同一であるとみなされえる。」と記載されており,特定のメディア属性が一致する場合に,他の属性又は特徴が一致せず,完全な複製でないと判定されるときでも,同一とみなされる(すなわち,シンクロされない)ことがあり得ることが示されている。
しかし,上記アのとおり,本件発明の特許請求の範囲の記載からは,構成要件G1及びG2におけるメディア情報の比較は,「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較を要求していることが一義的に明らかであるから,原告が指摘するような本件明細書等の記載をもって,特許請求の範囲の文言を無視して,同文言を別異に解釈しなければならないものではない。」
5.終りに
本件ではクレーム中の「メディア情報」の解釈が最も大きな論点だったようですが、この点について控訴審で別の解釈がなされる可能性は余り高くないと感じました。
また、原告は、均等論、例えば被告製品における「ファイルサイズ」(ファイル情報の一つ)が同一かどうかによるシンクロ処理が、特許クレームにおける「総時間」(メディア情報の中の品質上の特徴の一つ)が一致するかどうかによるシンクロ処理と均等だという主張を、第一審では出さなかったようです(少なくとも判決には出ていません)。しかし、仮に主張しても、置換可能性と置換容易性は認められるとしても、相違する部分が特許発明の非本質的部分であるという要件(均等の第1要件)が認められない可能性が高いでしょう。
特許第4204977号の請求項11:
メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって,前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し,前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており,前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは,前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に,メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名,アーチスト名および品質上の特徴を備えており,該品質上の特徴には,ビットレート,サンプルレート,イコライゼーション設定,ボリューム設定,および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し,両者が不一致の場合に,両者が一致するように,前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。(アンダーラインは筆者)