漫画やアニメで人気の「クレヨンしんちゃん」の主人公のイラストなどが、中国で勝手に商標登録され商品が販売されていたことについて、中国の裁判所は、日本の出版社に対する著作権侵害だと認定し、企業にイラストなどの使用をやめるよう命じる判決を言い渡しました。(中略)(追記: 上の記事は、中国企業が「クレヨンしんちゃん」のイラストの商標権を勝手に取得し且つ使用していたところ、それを日本の双葉社が著作権の侵害だとして訴えた事案で、中国の裁判所は、たとえ商標権を保有していても著作権の侵害でありその商標登録も無効だと判断したというものです。つまり、同じイラストについて中国国内で商標権と著作権が別々の会社に帰属し、それぞれが商標権と著作権を武器に争ったという事件で、中国の裁判所は著作権が優先するとしました。)
漫画を発行している出版社の双葉社によりますと、主人公の「野原しんのすけ」のイラストやタイトルの文字が中国国内で勝手に商標登録されて商品に使われていたことが分かり、双葉社はイラストを印刷した靴などを販売していた中国の企業に対し、2004年に著作権侵害の訴えを起こしていました。(中略)
1審の上海市第一中級人民法院は、先月下旬、中国企業による著作権の侵害だと認定し、イラストなどの使用停止と日本円でおよそ300万円の損害賠償を双葉社に支払うよう命じました。
裁判所は、イラストなどの商標登録も無効と判断していて、双葉社は「主張が認められるまで8年かかったが、『クレヨンしんちゃん』の独創的なイラストが、現地の法律でも保護されるべきだと判断されたことは大変有意義だ」とコメントしています。
たまに顧客から「著作権と商標権はどちらが強いの?」と聞かれることがあります。これは異種格闘技のようなもので、常にどうとは言えないのですが、少なくとも同じ対象について著作権と商標権との間で争いになった場合は概ね著作権の方が強い(優先する)と言ってよいと思います。
そもそも権利の発生を時系列で見ても、キャラクタのイラストを創作した時点でその著作権はベルヌ条約の下で世界各国で発生するのであり、その著作権が発生した後に、そのイラストについてさらに商標権も取得したいという場合だけ各国の特許庁に出願するという順序ですから、商標権よりもずっと前に著作権が発生しているのです。
日本の商標法でも、29条が、商標権で保護されている商標であっても、商標出願前に発生していた他人の著作権と抵触するときは、その商標を使用できないとしているのはこの趣旨です。
では商標権なんて無意味なのかというと、そんなことはありません。なぜなら、例えば、会社名・商品名・サービス名などを示す言葉、単純な図形やその組合せなどは、芸術性・著作物性がないため著作権の対象になりませんが、商標権なら保護対象にできます。逆に、楽曲や文章などは著作権の対象になりますが商標権の対象にはなりません(今のところ音の商標権は日本では規定されていません。また、ある程度長い文章は、全体を図形として見られる場合は別として、自他商品識別力が認められないと思います)。
このように著作権と商標権は、保護対象が一部は重複していますが、かなりずれていますので、それぞれに独自の存在意義があります。
しかし、保護対象が重複している部分、例えばキャラクタのイラストについては、上記のとおり著作権が商標権に優先します。さらに、著作権の方が、権利発生の費用も掛からないし、存続期間も著作者の死後50年と長いというメリットがあります。キャラクタのイラストについて商標権を取得するメリットは、著作権はその保有を立証することが難しい場合があるが商標権なら常に立証が容易、10年毎の権利更新を繰り返すことで100年以上の権利存続も可能などの点でしょうか。
ちなみに、たまに顧客から「著作権と特許権はどちらが強いのか」と聞かれることもあります。著作権と特許権も、その保護対象が大きくずれているので、それぞれに独自の存在意義があります。
しかし、保護対象が事実上重複する部分、例えばコンピュータ・プログラムについては、特許権の方が権利範囲が広いといえます。なぜなら、プログラムの著作権は、1つのアイデア毎にではなくそれを実現するための様々な個別のプログラム=表現毎にそれぞれ個別に発生しますが、特許権ならその1つのアイデア毎に権利を取得できる(つまり、その1つのアイデアを実現するための様々な個別のプログラム=表現の全てをカバーする権利として、1つの特許権を取得できる)からです。