ゆうメール:日本郵便、商標権訴訟で敗訴 東京地裁 2012年1月12日 毎日jp 郵便事業会社(日本郵便)の「ゆうメール」と同じ名称でダイレクトメール(DM)サービスを展開する札幌市のDM企画・発送代行会社「札幌メールサービス」が商標権を侵害されたとして、日本郵便に広告物配布での名称の使用差し止めなどを求めた訴訟で、東京地裁(阿部正幸裁判長)は12日、請求を認める判決を言い渡した。日本郵便は即日控訴した。
日本郵便の「ゆうメール」の10年度の引受数は約26億2158万通に上る。メール社は日本郵便がサービスを始める前の04年6月、「広告物の各戸配布」などのサービスに「ゆうメール」という名称を商標登録していた。
日本郵便は「広告物に限らず、荷物も配達している」として、メール社が商標権を持つサービスとは内容が異なるので侵害に当たらないと主張。だが判決は、日本郵便が商品カタログやDMなどの広告物配送にゆうメールを利用できると宣伝しているなどとして、「サービスは類似している」と退けた。
そのうえで判決は、旧郵政公社が05年1月、メール社の登録が既にあることを理由に商標登録出願を拒絶され、サービス分野を「鉄道や車両による輸送」などに変えて登録を受けた経緯を検討。「郵政公社から業務を引き継いだ日本郵便があえて『ゆうメール』の商標を使用している」と批判した。
本件についてはまだ判決書を見ていない(よって事実関係については私なりの「予想」がかなり入っています)のですが、現時点での感想・コメントを書いておきたいと思います。
札幌メールサービスは第35類の「各戸に対する広告物の配布」などについて「ゆうメール」の商標登録(第4781631号)を取得していた。これに対して、日本郵便側(郵便事業株式会社)は第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」などについて商標登録(第4820232号)を取得していた。このような状況の下で、「日本郵便が『ゆうメール』の商標を使用して広告物の配達サービスを行うこと」が札幌メールサービスの商標権を侵害するかどうかが問題になったものです。
これは、根本的には、「広告印刷物を各戸へ配布・配達する」という現実の1つのサービスが、商標法上は、第35類の「各戸に対する広告物の配布」と第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」との2つの役務に関連・該当してしまう(追記:第35類の「パンの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にも該当します)ということから、問題が生じたものです。しかし、このようなことは、商標実務上では珍しいことではないのですね。例えば、自家製の焼き立てパンをその場で販売・飲食させる場合は、第30類の「パン(の製造販売)」と第43類の「パンなどの飲食物の提供」の2つに該当することになるので、この2つの商品・役務について商標登録しておかないと、十分な権利保護ができません。
以上を前提に、考えたことを書いておきます。
1.まず、札幌メールサービスが商標登録した第35類の「各戸に対する広告物の配布」には、「広告物の発送」と「広告物の配達」が含まれると思います。そして、後者の「広告物の配達(外注を含む)」は、日本郵便側が商標権を取得している第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」にも該当する行為となりますので、札幌メールサービスが顧客との契約の中で「広告物の配達(外注を含む)」をも請け負ってそれを履行していたとすれば、日本郵便側の商標権を侵害しているのではないかという問題も生じると思います(もしそうなら、日本郵便側は商標権侵害を理由とする反訴を提起してクロスライセンスなどに持ち込むことができます)。
しかし、札幌メールサービスは、第35類の「各戸に対する広告物の配布」についての商標権を既に取得しており、この第35類の「各戸に対する広告物の配布」には「広告物の配達」も含まれるとすれば、札幌メールサービスの行為は自らの商標権により適法性が確保されているということになるのでしょう(商標権は、特許権のような単なる禁止権ではなく、専用権なので)。
2.次に、本件差止め判決を受けた日本郵便側の採り得る方策ですが、日本郵便は、少なくとも第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」について「ゆうメール」の商標登録を取得しているのだから、「ゆうメール」の紹介パンフレット中から「広告物の配布もできます」という表示を全て外すようにすれば、商標権侵害はなくなり、「ゆうメール」の使用が可能となるのではないでしょうか。
つまり、日本郵便は、「印刷物の配達を依頼されるときその印刷物の中身が広告かどうかは一切関知しない、印刷物その他の物品の配達を行うだけだ」という立場を表明しておけば、その行為は第39類の「鉄道・車両・航空機などによる輸送、メッセージや物品の配達」についての商標権の範囲内である(第35類の「各戸に対する広告物の配布」とは関係ない)として適法性を獲得できるのではないでしょうか。
これは日本郵便側が直ぐにでも取り得る対策です(ただ、そうすると営業上のデメリットが大きいのでなかなか踏み切れないでしょうね)。
3.また日本郵便側の方策としては、札幌メールサービスの第35類の「各戸に対する広告物の配布」についての「ゆうメール」の商標登録を取消又は無効にすることも考えられます。
調べたところ、日本郵便は、第35類の「各戸に対する広告物の配布」などについて「ゆうメール」を商標出願中です(商願2010−046830 現在、拒絶理由通知に対して補正書・意見書などを提出している段階)ので、その気でいると思います(追記:実際に既に無効審判請求をしているようですね)。
まず、もし札幌メールサービスが「各戸に対する広告物の発送」を(直近3年以上)行っていないのなら、不使用取消審判請求(商標法50条)で商標登録の取消が可能です(実際上、この可能性はないでしょうが)。
また、商標登録の無効審判請求(商標法46条)も考えられます。無効理由としては、例えば商標法4条1項7号の公序良俗違反(日本郵便の「ゆうメール」は公益的な事業なのでそれと混同する名称の使用は公序良俗に反する)が考えられますが、日本郵便は国が株を持っているとしても民間企業なので、この理由は少し苦しいかなと思います。
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posted by mkuji at 17:31|
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