2011年11月19日

「・・・の上方部分」の解釈

「・・・の上方部分」という文言はよくクレーム(特許請求の範囲)で使われていますが、この用語はかなり多義的な言葉として解釈が問題になることがあります。

平成19年(行ケ)第10110号知財高裁判決(発明の名称:椅子の背骨支持システム)は、

「仙骨の上方部分」の意味について、

(1)仙骨を含まない,それ(仙骨)よりも上方の部分、

(2)仙骨の一部であって,その(仙骨の)上下方向の中央より上の部分、

の2つの意味が在り得るところ、そのいずれを意味するのかは上記の文言だけからは一義的に明らかではないので、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈するしかないとして、結局、明細書の記載を参酌して、上記(2)の意味だとしました。

「・・・の上方部分」が、(1)「・・・よりも上方の部分」(・・・を含まない部分)の意味なのか、(2)「・・・の中の上方の部分」(・・・の一部)の意味なのか、意識してクレームを作成する必要があると思います。

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2011年11月10日

訂正についての法改正

今回の改正法(平成23年法律第63号)では、特許の訂正についてもかなり大きく改正されています。

気になった点を以下に記しておきます。

1.新法において訂正審判の請求単位・確定単位(134条の2、155条、167条の2など)に関して導入された「一群の請求項」とは、「1つの独立項とそれを引用する従属項とから成るグループ」のことで、政令でもそのように定められるようです(パブコメ中)。

新法の126条1項4号で、「従属項を独立形式に訂正すること」が訂正目的として追加されましたが、これは、特許権者が所望の従属項を「一群の請求項」から外すための手段を特許権者に与えるために定められたものなのですね。

2.今回の改正法(平成23年法律第63号)の附則について、重要かなと思う部分は次のとおりです。

(1)同附則2条18号 この法律(平成23年法律第63号)の施行日(平成24年4月1日)の前に請求された審判については、その審判が確定するまでは、なお従前の例による。

(2)同附則2条21号 この法律(平成23年法律第63号)の施行日(平成24年4月1日)の前にした訂正審判又は訂正請求による訂正に係る特許の無効(旧特許法第123条1項8号(訂正要件違反)に係る無効に限る)については、なお従前の例による。

(3)上記(1)のように、同附則2条18号は、改正法の施行日(平成24年4月1日)以後に請求される審判(訂正審判や無効審判)については改正法が適用される、と定めています(反対解釈)。

しかし、ここでの「改正法」とは従前の条文が「改正で書き換えられた部分」だけなので、それ以外の部分、例えば特許法126条の3項(新規事項追加禁止)、4項(実質上の拡張・変更)、及び5項(独立特許要件)などは「改正で書き換えられた部分」ではないため、依然として改正前の条文が適用されるようです。

3.上記2との関連ですが、特許法のようにしばしば改正される各改正法の附則の経過措置の相互関係は複雑でなかなか理解しがたいところがあります。

例えば、平成10年(行ケ)第407号審決取消請求事件判決は、「平成5年改正法(平成5年法律第26号)の施行日(平成6年1月1日)より前に特許出願がされたものの、平成5年改正法の施行日(平成6年1月1日)以降に特許査定が確定して設定登録がなされ、その特許に対して、その後になされた無効審判及びその中における訂正請求(訂正審判でも同じ)」についての、例えば新規事項追加禁止(訂正要件の1つ)の判断に関しては、平成5年法律第26号(平成5年改正法)附則2条1項および平成6年法律第116号(平成6年改正法)附則第6条1項により、平成5年法律第26号の126条3項(新規事項追加禁止)が依然として適用される、と述べています。

それは、(1)平成5年法律第26号附則2条1項が「この法律の施行の際(平成6年1月1日)現に特許庁に係属している審判・・・については、・・・その・・・審判・・・について・・・審決が確定するまでは、なお従前の例による。」と規定しているところ、本件の無効審判(及び訂正請求)は、この「なお従前の例による。」場合には該当せず、且つ、

(2)平成6年法律第116号附則6条1項が「・・・この法律の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正及び訂正に係る特許の無効については、なお従前の例による。」と規定しているところ、本件の無効審判(及び訂正請求)は、この「なお従前の例による。」場合に該当するから、ということです(ややこしいですね)。

4.(追記)審決予告

改正法164条の2で、無効審判請求における「審決予告」が創設されました。この審決予告は、従来は(改正後も同じですが)無効審判の審決(第一次審決)が審決取消訴訟で取り消された後は改めて審決(第二次審決)が出されることになりますが、その第一次審決に相当する位置づけです。

この審決予告が出たときは、被請求人は指定期間内に訂正請求ができます(新法の164条の2第2項、第134条の2第1項)。

この訂正請求が出たときは、請求人は、審判長の許可に基づいて、無効審判請求書の請求理由を(要旨変更にならない範囲内で)補正できます。この無効審判請求書の請求理由の補正ができる期間は、審理終結通知が出るまでは特に制限はないのですが、実際には、審判長からの、訂正請求が出たことによる弁駁書提出の指定期間(30日。施行規則による)内に、請求人から請求理由の補正書が出されることが多いようです。

なお、訂正請求を出せる場合・期間は特許法134条の2第1項にまとめられています。

特許法134条の2第1項によると、訂正請求ができるのは、次の4つの場合です。

(1)134条1項又は2項の答弁書提出期間内

(2)134条の3第1項の無効審判の請求不成立審決に対して審決取消訴訟が提起されその取消判決が確定して(つまり請求不成立審決が取り消されて)無効審判の審理が再開される場合において、「取消判決の確定から1週間以内」に被請求人から申立があった場合に限り行われる、審判長による指定期間内

(3)153条2項の場合(職権審理による無効理由通知の意見書提出期間内)

(4)164条の2第2項(審決予告の後の指定期間内)の場合

5.訂正審判/訂正請求による訂正の確定

法改正とは関係ありませんが、次のようになっているようです(私見が入っています)。

・訂正を認める審決は、訂正審判の相手方は特許庁なので、「送達」されたとき、誰も争えない状態になり「確定」する。

・無効審判の対象となっている請求項についての訂正請求による訂正を認める審決の部分は、審決が確定したとき、「確定」する。

・無効審判の対象となっていない請求項についての訂正請求による訂正を認める審決の部分は、審決(無効審判の請求そのものが成立か不成立かに拘わらず)が「送達」されたとき、誰も争えない状態になり「確定」する。

 もともと「いつ、どのような場合に、審決や判決が確定するか」についての明文規定はないようです。というか「再審などの特別な手段を除き誰も争えない状態になったとき」が「確定したとき」なのですね。

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posted by mkuji at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許法改正