2011年07月18日

発明の捉え方とクレームと進歩性

最近同期の弁理士から10年ぶりにメールをもらいました。日本弁理士会の月刊誌「パテント」(2011年3月号)に「良い明細書を書く工夫−発明の捉え方」についての座談会が出ていまして、これに私も参加してたので感想をくれたのですが、クライアントとの仕事の進め方の関係が大きいのではという感想(後述)でした。

この座談会に出て感じたのは、発明の捉え方は、同じ弁理士でもいろいろな考え方があって大きく違うんだなというか、私はいろいろな考え方がある中でも少数派に属するんだなということでした。

私の場合、クライアントの発明者から発明の内容を聴取するとき、発明者の説明を聴き始める早い段階から、今回の発明は何かだけでなく、クレーム(特許請求の範囲)の全体の構成をどの要素とどの要素との組み合わせにするか、進歩性のありそうな部分は何処でそれをクレームの中でどう書くかを、頭の中で同時に一体として考えるようにしており、発明者に対しても説明の途中で割り込んでそのことを話したりします。

だから、発明者と打ち合わせをして、発明を一応捉えられたと思うときは、クレームの構成案もラフな形ですが出来上がって、それを発明者とも共有し合意したという状態になっているのが理想です(そうならないこともありますが)。

なお、上記のやり方は、クライアントが自分で先行調査をして進歩性がありそうだから出願したいと考えた発明(私の方はまだ先行調査の資料は見ていない発明)とか私の事務所に調査を依頼されるなどして私が調査資料を見た後の発明について、打ち合わせをする場合です。これに対して、まだクライアントも私も先行調査をしていない発明については、いきなりクレーム案まで考えるのは無駄なので、大体の内容を聞いた後は調査の話などをするようにしていますが、その場合でも「進歩性がありそうな部分」は何処かを発明者と話し合います(そうしないと調査ができません)。

結局、弁理士にとって発明とはクレームそのものだと私は思っているのですね。

逆に言うと、クレーム作成が終わったときが発明を捉える作業が終わったときだと私は考えています。

その意味で、例えばクレームの記載スタイル(五月雨式とか、・・と・・と式など)は弁理士によっていろいろ異なっているのですが、その記載スタイルが発明の捉え方に影響を及ぼすことも少なからずあると私は考えています。

このような考え方に対しては、技術者(発明者)の発明と弁理士がクレームで表現する発明とは別のもので、弁理士は、まずは技術者の発明を十分に把握し、その後で、それと同じか別の発明をクレームに表現するのだという考え方があり、弁理士ではこのような考え方の人が多いだろうと思います。

私も「技術者の発明と弁理士がクレームで表現する発明とが別のもの」となることはあり得る(特に中間処理などの段階で)と思うので、発明とクレームについての考え方はそんなに違っていないと思います。ただ、発明の把握とクレーム作成との順番や方法が違うのでしょう。

というか、私の場合は、クライアントとの関係で実際に上記のような方法での仕事の進め方をやっているというだけのことかなとも思います。発明の捉え方の方法の違いは、弁理士の発明やクレームについての考え方の違いから出てくることもあるでしょうが、それよりも、クライアントとの実際の仕事の進め方の関係から結果的にそうなっているという面が大きいのかなと思います。

まぁ、私の場合は、上記のような方法で今までやってきましたし、これからもそのようにやっていくつもりです。

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posted by mkuji at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クレーム

2011年07月01日

中国版「新幹線」特許申請への対抗策

パクリ特許取得阻止に断固対抗 中国版新幹線、試される知財戦略

 川重は米国などで新幹線の製造技術に関わる特許は出願していない。中国に特許を握られると、価格競争では太刀打ちできないだけに、市場参入で不利になりかねない。

 まず対抗手段として取り得る策は、各国の特許庁への働きかけだ。出願された技術について「自社の技術と同じ」と情報提供することで、特許取得を阻止できる。仮にどこかの国で特許が登録された場合、川重側は再び特許登録の無効を求めた審判を申し立てたり、各国の裁判所に特許の登録取り消しを求め提訴することも可能だ。

 特許紛争に詳しいシティユーワ法律事務所の尾崎英男弁護士は「川重の技術に中国がどれだけ独自性や新規性を加味したかがポイント。それが認められなければ特許は登録されない」と話す。知的財産をどう守るのか。日本の国家戦略が試されている。(渡部一実)

川崎重工業などが中国に新幹線の技術供与をしたところ、その改良技術を中国が独自技術だとして国際出願したがどうなるのか、これは中国に限らず、国内の企業同士でも日常的に起こり得ることで、実際にそのような事例の相談を受けたことも何回かあります。

以下は私見ですが、次のような場合分けをして考えるべきと思います。

1.A社がB社に未公開ノウハウなどの技術を供与し、その技術に基づいてB社が別の技術を発明したが、その発明にA社も関与していたと言える場合(追記:例えば、A社がB社に提供した未公開ノウハウが「A1」で、B社が開発した発明が「A1+B」の場合)

この場合は、A社とB社の共同発明なので、A社が単独で出願すると、その発明のA社の共有持分を盗んだ(冒認出願)ということで、拒絶理由・無効理由になります。

実は、日本の現行法の下では、このような場合は、出願中なら、その出願発明の特許を受ける権利についてのA社の共有持分を確認する確認訴訟を提起して確認判決を得て、その確認判決(譲渡証書に代わるもの)を添付して出願人変更届を特許庁に提出すれば、特許出願についてA社単独名義からA社及びB社の共有名義への変更が認められます。ただ、改正前の現行法では、特許後は、それはできなかったのです。おそらく、出願中は届出に基づいてですが特許庁の権限で出願人を認定、変更できるのですが、特許後はそれはできないから給付判決が必要なのだと思います。それで、今回、特許法が改正されて、改正後の74条で、特許後は、A社はB社に対して共有持分の移転を求める給付訴訟を提起できるようになりました。

(追記:なお、B社が独自に開発したと称する「別の技術(発明)」なるものが、実はA社がB社に供与した未公開ノウハウ(発明)との関係では実質的に同一発明だったという場合、例えば、A社がB社に提供した未公開ノウハウが「A1」でB社が開発した発明なるものが「A1+b」だったがその中の「+b」は周知技術の付加に過ぎないため「A1+b」は「A1」と実質的同一だと言える場合も、B社の特許出願は冒認出願となります。上の記事の尾崎英男弁護士の発言はたぶんこの場合を言われてるんでしょうね。)

2.A社がB社に未公開ノウハウなどの技術を供与し、その技術に基づいてB社が別の技術を発明したが、その発明にA社の関与がないと言える場合(追記:例えば、A社がB社に提供した未公開ノウハウが「A1」で、B社が開発した発明が「A2+B」の場合)

この場合は、A社とB社の共同発明とはいえないので、A社が単独で出願しても、その出願発明についての特許を受ける権利のA社の共有持分を盗んだ(冒認出願)ということ(拒絶理由・無効理由)にはならないと思います。

技術供与契約では、提供された技術に基づいてライセンシーが改良技術を開発した場合はその特許権または特許を受ける権利をライセンサーと共有にする(一部譲渡する)とか改良技術についてライセンサーが実施権を有するという条項(グラントバック条項)、あるいは少なくともライセンシーはライセンサーと協議の上で出願をするという条項などを入れることが多いので、その場合は契約で処理できます。

しかし、技術供与契約にそのような条項を入れてなかった場合、かなり困った問題になりますが、おそらく、上の記事の中国の「新幹線」国際出願の問題はそのような場合なのかもしれません。

特許出願すれば1年半後に公開されますが、その結果、未公開ノウハウを公開されたのと同じ結果になれば、技術供与契約中の秘密保持条項の違反(日本なら不正競争防止法の秘密保持規定の違反)などの追及が可能と思います。

3.なお、B社がA社から提供された技術に基づいて独自に発明して特許出願した場合でも、それが公知技術(川崎重工業の技術で公開されたものを含む)との関係で新規性・進歩性を有しないためにどうせ特許にならないだろうという場合は、そもそも問題にする意味はありません。ただ、A社が供与した技術が「未公開の価値のあるノウハウ」だったのなら、それに基づいて開発された技術は新規性・進歩性を有することが多く、B社の出願は特許される可能性が高いと思います。その場合でもA社には自己の事業の範囲内で先使用権(79条)はあるのですが、B社が特許を取れば、営業上はB社の方が有利になります。

4.また、上記1の場合や上記2の場合で特許を受ける権利の一部(例えば半分)を譲渡するという条項がある場合はもちろんですが、上記2の場合で特許を受ける権利の一部を譲渡しろという条項がない場合でも供与先との力関係などから共同出願人に加えろと要求できる場合もあると思います。

しかし、これらの場合でも費用の問題も考えるべきと思います。出願の権利を半分よこせというからには、出願にかかった費用も半分出すのが筋だと思います。そして、費用の半分を出して共同出願人になったとしても、結局、それが特許にならなかったら意味がないことになりますし、仮に特許になっても実用性や価値があるものではなかったなら、費用的に無駄になるという問題もあるからです。

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posted by mkuji at 22:06| Comment(3) | TrackBack(0) | 冒認出願