2011年02月19日

「Googleが仕掛ける特許破壊」とは?

日経エレクトロニクス(2011/2/21号)の「Googleが仕掛ける特許破壊」というタイトルの記事を見ました。

記事を私なりに理解したところでは次のとおりです。

現在のネット上の代表的な動画フォーマットである「H.264」を利用する事業者は、アップルやパナソニックなどの日韓米の電機メーカーが中心として参加している特許プールの管理会社(米MPEG LA, LLC)にロイヤルティを支払う必要があります。

これに対して、Googleが、今年1月、WebブラウザーのChromeでのH.264のサポートを2ヵ月後に打ち切り、Googleが中心になって開発・普及活動をしているロイヤルティ・フリーのWebMだけに注力すると宣言したそうです。その理由はもちろん、ロイヤルティ・フリーのWebMが普及した方が、インターネットのトラフィックが増えてGoogleの広告表示も増えて利益が増大するからです。

そして、このGoogleの動きに対して、Googleが公開したWebMを構成するソフトウェアのソースコードを分析するとH.264の特許を侵害している可能性が高いと指摘する専門家がかなりいるそうです。

そこで、このようなWebMがH.264の特許を侵害する可能性に対して、Googleが仕掛けた「奇策」が、WebMのライセンス条件としてつけた「ライセンスを受ける者(又はその代理人、排他的ライセンス機関)がVP8(WebMの一部を構成するソフトウェア)に対して特許侵害の訴訟を提起したりそれを依頼または同意した場合はVP8に関する特許権のライセンスを停止する」という特許付帯条項だということです。

つまり、動画配信サービスで圧倒的存在感を持つYouTube(現在はH.264とWebMとの両方ともに対応)をGoogleが将来的にWebMだけに対応させるようになると、電機メーカーはYouTubeに対応する機器を出し続けるためにはWebMのライセンスが必要になるが、そうなると、この特許付帯条項により、電機メーカーはWebMに対して特許侵害訴訟を提起できなくなる、これは電機メーカーに「強制的なクロスライセンス」をさせるもので、電機メーカーの特許に対する「特許破壊」だ、と日経エレクトロニクスの記事は主張しています。

「奇策」と言ったり「特許破壊」と言ったり、かなり激しい言葉を使っているので、日経エレクトロニクスはどうしたのかという感じがしました。
一般に、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことをライセンス契約の解約理由とする条項は広く認められていると思います。他方、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことそれ自体を禁止する条項は独禁法違反の疑いがあるとされています。

そのような「ライセンス対象の特許が無効だ」と主張して争ったらライセンスを解約・停止するというのと異なって、「ライセンス対象のVP8またはWebMというソフトウェア製品またはこれを組み込んだ機器が自社の特許を侵害する」と主張して訴訟を提起したらライセンスを停止するという条項を入れたから、「奇策」で「強制的なクロスライセンス」で「特許破壊」だという主張なのでしょうね。確かに、独禁法の禁止する抱合せ販売に近い感じはします。

なお、日経エレクトロニクスの記事によると、上記のGoogleがWebMのライセンスに採用した特許付帯条項は、最近のオープンソース・ライセンスのコントリビューター(コードを寄稿する開発者)に対して「貢献したコードに対して後から特許権侵害を申し立てない」と約束させる手法(特許を持っていることを隠して特許侵害のコードを意図的に埋め込んで後から特許侵害だと主張するケースが在り得るため)をWebMの利用者に拡大したものだろうということです。

ただ、何か、今回の日経エレクトロニクスの記事には違和感を持ちました。従来より日経エレクトロニクスの基本スタンスは国内電機メーカーのサポーター的立場でありそれは良いことだと思います。しかし、今までの日経エレクトロニクスの記事は、そのスタンスに立ちながらもユーザーの視点や将来的な技術の流れなどにも目を配った客観的な記事が多かったと思います。その点から見て、今回の記事は、ユーザーの視点や将来的な技術の流れの視点がない、Google敵視だけという偏った感じがして、違和感が残りました。

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posted by mkuji at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ライセンス契約

2011年02月14日

「キャラクターや文字の一部を逆さまにプリントしたインナー」の発明

バンダイがキャラクターの絵や文字の一部を逆さまにプリントした「さかさまさかあったかキルトインナー」を販売しています。

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インナーのデザイン内の一部に逆さまの絵や文字がプリントされていて、子供が着用した状態で上から見下ろすと何が描かれているか分かる(隠し絵のようになっているようです)ので、

子供が面白がって着替えを嫌がらなくなるそうです。

技術的には「インナーの布に絵や文字の一部を逆さまに印刷する」というすごく簡単なアイデアですが、「逆さまに印刷して、それを着用して上から見下ろしたら、何が描かれているか、着用した人に分かりやすい」というのは広い意味での自然法則に該当します。そして、この自然法則を利用することにより「子供が面白がって着替えを嫌がらなくなる」という効果が得られている訳です。

よって、このアイデアは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当し、発明性が認められます。そして、特許出願前に類似のアイデアが公知になっていなかったら、進歩性が認められて特許が成立する可能性はあると思います(バンダイが特許出願などしてるかどうは全く調べてないし知りませんが)。

こういう「技術的レベルは決して高くないが発想力で勝負」というような発明、個人的に、私は好きなのですね。

こういう発想力が決め手の発明は、なかなか進歩性が認められないのですが、もし進歩性が認められて特許になったら強力な武器になることが多いと思います。

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posted by mkuji at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2011年02月10日

「ワンピース メガヒットの秘密」を見て

少年ジャンプで連載中の「ワンピース」をNHKクローズアップ現代で特集していました。

私も昔読んでたことがあったので興味をもって見ました。

「ワンピース」全61巻の累計発行部数は2億冊、大ヒット中のお化け商品で、読者の9割が20〜30歳代の大人ということです。

番組では親子でアニメを見ながら涙を流す母親、この漫画を読んでウツから立ち直った40歳の男性(座右の書はワンピースのコミックで、全61巻に付箋がたくさん貼ってありました)が紹介されていました。

なぜこの漫画が人気なのか。

番組では、仲間同士の深い絆や信頼に憧れながら現実の世界でそれが得られない人が多いことがヒットの秘密なのではないかという見方が甲南女子大学の教授(馬場伸彦氏)から出されていました。

現代の就活ではコミュニケーション能力が決め手と言われ、そこでいうコミュニケーション能力とは、空気を読むこと、空気を読むとは、その場の雰囲気を瞬時に察知してそれに合わせること、その場の雰囲気に合わせてその場を繕おうとする限りは本音で話すことはできない、本音で話すことができなければ本音で話せて信頼できる仲間は出来にくい、だから、現実の世界で得られない「本音で話せる仲間との深い絆」を描いているワンピースの世界に憧れる、という図式だろうということです。

今の学校カーストの中でのイジメの恐怖や就職氷河期の閉塞感などで、皆が本音で話すことに臆病になっているのではないかと感じます。今必要なのは、空気を読むコミュニケーションを超えて行くこと、孤立を恐れず本音で語ることなのではないかと感じました。

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posted by mkuji at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑談

2011年02月03日

韓国のデザイン保護法(意匠法)の改正

旧正月で日本に遊びに来ていた韓国弁理士と会ってたのですが、韓国では、EU各国が中心に加盟している分類に関するロカルノ協定に加入した関係で、デザイン保護法が大幅に改正され来年1月から施行されるそうです。

その改正内容が今の日本の意匠法から見るとぶっ飛んだ内容で驚いたのですが、ロカルノ協定の分類(第32類)の中には、物品と離れたロゴ、グラフィックシンボル、キャラクター、アイコンなどの形状・物品性のないものも含まれているため、結局、これらの物品から離れたデザインも意匠登録できるようになるそうです。意匠法を専門にやっている人には既知のことかもしれませんが、私は初耳でびっくりしました(物品を離れて登録できるということは意匠法の根本が変わるということなので)。

また、韓国では、意匠権の権利範囲についても、今までは日本と同じく「物品(物品の部分を含む)と一体化したデザイン」が登録の対象であることから意匠権の権利範囲もその物品だけに限られていたのが、今回の改正により登録した物品以外の物品にも権利が及ぶ(例えば、食器のコップのデザインについて登録した意匠権の効力が家電製品のデザインにも及ぶ)ようになるそうです。ホントかなという感じです。

今の日本の意匠法でも、商標権や著作権との保護対象の切り分けがしばしば議論されています。無理に切り分けなくても重畳的に保護できるところはしてよい訳ですが、一応の区別があります。例えば、実用品や量産品については、美術工芸品など純粋美術と同視し得るものだけを著作権の保護対象とし、それ以外は意匠権の対象とするとか。逆に、これは意匠の定義規定があるからなのですが、意匠権の保護対象は必ず特定の物品と一体化したデザインに限られ、物品を離れたデザインは意匠権の保護対象にならないので著作権や商標権による保護を検討するしかないなど。

それが、韓国の改正法のように、意匠の登録対象や権利範囲について「物品」の制約を取っ払って広げていくと、商標権および著作権との重畳的保護・重複適用がすごく拡大することになります。そうなると、今までの切り分けについての学説の議論の相当部分が無意味化するでしょうね。まぁだから法改正するなということではないですが。

ところで、会った弁理士は金という人なのですが、ちょっと聞いてみたら、韓国では金という姓の人が40%以上、金、李、朴の3つの姓だけで75%以上だそうです。そして、同じ金という姓の中にもルーツにより多数の「派」があって、それは各人の戸籍に記載されているそうです。そして、数年前に民法が改正されるまでは、同じ「派」の人間同士は結婚できないとされていたそうです。遺伝が理由なのでしょうが少しやりすぎというか封建的な感じですが、聞いてみないとなかなか内情は分からないなと感じました。

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