日経エレクトロニクス(2011/2/21号)の「Googleが仕掛ける特許破壊」というタイトルの記事を見ました。
記事を私なりに理解したところでは次のとおりです。
現在のネット上の代表的な動画フォーマットである「H.264」を利用する事業者は、アップルやパナソニックなどの日韓米の電機メーカーが中心として参加している特許プールの管理会社(米MPEG LA, LLC)にロイヤルティを支払う必要があります。
これに対して、Googleが、今年1月、WebブラウザーのChromeでのH.264のサポートを2ヵ月後に打ち切り、Googleが中心になって開発・普及活動をしているロイヤルティ・フリーのWebMだけに注力すると宣言したそうです。その理由はもちろん、ロイヤルティ・フリーのWebMが普及した方が、インターネットのトラフィックが増えてGoogleの広告表示も増えて利益が増大するからです。
そして、このGoogleの動きに対して、Googleが公開したWebMを構成するソフトウェアのソースコードを分析するとH.264の特許を侵害している可能性が高いと指摘する専門家がかなりいるそうです。
そこで、このようなWebMがH.264の特許を侵害する可能性に対して、Googleが仕掛けた「奇策」が、WebMのライセンス条件としてつけた「ライセンスを受ける者(又はその代理人、排他的ライセンス機関)がVP8(WebMの一部を構成するソフトウェア)に対して特許侵害の訴訟を提起したりそれを依頼または同意した場合はVP8に関する特許権のライセンスを停止する」という特許付帯条項だということです。
つまり、動画配信サービスで圧倒的存在感を持つYouTube(現在はH.264とWebMとの両方ともに対応)をGoogleが将来的にWebMだけに対応させるようになると、電機メーカーはYouTubeに対応する機器を出し続けるためにはWebMのライセンスが必要になるが、そうなると、この特許付帯条項により、電機メーカーはWebMに対して特許侵害訴訟を提起できなくなる、これは電機メーカーに「強制的なクロスライセンス」をさせるもので、電機メーカーの特許に対する「特許破壊」だ、と日経エレクトロニクスの記事は主張しています。
「奇策」と言ったり「特許破壊」と言ったり、かなり激しい言葉を使っているので、日経エレクトロニクスはどうしたのかという感じがしました。
一般に、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことをライセンス契約の解約理由とする条項は広く認められていると思います。他方、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことそれ自体を禁止する条項は独禁法違反の疑いがあるとされています。
そのような「ライセンス対象の特許が無効だ」と主張して争ったらライセンスを解約・停止するというのと異なって、「ライセンス対象のVP8またはWebMというソフトウェア製品またはこれを組み込んだ機器が自社の特許を侵害する」と主張して訴訟を提起したらライセンスを停止するという条項を入れたから、「奇策」で「強制的なクロスライセンス」で「特許破壊」だという主張なのでしょうね。確かに、独禁法の禁止する抱合せ販売に近い感じはします。
なお、日経エレクトロニクスの記事によると、上記のGoogleがWebMのライセンスに採用した特許付帯条項は、最近のオープンソース・ライセンスのコントリビューター(コードを寄稿する開発者)に対して「貢献したコードに対して後から特許権侵害を申し立てない」と約束させる手法(特許を持っていることを隠して特許侵害のコードを意図的に埋め込んで後から特許侵害だと主張するケースが在り得るため)をWebMの利用者に拡大したものだろうということです。
ただ、何か、今回の日経エレクトロニクスの記事には違和感を持ちました。従来より日経エレクトロニクスの基本スタンスは国内電機メーカーのサポーター的立場でありそれは良いことだと思います。しかし、今までの日経エレクトロニクスの記事は、そのスタンスに立ちながらもユーザーの視点や将来的な技術の流れなどにも目を配った客観的な記事が多かったと思います。その点から見て、今回の記事は、ユーザーの視点や将来的な技術の流れの視点がない、Google敵視だけという偏った感じがして、違和感が残りました。
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記事を私なりに理解したところでは次のとおりです。
現在のネット上の代表的な動画フォーマットである「H.264」を利用する事業者は、アップルやパナソニックなどの日韓米の電機メーカーが中心として参加している特許プールの管理会社(米MPEG LA, LLC)にロイヤルティを支払う必要があります。
これに対して、Googleが、今年1月、WebブラウザーのChromeでのH.264のサポートを2ヵ月後に打ち切り、Googleが中心になって開発・普及活動をしているロイヤルティ・フリーのWebMだけに注力すると宣言したそうです。その理由はもちろん、ロイヤルティ・フリーのWebMが普及した方が、インターネットのトラフィックが増えてGoogleの広告表示も増えて利益が増大するからです。
そして、このGoogleの動きに対して、Googleが公開したWebMを構成するソフトウェアのソースコードを分析するとH.264の特許を侵害している可能性が高いと指摘する専門家がかなりいるそうです。
そこで、このようなWebMがH.264の特許を侵害する可能性に対して、Googleが仕掛けた「奇策」が、WebMのライセンス条件としてつけた「ライセンスを受ける者(又はその代理人、排他的ライセンス機関)がVP8(WebMの一部を構成するソフトウェア)に対して特許侵害の訴訟を提起したりそれを依頼または同意した場合はVP8に関する特許権のライセンスを停止する」という特許付帯条項だということです。
つまり、動画配信サービスで圧倒的存在感を持つYouTube(現在はH.264とWebMとの両方ともに対応)をGoogleが将来的にWebMだけに対応させるようになると、電機メーカーはYouTubeに対応する機器を出し続けるためにはWebMのライセンスが必要になるが、そうなると、この特許付帯条項により、電機メーカーはWebMに対して特許侵害訴訟を提起できなくなる、これは電機メーカーに「強制的なクロスライセンス」をさせるもので、電機メーカーの特許に対する「特許破壊」だ、と日経エレクトロニクスの記事は主張しています。
「奇策」と言ったり「特許破壊」と言ったり、かなり激しい言葉を使っているので、日経エレクトロニクスはどうしたのかという感じがしました。
一般に、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことをライセンス契約の解約理由とする条項は広く認められていると思います。他方、ライセンス対象となっている特許権の有効性を争うことそれ自体を禁止する条項は独禁法違反の疑いがあるとされています。
そのような「ライセンス対象の特許が無効だ」と主張して争ったらライセンスを解約・停止するというのと異なって、「ライセンス対象のVP8またはWebMというソフトウェア製品またはこれを組み込んだ機器が自社の特許を侵害する」と主張して訴訟を提起したらライセンスを停止するという条項を入れたから、「奇策」で「強制的なクロスライセンス」で「特許破壊」だという主張なのでしょうね。確かに、独禁法の禁止する抱合せ販売に近い感じはします。
なお、日経エレクトロニクスの記事によると、上記のGoogleがWebMのライセンスに採用した特許付帯条項は、最近のオープンソース・ライセンスのコントリビューター(コードを寄稿する開発者)に対して「貢献したコードに対して後から特許権侵害を申し立てない」と約束させる手法(特許を持っていることを隠して特許侵害のコードを意図的に埋め込んで後から特許侵害だと主張するケースが在り得るため)をWebMの利用者に拡大したものだろうということです。
ただ、何か、今回の日経エレクトロニクスの記事には違和感を持ちました。従来より日経エレクトロニクスの基本スタンスは国内電機メーカーのサポーター的立場でありそれは良いことだと思います。しかし、今までの日経エレクトロニクスの記事は、そのスタンスに立ちながらもユーザーの視点や将来的な技術の流れなどにも目を配った客観的な記事が多かったと思います。その点から見て、今回の記事は、ユーザーの視点や将来的な技術の流れの視点がない、Google敵視だけという偏った感じがして、違和感が残りました。
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