2010年10月13日

特許詐欺罪

2010/10/6 読売新聞 商標権審判にニセ書類提出、会社社長ら2人逮捕

「シュア」という商品名を米国の音響機器メーカー「Shure(シュア)」に使えなくさせるため、特許庁に虚偽の書類を提出して審決を受けたとして、警視庁は6日、電気機器製造販売会社(東京都台東区)社長(47)と同社役員(61)の両容疑者を商標法違反(詐欺行為)の疑いで逮捕した。同庁によると、商標権の使用を巡る詐欺行為事件の摘発は全国で初めて。

3年以上登録商標を使用していないから登録を取り消すべきだという不使用取消審判を請求された商標権者が、虚偽の納品書などの資料を特許庁に提出して自己に有利な審決を受けたところ、それが商標法79条の詐欺の行為の罪(3年以下の懲役)に該当するとして逮捕された、という事件です。

なお、こちらに詳しい解説が載っています。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101006/1286772508

最近の刑事裁判での証拠の改竄や偽証の報道を見ると、裁判でさえそうなのだから、当然、特許庁の手続でもこういうことはかなり横行しているというのが実情でしょう。

特許法197条にも、詐欺の行為の罪(特許詐欺罪)が規定されています。

特許詐欺罪は、特許庁に対して詐欺の行為を行って特許登録や審決を受けた場合に成立します(3年以下の懲役)。

例えば、自分が既に商品として販売していて公知公用となっている発明品をまだ非公知のように装って特許を受けたという場合です。

他人の発明をいかにも自分の発明のように装って(盗んで)出願する冒認出願により特許を受けた場合も、争いはありますが、冒認なのに冒認ではないと錯誤させて特許を受けたのだから特許詐欺に該当するという説が有力です。

私もかなり前ですが、顧客から、他社にある装置(非公知)を相手の社長から頼まれて特別に貸したところ、その間に、その装置の新規な構造について勝手に特許を取られたという相談を受けたことがありました。そのときは、特許無効審判請求などは検討しても、特許詐欺罪の告発などは考えませんでした。

しかし、これからは、刑事告発も選択肢の一つになるんだろうと思います。

ただ、まぁ、この罪は故意が成立要件なので、その立証が難しいケースも多いと思います。上の新聞記事の場合は、商標権者が積極的に虚偽の証拠資料を特許庁に提出し、しかも、そのことを後の審決取消訴訟の裁判所が判決理由中で認定したという事情が大きかったようです。

それと、上記の自分が既に販売している商品を特許出願したという事例ですが、既に販売している商品の構成に新たな技術的事項を付加したものを出願する場合は、「別個の発明」の出願ですから、当然に適法です。

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posted by mkuji at 11:42| Comment(1) | TrackBack(0) | 特許法

2010年10月12日

誰でも気軽にメーカーになれる時代

昨日付けの日経産業新聞に載っていた記事「アマの知恵、侮れず」は興味深い内容でした。

iPhoneやiPadのアプリ開発などソフト分野では個人や小規模事業者の存在感が増していますが、最近は、ハード分野でもそういう傾向があるそうです。

この記事によると、秋葉原の近くで今年5月に「はんだづけカフェ」が登場(スイッチサイエンス(社長・金本茂さん)が経営)。社会人や学生など幅広い年齢層が来店して電子機器を自作しながら互いに披露するコミュニティが形成されているそうです。この背景には、電子部品のモジュール(複合部品)化が進み、これらをつなぐだけで高度な電子機器を作成できるようになったことがあるようです。

また、この記事によると、丸紅情報システムズが販売している3D(3次元)プリンター(樹脂を何層にも重ねて立体模型などを作る装置)が、家電メーカーの試作部門などの従来の顧客だけでなく、趣味の工作やイベントでの販売用に使いたいなどの個人や小規模事業者からの発注が目立っているようです。

また、この記事によると、今年9月25〜26日、電子工作展示会「メーク・オオガキ・ミーティング」(IT専門の米系出版社オライリー・ジャパン主催)が岐阜県大垣市で開かれて(東京でも2008年から年2回開催されている)、全国から114組の参加者が集まって、「歯ぎしりを検知するマウスピース型センサー(歯ぎしりを検知するとアロマ発生装置が作動する)」など自作の電子機器を披露し合ったそうです。

今回、この展示会が岐阜県大垣市で開かれたのは、おそらく、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)の准教授・小林茂さんが、専門知識がなくても様々な部品を接続できる電子基板「ゲイナー」を開発したことと関連があるのでしょう。

この「ゲイナー」も、半導体や電子部品を事前に載せた「オープンソースハードウェア」の一つですが、これ以外にもオープンソースのマイコンボードなどは幾つか市販されているようです。
消費者が欲しい家電など新商品のアイデアを募り、賛同者が一定以上集まれば企業に開発を提案するという「消費者主導型の商品開発サイト」を運営するエレファントデザイン(社長・西山浩平さん)も紹介されていました。

とにかく、ソフトウェアのオープン化だけでなく、ハードウェアのオープン化も進み、個人や小規模事業者が気軽に電子機器を作れる時代になったということです。

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posted by mkuji at 13:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 発明市場

2010年10月03日

「当接」と「固定」は違うという裁判例

「当接」と「固定」、どちらも明細書ではよく使われている言葉で、違うのは当たり前です。

でも、裁判で、それらの言葉が実際にどのように理解されているのか。

平成21年(行ケ)第10377号知財高裁判決をみると、この辺のことがきっちり議論されてました。

この判決では、「当接」とは、ある部材と他の部材とが「当たり接している」状態を表現しているのみであって、ある部材の他の部材への「固定」(「当接状態を維持する構成」)を含むものと直ちに解することはできない、としています。

こういう判決を見ると、明細書を書く者としては、何となく安心しますね。

以下、平成21年(行ケ)第10377号判決の一部(11頁以下)を引用しておきます。

そこで,前記(1)の条件との関係で引用発明1の操作ボルトの構成をみると,引用例1の記載によれば,操作ボルトは,水道管側(下側)のマウントに水道管側から「当接」しているものとされている(引用例1の11頁17行)。

そして,ここにいう「当接」の意義について検討すると,そもそも引用例1にいう「当接」との文言は,上記部分を除くいずれの用例においても,ある部材と他の部材とが「当たり接している」状態を表現しているのみであって,上記部分だけが原告の主張するような「当接状態の維持」を含むものとは直ちに解されない。かえって,引用例1では,例えば消火栓側(上側)のフランジを筒状本体にセットボルトで「固定」する(引用例1の11頁14行)など,ある部材と他の部材とが原告の主張するような当接状態を維持する構成である場合には,「当接」とは明確に異なる文言が使用されていることに照らすと,操作ボルトとマウントとの上記「当接」が「当接状態の維持」を含むものと解するのは困難である。


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posted by mkuji at 19:41| Comment(1) | TrackBack(0) | 用語の解釈