2010年08月30日

包袋禁反言はクレーム解釈(技術的範囲の確定)で使うもので発明の要旨認定では使えない

判例タイムズ1324(2010/8/1)の特集「裁判所と日弁連知的財産センターとの意見交換会」を遅ればせながらですが読みました。
一番印象に残ったのは、同じ一つの特許侵害訴訟の中における侵害論と無効論とで、それぞれ特許発明のクレーム解釈(技術的範囲の解釈)と要旨認定が問題になるのですが、それらはいずれも原告・被告の主張に拘束されない裁判所の専権事項だということ(契約の文言解釈と同じ)を前提として、請求原因におけるクレーム解釈と、無効の抗弁における発明の要旨認定とは、実際上は一致する場合が多いだろうが、理論的にはダブルスタンダードになっても良い、という裁判官側の見解です。
具体的な被告製品があって、それが特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断する場合、すなわち原告が主張する請求原因事実の有無を判断する場合(侵害論)におけるクレーム解釈では、特許法70条2項の下で、明細書の記載や出願経過(包袋禁反言)などに基づいてクレームを狭く限定的に解釈することは在り得る。
これに対して、被告が主張する無効の抗弁を判断する場合(無効論)における発明の要旨認定では、具体的な被告製品とは離れて、その抽象的なクレームが無効理由を含むかどうかを判断するのだから、リパーゼ判決の下で(明細書本文を参酌して文言の解釈をすべき「特段の事情」がある場合が実際上は多いとしても)、クレームの文言どおり発明の要旨を広く捉えるのが原則となる。もし原告が無効理由を回避するためにクレームを狭くしたいなら、訂正審判または訂正請求をすればよい。
大体、以上のような見解でした(少しはしょり過ぎかもしれませんが)。
また、これと関連して、包袋禁反言は、「請求原因レベル(侵害論)でのクレーム解釈(技術的範囲の確定の場面)で請求棄却にするためのテクニック」だから、無効の抗弁を判断する場合における発明の要旨認定では使えない、という見解も示されました。
発明の要旨認定は、侵害訴訟での無効の抗弁だけでなく審決取消訴訟などでも出てくるのですが、何故、発明の要旨認定においては包袋禁反言が使えないのか?
それは、おそらく、発明の要旨認定は、裁判官の専権事項なのだから、出願経過で述べられた出願人の意見などに拘束されるべきではないという理由なのでしょう。
包袋禁反言は、請求原因レベルでクレームを狭く限定するように作用します。この包袋禁反言を発明の要旨認定では使えないということは、その結果として、発明の要旨認定でのクレーム文言の解釈は請求原因レベルでの解釈に比べてより広くなり得る、つまり上記のようなダブルスタンダードになり得る、ということです。
ところで、クレーム解釈は裁判官の専権事項であるにも拘わらず、請求原因レベル(侵害論)でのクレーム解釈で包袋禁反言を使うことが何故問題ないのか? 私見ですが、おそらく、裁判官が「自らの専権事項としてのクレーム解釈」をした結果、被告製品がクレームに含まれることになった場合に初めて包袋禁反言を使うかどうかの検討が行われるのであり、その場合において原告が出願経過の中で狭い解釈を意見書などで主張していたときは、請求原因レベルにおける原告・被告間の公平や信義則などから、上記「裁判官の専権事項としてのクレーム解釈」の枠外で、包袋禁反言がクレームをより狭く限定して被告製品を技術的範囲から外すためのテクニックとして使用され得る、ということかなと思います。
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posted by mkuji at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 侵害訴訟

2010年08月23日

特許権の本質

顧客と話していると、「特許権とは何か」について誤解している人が少なくありません。
少なくとも、「自分の事業をカバーする特許を持っているから、自分の事業が他人の特許を侵害することはない」とする論理は、特許の世界には、ありません。
つまり、特許には、自分の事業を他人の特許から「守る(防御する)」機能は少なくとも法律的にはありません。侵害だと主張してきた相手企業が、もし、たまたま自社の特許を侵害していたなら、その交渉や裁判の中でクロスライセンスや反訴に持ち込むなどして間接的に自分の事業を守れるかも知れないという意味での「事実上」の防御機能はあり得るとしても。
特許は、少なくとも法律的には、他人の事業を攻撃するという、核兵器と同じような攻撃専用のツール・武器でしかないのです。
つまり、特許には、確かに、「他人の事業(実施)を攻撃できる=他人に特許内容を実施させない」という消極的な意味での「独占」機能(「排他権」という意味での独占権)は、あります。
しかし、特許は、「他人の事業(実施)を攻撃できる」だけのもので、「自分が特許の内容を適法に実施できる=自分が特許の内容を実施しても他人の特許を侵害しない」ことは、全く保証していないのです。だから、もし、特許侵害訴訟で、被告側が、「自分(被告)の製品は自分(被告)の特許権に係る発明(特許発明)の実施によるものだ」と主張したとしても、それは、全く意味がない(「理由付否認」にも「抗弁」にもならない)主張となります。
このような考え方(通説判例)からは「利用関係・利用発明」に関する特許法72条は当然のことを確認した規定ということになります。
このように、特許権の本質は「排他権」にあります。
その点が、「専用権」を本質とする商標権とは違うところです。商標権は「専用権」なので、商標登録されている商標であれば、それを使用することについては適法性が保証されます。
参考文献:「特許訴訟に勝つ方法」(木村耕太郎著)
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posted by mkuji at 01:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 特許権