2010年07月28日

著作権と著作者人格権と原作品の所有権

2010/7/21 京都新聞 龍馬切手、販売中止に「無許可使用」?で郵便局会社

郵便局会社近畿支社(大阪市)は21日、京都市内の109郵便局でオリジナルフレーム切手「龍馬が駆け抜けた町 京都・伏見」の販売を中止した。坂本龍馬の妻おりょうとみられる写真をあしらった切手について「写真所有者の許可を得ていないのでは」との指摘があったためだ。郵便局会社側は「印刷会社が問題がないと報告しているので、切手発行は問題ない」としながらも、対応を検討するため販売を中止したという。


下は「おりょうの写真を印刷した切手」の写真(上の京都新聞の記事より引用)。

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絵画などでも同じですが、著作物性のある写真を撮影した著作者は、次の3つの権利を原始取得します。
(1)無体物(著作物)としての写真についての著作権
(2)無体物(著作物)としての写真についての著作者人格権
(3)有体物(紙)としての写真(作品)の所有権
上記(3)の所有権は、その写真を紙に印刷したとき、つまり有体物としての写真(紙)が生成されたときに発生します。今のデジカメで、画像のデジタルデータを記録媒体に保存するだけの場合は、保存したときに、その2進法による記号を示すデータの電子的物理的記録状態についての所有権もしくは管理権というようなものを原始取得するのだろう思います。
上記の(1)無体物(著作物)としての写真の著作権と、(2)無体物(著作物)としての写真の著作者人格権と、(3)有体物(紙)としての写真(作品)の所有権とは、互いに別物で、互いに無関係に、別々に譲渡されたり((3)の著作者人格権は譲渡不可)、消滅したりしますので、それぞれを別々に見る必要があります。
例えば、写真の著作者が(1)の写真(無体物)の著作権を自己に留保しながら(3)の写真(有体物の作品)の所有権だけを他人に売却したら、以後は、(1)の写真(無体物)の著作権と(3)の写真(有体物の作品)の所有権とはそれぞれバラバラに別々の人が保有・管理することになります。また、写真(無体物)の著作者または第三者が写真(有体物の作品)を焼失してしまったら、(3)の写真(有体物の作品)の所有権は対象(権利客体)が無くなるので消滅しますが、そのこととは無関係に(1)の写真(無体物)の著作権は著作者の死後50年間存続します。また、写真(無体物)の著作者が死亡すると(2)の著作者人格権は消滅します(但し、著作者の死後の人格的利益の保護を定めた著作権法60条はあります)が、(1)の著作権は著作者の死後50年間存続します。
上の「坂本龍馬の妻おりょうとみられる写真をあしらった切手」について「写真所有者の許可を得ていないのでは」との指摘があったので、郵便局会社が販売を一時中止したという記事について考えてみます。
(1)の「無体物(著作物)としての写真の著作権」については、「おりょう」の写真を撮った幕末の時代からは既に150年くらい経過しており、著作権は既に消滅していることは明らかなので、少なくとも著作権侵害が生じる可能性はないと思います。
(2)の「無体物(著作物)としての写真の著作者人格権」については、著作者人格権は著作者の死亡により消滅しますが、著作権法60条が、著作者が亡くなった後でももし生存していればその著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないと規定していることから、問題が生じる可能性はあります。しかし、著作権法60条で問題になるのは主に、著作者がもし生きていたらその意に反するような改変(同一性保持権の侵害)や公表の場合であり、本件では、撮影された写真の「改変」はないので(「公表」が意に反するかは分かりませんが)、著作権法60条違反の問題が生じる可能性は極めて低いと思います。
(3)の「有体物(紙)としての写真(作品)の所有権」については、そもそも作品の所有者というだけでは(著作権はないため)コピーをコントロールする権利(複製権)は持っていないので、切手への写真の印刷について文句を言うことはできないはずです。ただ、郵便局会社側が本件の写真のデータをどのようにして取得したのか、所有者の写真(紙)を無断で一時的に占有侵害して撮影した(この場合は広い意味での窃盗に該当する可能性もある)とか所有者との契約に違反して写真データを消去せずに保管していたなど、そのデータ取得過程で違法行為が介在したのではないかという疑念も、ほとんどないでしょうが全く無いとも言い切れない訳で、とすれば、とりあえず販売中止にして写真(作品)の所有者と話し合ってみよう、という今回の郵便局会社の方針は、妥当なものではないか、と思います。
追記: 原作品の所有者が有する、原作品に表現されている著作物の複製に関する権利を「物のパブリシティ権」として議論する人もいるようで、その方が分かりやすいでしょう(物のパブリシティ権は認めないのが判例ですが)。
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2010年07月20日

発明市場と製品市場の分離? 米インテレクチュアルベンチャーズ(IV)

日経ビジネス 2010年7月19日号より http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100715/215429/?P=2

製造と発明の分離は歴史的必然?

かつてコンピューター業界ではハードウエアとソフトウエアは一体不可分なものだと考えられていたが、結局はソフトがハードから解放され、さらなる発展を遂げた。同じことが製造業と発明・特許の関係でも起こる──。ミアボルド氏はそう予言する。発明資本市場が健全に発展すれば、民間投資が発明市場に流れ込み、研究者や発明家の意欲を高め、技術革新のスピードが異次元の領域に高まるというのだ。(中略)
・・・確かなのは、発明資本市場が立ち上がりつつあることと、新しい競争ルールを“発明”する知恵と資力を備えたベンチャーが米国に健在だということだ。


米マイクロソフト社の元幹部が創業した発明ファンド、インテレクチュアルベンチャーズ(IV)のビジネスモデルは、一般の投資家から巨額資金をかき集め(既に約55億ドル(約5000億円)を獲得)、この資金を使って、(1)自社内での発明製造ブレーンストーミングなどによる発明開発、(2)外部の企業や個人からの特許権の買取り(今までの買取りに8億ドルを使用し、その中の3億ドル超が個人発明家への支払いだそうです)、(3)外部の大学や科学者などへの発明委託、という3つのルートで発明や特許を獲得し、それらを元手に売却益やライセンス料収入を獲得して出資者に還元する、というものです。

・・・その仕組みが発明資本市場なのである。ファンドを組成して資金を集め、特許を買い集めたり、新たな発明を生み出したりするために投じる。ライセンス収入や新事業の立ち上げで利益が出れば投資家に還元する。数十億ドル規模の資金で何千〜何万の発明や特許を扱うことで投資リスクを回避。VCやPEと同じ考え方に基づいている。(中略)
申請中及び登録済みを合わせるとIVの特許ポートフォリオは3万件にも達する。それらの売却益やライセンス料がIVの最大の収益源で、過去2年間だけで 10億ドル(約900億円)以上を稼ぎ出したという。米国のほか日本、韓国、中国、インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど9カ国に拠点を開設済みで、社員数は約650人。台湾と欧州にも進出予定だ。


下図はこの日経ビジネスより引用。

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また、この記事によると、IVは、金儲けに精を出すだけでなく、マラリア撲滅のための装置(マラリアの感染を仲介する蚊をレーザー光線で焼き落とす装置)の開発、地球の温暖化対策としての地球を冷やす技術の開発などの「全地球的な規模の問題を発明で解決しよう」という高邁な(?)プロジェクトも進めているようです。
そういうことをつらつら書いた上で、この日経ビジネスの記事は、冒頭に引用した「製造と発明の分離は歴史的必然?」という見方を示して終わっています。
確かに、コンピュータの世界では、ソフトメーカーとハードメーカー、ソフト市場とハード市場が分離しています。近年は、OEMやプライベートブランドなどによる製造と販売の分離、ファブレスやODM、EMSなどによる企画と設計、製造の分離も進んでいます。
発明と設計・製造の分離、発明メーカーと製品メーカーの分離、発明市場と製品市場の分離が進んでも不思議はないと思います。
もしそうなると、今後、特許制度は、「企業(メーカー)に独占権を与えることにより新製品開発の投下資本を回収させる」という伝統目的から離れて、「発明市場のために、公的機関(国家又は国際機関)が設営する、アイデアの公募・審査・登録制度」とでも言うべきものに、その性格を変質させて行くのかも知れませんね。
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posted by mkuji at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 発明市場

2010年07月09日

単眼のデジカメを横に動かすだけで3Dの静止画を撮影

単眼タイプ3Dデジカメ 世界初、ソニーが来月発売 2010年7月9日 東京新聞

 ソニーは八日、三次元立体(3D)の静止画が撮影できるコンパクトデジタルカメラ「サイバーショット」の新シリーズ「DSC−WX5」と「DSC−TX9」を八月七日に発売すると発表した。

 3D画像が撮影できるデジカメは、富士フイルムから二つのレンズが搭載されたモデルが発売されているが、単眼のレンズ一体型デジカメとしては世界初。

 今回発売されるデジカメは、シャッターボタンを押しながらカメラを縦や横に一振りすると、高速連写した最大百枚の画像から3D用を抽出。3D対応テレビに接続し、専用メガネで楽しむ。


高速連写で取得した多数の静止画から3Dに適した視差(レンズ間距離)と輻輳角(光軸)を有する2つの画像を抽出するのでしょう。
左右2つのレンズを使って3D用の画像を撮像するのは当たり前ですが、そうではなく、1つのレンズでユーザーが横方向に動かすだけで高速連写して視差のある3D用の静止画を撮像できる(動画は難しいんでしょうね)というのは、すごく簡単な発想なのになかなか思い付かないコロンブスの卵のようなアイデアだなと、この記事を見て感心しました。
まぁこういう「発想力が決め手になる発明」は、別にソニーのような大企業でなくても、中小企業でも素人でも誰でも思い付くことはできるはずと思います。
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posted by mkuji at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想力の発明

2010年07月05日

ルネサンスの3大発明と古代中国の4大発明

現代ビジネス 松本大 マネックス証券社長インタビュー http://gendai.ismedia.jp/articles/-/785?page=3

産業革命以前、世界のGDPは人口分布と一緒でした。個人消費が経済の大部分だったからです。17世紀は中国とインドで世界のGDPの3分の2を占めていました。

それが産業革命によって情報と技術が一部の欧米諸国に集中し、世界の富も中国やインドからこちらに一気に移動した。ところがインターネットが普及したことで、今度は情報も技術も世界中で格差が無くなった。結果として人口分布が再びGDPを決定する時代になると私は考えています。

これを言うと怒られそうだけど、中国が世界の経済大国になるのは、なにも中国が特別なことをしているというわけじゃなくて、単に人口がよそよりも多いというだけのこと。


世界史に詳しいわけではないですが、4千年の歴史の中で中国はほとんど世界の中心でナンバー1の経済大国で、19世紀前半のアヘン戦争(1840年)の前頃から現代までの約200年間(18世紀後半に始まった産業革命から現代までは約250年間)が例外なだけで、20年後にGDP世界1位になるとしても、それは悠久の歴史の流れの中では普通の状態に戻るだけだと思います。
活版印刷術、羅針盤、火薬が14〜15世紀のルネサンスの3大発明と呼ばれてますが、どれも、ずっと前に中国で発明されていました。
活版印刷術は、11世紀の北宋で行われていた記録があるようです。15世紀のグーテンベルク(ドイツ)による活版印刷の発明は、中国の活版印刷術とは全く無関係に発明されたものだとみられているようです。
羅針盤も、11世紀の宋の時代に、磁石の針を水に浮かべるという羅針盤の原型が発明されていました(「磁石」そのものは古代ギリシャで発見されていた)。この中国の羅針盤はペルシャ人を介して西洋に伝えられ、大航海時代、コロンブスの新大陸発見などに繋がりました。
火薬は、もっと古く、6〜7世紀の唐の時代に発明されていたと言われています。
ちなみに、紙・印刷術・羅針盤・火薬は、古代中国の4大発明と呼ばれています。
紙は、中国では紀元前の前漢時代に既に発明されていたようです。
文字を書き記すためのものとしては、古代バビロニアでは粘土版、古代エジプトではパピルス、古代ローマではパピルスと羊皮紙が用いられていたようです(中国では木簡、竹簡なども用いられていた)。
参考:http://www.chinaviki.com/china-culture/Four-Great-Inventions/index.html
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posted by mkuji at 09:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 発明の歴史