2010年05月23日

組合せ発明(コンビネーション発明)の特許性、ニーズ発見能力

組合せ発明(コンビネーション発明)とは、既存(公知)の技術(要素)を組み合わせた発明で、その「組み合わせ」をポイントとしている発明です。
既存の技術を「単に寄せ集めた」だけの発明は進歩性がないので特許されません。
これに対して、既存の技術を有機的に組み合わせて特有の効果を生じさせた発明(「単なる寄せ集め」ではない発明)については、進歩性があるとして特許が認められる場合と進歩性がないとして特許性が否定される場合とがあります。
「既存の技術の組み合わせ」でも、特許性が認められることは少なくありません(というか、特許庁が認めている特許全体のおよそ7〜8割は、ソフトウェア特許やビジネスモデル特許をも含めて、組合せ発明だと思います)。
例えば、「A+B」の発明で、「A」「B」が既存の技術だとしても、「+」(AND)の部分(組み合わせたこと)が容易ではなかったと評価されれば、進歩性は認められます。
なお、「+」の部分は、「AとBとから成る・・・」という単純な形もありますが、「Aからの・・・に基づいてBを・・・する制御手段」などの形もあります。(※一部加筆しました)
組合せ発明(コンビネーション発明)で進歩性が認められた例を3つ、以下に記しておきます。


1 「ICカード」の特許(特許第940548号。1979年1月30日登録→1990年3月3日期間満了で消滅)
この特許の公報によると、この特許のクレーム(特許請求の範囲)は次のとおりです(図面もこの公報から引用)。
「能動素子を含み外部からの入力に応答して識別用の新たな信号を発生する集積回路を識別装置として本体に埋設して成る識別カード。」
f:id:mkuji:20100614131843g:image
極めて広いクレームですが、要するに、「IC(集積回路)をカードに埋設して成るICカード」の発明で、ICとカードとの組合せ、「IC + カード」という発明です。
この場合、「IC」と「カード」は既存ものですが、ICをカードに埋設することにより何処でも手軽に本人確認ができるなどの効果が得られること、ICとカードとを組み合わせる動機付けは出願当時に無かったことなどから、「IC」と「カード」とを組み合わせたこと(「IC + カード」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められました。


2 「雪見だいふく」の特許(特許第1537351号。1989年12月21日登録→2001年5月29日期間満了で消滅)
この特許クレームは次のようになっています(その下の図面はこの特許の公報のものではなく参考用です)。
「略アミロペクチンより構成されるでん粉と糖類と水との混合加熱により得られる粘弾性物にて冷菓を被覆することを特徴とする被覆冷菓。」
f:id:mkuji:20100522190252g:image
この特許クレームもかなり広いです。2001年にこの特許が期間満了で消滅するまでは、この特許のおかげで類似品はほとんど出てなかったと思います。
この発明は、要するに、「丸い団子状の冷菓を餅皮(粘弾性物)で包む」という発明、つまり、「丸い団子状の冷菓 + 餅皮(粘弾性物)」の組合せ発明です。
そして、「(丸い団子状の)冷菓」は昔からありましたし、「餅皮」も「餅皮(もち米粉を蒸して得られた皮)で小豆餡を包んだ大福餅」のように昔からありました。
しかし、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせることにより食感が変わって冬でも冷菓を食べやすい(冬でも冷菓が売れる)という特有の効果があり、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせる動機付けは無かったので、「冷菓」と「餅皮」とを組み合わせたこと(「冷菓 + 餅皮」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたものと思います。




3 「体温計付き腕時計」(実公昭43−29993号)

特許庁の審査で進歩性が認められて登録査定は出ましたが出願人の都合で登録番号はないようです。

公告クレームは次のとおりです。

「腕時計の本体の裏蓋に凹所を設け、前記凹所に体温計の感知部を装着して前記感知部を裏蓋と同一面とし、かつ、体温計の表示部を文字板の一部に装着し裏蓋の体温計の挿入孔にパッキングを装着してなる体温計付き時計。」

次の図はこの公告公報からの引用で、符号8が体温の表示部、符号12はこの表示部を装着する部分です)。

f:id:mkuji:20100522214210g:image

この発明(考案)も、「腕時計 + 体温計」という組合せ発明です。そして、「腕時計」も「体温計」も既存のものに過ぎません。

しかし、腕時計と体温計は共に身体に密着して使用するものなので、体温計を腕時計の身体側の部分に配置することにより「何時でも何処でもそのまま(いちいち体温計を身体に付ける動作をすることなく)体温を計測できる」という特有の効果が得られます。そして、腕時計と体温計とは技術分野などが異なっており組み合わせの動機付けはないので、「腕時計」と「体温計」とを組み合わせたこと(「腕時計 + 体温計」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたのだろうと思います。

なお、上記のクレームのままでは無理ですが、もし「計時機能(タイマー機能)と体温測定機能との連携手段」(腕時計の計時部からの信号により体温計の計測を開始させる手段)という要素(限定)を補正で付加するようにすれば、「ユーザーがいちいち操作しなくても(知らない間に)毎日決まった時刻に基礎体温などを計測することができる」という特有の効果を主張することもできます。(この部分、追記しました。2010/11/15)

追記(基本発明の手法の一つとしての「ニーズ発見能力」):
なお、上記のICカードの基本特許(特許第940548号)は、特許された1979年頃はICの価格が高くて実用化の見込みが無かったのですが、ICの価格が大幅に下がってICカードの商品化が現実になった1980年代後半から特許期間が切れるまでの数年間は、大手電機メーカーなどからライセンスの申込みが殺到し、この間のライセンス料収入は数十億円〜百数十億円(当時)にもなったそうです。

このICカードのアイデアは、1970年当時、有村国孝という青年が、古河電工を辞めて米国に行き、そこで日本より10年早いカード社会(ただし磁気カード)を経験し、「これからは記録容量の小さい磁気カードでは役に立たなくなるのではないか」という問題意識から思い付いたもので、特許権者は有村さん個人になっています。

このICカードの基本特許は、当時の72文字しか記憶できない磁気カードでは将来は役に立たなくなるという隠れた課題・ニーズの発見から生み出されたもので、このような「隠れた先端的なニーズ」を発見する「ニーズ発見能力」が基本発明を生み出すための重要な手法の一と思います。個人でもこのような基本特許を取得できるのですから、中小企業でも十分に可能性はあると思います。

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posted by mkuji at 18:04| Comment(2) | TrackBack(0) | 進歩性

2010年05月18日

「仮面ライダーキバ」マスクの無断ネット販売は著作権法違反(侵害とみなす行為)

産経ニュース 2010/5/13 「仮面ライダーキバ」マスクをネットで無断販売、1千万円稼ぐ 容疑の男逮捕

仮面ライダーのマスクの複製品を無断で販売したとして、千葉県警生活経済課などは13日、著作権法違反(侵害とみなす行為)で、千葉県銚子市、会社員(33)を逮捕した。(中略)

 容疑者は、タイの工場からマスクを輸入して、平成20年1月ごろから、オークションへの出展を開始。「キバ」以外にも歴代の仮面ライダーのマスクも手がけ、昨年1年間だけでも約400個を販売し、約1000万円の売り上げを得ていたという。


千葉県警が押収した仮面ライダーのマスクの複製品の画像(上の記事より引用):
f:id:mkuji:20100517140633j:image
マスクを自分で複製したのなら著作権の「直接侵害」ですが、この容疑者は他人が外国で複製した物を輸入して頒布(販売・譲渡等。著作権法2条1項19号)しただけなので、「間接侵害」の一類型である著作権法113条1項1号の「頒布する目的をもって輸入」、同2号の「情を知って頒布」という「侵害とみなす行為」に該当するとされたのでしょう。
一般に、「マスク」には、「実用品のマスク」(風邪を引いたときなどに使うもの)や「顔」などの意味があります。
もし、TVドラマの主人公が愛用している実用品の「マスク」や「ヘルメット」の模造品を輸入・頒布したという事例だったなら、そのような「マスク」や「ヘルメット」は実用品(玩具を含む)に過ぎない(そして、そのような「マスク」や「ヘルメット」などの実用品のデザインには純粋美術と同じような著作物性はない)ので、そのような「マスク」や「ヘルメット」という実用品(玩具を含む)を製造することは、たとえそのデザインが模倣によるものだとしても著作権侵害に該当しない(そのマスクやヘルメットが既に正規に販売されていれば不正競争防止法違反に該当したり、意匠登録がなされていれば意匠権侵害に該当する可能性はあるとしても)という議論はあり得たと思います。
しかし、上の画像を見れば分かるように、今回の「仮面ライダー・キバのマスク」は「仮面ライダー・キバというキャラクターの顔」そのものと言えるので、その絵には著作物性が肯定され、そのようなマスクの絵を立体物へ加工すること(翻案)は著作権の直接侵害行為となるので、そのような行為により作成された物を輸入・頒布する行為は法113条の「侵害とみなす行為」(間接侵害の一つ)に該当するという論理は、妥当なものだろうと思います。
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posted by mkuji at 11:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 著作権

2010年05月16日

産業構造審議会の資料から 「差止請求権の行使制限」の問題

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料(33頁以下)では、「差止請求権の行使制限」の問題にも触れています。
すなわち、パテントトロールや大学などの非実施の企業体(NPE(non-practicing entities))からの差止めを認める必要はあるのかとか、製品全体への寄与度が小さい特許で製品全体が差止められるのは妥当なのかなどの問題意識から、差止請求権の行使制限が必要であり、その根拠として、現在の民法1条3項に基づく権利濫用の抗弁を認めるだけでよいか、特許法に特別の規定を設けるべきか、が議論されています。
また、この資料(37頁)では、もしこの差止め請求権の行使制限を認めた場合の問題として、差止請求権の行使制限をすると侵害者側がライセンス契約を締結するインセンティブが低くなってライセンス交渉が成立し難くなる(いわゆる「侵害のし得」が増える)などの点が指摘されています。
私の意見ですが、ごく一部に著作権侵害の写真が含まれている写真集については差止め請求は権利濫用として認められないとし損害賠償のみを認めた著作権の裁判例があります(この資料にも載っている那覇地判平成20年9月24日判時2042・95)し、原告が実施していない場合は差止めを認めないと回復不可能な損害が発生することは通常はないと思われるので、一定の条件で特許権に基づく差止請求権の行使を制限し損害賠償のみを認めるということはあってよいと思います。
ただ、差止請求権の行使を制限する場合の弊害として、上記のように「侵害者側がライセンス契約を締結するインセンティブが低くなってライセンス交渉が成立し難くなる」などの問題点も指摘されていますので、差止請求権の行使制限をすることとセットでの対策が必要と思います。
この対策として、この資料(37頁)では、「差止制限の結果として侵害行為が継続することにより生じる損害について、侵害者から特許権者への金銭的補填措置の必要」があるのではないかという議論がされています。
この資料(37頁)の言う「金銭的補填措置」の内容ははっきりしませんが、この資料の同じ頁で米国の懲罰的賠償(3倍賠償)制度による制裁的機能が触れられていることからみて、この懲罰的損害賠償制度に類似する制度を導入することを考えているのではと思います。
つまり、例えば、権利者から警告がありライセンス契約交渉を求められたにも拘わらず侵害者側がライセンス契約交渉に入らなかったか誠実に対応しなかったなどの事情を、裁判官が損害賠償額を算定するときに参酌できるという規定を新設することなどが考えられます。そうすれば、侵害者側は、損害賠償額が跳ね上がるのを防ぐため、権利者からの求めに応じて誠実にラインス交渉に対応するインセンティブが働くようになると考えられます(これは、非実施企業だけでなく一般の中小企業にとっても助かることではないかと思います)。
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2010年05月14日

産業構造審議会の資料から 「ダブルトラック」の解決の方向性

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料(21頁以下)は、ダブルトラックの問題解決の方向性として、次の3つの案を提示しています。
A案:侵害訴訟ルートと無効審判ルートの2つのルートの並存、つまり現状を容認する案
B案:侵害訴訟における無効の抗弁(特許法第104条の3)の在り方を見直して、特許庁の無効審判ルートをメインとし、裁判所の有効性判断を冒認出願などに制限しようとする案
C案:特許庁の無効審判ルートを制限し、特許の有効性判断を裁判所の侵害訴訟ルートに集約しようとする案
この資料には上記3つの案の理由や内容についていろいろ書かれてましたが、以下に私の意見を書いておきます。
まず、特許の有効性判断についてのダブルトラック(裁判所での侵害訴訟ルートと特許庁での無効審判ルートの並存)を認めるかどうかですが、これは、両当事者の公平性を第1に考えるべきだと思います。
ダブルトラックがあると、原告から見ると2つのルートの中の一方で勝っても他方で負ければ最終的に負けてしまう、被告から見ると2つのルートの中の一方で負けても他方で勝てば最終的に勝てるということで、とても両当事者に公平な制度とは思えません(甲と乙がジャンケンして、甲は2回とも勝たなければ負け、乙は2回の中の1回だけ勝てば勝ち、というのでは、到底、公平とは言えないですが、それと同じと思います)。
よって、上記のA案は妥当でない(B案かC案が妥当)と思います。
次に、ダブルトラックを解消させるべきとして、特許庁ルートと裁判所ルートのどちらをメインにすべきか(B案かC案か)ですが、2000年4月のキルビー最高裁判決から既に10年以上も裁判所で有効性判断に関する実務が積み重ねられていることを考えると、それを無にするのはもったいないと思います。
また、特許庁関係者や弁理士にはB案の支持が多いのかなと思いますが、B案によるときは、特許庁の審決が出ても審決取消訴訟になれば結局、裁判所(知財高裁)の有効性判断が必要になります(さらに、審決が取り消されたらまた特許庁で審判が再開されます)ので、一つの侵害訴訟に関して特許庁と裁判所を何度も行き来しなければならず、当事者(ユーザー)の立場からはすごく効率が悪いと思います。結局、このB案では、キルビー判決前の状態に戻るだけです。(※一部加筆修正しました)
よって、B案でなく、裁判所ルートをメインとするC案が妥当というのが私の意見です。
この資料では、C案の内容は、次のようになっています。

侵害訴訟ルートに紛争処理を集約させ、侵害訴訟の係属後は、被告による無効審判請求、特許権者による訂正審判請求を制限することにより、当該紛争処理のための有効性判断を侵害訴訟のみで行う


このC案は、侵害訴訟が係属している間は当事者による特許庁への無効審判請求および訂正審判請求を認めない、というものです。
よって、このC案で行くと、当事者は、侵害訴訟の中で、仮想的に無効審判請求や訂正請求・訂正審判請求を行っているようなつもりになって、無効の抗弁や訂正の再抗弁を出していく、ということになるのでしょう。私はそれで特に問題ないと思います。
なお、このC案によるときは、当事者だけに制限を課しても、当事者のダミーが第三者として特許庁に無効審判請求をする可能性があるので、それへの対策が必要と思います。
つまり、例えば、侵害訴訟が係属中に、第三者から特許庁に無効審判請求が出された場合は、その訴訟の判決が確定するまで手続を中止することなどが必要ではないかと思います。
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2010年05月12日

産業構造審議会の資料から見た最近の特許侵害訴訟の傾向

特許庁ホームページで産業構造審議会知的財産政策部会第25回特許制度小委員会の資料「特許制度に関する法制的な課題について」を見ました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou025/3.pdf
この資料の中にあった、最近の特許侵害訴訟などの傾向についてメモしておきます。
1. 特許侵害訴訟の地裁判決数は、2001年の102件をピークに減少しており、2008年は37件。
2. この2008年の地裁判決数の37件の中、原告(特許権者)敗訴の判決は78%、ここ数年の原告敗訴判決の平均は約80%とほぼ一定。
3. 2000年〜2008年の原告敗訴(一部勝訴を含む)の地裁判決の中では、特許無効を理由として含むものは約40%、非侵害のみを理由とするものは約60%。
 より正確には、原告敗訴(一部勝訴を含む)の地裁判決の中、特許無効のみを理由とするものは25%、特許無効と非侵害の両方を理由とするものは13%、非侵害のみを理由とするものは62%。
 ※キルビー最高裁判決が出されたのは2000年4月、無効の抗弁に関する特許法104条の3が施行されたのは2005年。
4. 全特許出願件数における中小企業による出願件数の割合は、2004年は12.2%、2006年は11.2%、2008年は10.0%、と減少傾向。
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2010年05月10日

間接侵害の限界(電着画像事件とHOYA事件)

一つの特許侵害に複数主体が関与した場合において適切な主体への権利行使を可能にするために特許侵害が成立する範囲を拡大しようとする考え方として、次のようなものがあるとされています(参考:パテント2009/8 62頁)。
(1)間接侵害(特許法101条)
(2)共同直接侵害(民法719条の共同不法行為ではなく、差止め請求を認めるための理論のようです)
(3)道具理論(間接正犯理論。電着画像事件。平成12年(ワ)20503号)
(4)構成要件の充足の問題と実施(侵害)したのは誰かの問題とを峻別する理論(HOYA事件。平成16年(ワ)25576号)
これらのうち、上記(3)の道具理論を採用したという電着画像事件の判決については、個人的に、間接侵害でも行けたのでは、という疑問をもっています。
この事件は、特許発明が「工程(1)ないし(6)から成る方法」であるところ、被告が「工程(1)ないし(5)によって得られる半製品」を第三者(時計の文字盤製造業者)に販売し、第三者がこの半製品を使用して最後の工程(6)を行っていた、という事例です(参考:木村耕太郎弁護士著「特許訴訟に勝つ方法」115頁)。
一般の解説では、この事件では間接侵害が成立し得ないので、被告を特許侵害とするためには道具理論を持ち出すしかなかった、という見解が多いようです。その理由は、この事件において、「その方法の使用に用いる物」とは「工程(1)〜(6)から成る方法の使用に用いる物」であるところ、上記「半製品」は、「工程(6)の使用」だけにしか用いていないから、「その方法の使用に用いる物」とは言えない(つまり、「工程(6)だけの実施」では「その方法の使用」とは言えない)、というものです。
しかし、「その方法の使用に用いる物」は、「その方法の全部(工程(1)〜(6))の使用に用いる物」だけでなく、「その方法の一部(工程(6)のみ)の使用に用いる物」も含み得るという解釈も可能なのではないでしょうか。(※このあたり、一部修正しました)
例えば、吉藤の特許法概説(第12版)471頁は、上記のような「半製品」も「方法(の一部)の使用に用いる物(で課題解決に不可欠なもの)」に該当し得るとしているようです。つまり、ここには、次のように書かれています。
「・・・ただし、中間工程により中間生産物が生産される場合においては、間接的ではあるが、要素保護があるといえよう。たとえば、第1工程によって中間生産物が生産され、第2工程により目的生産物が生産される場合に、中間生産物が販売可能である限り、方法の実施にのみ使用する物に該当する。ただし、その中間生産物が第1工程と異なる方法によって生産される場合は、この限りではない。」
ただ、この吉藤の説も、末尾に「ただし、その中間生産物が第1工程と異なる方法によって生産される場合は、この限りではない。」という文章を持ってきてる点で少し破綻しているというか論理的でない面はあります。
上記の「半製品」が「方法(の一部)の使用に用いる物(で課題解決に不可欠なもの)」に該当して間接侵害が成立する場合があり得るとしても、それは、上記の「半製品」が用いられる工程(方法の一部)が特許発明の本質的部分であるような場合に限られるべきだとは思います。とすると、結局、上記の電着画像事件では(上記の第三者が行った最後の工程(6)は特許発明の本質的部分ではないから)間接侵害で行くのは無理だったとなるかもしれません。。(※一部加筆修正しました)
まぁ結局、今の間接侵害の規定が、物の発明については「その『物=完成品』を構成する各部品(その物の生産に用いる物)」の生産等について間接侵害を認めているのに対して、方法の発明については「その方法を構成する各工程」の使用について間接侵害を認めていない(「その方法の使用に用いる物」の生産等について間接侵害を認めているだけ)、というように物と方法とで規定の仕方が基本的に異なっている、というのが分かり難くなっている原因なのでしょう。
上記(4)の構成要件の充足の問題と実施(侵害)したのは誰かの問題とを峻別する理論については、これを適用したHOYA事件の事例では、間接侵害は無理なので、この理論によるしかなかったと思います。
少し判決文を見ただけですが、この事件で侵害が認められた特許発明(請求項3)は、被告側(製造者側)コンピュータと発注者側コンピュータとをネットワークで接続したシステムでした。そして、そのクレームは、被告側(製造者側)コンピュータの構成には特徴的な記載がなく、発注者側コンピュータの構成に特徴的な記載があったというものです。よって、この場合、発注者側(個々のメガネ店側)を被告とするときは間接侵害で行ける(発注者側コンピュータが「その物の生産に用いる物で、課題解決に不可欠なもの」となり得る)が、製造者側を被告とするときは被告に間接侵害が成立しない(製造者側コンピュータが「その物の生産に用いる物で、課題解決に不可欠なもの」となり得ない)という事例だったように私には見えました。
おそらく、原告としては、個々の発注者(メガネ店)を被告にはしたくない(製造者を被告にしたい)という場合だったのでしょう。
そして、裁判所は、実施(侵害)したのは誰かの問題について、特許発明の構成要件を充足するシステムは被告(製造者)が「支配管理」していたとして、被告が実施(侵害)したと認定しました(上記のパテントの論文では、カラオケ法理と類似の理論ではと分析しています)。
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2010年05月06日

違法画像を掲載しているサイトへの「リンク」だけで「幇助犯」成立という解釈

時事ドットコム2010/4/30 ランキングサイトを削除要請=児童ポルノ紹介、運営4社に−警視庁

 インターネットのサイトへのリンクを自由に張ることができ、アクセス数に応じて順位が付く「ランキングサイト」が、児童ポルノ画像へのアクセスを容易にしているとして、警視庁少年育成課は30日、運営する4社に対し、計14サイトの削除を要請した。

 同課によると、ランキングサイトについての削除要請は初めて。同サイト自体に児童ポルノ画像は掲載されていないが、リンク先のサイトに掲載されており、有害と判断したという。


警視庁は、児童ポルノ画像を掲載していなくても、掲載しているサイトにリンクしたら、児童ポルノ禁止法の幇助犯が成立し得るという解釈を固めているように感じます。今までリンクだけで犯罪成立とした例はおそらくないので、いきなり逮捕ではなく、まずは削除要請をと考えたのでしょう。
リンクする前に行われた「児童ポルノ画像のサイトへの掲載」との関係では「リンクによる幇助」は時期的に不可能(サイトへの掲載とリンクとの間に事実上の因果関係がない)としても、児童ポルノ禁止法違反の罪を、最初のサイトへの掲載で犯罪が成立するだけでなくその後もサイトへの掲載(法益侵害の状態)が続いている間は犯罪が継続しているとみられる(その間はいつの時点でも既遂となる)「継続犯」だと捉えれば、リンクした後の掲載について幇助犯とすることは可能(リンクが犯罪の継続を助長したと評価できる場合がある)という解釈です。
上記の例は児童ポルノ画像を掲載しているサイトへのリンクですが、著作権侵害の画像を掲載しているサイトへのリンクについても、著作権侵害罪を継続犯と捉えて、そのサイトにリンクを張る行為はその幇助犯となり得る(ただし、違法画像の提供の継続を助長するようなリンクに限られ、報道目的のリンクなどは除く)という解釈が、これから徐々に確立していくのではないかと予想されます。
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