組合せ発明(コンビネーション発明)とは、既存(公知)の技術(要素)を組み合わせた発明で、その「組み合わせ」をポイントとしている発明です。
既存の技術を「単に寄せ集めた」だけの発明は進歩性がないので特許されません。
これに対して、既存の技術を有機的に組み合わせて特有の効果を生じさせた発明(「単なる寄せ集め」ではない発明)については、進歩性があるとして特許が認められる場合と進歩性がないとして特許性が否定される場合とがあります。
「既存の技術の組み合わせ」でも、特許性が認められることは少なくありません(というか、特許庁が認めている特許全体のおよそ7〜8割は、ソフトウェア特許やビジネスモデル特許をも含めて、組合せ発明だと思います)。
例えば、「A+B」の発明で、「A」「B」が既存の技術だとしても、「+」(AND)の部分(組み合わせたこと)が容易ではなかったと評価されれば、進歩性は認められます。
なお、「+」の部分は、「AとBとから成る・・・」という単純な形もありますが、「Aからの・・・に基づいてBを・・・する制御手段」などの形もあります。(※一部加筆しました)
組合せ発明(コンビネーション発明)で進歩性が認められた例を3つ、以下に記しておきます。
1 「ICカード」の特許(特許第940548号。1979年1月30日登録→1990年3月3日期間満了で消滅)
この特許の公報によると、この特許のクレーム(特許請求の範囲)は次のとおりです(図面もこの公報から引用)。
「能動素子を含み外部からの入力に応答して識別用の新たな信号を発生する集積回路を識別装置として本体に埋設して成る識別カード。」

極めて広いクレームですが、要するに、「IC(集積回路)をカードに埋設して成るICカード」の発明で、ICとカードとの組合せ、「IC + カード」という発明です。
この場合、「IC」と「カード」は既存ものですが、ICをカードに埋設することにより何処でも手軽に本人確認ができるなどの効果が得られること、ICとカードとを組み合わせる動機付けは出願当時に無かったことなどから、「IC」と「カード」とを組み合わせたこと(「IC + カード」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められました。
2 「雪見だいふく」の特許(特許第1537351号。1989年12月21日登録→2001年5月29日期間満了で消滅)
この特許クレームは次のようになっています(その下の図面はこの特許の公報のものではなく参考用です)。
「略アミロペクチンより構成されるでん粉と糖類と水との混合加熱により得られる粘弾性物にて冷菓を被覆することを特徴とする被覆冷菓。」

この特許クレームもかなり広いです。2001年にこの特許が期間満了で消滅するまでは、この特許のおかげで類似品はほとんど出てなかったと思います。
この発明は、要するに、「丸い団子状の冷菓を餅皮(粘弾性物)で包む」という発明、つまり、「丸い団子状の冷菓 + 餅皮(粘弾性物)」の組合せ発明です。
そして、「(丸い団子状の)冷菓」は昔からありましたし、「餅皮」も「餅皮(もち米粉を蒸して得られた皮)で小豆餡を包んだ大福餅」のように昔からありました。
しかし、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせることにより食感が変わって冬でも冷菓を食べやすい(冬でも冷菓が売れる)という特有の効果があり、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせる動機付けは無かったので、「冷菓」と「餅皮」とを組み合わせたこと(「冷菓 + 餅皮」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたものと思います。
3 「体温計付き腕時計」(実公昭43−29993号)
特許庁の審査で進歩性が認められて登録査定は出ましたが出願人の都合で登録番号はないようです。
公告クレームは次のとおりです。
「腕時計の本体の裏蓋に凹所を設け、前記凹所に体温計の感知部を装着して前記感知部を裏蓋と同一面とし、かつ、体温計の表示部を文字板の一部に装着し裏蓋の体温計の挿入孔にパッキングを装着してなる体温計付き時計。」
次の図はこの公告公報からの引用で、符号8が体温の表示部、符号12はこの表示部を装着する部分です)。

この発明(考案)も、「腕時計 + 体温計」という組合せ発明です。そして、「腕時計」も「体温計」も既存のものに過ぎません。
しかし、腕時計と体温計は共に身体に密着して使用するものなので、体温計を腕時計の身体側の部分に配置することにより「何時でも何処でもそのまま(いちいち体温計を身体に付ける動作をすることなく)体温を計測できる」という特有の効果が得られます。そして、腕時計と体温計とは技術分野などが異なっており組み合わせの動機付けはないので、「腕時計」と「体温計」とを組み合わせたこと(「腕時計 + 体温計」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたのだろうと思います。
なお、上記のクレームのままでは無理ですが、もし「計時機能(タイマー機能)と体温測定機能との連携手段」(腕時計の計時部からの信号により体温計の計測を開始させる手段)という要素(限定)を補正で付加するようにすれば、「ユーザーがいちいち操作しなくても(知らない間に)毎日決まった時刻に基礎体温などを計測することができる」という特有の効果を主張することもできます。(この部分、追記しました。2010/11/15)
追記(基本発明の手法の一つとしての「ニーズ発見能力」):
なお、上記のICカードの基本特許(特許第940548号)は、特許された1979年頃はICの価格が高くて実用化の見込みが無かったのですが、ICの価格が大幅に下がってICカードの商品化が現実になった1980年代後半から特許期間が切れるまでの数年間は、大手電機メーカーなどからライセンスの申込みが殺到し、この間のライセンス料収入は数十億円〜百数十億円(当時)にもなったそうです。
このICカードのアイデアは、1970年当時、有村国孝という青年が、古河電工を辞めて米国に行き、そこで日本より10年早いカード社会(ただし磁気カード)を経験し、「これからは記録容量の小さい磁気カードでは役に立たなくなるのではないか」という問題意識から思い付いたもので、特許権者は有村さん個人になっています。
このICカードの基本特許は、当時の72文字しか記憶できない磁気カードでは将来は役に立たなくなるという隠れた課題・ニーズの発見から生み出されたもので、このような「隠れた先端的なニーズ」を発見する「ニーズ発見能力」が基本発明を生み出すための重要な手法の一と思います。個人でもこのような基本特許を取得できるのですから、中小企業でも十分に可能性はあると思います。
にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^
既存の技術を「単に寄せ集めた」だけの発明は進歩性がないので特許されません。
これに対して、既存の技術を有機的に組み合わせて特有の効果を生じさせた発明(「単なる寄せ集め」ではない発明)については、進歩性があるとして特許が認められる場合と進歩性がないとして特許性が否定される場合とがあります。
「既存の技術の組み合わせ」でも、特許性が認められることは少なくありません(というか、特許庁が認めている特許全体のおよそ7〜8割は、ソフトウェア特許やビジネスモデル特許をも含めて、組合せ発明だと思います)。
例えば、「A+B」の発明で、「A」「B」が既存の技術だとしても、「+」(AND)の部分(組み合わせたこと)が容易ではなかったと評価されれば、進歩性は認められます。
なお、「+」の部分は、「AとBとから成る・・・」という単純な形もありますが、「Aからの・・・に基づいてBを・・・する制御手段」などの形もあります。(※一部加筆しました)
組合せ発明(コンビネーション発明)で進歩性が認められた例を3つ、以下に記しておきます。
1 「ICカード」の特許(特許第940548号。1979年1月30日登録→1990年3月3日期間満了で消滅)
この特許の公報によると、この特許のクレーム(特許請求の範囲)は次のとおりです(図面もこの公報から引用)。
「能動素子を含み外部からの入力に応答して識別用の新たな信号を発生する集積回路を識別装置として本体に埋設して成る識別カード。」

極めて広いクレームですが、要するに、「IC(集積回路)をカードに埋設して成るICカード」の発明で、ICとカードとの組合せ、「IC + カード」という発明です。
この場合、「IC」と「カード」は既存ものですが、ICをカードに埋設することにより何処でも手軽に本人確認ができるなどの効果が得られること、ICとカードとを組み合わせる動機付けは出願当時に無かったことなどから、「IC」と「カード」とを組み合わせたこと(「IC + カード」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められました。
2 「雪見だいふく」の特許(特許第1537351号。1989年12月21日登録→2001年5月29日期間満了で消滅)
この特許クレームは次のようになっています(その下の図面はこの特許の公報のものではなく参考用です)。
「略アミロペクチンより構成されるでん粉と糖類と水との混合加熱により得られる粘弾性物にて冷菓を被覆することを特徴とする被覆冷菓。」

この特許クレームもかなり広いです。2001年にこの特許が期間満了で消滅するまでは、この特許のおかげで類似品はほとんど出てなかったと思います。
この発明は、要するに、「丸い団子状の冷菓を餅皮(粘弾性物)で包む」という発明、つまり、「丸い団子状の冷菓 + 餅皮(粘弾性物)」の組合せ発明です。
そして、「(丸い団子状の)冷菓」は昔からありましたし、「餅皮」も「餅皮(もち米粉を蒸して得られた皮)で小豆餡を包んだ大福餅」のように昔からありました。
しかし、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせることにより食感が変わって冬でも冷菓を食べやすい(冬でも冷菓が売れる)という特有の効果があり、「冷菓」と「餅皮」を組み合わせる動機付けは無かったので、「冷菓」と「餅皮」とを組み合わせたこと(「冷菓 + 餅皮」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたものと思います。
3 「体温計付き腕時計」(実公昭43−29993号)
特許庁の審査で進歩性が認められて登録査定は出ましたが出願人の都合で登録番号はないようです。
公告クレームは次のとおりです。
「腕時計の本体の裏蓋に凹所を設け、前記凹所に体温計の感知部を装着して前記感知部を裏蓋と同一面とし、かつ、体温計の表示部を文字板の一部に装着し裏蓋の体温計の挿入孔にパッキングを装着してなる体温計付き時計。」
次の図はこの公告公報からの引用で、符号8が体温の表示部、符号12はこの表示部を装着する部分です)。

この発明(考案)も、「腕時計 + 体温計」という組合せ発明です。そして、「腕時計」も「体温計」も既存のものに過ぎません。
しかし、腕時計と体温計は共に身体に密着して使用するものなので、体温計を腕時計の身体側の部分に配置することにより「何時でも何処でもそのまま(いちいち体温計を身体に付ける動作をすることなく)体温を計測できる」という特有の効果が得られます。そして、腕時計と体温計とは技術分野などが異なっており組み合わせの動機付けはないので、「腕時計」と「体温計」とを組み合わせたこと(「腕時計 + 体温計」の「+」の部分)は容易ではなかったとして、進歩性が認められたのだろうと思います。
なお、上記のクレームのままでは無理ですが、もし「計時機能(タイマー機能)と体温測定機能との連携手段」(腕時計の計時部からの信号により体温計の計測を開始させる手段)という要素(限定)を補正で付加するようにすれば、「ユーザーがいちいち操作しなくても(知らない間に)毎日決まった時刻に基礎体温などを計測することができる」という特有の効果を主張することもできます。(この部分、追記しました。2010/11/15)
追記(基本発明の手法の一つとしての「ニーズ発見能力」):
なお、上記のICカードの基本特許(特許第940548号)は、特許された1979年頃はICの価格が高くて実用化の見込みが無かったのですが、ICの価格が大幅に下がってICカードの商品化が現実になった1980年代後半から特許期間が切れるまでの数年間は、大手電機メーカーなどからライセンスの申込みが殺到し、この間のライセンス料収入は数十億円〜百数十億円(当時)にもなったそうです。
このICカードのアイデアは、1970年当時、有村国孝という青年が、古河電工を辞めて米国に行き、そこで日本より10年早いカード社会(ただし磁気カード)を経験し、「これからは記録容量の小さい磁気カードでは役に立たなくなるのではないか」という問題意識から思い付いたもので、特許権者は有村さん個人になっています。
このICカードの基本特許は、当時の72文字しか記憶できない磁気カードでは将来は役に立たなくなるという隠れた課題・ニーズの発見から生み出されたもので、このような「隠れた先端的なニーズ」を発見する「ニーズ発見能力」が基本発明を生み出すための重要な手法の一と思います。個人でもこのような基本特許を取得できるのですから、中小企業でも十分に可能性はあると思います。
にほんブログ村 法務・知財←ブログランキングに参加してます。ポチッと^^