スポーツ報知2010年2月10日 ラピュタ模倣で最優秀賞取り消し…大阪府主催の公募展
障害がある人が創作した現代アートを展示する大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画が、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」のキャラクターの模倣であることが10日、分かった。府は受賞者からの辞退の申し出を受け、同日審査結果を取り消した。(中略)
連絡を受けた女性は「ジブリが大好きなので、モチーフにした」と模倣を認め、受賞を辞退。悪意はなく「著作権について知ることができた。今後の創作に生かしたい」と話したという。(中略)
同課は「著作権を侵害する作品は応募できないという注意書きを要項に入れていなかった。再発防止のため対策を考えたい」と話している。
大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画(数ミリ四方に裁断した布をモザイク状に張った作品)が、その受賞後に「天空の城ラピュタ」のロボット兵に酷似していると分かったので、おそらく、大阪市の職員が働きかけて受賞の辞退をしてもらった、ということのようです。
単純な話のようですが、何が問題になっているのかを考えると、次に述べるように、著作権法がいかに条文操作が多いテクニカルで難解な法律なのか、ということがよく分かるような事例ではないかと思います。
以下で、今回の事例について、1.作品を「制作」する行為、2.作品を公募展に「出品」する行為、3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為、の3つの段階に分けて分析してみます。
1.作品を「制作」する行為(=「複製・翻案」する行為)について
この作品を制作する行為(複製・翻案する行為)については、まず、著作権法30条1項(私的使用のための複製)、43条1項(翻案等による利用)が問題になると思います。この2つの規定は、「私的使用目的」(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき)ならば、原則として他人の著作物を適法に複製・翻案できる、と定めています(そもそも、他人の著作物であろうとなかろうと自分の好みの素材を利用して絵画などに表現することは、個人の表現の自由・基本的人権であり、著作権法はその例外的制約を定めるものに過ぎません)。
ただ、当初から「公募展に出品する目的」で複製・翻案することは、「私的使用目的」によるとは言えない(私的使用目的だという見解もあってよいと思いますが)ので、同法30条1項、43条1項には該当せず、複製権・翻案権の侵害になるでしょう。
逆に、当初は「公募展に出品する意図」はなく「私的使用目的」で制作したという場合なら、適法な複製・翻案による合法的な作品といえます。
2.作品を公募展に「出品」する行為について
上記1で述べたように、当初から「公募展へ出品する目的」で制作(複製・翻案)していたら著作権侵害と思いますが、そうではなく、作品を制作した(複製・翻案した)時点では公募展に出品する気は無かった(私的使用目的だったので適法な複製・翻案だった)が、その後に、公募展のパンフレットを見て初めて作品しようと思い立って出品したという場合も沢山あると思いますが、そのような場合の「出品」の行為は違法となるのでしょうか。
この場合、同法49条1項2項(複製物の目的外使用等)をみますと、(a)同法30条1項の定める私的使用目的での適法な複製による複製物、または(b)同法43条の定める私的使用目的での適法な翻案による二次的著作物であっても、つまり適法な複製・翻案により制作された作品であっても、その後に、その作品を「頒布」又は「公衆に提示」することは複製権または翻案権の侵害と見做す、としています。よって、もし、「公募展への出品」という行為が、同法49条1項2項の「頒布」又は「公衆に提示」に該当するとすれば、結局、複製権または翻案権の侵害と見做されることになります。
しかし、私見ですが、「公募展への出品」は、「頒布」(公衆への譲渡・貸与。同法2条1項19号)にも、「公衆に提示」にも該当しないと思います。なぜなら、著作権法でいう「公衆」には「特定かつ少数の者」は含まれません(同法2条5項)が、「公募展への出品」は特定かつ少数の者に貸与・提示するだけ(少数の担当者と審査員が見るだけ)なので、「頒布」(公衆への譲渡・貸与)にも「公衆に提示」にも該当しないのでは、と思います。確かに、受賞すればマスコミ発表されるので「公衆に提示」する目的で「出品」したのだろうという見解も可能かもしれませんが、それ(受賞→マスコミ発表)は「出品」の動機に過ぎません。同法49条1項2項は、「出品」の行為そのものが「頒布」(公衆への譲渡・貸与)又は「公衆への提示」であることを要求していますので、やはり該当しないのでは、と思います。
3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為について
ただ、上記2のように「出品」の行為そのものは適法だしても、出品して受賞したら、自治体がマスコミ発表してしまうので、その「マスコミ発表」の行為が、自治体と出品者の共同行為による「公衆への提示」と評価されて、複製権・翻案権の侵害と見做されてしまう(同法49条1項2項)可能性はあるかなと思います。
よって、結局、大阪府が「『著作権を侵害する作品は応募できない』という注意書きを要項に入れるべきだった」と言っているのは正しいと思いますが、『もし受賞してマスコミ発表されれば(著作権法49条により)著作権侵害となってしまうような作品は応募できない』という方がより正確かなと思います。というのは、細かいことを言うようですが、前述のように、公募展への出品目的ではなく私的使用目的で適法に「複製・翻案」(制作)した作品は、その後にその作品を「出品」しても、(その後に受賞して「マスコミ発表」されない限りは)「著作権を侵害する作品」とは言えないと思われるからです。
以上の議論は、何か、「複雑な条文操作をしている、すごく重箱の隅をつつくような議論」のように見えるかもしれませんが^^;、このようなテクニカルで分かり難い議論をしなくてはならないことこそが、例外に例外を重ねて一般人だけでなく専門家にも容易に理解できなくなってしまった今の著作権法の最大の問題ではないかと思います。
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