2010年02月25日

日本の新聞は日経と読売朝日の2大紙体制に進む?



「世に倦む日日」さんが面白い分析をしています(※追記: 私は昨日このリンクのURLで全文を読んだのですが今確認したら一部だけで残りは有料のレジまぐ版に移行してるようです)。


最近(ここ1年くらい?)の朝日新聞の主張やスタンスの変化は、「読売主導の業界再編で置いてきぼりを食わない」ため、さらには、読売新聞との将来の合併・ガリバー統合を睨んだ布石ではないかというのです。


合併・統合するためには主張やスタンスがかけ離れていると難しいので、朝日の上層部が記者の人事などを使って、朝日の主張やスタンスを読売に合わせるべく画策している、それが最近の朝日の紙面の変調の原因ではないかという見方です。


確かに、最近の朝日の社説などの主張やスタンスは、かつてと様変わりで、ほとんど読売と差が無くなっています。


最近の新聞販売部数や広告売上の激減、押し紙問題(各新聞販売店に不要な部数の買取りを押し付けて新聞販売部数をかさ上げし、広告代を上げているという問題)や記者クラブの問題(各官庁の記者クラブが廃止・解放されれば記者クラブ会員である大新聞の優位性がなくなって経営に悪影響が出るという問題)などを見ると、朝日でもネット時代での生き残りは至難の情勢です。


読売との合併・統合に一縷の望みを掛けて主張やスタンスを変えるなどなりふり構わない動きに出ている、というのは十分あり得る話かなと感じます。


もしこの見方が当たっているのなら、近い将来、日本の新聞業界は、毎日と産経を吸収した「読売朝日新聞」と日経との2大紙体制へと進むことになるのでしょう(個人的にはそれが良い方向だとは全く思っていませんが・・・)。


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2010年02月24日

エコキュートと太陽熱温水器の併用システム(天気予測機能付き)



空気を圧縮して熱を生み出すエコキュートと太陽熱で湯を沸かす太陽熱温水器を組み合せただけでは、通常は、「単なる寄せ集め」として、「進歩性」(「発明が容易にできたものではないこと」という、特許になるかどうかで最も争われる要件)が認められません。


でも、この組合せの仕方に一工夫を加えたら、進歩性が認められる場合があります。


例えば、デンソーと矢崎総業が今月(2010年2月)販売を開始した、天気予測機能付きの太陽熱エコキュート併用システム。


加湿センサなどからのデータから明日の天気を予測するプログラムを内蔵しているようです(ネットから天気予報情報を取り込んでも同じ)。


そして、プログラムが明日は晴れだと予測した場合は、その前夜(つまり今夜)はエコキュートを作動させないで、明日の朝になってから、その日の太陽熱を使って湯を沸かします。


他方、明日は曇りか雨だと予測した場合は、その前夜(つまり今夜)、割安の夜間電力を使ってエコキュートで湯を沸かしておきます、というものです。


明日は晴れだと予測した場合はその前日の夜はエコキュートを作動させないので、電気代が大幅に節約できます。


この発明は、「明日が晴れかどうかの天気予測に基づいてエコキュートと太陽熱温水器とを切り替え制御するように、両者を組み合わせたもの」(そのような切り替え制御手段を付加したもの)ですから、「ただの組み合せ(単なる寄せ集め)」とは言えないので、進歩性が認められると思います(というか、もう既に特許されている? 確認してません。なお、以上は私が下記のデンソーのホームページを見て、こういう発明なのかなと予想した内容ですので、実際の商品とは違っている可能性はあります)。


f:id:mkuji:20100225095023j:image


上図はこの装置を紹介しているデンソーのホームページからの引用です。


http://www.denso.co.jp/ja/news/newsreleases/2009/090727-01.html


以下に、このホームページ中の、この装置の紹介文の一部を引用しておきます。



"空気の熱"と"太陽熱"、2つの再生可能エネルギーをベストミックス


 本システムは、"空気の熱"を利用するエコキュートと、"太陽熱"を利用するソーラーシステムを組み合わせた、2つの再生可能エネルギーによる給湯システムです。(中略)


•「天候予測機能」と「給湯使用量学習機能」によってムダなエネルギー利用を抑制


 本システムは、天候を予測する天候予測機能でソーラーシステムの集熱器から集熱できる熱量を予測するとともに、1日の給湯使用量を学習する機能でご家庭に応じた最適な給湯量を計算しますので、エネルギーのムダを省き、エコキュートの給湯効率を向上させることが可能です。



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2010年02月19日

特許制度はイノベーションを阻害するのか?



池田信夫blog アンチ・パテントへの転換?



特許の数を増やすことがイノベーションだと思い込んでいる人がいるが、両者は無関係である。日本企業の取得した特許は人口比では世界一だが、ほとんどが死蔵されてイノベーションに結びついていない。経済学の実証研究でも、企業が競争優位を守るために使う手段としてもっとも重要なのは、速く開発することによるリードタイムや企業秘密で、特許はほとんど重視されていない。(中略)


特許は薬品のように固定費の大きい分野ではまだ有効だが、半導体ではもはやクロス・ライセンスの交渉材料として使われるだけで、むしろ既存企業のカルテルを促進して参入を阻害している。ビジネスプロセスに至っては、弁護士以外の誰の得にもならない。



池田信夫さんが特許制度はイノベーションを阻害すると主張しています。


確かに、特許法1条が「・・・発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」と定めるように、特許制度の目的は、産業発達、そのためのイノベーション(≒技術革新)振興です。


しかし、「イノベーション振興」には、次の2つのレベルの内容があると思います。


(1)社会における新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)


(2)社会における新しい商品・サービスの豊富化(製造販売の活発化)


そして、特許法1条に「・・・発明を奨励し・・・」とあるように、特許制度は、もともと上記(1)の「新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)」を実現するために設計された制度であり、それは現状でもうまく行っていると思います。


つまり、特許制度とは新しい発明をして出願すればその発明内容を国家が社会に公開しその引き替えにその発明に関して一定期間の独占権を与えるというものですが、もしこれがなかったら、新しい発明をしても保護されないので新しい発明や研究をしようというモチベーションが低下してしまったり、新しい発明や研究をしてもそれを公表しないで隠しておくようになり研究開発が各事業体で重複して行われることになって社会全体で研究開発の大きな無駄が生じてしまいます。


また、特許は、実用化レベルでの製造・販売に対する禁止権に止まり、「試験又は研究のためにする特許発明の実施」には効力が及ばない(特許法69条1項)ので、特許が純粋な研究開発そのものを阻害することは原則としてないと言えます(企業や大学などでの研究に使う道具(リサーチツール)に特許が成立しているためにそれを使って行う研究ができないという問題はあります。また、どうせ実用化できないのなら研究しても仕方ないとヤル気を失う場合もあるでしょうね)。


他方、上記(2)の「新しい商品・サービスの豊富化(製造販売の活発化)」=「新製品の実用化(製造・販売)というレベルでのイノベーション」に関しては、特許が、それを阻害する結果になることはあるんだろうと思います。つまり、特許は、「製造・販売」についての禁止権として、後発者による模倣商品の登場を抑制するために機能しますが、その結果として、後発者の新規参入を妨害する作用を果たしたり、そのような目的で悪用されたりする場合も現実にはあると思います。


しかし、この問題は、上記(1)の「新しいアイデア・技術の豊富化(研究開発の活発化)」のために特許制度を運用する過程で生じてしまう「副作用」と捉えるべきで、特許制度そのものを否定するのではなく別の方向から解決すべきではないかと思います。


例えば、ライセンス契約を利用したカルテルなどの独占禁止法に抵触する事例を厳正に摘発する、ライセンス契約交渉を多くの企業が活発に気軽に行えるように制度を整えたりそのような社会文化を醸成する、公益のための強制実施権の設定を容易化することなどで、上記「副作用」の緩和が可能になるではないかと思います。


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2010年02月17日

生物模倣



基本特許の元になる基本発明(パイオニア発明)の手法・法則の一つに生物模倣がありますが、これについて日経産業新聞2010/2/10の記事「2030年への挑戦 次世代産業技術 生物模倣」の記事が面白かったので、その中の一部を少し紹介というか、メモ的に記しておきます。


生物模倣の主な例として、次の5つが挙げられています。


1 トヨタ自動車と東北大の共同研究による「バッタの足裏」の構造を模倣した「低摩擦自動車部品」


東北大の下村正嗣教授がトヨタと2003年からエンジンやトランスミッションの摩擦を抑える研究に取り組み、「平らな六角形が集まった表面構造の膜」を部品の表面に張ったところ、摩擦が大幅に低減したとのことです(もともと、モノ同士の摩擦は平坦より凹凸が有る方が小さくなることは知られていた)。


なお、この「平らな六角形が集まった表面構造」がバッタの足裏の構造とそっくりだったことは、開発した後で分かったそうです。


2 富士フィルムによる「ハチの巣(ハニカム)」の構造を模倣した「医療用癒着防止フィルム」


3 日東電工による「ヤモリの足裏」の構造を模倣した「工業用強力テープ」


4 帝人デュポンフィルムによる「タマムシ、チョウ、クジャクの羽」の構造を模倣した「装飾用カラーフィルム」


5 三菱レイヨンによる「蛾の目」の構造を模倣した「液晶などの反射防止フィルム」


記事の紹介は以上ですが、ルネサンス時代のレオナルド・ダ・ビンチが鳥や魚を模倣した飛行機や船のアイデア図を描いていたのは有名ですね(飛行機について、ダ・ビンチは鳥が羽ばたく動作を模倣した「羽ばたき機械」のアイデアを出しただけでした。その後、19世紀中頃に、英国のジョージ・ケイリーが、鳥が羽を固定したまま風を受けて上昇飛行するのを観察して、「固定翼による飛行機」=「固定翼を上方に押し上げる揚力と、固定翼を前方に推し進める推力と、の基本的な2つの力により飛行する飛行機」を初めて考案しました。その後、20世紀初頭の1903年に米国のライト兄弟がフライヤー1号で世界初の有人動力飛行に成功しました)。


生物が長年の淘汰・進化の歴史の中で改良してきた「環境や生存に適合した構造」を参考にすることは、昔から基本発明の手法・法則の定番だと言えますね。


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2010年02月15日

電子新聞でマスコミの縮小・解体、報道スタンスの多様化に進むのでは



池田信夫blog「電子出版の経済学」



いま電子出版で起こっている現象は、技術的には新しくない。(中略)しかしこれが出版業界や流通業界に与える影響はかなり大きいだろう。それは従来の著者と出版社の関係を変えるからだ。


日本の書籍の印税は10%、原稿料は400字詰め原稿用紙1枚あたり5000円ぐらいが相場で、ここ30年ぐらい変わっていない。(中略)


このように出版社が著者を搾取できるのは、出版の最終的な決定権を出版社がもっているからだ。(中略)


このように仲介機関を「中抜き」してユーザーがネットワークをコントロールするend-to-endの構造は、インターネットの誕生以来のものだが、その構造変化が出版の世界にも及ぶわけだ。過渡的には、紙の本を電子化するビジネスがメインだろうが、最終的には「電子書籍」である必要もない。ワインバーガーのいうように、知識を系統的に整理する書籍という形式は崩壊し、すべての媒体はパンフレットになるかもしれない



池田信夫さんは、電子出版が普及すると、著者と出版社・取次との間でパワーシフトが生じると言ってます。つまり、今まで著者は出版社に認められないと出版できなかったけど、これからはアマゾンやアップルなどの配信業者と直接に契約して(つまり自分が出版社を兼ねる)70%の印税をもらうことも可能ということです。そうなると、取次は存在意義を無くし、出版社も編集部門を除く印刷部門などは存在意義を無くすでしょう。


これは近い将来の形と思いますが、さらに、池田さんによると、「過渡的には、紙の本を電子化するビジネスがメインだろうが、最終的には「電子書籍」である必要もない。ワインバーガーのいうように、知識を系統的に整理する書籍という形式は崩壊し、すべての媒体はパンフレットになる」というように、書籍という形式も崩壊するだろうと述べています。


つまり、今のような200頁以上の書籍の形式をとったのは、千円以上(新書版でも700円以上)の単価にしないと出版・流通経費を回収できないという流通側の事情によるものに過ぎないのだから、電子書籍になれば200頁以上の書籍という形式を取る必然性は全くないということです。


しかし、そうだとすると、形式が崩壊するのは書籍だけではないと思います。雑誌や新聞にしても、今のような形式になっているのは、そうしないと流通経費を回収できないという流通側の事情によるものに過ぎないのだから、電子化されていくと、その形式が崩壊し、「パンフレット化」「断片化」していくのではないでしょうか。


つまり、電子的に読む場合は、今の新聞は分量があり過ぎるので、今の新聞の3〜5分の1以下の分量でよいと思います(資料へのリンクは別途必要でしょうが。さらに、レイアウトについては意見が分かれるでしょうが、私は重要な記事には星印でも付けておけばよいので必要ないと思います)。また、新聞という単位ではなく個々の記事単位でのバラ売り(マイクロ・ペイメント)が主流になる可能性もあります。とにかく、そういう流れになると、電子新聞になったときの売上は、紙の新聞のときに比べて数分の1になるのではないでしょうか。


となると、例えば今の朝日新聞なども、縮小されたり、何個かの新聞社に分解・解体されるのではないでしょうか。


最近、原口総務大臣が、検察報道へのマスコミ批判の関係もあるんでしょうが、クロスオーナーシップ(特定資本が新聞とテレビなど複数メディアを支配すること)の禁止を法制化したいと言っています。クロスオーナーシップ禁止は新聞社と放送局などの間で資本を別にして報道スタンスを多様化させようとするもので、欧米諸国では常識となっているようです。


これはこれで大切と思いますが、仮にこういうことをしなくても、電子化の流れの中で少なくとも紙媒体のマスコミは縮小・解体して行くので、今の朝日、読売、日経、毎日、産経の大手5社が、それぞれ規模を縮小したり分割されて、さらに、ネット専業の新聞社が、今もJ-CASTニュースや47NEWSなどがありますが、今後さらに何社かが創業されて、トータルで20〜30社の中規模の電子新聞社(もはやマスコミではなくミドルメディア)が競う状態になるのではないかと思います。そうなると、それら多数の新聞社が皆同じような報道をしていても仕方が無いので、それぞれがターゲット顧客や主張や立ち位置を明確化・差別化して行くでしょう。


よって、新聞の電子化が主流になると、一足早く「報道スタンスの多様化」が実現されるのではないかと思います。


また、そういう意味で、少し大袈裟かもしれませんが、電子新聞は、報道の在り方や国民の知る権利・民主主義の在り方にまで広がっていく問題になるのではないかと思います(例えば、国家権力に対抗できる第4の権力としてのマスコミには強大な組織力が必要なのですが、中規模の組織しか持たない電子新聞社にそのような役割を果たせるのかなどの問題が出てくると思います)。


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2010年02月12日

ラピュタのロボット兵の模倣作品が公募展に出品、受賞の後、辞退



スポーツ報知2010年2月10日 ラピュタ模倣で最優秀賞取り消し…大阪府主催の公募展



 障害がある人が創作した現代アートを展示する大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画が、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」のキャラクターの模倣であることが10日、分かった。府は受賞者からの辞退の申し出を受け、同日審査結果を取り消した。(中略)


 連絡を受けた女性は「ジブリが大好きなので、モチーフにした」と模倣を認め、受賞を辞退。悪意はなく「著作権について知ることができた。今後の創作に生かしたい」と話したという。(中略)


 同課は「著作権を侵害する作品は応募できないという注意書きを要項に入れていなかった。再発防止のため対策を考えたい」と話している。



大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画(数ミリ四方に裁断した布をモザイク状に張った作品)が、その受賞後に「天空の城ラピュタ」のロボット兵に酷似していると分かったので、おそらく、大阪市の職員が働きかけて受賞の辞退をしてもらった、ということのようです。


単純な話のようですが、何が問題になっているのかを考えると、次に述べるように、著作権法がいかに条文操作が多いテクニカルで難解な法律なのか、ということがよく分かるような事例ではないかと思います。


以下で、今回の事例について、1.作品を「制作」する行為、2.作品を公募展に「出品」する行為、3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為、の3つの段階に分けて分析してみます。


1.作品を「制作」する行為(=「複製・翻案」する行為)について


この作品を制作する行為(複製・翻案する行為)については、まず、著作権法30条1項(私的使用のための複製)、43条1項(翻案等による利用)が問題になると思います。この2つの規定は、「私的使用目的」(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき)ならば、原則として他人の著作物を適法に複製・翻案できる、と定めています(そもそも、他人の著作物であろうとなかろうと自分の好みの素材を利用して絵画などに表現することは、個人の表現の自由・基本的人権であり、著作権法はその例外的制約を定めるものに過ぎません)。


ただ、当初から「公募展に出品する目的」で複製・翻案することは、「私的使用目的」によるとは言えない(私的使用目的だという見解もあってよいと思いますが)ので、同法30条1項、43条1項には該当せず、複製権・翻案権の侵害になるでしょう。


逆に、当初は「公募展に出品する意図」はなく「私的使用目的」で制作したという場合なら、適法な複製・翻案による合法的な作品といえます。


2.作品を公募展に「出品」する行為について


上記1で述べたように、当初から「公募展へ出品する目的」で制作(複製・翻案)していたら著作権侵害と思いますが、そうではなく、作品を制作した(複製・翻案した)時点では公募展に出品する気は無かった(私的使用目的だったので適法な複製・翻案だった)が、その後に、公募展のパンフレットを見て初めて作品しようと思い立って出品したという場合も沢山あると思いますが、そのような場合の「出品」の行為は違法となるのでしょうか。


この場合、同法49条1項2項(複製物の目的外使用等)をみますと、(a)同法30条1項の定める私的使用目的での適法な複製による複製物、または(b)同法43条の定める私的使用目的での適法な翻案による二次的著作物であっても、つまり適法な複製・翻案により制作された作品であっても、その後に、その作品を「頒布」又は「公衆に提示」することは複製権または翻案権の侵害と見做す、としています。よって、もし、「公募展への出品」という行為が、同法49条1項2項の「頒布」又は「公衆に提示」に該当するとすれば、結局、複製権または翻案権の侵害と見做されることになります。


しかし、私見ですが、「公募展への出品」は、「頒布」(公衆への譲渡・貸与。同法2条1項19号)にも、「公衆に提示」にも該当しないと思います。なぜなら、著作権法でいう「公衆」には「特定かつ少数の者」は含まれません(同法2条5項)が、「公募展への出品」は特定かつ少数の者に貸与・提示するだけ(少数の担当者と審査員が見るだけ)なので、「頒布」(公衆への譲渡・貸与)にも「公衆に提示」にも該当しないのでは、と思います。確かに、受賞すればマスコミ発表されるので「公衆に提示」する目的で「出品」したのだろうという見解も可能かもしれませんが、それ(受賞→マスコミ発表)は「出品」の動機に過ぎません。同法49条1項2項は、「出品」の行為そのものが「頒布」(公衆への譲渡・貸与)又は「公衆への提示」であることを要求していますので、やはり該当しないのでは、と思います。


3.受賞作品を「マスコミ発表」する行為について


ただ、上記2のように「出品」の行為そのものは適法だしても、出品して受賞したら、自治体がマスコミ発表してしまうので、その「マスコミ発表」の行為が、自治体と出品者の共同行為による「公衆への提示」と評価されて、複製権・翻案権の侵害と見做されてしまう(同法49条1項2項)可能性はあるかなと思います。


よって、結局、大阪府が「『著作権を侵害する作品は応募できない』という注意書きを要項に入れるべきだった」と言っているのは正しいと思いますが、『もし受賞してマスコミ発表されれば(著作権法49条により)著作権侵害となってしまうような作品は応募できない』という方がより正確かなと思います。というのは、細かいことを言うようですが、前述のように、公募展への出品目的ではなく私的使用目的で適法に「複製・翻案」(制作)した作品は、その後にその作品を「出品」しても、(その後に受賞して「マスコミ発表」されない限りは)「著作権を侵害する作品」とは言えないと思われるからです。


以上の議論は、何か、「複雑な条文操作をしている、すごく重箱の隅をつつくような議論」のように見えるかもしれませんが^^;、このようなテクニカルで分かり難い議論をしなくてはならないことこそが、例外に例外を重ねて一般人だけでなく専門家にも容易に理解できなくなってしまった今の著作権法の最大の問題ではないかと思います。


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posted by mkuji at 13:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 著作権

2010年02月05日

トヨタ・プリウスのブレーキ欠陥問題についての私見



中日新聞2010年2月5日 トヨタ、ブレーキ欠陥を否定 プリウス苦情で会見



 トヨタ自動車の横山裕行常務役員(品質保証担当)は4日、東京都内で記者会見し、ハイブリッド車「プリウス」のブレーキに対する苦情問題について、「ブレーキを踏み増せば安全に車は止まる」と述べ、ブレーキの性能に欠陥はない、との認識を示した。


 プリウスはガソリン車と同じ「油圧ブレーキ」と、ハイブリッド車特有の「回生ブレーキ」を併用。走行状態に合わせ、自動的に車自体が最善の組み合わせを選ぶ仕組みだ。


 ただ、凍結など滑りやすい路面で車体をコントロールするアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)が作動すると、回生ブレーキとの併用から油圧ブレーキ単独への切り替えに、時間差が生じるという。


 これについて横山氏は「ブレーキを踏めば(車は)きちっと止まる。(制動距離が)伸びることはない」と車両の安全性を強調。ただ、トヨタはドライバーが感じる「違和感」を解消するため、2009年5月の発売から10年1月下旬にかけ国内で販売した車両を対象に、ブレーキ制御のコンピューターを改良ソフトに書き換える無料改修を行う。



上の記事によると、新型プリウスの不具合についてのトヨタ側の説明は、次の2つです。


(1)「ブレーキを踏み増せば安全に車は止まる」と述べ、ブレーキの性能に欠陥はない、との認識。


(2)「ブレーキを踏めば(車は)きちっと止まる。(制動距離が)伸びることはない」


上の(1)と(2)の文章を組み合わせると、(3)「ブレーキを踏み増せば、(車は)きちっと止まる。(制動距離が)伸びることはない」というのが正確なところなんでしょうかね。


仮にそうだとすれば、逆に、(4)「ブレーキを踏み増すことをしなければ(つまり、雨で濡れたマンホールなどの滑りやすい場所に入る前にブレーキを踏んだ状態のままでは)、車はきちっと止まらない、(制動距離が)伸びる」ということになるのでないでしょうか(上記の(3)の文章の反対解釈から)。


もしそうだとすれば、欠陥という表現も有り得るのではという疑問も出てくるように思います(※ただの「空走感」ではなく「空走の事実」が発生しているため。PL法の「欠陥」に該当するかは分かりませんが)。


上記の記事の説明だけではよく分からないんですが、アンチロックブレーキシステムは、滑りやすい場所でブレーキを踏んだときでも車輪がロックしないように高速でブレーキを掛けたり緩めたりするもので、それは、「油圧ブレーキの制御」で行っています、したがって、雨に濡れたマンホールの上を走行してタイヤが一瞬でもロックすると、それが検出されて、アンチロックブレーキシステムの作動を開始させようとする、そのために「回生ブレーキと油圧ブレーキとの併用」から「油圧ブレーキ単独」への切り替え動作に入って、タイムラグが生じてしまう、ということのようです。


ハイブリッド車とアンチロックブレーキシステムを組み合わせたことにより生じた問題、その意味でハイブリッド車に本質的な問題と言えますね。


上記の「ブレーキ制御のコンピューターを改良ソフトに書き換える無料改修」の内容は上の記事からは分かりませんが、おそらく、雨に濡れたマンホールの上を走っただけではアンチロックブレーキシステムの作動を開始させないようにする(=車輪が一瞬ロックしただけではアンチロックブレーキシステムの作動を開始させないようにする)、そのために、アンチロックブレーキシステムが作動を開始する条件の範囲を狭める、悪く言えばアンチロックブレーキシステムの性能を落とすということなのかなと思います(確認しておらず予想です)。


追記1: 私もトヨタ車に乗ってて満足してますので別にトヨタに恨みは無いんですが^^; 上の記事の「ブレーキ制御のコンピューターを改良ソフトに書き換える無料改修を行う」という部分が少し気になります。上に書いたように、もしこの無料改修がアンチロックブレーキシステムの性能を落とす(システムが作動する場面を少なくする)ことだとすると、むしろその面からの安全性の低下の問題が出てくるのではという懸念があるんですよね(あくまで仮定の話です)。トヨタには、ソフトのどういう改修を行うのか、きっちり説明して欲しいと思いますね。


追記2: 後で知りましたが、今回の不具合が生じるのは低速の場合だけで、トヨタは低速の場合は回生ブレーキだけにしているがホンダは常に油圧ブレーキを作動させるようにしているので、ホンダ車ではこういう問題は生じないという情報を見ました(未確認ですが)。もしそうだとすると、ハイブリッド車に本質的な問題とまでは言えないようですし、上の追記1で私の書いたことは少し前提が違ってくるかもしれません。ただ、この情報は、上の記事のトヨタの説明とは少し違うのではと思います。


追記3: トヨタの担当役員は上の記事で「ブレーキを踏み増せば安全に車は止まる」と言ってるんですが、滑りやすい路面でブレーキを慌てて強く踏むと車輪がロックしてスリップするので危険ですよね(まぁそのためのアンチロックブレーキシステムなんですが^^; 少なくとも私の頃はブレーキを急に強く踏むなと教わりました。※ABSを作動させるためには雪道などでも強くブレーキを踏むことが必要(ABSが作動するとハンドルが震える)とのことです)。それと、プリウス新型についてのみリコールということですが、プリウス旧型はなぜリコールしなくてよいのか、どう違うのか、その理由についても説明してほしいと思いますね。


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2010年02月04日

特許出願件数での日本凋落(世界全体の特許出願件数の40%から15%へ、世界2位から3位へ)



日本弁理士会から毎月送られてくる資料の中に「弁政連フォーラム」という冊子がありまして、いつもはスルーしてるんですが^^;、今回パラパラめくってたら、日本弁理士政治連盟の副会長杉本勝徳という方が、独自の面白い分析(事実と予想)を載せておられましたので、一部をご紹介というか、メモ的に記しておきます(以下は一部に私の予想も入れてます)。


◆特許出願件数


特許出願件数では、10数年前は、全世界の出願件数の中で日本の特許出願件数は40%以上だった。


それが今は、日本の特許出願件数は30万件(2009件)で、全世界の出願件数200万件の中では15%となった(10年前から現在まで、日本の出願件数もある程度は伸びたが、米国や中国の伸びがそれを大きく上回った)。


日本の特許出願件数は、全世界の出願件数の40%から15%に凋落した。


中国の特許出願件数は、2009年は31.5万件に上昇した。


その結果、世界の特許出願件数のランキングで、日本(2009年は30万件プラスαで未定)はおそらく米国(2009年予想50万件くらい)と中国(同31.5万件)に次ぐ3位?に転落した(それまでは2位だった)。ちなみに、4位は韓国(同22万件くらい)、5位は欧州(同20万件くらい)、6位はドイツ(同6.5万件くらい)(数値は大雑把な予想が混入してるので注意)。


ただ、日本企業は、近年、国内よりも外国出願にシフトしているので、日本企業そのものの海外出願をも含めた知財力の低下ということではないようです(無駄な出願の絞込みの結果という面もある)。


◆弁護士数


米国(人口:3.1億人)の弁護士数は100万人くらい(米国弁護士は、CPA(公認会計士)の業務を除くあらゆる法律事務(日本の司法書士、行政書士などの業務)を行う)。


日本(人口:1.2億人)の弁護士数は2.6万人。ただ、日本の司法書士、行政書士、弁理士などの隣接法律職(公認会計士は除く)の人数を入れると20数万人になる。


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2010年02月03日

電子書籍時代の著作権侵害



47NEWS 2010/1/29 松沢知事の本、販売禁止命じる 著作権侵害と東京地裁



松沢成文神奈川県知事の著書の一部に自著と類似の表現があり、著作権を侵害されたとして、ノンフィクション作家山口由美さんが知事と出版元の講談社に印刷や販売の禁止などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求の一部を認め、著作権侵害に当たる2行分を削除しない限り、印刷や販売をしてはならないと命じた。 判決は12万円の損害賠償も命じた。 知事と講談社は即日控訴した。



たったの2行分を削除するだけのために、全国の本屋に配布している本を全て回収するというのでは、出版社の出費は膨大なものになりますね(本屋の現場で修正液で2行を消してもらった方が早いかも)。


著作権侵害とされたときのことを考えると、2行分を削除・訂正することが容易な電子書籍の優位性は明らかですね。


電子書籍が主流になると、著作権侵害が一部にあっても、じゃあその部分だけ削除・訂正すればいいんでしょというように軽く考えるようになるかもしれません。もちろん、後から削除・訂正しても、損害賠償責任や刑事責任が無くなる訳ではありませんが、少なくとも本や雑誌の回収などは必要なくなります。


このように電子書籍の時代になると著作権侵害が軽く考えられて多発するようになるかもしれませんが、そうなると逆に、侵害防止の実効性の観点から損害賠償責任や刑事責任が強化されるようになるかもしれません。


もう一つの問題として、この記事によると、「大鷹一郎裁判長は、知事記述の「彼は、富士屋ホテルと結婚したようなものだったのかもしれない」との部分が、山口さん記述の「正造が結婚したのは、最初から孝子というより富士屋ホテルだったのかもしれない」の複製と指摘、著作権侵害に当たると判断した。」とのことです。


これも議論を呼びそうですね。


全部で700頁の本の中で、たった2行が盗用とされたのですから。


盗用、つまり複製権・翻案権の侵害と言えるためには、依拠性と類似性(表現上の本質的な特徴を直接感得できるように利用したこと)が必要とされています(判例)。類似性の有無が争点となり、「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」と判断されたのでしょう。


私見としては、利用したとされる「正造が結婚したのは・・・富士屋ホテルだったのかもしれない」という部分は、表現上の本質的特徴というよりもアイデア(事実関係の独自の分析)といっても良いのではという感じもします(アイデアの盗用なら著作権侵害にならない)。


この記事だけで判決には当たってないので分かりませんが、もしかしたら、他にもグレー部分がいっぱいあって、全部併せて一本という気持ちで、この2行について著作権侵害だとしたのかもしれませんね。


追記:第2審で逆転判決


松沢神奈川県知事が逆転勝訴、箱根富士屋ホテル物語著作権侵害訴訟 2010/07/14(水)


箱根の「富士屋ホテル」創業者の子孫でノンフィクション作家の山口由美さんが、自著の著作権を侵害されたとして、箱根の開発者に関する本を書いた松沢成文神奈川県知事と発行元の講談社に対し、出版差止めと賠償を求めていた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は7月14日、著作権侵害を一部認め2行分を削除しない限り印刷や販売を禁じた一審の東京地裁判決を取り消し、請求を棄却。松沢知事側の逆転勝訴となった。


知財高裁の滝沢孝臣裁判長は、「破天荒力」と「物語」は、表現上の創作性がない部分で共通点があるにすぎないとして著作権侵害に当たらないと判断。一審判決を取り消し、山口さんの請求を棄却した。


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posted by mkuji at 01:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 著作権