2010年01月26日

歴史上の人物「中原中也」の商標出願、山口市にも拒絶理由通知



読売オンライン 2010/1/26 吉田松陰、高杉晋作 歴史上人物の商標「ダメ」



 特許庁は、山口市が出願した同市出身の詩人、中原中也の名前の商標登録を認めない一方、東京都内の会社による幕末の志士、吉田松陰や高杉晋作、桂小五郎の名の商標登録を取り消すことを決定した。


 歴史上の人物の名前に関して、ゆかりのない企業から商標登録の出願が相次ぎ、出身地などとトラブルが生じたことから、特許庁は昨年10月、審査基準を策定。人物の著名性や名前の利用状況、出願目的などを考慮したうえで、公共の利益を損なうおそれがある場合や利益を独占する意図に基づく場合には登録を認めないことにした。



この記事によると、山口市は昨年2月、「中也の名を文化的資源として保護する」という名目で商標出願しましたが、特許庁は「山口市の独占的な使用が、全国の観光振興策などの妨げになる」という理由で認めないことにした、ということのようです。


山口市は単なる私企業ではなく自治体・公益団体なので認めて良いのではという気もしますが、特許庁の考えは、中原中也を文化観光資源として活用している自治体は山口市だけでなく全国に散在しているので、山口市に独占権を認めると他の自治体の観光開発などに悪影響がある(よって公序良俗に反する恐れがある。商標法4条1項7号)ということでしょうか。


IPDLで調べてみると、「中原中也」「中也」についてそれぞれ文房具、ビール、酒類、美術品展示会などの複数の商品・役務について山口市が商標出願しています(商願2009-12852と商願2009-12853)。今は拒絶理由通知が出たという段階であり、拒絶が確定した訳ではないです(最終的に登録される可能性もある)。


追記: 後で他の記事(SANSPO.COM「中原中也」商標登録ダメ!山口市は歓迎)を見ますと、「・・・特許庁は、不適切な独占使用を防ぐ目的で昨年10月に改訂した歴史上の人物名に関する基準を適用。今月8日、「山口市の独占使用は、全国各地の観光振興などの公益的な施策を阻害する恐れがある」などとする出願拒絶理由通知書を送付した。 これに対し、市は「中也が『登録の認められない歴史上の人物』というお墨付きを得た。悪質な業者や個人の独占使用も防ぐことにつながる判断」と“歓迎”。通知に対する反対意見を提出せず、このまま確定を待つことにした。」とあります。


まぁ、それで良いのかも知れませんが、自治体などの公益団体の場合は、他の自治体が使用しているとしても、例えば他の自治体などの公益団体には無償でライセンスする(民間企業には有償でライセンスする)という上申書や意見書を提出することなどにより、商標登録が認められる可能性はあるのでは、と思います。「通知に対する反対意見を提出せず、このまま確定を待つことにした」というのは、さすがお役所、対応が上品だなという気もします^^; 


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posted by mkuji at 10:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 商標

2010年01月19日

地域おこしのキャラクターやその愛称を公募・選考する場合の問題点



カナロコ 2010/1/12記事:ヒーロー「キンタローマン」敗れる、投票1位なのに…/南足柄PRキャラ



南足柄市などがデザインを公募した「足柄山の金太郎」をモチーフにした観光PRキャラクターに寄せられた戦隊ヒーロー風の作品「キンタローマン」。子どもから圧倒的な人気を集め、市民投票では126票を得て断トツの1位。だが、デザインが奇抜過ぎたのか、最終審査では、投票12位(13票)の作品に最優秀の座を奪われ、2番手の優秀賞に泣いた。「まさかの大逆転」と市民や市議からは疑問や驚きの声が上がっている。



市民の人気投票での投票1位が敗れて投票12位が最優秀賞という審査結果に対して、最初から受賞者が決まってたデキレースだったのではなどの疑問の声も2chなどで出ているようです。


地方自治体が地域おこしの関係でキャラクターやその愛称を公募し選考する場合は、キャラクターは著作権で保護されるので著作権を応募者から譲渡してもらう手立てをしておけばほぼ問題ない(念のため商標登録することも多い)ですが、愛称などのネーミングは著作権では保護されないので商標権で保護しておく必要があります。


他者が既に類似したネーミングを商標登録しているために、せっかく公募・選考したネーミングが特産品などに使用できなかったり商標登録できなかったりするのでは、地域おこしの経済的側面の意味がなくなってしまうからです。


したがって、多数の応募の中から、数個の候補を選定した後に、先行商標調査をしてそのネーミングの商標としての使用や登録が可能かを確認して、問題があるものを除外してから改めて最終的な受賞を選定することが実際上広く行われていると思います。それは止むを得ないと思いますが、そのために選考過程が少し不透明になっていることは否めないですね。


そういったことを考えると、公募の前に、選考基準の中に、商標登録可能なものを優先する(上の記事の南足柄市の場合は、デザインが奇抜過ぎるのはダメも?)などをも含めて予め公表しておくことが望ましいだろうと、上の記事を見ながら思いました。


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2010年01月15日

電子書籍で出版社の中抜きの恐れ?



asahi.com 2010/1/13 電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い



拡大が予想される電子書籍市場で国内での主導権を確保しようと、講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を2月に発足させる。米国の電子書籍最大手アマゾンから、話題の読書端末「キンドル」日本語版が発売されることを想定した動きだ。



電子書籍市場に向けての出版社の大同団結ですが、背景には、近年の出版社の苦境とデジタル化に関して法制上のアドバンテージを持たない出版社の危機感があるようです。


知人のブログ経由で知ったのですが、「ブラックジャックによろしく」などを描いてる人気漫画家の佐藤秀峰さんのブログによると、大手出版社はのきなみ数億円以上の赤字の苦境にあるそうです。


また、この佐藤さんのブログでは、電子書籍に関して作家は出版社との関係をどうすべきかよく考えるべきと主張しています。これによると、初期の携帯コミックで作家とコンテンツ配信業者が直接契約していた時代は売上の40%が作家に渡されていましたが、その後、作家と配信業者の間に出版社が入るようになると作家には売上の10%しか渡されなくなった(30%が消えた)そうです。


著作権はあくまで作家にあるので、デジタル化と配信について作家がアマゾンなどと直接契約すれば出版社には何も残りません。出版社にはそういう危機感があるので、出版社が作品の二次利用ができる権利を著作権法などの中に創設してほしいと動いているようです。


ところで今の出版社の苦境の原因の一つに、漫画や雑誌が立ち読みで消費されて購買まで結びついてないことがあると思います(私もよく立ち読みしてます^^;)。


デジタル化されると、漫画や雑誌が表示される電子書籍端末のハードそのものを回し読みする場合を除いて、漫画や雑誌を立ち読みするときは、コピー(又は電子送信)するしかありませんから、著作権者の許諾がある場合や個人利用などの例外を除き、必ず著作権侵害になります。


そうだとすると、漫画や雑誌のデジタル化は、「許諾なしの立ち読み・タダ読みを防ぐ」という点から、作家や出版社に有利な方向に行く可能性もあるのではと思います(なお、アマゾンの「なか見!検索」のように、販売促進の観点からの著作権者の許諾を得た形での「ネット上での、一部分だけの立ち読み」はこれからも有るでしょう)。


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2010年01月14日

グーグルが中国撤退も視野に中国政府と交渉



NIKKEI NET(2010/1/13)の記事:グーグル、障壁高く戦略転換 検閲撤廃求め中国当局と交渉へ



インターネット検索最大手の米グーグルは、ネット情報の一部を表示させないようにしている中国政府に対し、検閲無しでの検索サービスの運営を求めることを明らかにした。中国では海外と中国国内のインターネットをつなぐ結節点を、政府系通信会社がコントロールしている。言論の自由や人権、少数民族問題など政治的に敏感な報道や国際世論を必要に応じて遮断するためだ。グローバルな情報流通が競争力の源泉であるグーグルも、中国向けの中国語サービスでは、共産党政府の検閲を事実上容認する形で市場開拓を進めてきた。



海外と中国国内のインターネットをつなぐ結節点を政府系通信会社がコントロールしていることが一種の「非関税障壁」となっており、これが、百度などの国内ネット企業が大きなシェアを維持できている要因にもなっているようです。中国内では2009年3月からYouTubeが恒常的に閲覧できなくなってもいるようです。


中国内の検索サービスのシェアは、現在、百度が約60%、グーグルが約30%で、上記のような「非関税障壁」の中で、グーグルはかなり健闘しています。


日経の記事では、急成長中の中国市場から撤退することはグーグルの成長に不利と書かれていましたが、いつもグーグルを使っている立場からは、グーグルが使えなくなることによる中国の国民や経済の不利の方が気になりました。


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2010年01月12日

パイオニアがナビタイムをカーナビ特許侵害で提訴



日経エレクトロニクス2010/1/11号に、パイオニアによるナビタイム提訴に関する記事「スマートフォン・ナビ死角 パイオニア特許訴訟の余波」が出ていました。


参考:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091112/177552/


この記事によると、2009年11〜12月に、パイオニアが自社のカーナビ特許を侵害しているとして、自動車での利用に向けたケータイナビ・アプリケーション「EZ助手席ナビ」を提供しているナビタイムを日本の東京地裁に提訴、PND(簡易型カーナビ)メーカーのGarmin社を米国際貿易委員会(ITC)及びドイツの地方裁判所に提訴した、ということです。


そして、この記事によると、国内の電機メーカーは、特にナビタイムへの訴訟に注目しているそうです。それは、もしナビタイムの特許侵害が認められたら、日本の電機メーカーが1990年代から出願して大量に保有しているカーナビ特許が、これから市場が立ち上がるiPhoneなどのスマートフォン向けナビ・サービスに適用できることになるから、ということです。


ナビタイムへの訴訟では、パイオニアは、特許第2891794号と特許第2891795号の2つの特許の侵害を主張しているようです。末尾に、これらの請求項1を引用しておきます。


いずれも、1991年4月の出願で、カーナビの基本特許の一つとされているようです。


特許第2891794号は、過去に入力した複数の目的地の座標データを記録しておいて、ユーザーが目的地を設定するとき、過去に設定した複数の目的地の座標データを利用することにより、目的地の設定を容易化する、というものです。


特許第2891795号は、ユーザー地点登録を簡単な操作でできるようにする?というもののようです。


日経ELの記事によると、この2つの特許の侵害の成否に関しては、2つの特許の各クレーム(特許請求の範囲)の末尾の「車載ナビゲーション装置」の「車載」の解釈が最大の争点になっているようです(両社の交渉の中で論争があったのかもしれませんね)。


つまり、「車載」というためには、「自動車に組み込まれていること」が必要なのか、「自動車で利用すること」だけでよいのか、ということだそうです(前者の解釈ならケータイやスマートフォンは含まれない、後者の解釈ならケータイやスマートフォンも含まれる、ことになります)。


この記事では、ある弁理士さんの見解として、広辞苑では「車載」とは「車に積みのせること」とあること及び特許明細書では「車に取り付けられていなくてはならない」という趣旨の記載はないことなどを理由に、携帯電話やPNDも権利範囲に含まれる(つまり「車載」に該当する)という主張が紹介されていました。


この「車載」の解釈などについて、私の意見を少し書いておきます。


解釈の可能性としては、「車載」と言えるためには、


(a)自動車に組み込まれていること(外付け固定や取り外し可能に外付けされている場合も含む)が必要(携帯端末はダメ)、


(b)自動車に組み込まれていることまでは必要ない(携帯端末でもよい)が、少なくとも自動車の運行支援のためにも利用することが予定されていること(歩行者ナビ用に適しているだけでなくカーナビ用にも適した仕様に設計されていること)が必要、


(c)自動車で利用できるものであれば足りる(歩行者ナビ用に設計されたものでもカーナビにも事実上利用できるものであればよい)、


の3つが有り得ると思います。


ナビタイムの「EZ助手席ナビ」は少なくとも「自動車の助手席で利用するのに適した仕様」で設計されているのでしょう。


したがって、パイオニアとしては、


「車載」は上記(b)の意味だとする文言解釈を主張する、


「車載」の文言解釈としては上記(a)だとしても、「自動車(の助手席)用に設計されている製品」は上記(a)の「車載型(=自動車組み込み型)の装置」と均等だという均等論を主張する、


どちらも可能性はあると思います。


それでは、上記(c)は文言解釈として妥当でしょうか。


一般にメーカーや小売店は自社の製品が販売後にユーザーにどのようなシーンでどのように利用されるかを完全に予想したりコントロールしたりすることはできないので、もし「車載」に関して上記(c)の解釈をとると、メーカーや小売店は、「歩行者ナビ用」として設計・製造・販売した製品(「自動車用」とは想定していなかった製品)について、ユーザーが購入後にたまたま「カーナビ用」に利用したというだけで(追記:そのようなユーザーの使い方を予想しないまま製造販売したメーカーの行為が販売後のユーザー側の事情により)侵害とされてしまうことになり(追記:メーカーに)酷だと思われます。したがって、「車載」の文言に関して上記(c)と解することは妥当でないのではと思います。


同様に、文言解釈として上記(a)又は(b)を採用したとしても「歩行者用の製品」は「車載型の装置」と均等だという主張も妥当でないように思います(理由付けとしては、均等の5要件の一つである意識的除外などでしょうか)。


以下、2つの特許の各請求項1の引用です。


特許第2891794号


【請求項1】 目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって、目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと、目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と、目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出す読出し手段と、読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。


特許第2891795号


【請求項1】 地図を表示器に表示する車載ナビゲ―ション装置であって、複数のサ―ビス施設を示す表示デ―タ及び各サ―ビス施設の存在地点を示す地点座標デ―タを予め記憶した第1記憶手段と、前記第1記憶手段から前記表示デ―タを読み出してその前記表示デ―タに応じて前記複数のサ―ビス施設を前記表示器に表示させる手段と、前記表示器に表示された複数のサ―ビス施設のうちの1のサ―ビス施設を操作に応じて指定する手段と、指定された1のサ―ビス施設に対応する地点座標デ―タを前記第1記憶手段から読み出す手段と、読み出された地点座標デ―タを記憶する第2記憶手段と、前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標デ―タを読み出してその地点座標デ―タが示す地図上の地点を所定のパタ―ンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする車載ナビゲ―ション装置。


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posted by mkuji at 01:13| Comment(4) | TrackBack(0) | 特許侵害

2010年01月10日

全身スキャナが街中カメラに搭載される日も?



ネタりか2010/1/8記事タイトル:どこまで見えるのか全身スキャナ



1月に入り、世界各国の国際空港が次々と全身を透視できるスキャナーの導入に踏み切っている。先月25日に起きた米航空機の爆破テロ未遂事件を受けての安全措置だ。事件の容疑者はブリーフの股の間に爆発物を隠し持っていたにもかかわらず、金属探知機をスリ抜けていた。


 この新型の全身スキャナーは人体を白、それ以外の異物を黒い画像で映し出す優れモノ。ブリーフに爆発物を隠しても一発でお見通しだが、透視能力があまりにも優れ過ぎて、問題が生じている。



少し前から話題になっている空港の透視スキャナ。


人体に有害なX線を透過させるのか他の電磁波を透過させるのか知りませんが、多分レントゲンと同じような画像が得られるだけなんでしょうね。スーツケースの中をX線で透視してるのと同じようなものでしょう。写った顔の部分から誰かを判別できるようなリアルな画像は無理なのでは?


プライバシーの問題はあるとしても、テロ対策から、ある程度は止むを得ないように思います。


今でも街角の監視カメラに暗視カメラ機能(赤外線の反射を利用して暗闇でも白黒の画像を撮像する機能)が付いたものがありますので、将来は、上の記事のような透視機能を備えてポケットの中にピストルを隠し持っている人が歩いてたらピストル画像を検知して通報するようなカメラが街中に設置されるかもしれませんね(電磁波を照射する側と透過した電磁波を受信する側とが必要なのでコストなどちょっと大変かも知れませんが)。


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2010年01月07日

米グーグルの携帯端末「ネクサス・ワン」が知的財産権侵害の恐れ?



WSJ日本版2010/1/6の記事: 米グーグルの「ネクサス・ワン」、知的所有権侵害の恐れ



インターネット検索大手の米グーグルは自社製スマートフォン(多機能型携帯電話)「Nexus One(ネクサス・ワン)」を発表するに当たって、電話で連絡を取らなかったところが1カ所ある。それは、SF小説家の故フィリップ・K・ディック氏の遺族に対してだった。ネクサス・ワンは、同氏の著名な小説の知的所有権を侵害していると彼らは主張している。(中略)


ディック氏が1968年に出版した小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?」は、1982年公開の映画「ブレードランナー」の原作だ。物語は、「ネクサス6型」と呼ばれるアンドロイドを追跡するハンターを中心に展開する。


ハケット氏は、グーグルは同社スマートフォンの製品名を決める際にこの小説を参考にしたと考えている。だが同社は、ディック氏の遺族や弁護士に使用許可を求める連絡はしなかった。



SF作家のディック氏の遺族は、グーグルがその携帯OSの「アンドロイド」と携帯端末の「ネクサス・ワン」というネーミングを、1968年に出版された小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?」の中に出てくる「アンドロイド」と「ネクサス6型」を参考にして決めたはずなのに、遺族に許諾を得なかったので、特に「ネクサス・ワン」について知的所有権侵害だと主張しているようです。


他の記事をも見た限りでは、この小説は、奴隷として過酷な労働に従事しているアンドロイド(人造人間)が人間社会の中に紛れ込んだり反乱を起こすという内容で、奴隷となっているアンドロイドの型・モデルが「ネクサス6型」というものだったようです。


主に著作権法が問題となっていると思いますが、米国の法制は詳しくないので、日本ならどうなるか、私なりの意見を述べておきます(まぁ大した意見ではないですが)。


昔(20年くらい前)は、商品化権(キャラクターを商品・サービスの販売促進などに利用する権利)を基礎付けるために、小説や漫画の登場人物の「人格やイメージ」を個々の絵などの具体的表現を超えた抽象的な「キャラクター」として著作権法上も保護すべきだという見解があったのですが、最近はそのような見解を採る人(学者など)はほとんど居ないようです。もし、そのような見解を採るのなら、「ネクサス」という名称もこの小説の登場人物の「キャラクター」を構成する一部として著作権上保護されるべきという主張も可能でしょうが、今は無理でしょう。


そして、俳句は17文字でも芸術的表現として著作物性が認められますが、一般に、商品ネーミングなどの短い言葉は創作的表現(著作物)とは言えない、とされています。


よって、「ネクサス」という言葉は、たとえこの小説の中で主要な登場人物を示す名称だったとしても、「創作的表現(著作物)」とは言えないので著作権法上の保護は受けられないと思います。


先ほど、中山信弘先生の「著作権法」(有斐閣)を引っ張り出して「キャラクター(商品化権)」の部分を読んでみましたが、「東大の門前で、(夏目)漱石の小説の主人公の名前を付した『三四郎饅頭』を販売しても、『三四郎』という名前自体には著作権がないので著作権侵害とはならない」と明確に書かれていました(148頁)。


なお、「ネクサス」(nexus)とは、もともと「きずな、つながり」という意味で、辞書に載っている言葉です。


以上のように、もし有名な小説の中からパクッたと仮定しても「ネクサス」という言葉を携帯端末の名称として使用することは少なくとも著作権法上は問題ないと思いますが、実務上は遺族などの了解を得ることが多いようです(トラブルによるイメージダウンを避けるため?)。


なお、商標の問題については、グーグルは既に米国特許商標庁に対して「ネクサス」関連の商標を出願しているようですので、クリアしているようです。


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2010年01月04日

人々を失業させてきた発明たち



riverrun past...によると、「写真の発明が、肖像画産業を壊滅させ、絵画の世界に印象派が登場する遠因となった」そうです(以下に引用。ウラは取ってませんが時系列的には頷けるところです)。



1839年のダゲールの発明に端を発した写真技術は、たちまちのうちに普及した。肖像画産業が壊滅状態に陥り、多くの職業画家が仕事からあぶれた。


1874年、モネをはじめとするパリの画家たちが「第1回印象派展」を開催する。細部やタッチにこだわらず、新たな空間表現と明るい色使いを多用した印象主義は、「見たままを描く」のみではなく、「感じたままを描く」芸術へと絵画の方向性を決定付け、これは現在にも引き継がれている。(中略)


基本的に、写真というのは、映像の記録であると同時に、大量印刷が可能なメディアであるからだ。画家たちの失業は、写真の正確な描写に太刀打ちできないこともさることながら、「画」のインフレーションによって賃金相場が低下したことによっても駆逐されたのである。



この記事の中では、1950年代にも、レコードの普及によって流しの歌手や演奏家が仕事を失ったことが紹介されています(「流し」なんて最近の人は知らないでしょうね^^;)。


まぁ当たり前のことですが、発明と失業は相関性がすこぶる高い(発明が新たな雇用を生むという面もありますが)。


15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷もその一つ(なお、15世紀というのは西洋世界の話で、中国では既に11世紀に発明されてました)。この活版印刷によって、それまでは教会にしか無かった聖書が印刷されて一般に普及したために、それまでの教会の現世的権力が破壊されました(ルターの宗教改革)。


イギリスでは、18世紀の産業革命の後、失業の原因は機械だとして、1811年から数年間、労働者のラッダイト運動(機械破壊運動)が展開されました。


近年のiTunesや電子書籍の登場によるCDショップや書店の苦境なども、同じようなものですね。


これから起こり得るものとして最も影響が大きいものの一つが、電気自動車の登場による自動車産業の裾野の縮小だと思います。今のガソリンエンジン車の部品点数は約3万点なのに対して、電気自動車は約6千点だそうですが、だとすると、単純計算で今の車の部品の5分の4が不要になってしまう訳で、大変なことです(バッテリーが量産されて行けばクルマの価格も5分の1くらいになるでしょうから、自動車業界にとっては望ましくない未来ですね)。部品点数が約4万点とされるハイブリッド車の時代がある程度続いてくれればその間にソフトランディングできるんでしょうけど、10年後には世界中で電気自動車比率が3割に達するという予測(日本電産の永守重信社長)もありますので、余り時間はないのかもしれません。


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2010年01月02日

明けましておめでとうございます



新年明けましておめでとうございます。


2010年が始まりましたね。


さっき元日夜のNHKスペシャルで民主党が昨年末に発表した経済成長戦略(基本方針)について、管さんや東国原知事などが討論してるのを見てたんですが、成長戦略に関しては普天間の基地移設で揉めてる日米外交がかなり関係してるというか、外交戦略が成長戦略に直結しているという視点が出ていなかったかなと思いました(途中で見るの止めたので後半は分かりませんが)。中国の内需をどう取り込むかについては、米国と中国との正三角形で行くのか二等辺三角形で行くのかが大きく影響すると感じています。


このブログは始めてまだ2ヶ月なので方向が定まっていないのですが、知財を中心としながらも、雑談的に社会や政治のことなども少しは触れて行きたいなと思っています。


まぁ、そういうことで、今年もよろしくお願い致します。


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posted by mkuji at 01:58| Comment(3) | TrackBack(0) | 雑談