三村量一・元知財高裁判事の講演記録が「パテント」2009−11号(日本弁理士会発行)に載っていて(112頁)、その中に、ライセンス契約と侵害の話が少しだけ出ていたのを読んで、それを元に考えたことです。
一般の契約、例えば家電製品などの卸売又は販売契約に基づいて購入した商品が不良品だったので損害が生じたという場合は、契約当事者の一方が他方に対して損害賠償を求めて提訴することがある。
この場合は、原告は、契約の債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求とのどちらで行っても良いとされている(請求権競合説=判例通説)。そして、このような場合、実際には債務不履行で行くことが多いが、それは債務不履行の方が帰責事由(≒過失)の証明責任が信義則上転換されている(判例)などの点で原告有利だからだ。
これに対して、特許や商標権のライセンス契約がなされている場合において、もしその契約不履行に基づく損害賠償請求と特許侵害又は商標権侵害(不法行為の一形態)に基づく損害賠償請求との請求権競合が認められるなら、一般の契約の場合とは逆に、契約不履行責任を追及するよりも、特許侵害又は商標権侵害責任を追及する方が圧倒的に有利だろう。なぜなら、特許侵害又は商標権侵害を追及する場合は、特許法などの規定により、過失が推定されるし、損害額の算定規定などがすごく充実しているから。
しかし、特許や商標権のライセンス契約がある場合、契約違反があったとしても、特許や商標権の侵害が成立する場合はほとんどないのではないだろうか。
なぜなら、特許や商標権の侵害は「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」なので、ライセンス契約の違反(例えばライセンス料の不払いや商標の使用条件となる商品の品質を満たしていないなど)があっても、ライセンス契約が存在する限りは、そして、ライセンシーの行為がライセンス契約が一応はカバーしているものである限りは、「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」にはならないと思われるからだ。
例えば、商標権のライセンス契約の中で、商標を使用する商品を「菓子」とし、その菓子は○○という原料を含むものとするという使用条件が規定されていたが、ライセンシーがこの使用条件に反して「○○という原料を含まない菓子」に商標を使用したという場合、ケースによるとしても、多くは、一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」だとして商標権侵害にはならない(契約違反になるだけ)と思う(なお、「菓子」以外の「野菜」などに使用したら、契約がカバーしてる範囲ではないので、商標権侵害になるだろう)。
それは、ライセンシーが前述のような使用条件に反して「○○という原料を含まない菓子」に商標を使用した場合でも、一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」としてライセンス料は発生すると思われることからも、言えるだろう。
この場合は、その使用条件(契約条項)に違反した使用に対してライセンス料を請求すると共に、使用条件に違反した点については契約責任に基づいて+αの損害賠償を請求するしかないのでは、と思う。
まぁ、これは、知財だけに特殊なことではなく、一般のアパートなどの賃貸借契約などでも同じだろう。例えばアパートに勝手に同居人を入れたなどの使用条件に違反した場合に、その違反した期間は「契約に基づく使用」ではないから契約上の賃料は発生しない、ということにはならないだろう。この場合は、賃料は発生し、使用条件違反の点は別途損害賠償をプラスする、というだけだろう。
ライセンシーが使用条件に違反している場合に、権利者(ライセンサー)が侵害を主張したいなら、さっさと催告して契約を解約するべきで、解約した後なら「許諾(契約)なく特許や商標を実施・使用すること」に該当するので侵害に基づく損害賠償や差止めを請求することができる。
以上は当事者間の話だが、第三者に対する関係も同様だろう。
第三者に対する関係では、商標権が「消尽」しているかどうかという問題の立て方になるだろう。
つまり、前述のような「ライセンスの使用条件となっている○○という原料を含む菓子」ではない菓子に商標を付した商品(商標の契約上の使用条件に違反した商品)を、ライセンシーから卸売してもらって販売している小売業者=第三者に対しては、契約当事者ではない(契約に基づく主張はできない)ので、権利者としては商標権侵害を主張するしかないが、ライセンシーの行為が一応は「ライセンス契約(許諾)に基づく使用」であり商標権侵害ではないならば、そのラインシーから譲り受けた時点で商標権が消尽しているので、権利者がその小売業者に対して商標権侵害を主張することはできない、と思う。
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posted by mkuji at 10:47|
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特許侵害