2009年11月27日

中国の知財制度



本日参加したセミナーで中国の知財侵害などについて話を聞いた(講師は谷口由記弁護士)ので、幾つか、纏めておきます。


1 侵害の警告をするときは、日本のような内容証明郵便はないので、通常の書留郵便でやる(特許公報などを同封する)、とのこと。


2 司法制度は、人民法院(第1審)と人民法院(上訴審)との「(三級)ニ審制」で、極めて重要な案件は最高人民法院が第2審となり、このときは、最高人民法院が事実審も行う。


 ※日本は「(四級)三審制」で、最高裁は事実審はなく法律審のみ(「四級」とは、簡裁、地裁、高裁、最高裁の4つのレベルという意味)。


3 発明・実用新案・意匠は、いずれも専利法により「専利権」として保護され(発明・実用新案・意匠により保護期間などは異なる)、日本の弁理士に当たる専利代理人が代理する。商標については、日本の弁理士に当たる商標代理人の資格は無くなったらしい(ただ、復活させようかという動きもあるらしい)。


4 出願・登録機関のまとめ


・発明・実用新案・意匠の出願・登録機関:「国家知識産権局(特許局・特許復審委員会)」


・商標・馳名商標の出願・登録機関:「国家工商行政管理局(商標局・商標評審委員会)」


・著作権およびコンピュータソフトウェア著作権の登録機関:日本と同様にベルヌ条約に加盟しているので任意登録(登録が権利発生要件ではない)だが、登録機関は「国家版権局(版権保護センター)」および「ソフトウェア登録センター」


・企業名称(日本の商号)の登録機関:「企業名称登記管理部門(各級工商行政管理局)」


・ドメインネーム(域名)の登録機関:「中国インターネット情報サービスセンター(CNNIC)」


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2009年11月25日

ダーウィン生誕200年(「種の起源」発刊150年)



新聞や雑誌からの受け売りですが、今年はチャールズ・ダーウィン生誕から200年、「種の起源」発刊から150年になるらしい。


「種の起源」はダーウィンが50歳のときに発刊されたものということになる。


ダーウィンは、30歳前、ビーグル号の航海で進化論の着想を得る。しかし、当時の教会からの反発などを考えて、発表するまでに20年以上をかけた。


当時の人は寿命が短かったから、当時の20年間は今の30年以上の重みを持っただろう。


着想も素晴らしいけど、20年以上もかけた「執念」の方にむしろ共感を覚えます。


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posted by mkuji at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学

2009年11月19日

特許法102条と「損害の発生」・「自己実施」の有無



特許侵害による損害額の算定に関する特許法102条と「損害の発生」、「自己実施」の有無の関係は、どうも分かり難い。規定の法的性質、自己実施の場合、損害の不発生の場合との関係などがすっきりしない。不完全な知識のままだけど、一応、纏めておきます。間違ってるかも知れません。


1 特許法102条1項について


(1)特許法102条1項は、侵害者の譲渡数量と権利者の「もし侵害がなければ販売できた単位数量当たりの利益額」とにより算定した額を「損害額とする」と定める。


(2)特許法102条1項の法的性格については、争いがある。


A説:「民法709条による損害(逸失利益)」と侵害との因果関係の証明責任を軽減する規定である(竹田404頁)。


B説:東京地裁平成14年3月19日判決の立場で「この規定は、侵害品と権利者製品とが市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定である」とするもの(竹田404頁より)。この立場は、要するに、消極的損害(逸失利益)と侵害との因果関係を「擬制」する規定だというものだろうか?


(3)権利者の「自己実施」がない場合に、特許法102条1項は適用されるか?


・上の法的性格論との関係がいまいち不明確な気がするが、2つの説があるらしい。


ア説:権利者の「自己実施」がない場合は、特許法102条1項の適用はない。


イ説:権利者の「自己実施」がなくても、「商品の競合」があれば特許法102条1項の適用が可能(権利者が何らかの製品を製造販売していてその権利者製品が被告製品と競合関係にある場合は、たとえ権利者製品が特許製品でなくても権利者の売上げ減少と侵害との相当因果関係はあり得るので、相当因果関係の証明責任の軽減(B説では相当因果関係の擬制?)の規定を適用してよい、ということか?)。


・上の法的性格論のB説からは「商品の競合=補完関係」を擬制しているから、自己実施がなくても(「商品の競合」が擬制されれば、たとえ権利者の製品が特許製品でなくても権利者の売上げ減少と侵害との相当因果関係はあることになるから、ということか?)特許法102条1項を適用できるとなるのだろうか?


ただ、上の法的性格論のA説からでも、「商品の競合=補完関係」を主張・立証すれば、自己実施がなくても(「商品の競合」があると証明された場合は、たとえ権利者の製品が特許製品でなくても権利者の売上げ減少と侵害との相当因果関係はあるから?)特許法102条1項を適用できるとなるだろう(私見。次の特許法102条2項の議論と同じ)。


2 特許法102条2項について


(1)特許法102条2項は、侵害者の利益の額を「損害額と推定する」と定める。


(2)特許法102条2項の適用を受ける「損害額」の性質については、「民法709条による消極的損害(逸失利益)」だとするのが判例・通説(竹田415頁より)。


(3)権利者の「自己実施」がない場合に、特許法102条2項は適用されるか?


昔の判例・通説は、上記の規定の性格から、自己実施がない場合は(逸失利益がないから?)適用されないとしていた(竹田415頁より)。


しかし、最近の裁判例(平成19年(ワ)3494号 東京地裁平成21年8月27日判決「経口投与用吸着剤・・」)は、次のように述べて、権利者の「自己実施」がない場合でも特許法102条2項の適用を認めている。


すなわち、平成19年(ワ)3494号 東京地裁平成21年8月27日判決「経口投与用吸着剤・・」のロジックは次のとおり。


1)特許法102条2項は、「損害額」の推定規定であり、「損害の発生」までをも推定する規定ではない。


2)したがって、「侵害行為により消極的損害(逸失利益)が発生したこと」の主張立証がない限り、特許法102条2項の適用はない。


3)しかし、権利者の自己実施がない場合でも、「侵害行為により消極的損害(逸失利益)が発生すること」は有り得るので、その事実が主張立証された場合は特許法102条2項が適用される。


4)侵害者の製品と権利者の製品(権利者の特許製品ではない製品?)とが市場で競合しシェアを奪い合う関係(「補完関係」と同じ意味か?)にあった場合は、(権利者の自己実施がなくても)「侵害行為により消極的損害(逸失利益)が発生した」といえるので、特許法102条2項が適用される。


3 特許法102条3項について


(1)特許法102条3項は、実施料相当額の金銭を「損害額として請求できる」と規定している。


(2)特許法102条3項の法的性格


特許法102条3項は、「実施料相当額を損害額として請求できる」と規定しており、損害額を「法定」(「擬制」と同じ意味か?)しているという理由から?、原告側において「損害の発生」の主張立証は必要はない(原告は特許侵害と実施料相当額を主張立証すれば足りる)し、権利者の自己実施は必要ない、というのが定説(通説)のようだ(竹田430頁、433頁)。


これは、特許法102条3項が「損害額を法定している」ということは「損害の発生を推定している」ということも含まれると解釈して、証明責任が転換され、原告は「損害の発生」を主張立証する必要はない(被告は「損害の不発生」を否認ではなく抗弁として主張できる)としているのだろうか?(下記の(3)のB説=判例に立つ場合。なお「過失の存在」についても、特許法103条により推定されるので、原告は主張立証する必要はなく、被告が過失が無かったこと(無過失)を抗弁として主張立証できる、とされている)。


次に、上記のような「権利者の自己実施は必要ない」という定説を前提としても、「損害不発生」を抗弁として主張できるかは争いがある。次の(3)。


(3)被告は「損害不発生」を抗弁として主張できるか?


A説:特許法102条3項は「損害額」を擬制するだけでなく「損害の発生」をも擬制するものだから、損害不発生は抗弁とならない。


B説:特許法102条3項は、(あくまで民法709条の不法行為法の枠組みの中での規定であり、)「損害額」を法定しただけ(「法定」は「擬制」と同じか?)で、「損害の発生」まで擬制したものではないから、損害不発生は抗弁事由となる(この説では、おそらく、上記(2)で述べたように、特許法102条3項は「損害の発生」を推定しているから原告は「損害の発生」を主張立証する必要はないということを前提としているようだ)。


・判例(商標法についてのものだが、最高裁平成9年3月11日「小僧」事件判決)はB説に立つようだ(竹田434頁)。


・この判例(B説)によるときは、例えば、侵害が(侵害者の?)売上に全く寄与していない場合などは、被告が損害不発生を抗弁として主張立証すれば、特許法102条3項の適用は否定される(竹田434頁)。


・なお、竹田434頁には、B説からは、特許権者が専用実施権を設定している場合は(おそらく損害不発生だという理由から?)特許法102条3項の適用はないとされている、と書かれている。


しかし、このB説からの結論は、おそらく、「専用実施権を設定した特許権者は差止め請求も損害賠償請求もできない」という昔の通説を前提としてのことだろう。


今の「専用実施権を設定した特許権者でも、実施料収入の確保又はその前提となる専用実施権者の売上の確保という観点から、侵害への差止め請求権を行使可能」という判例(平成16年(受)997号最高裁平成17年6月17日判決)を前提とすれば、B説からでも、(専用実施権を設定した特許権者でも、侵害によって専用実施権者の売上が減少した場合は、特許権者には実施料収入の減少という逸失利益=消極的損害が発生するので損害賠償が可能だから)特許法102条3項の適用はあるということになるだろう。


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posted by mkuji at 09:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 損害

2009年11月18日

特許法104条の3による「無効の抗弁」と特許侵害訴訟



平成12年のいわゆるキルビー判決(最三判平成12年4月11日)が「特許に無効理由が存在することが明らか」なときはその特許権に基づく差止め・損害賠償請求は権利の濫用に当たり許されない旨を判示したことを受けて、平成16年の特許法改正で、「(その特許が)無効審判により無効にされるべきものと認められるときは・・・権利を行使することができない」とする104条の3が制定された。


この法改正により生じた現象について、経済産業省・産業組織課長の奈須野太氏は、日経BP「特許の安定性が崩れている」という記事の中で、次のように述べている。


[引用開始]


その結果,侵害訴訟では被告から特許法104条の3に基づく「無効の抗弁」が必ず出るようになった。侵害訴訟のはずなのに特許の有効性がいつも中心争点となり,権利無効の判断が増えている(図1)。「無効の抗弁」が出された判決の割合は,平成12年には22%であったものが平成19年には80%に増えた。権利無効の判断がされて権利者が敗訴した判決の割合は,平成12年には11%であったものが平成19年には63%に増えた。


図1:無効抗弁と無効判断の増加


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出典:高倉成男「イノベーションの観点から最近の特許権侵害訴訟の動向について考える」


[引用終わり]


奈須野太氏は、特許法104条の3に基づく「無効の抗弁」により、原告である特許権者がその特許が無効であるという理由により敗訴するケースが激増したこと、つまり、特許権の権利としての安定性が失われたことを批判的に紹介している。これは、僕も賛成だ。


また、奈須野太氏は、これに続けて、次のように述べている。


[引用開始]


行政庁による政策的判断が尊重されるべき


 いかなるものに,いつの時点で,どのように特許を認めるかは,すぐれて政策的判断である。この点は行政側として強く言いたい。


 たとえば,ビジネスモデルや医療行為,治療方法については,理論的には特許できるけれども,政策的判断として特許していない。また,IPS細胞など国際競争が激しい分野については,戦略として早期に権利化するという判断も当然にあり,「審査が遅い」として国会で与野党から強く要求されているところ。


 どのようなものに,いつの時点で,どのように特許を与えるかは,政策的判断がまず先立つべきである。そうした政策的判断に基づいて特許庁は権利を付与しているのであり,裁判所が簡単に無効にしてしまうというのは,三権分立の観点からも疑問を感じる。民主的基盤を持つ行政府の第一義的判断を経ずに,何でも裁判所がやってしまうとなるとどちらが特許庁なのかということになりかねない。


[引用終わり]


しかし、この部分は疑問を感じる。


政策的判断が大事といっても、「超法規的な特許付与」はありえないので、あくまで「特許法の解釈とその適用に基づく特許付与」のはずだ。また、「民主的基盤を持つ行政府の第一義的判断」という言葉は、違和感というか危険を感じる。僕の理解では、行政府には「民主的基盤」はないと思う。裁判所にもない(最近の裁判員制度により少しし出てきた?)。あるのは、選挙を経ている立法府だけだ。


だから、その立法府が制定した法律に、行政府も裁判所も拘束される(但し、裁判所は、憲法に違反する法律には拘束されない)。


特許を付与するためには特許法を解釈し適用する必要があるが、その解釈と適用については、行政府よりも裁判所が優先するのは憲法上当然のことだ。


この部分は官僚としての発想が少し逆立ちしているような気がした。


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posted by mkuji at 16:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 侵害訴訟